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2022.11.19鉄道今和泉隆行(地理人)×能町みね子 小説「青森トラム」の空想地図をつくる 【2】架空の都市に鉄道を敷く!

鉄道開業150年 交通新聞社 鉄道文芸プロジェクト
2022年10月14日の鉄道開業150年に向けて、交通新聞社で始動した鉄道文芸プロジェクト、通称「鉄文(てつぶん)」。さまざまな角度から「鉄道×文芸」について掘り下げます。


小説「青森トラム」、青森市の空想地図づくり【2】

空想地図作家として活動する「地理人」こと今和泉隆行さんと、10月に発売された短編集『鉄道小説』(交通新聞社刊)にて、今より発展した架空の青森市を舞台にした小説「青森トラム」を発表した能町みね子さん。

小説「青森トラム」に描かれた青森市は、路面電車や地下鉄が走る、北日本随一の都市として発展しており、「芸術家が多い、自由人の街」である。

はたしてこの街に、鉄道はいかにして敷かれたのか? 全国各地の都市を歩きそれぞれの視点で街を見つめてきた二人が、「青森トラム」の世界の空想地図づくりに挑む!

【1】はこちら

今和泉隆行

1985年、鹿児島県生まれ。7歳の頃から空想地図(実在しない都市の地図)を描く空想地図作家。空想地図は現代美術作品として、東京都現代美術館「ひろがる地図」(2019年)のほか、各地の美術館にも出展。主な著書に『みんなの空想地図』(2013年)、『「地図感覚」から都市を読み解く―新しい地図の読み方』(2019年)など。

能町みね子

1979年、北海道生まれ。文筆業、イラストレーター。著書に『結婚の奴』(平凡社)、『私以外みんな不潔』(幻冬舎文庫)、『お家賃ですけど』(文春文庫)、『私みたいな者に飼われて猫は幸せなんだろうか?』(東京ニュース通信社)、『逃北~つかれたときは北へ逃げます』(文春文庫)、『皆様、関係者の皆様』(文春文庫)など。


小説「青森トラム」(交通新聞社刊『鉄道小説』収録)

生まれ育った東京での変化のない日々に焦燥感をつのらせた水越亜由葉は、勢いで仕事を辞め、漫画家の叔母・華子が暮らす「芸術家が多い、自由人の街」青森にやってきた。トラムに乗り、自分で選んだ街を見てまわる日々。まだ見ぬ自分に出会う“上青”物語。 

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大都市周辺の鉄道はどのように敷かれるのだろう

今和泉 小説「青森トラム」の世界では人口が100万人を超えていますが、青森市の人口が増えるということは、津軽エリアの他の場所も人口が増えるでしょうね。

能町  そうですね。青森市があれだけ大きいので、人口が120~130万人だとしたら、弘前も40万人ぐらいほしいですよね。そうすると当然、青森と弘前を結ぶ鉄道の話になるのですが……。こんなふうに鉄道を敷いてみました。  

小説の世界を作るにあたり、能町さんが敷いた津軽地域の架空の鉄道地図。


能町さんが制作した「青森地区JR・私鉄路線図」。「弘前電鉄線」は「弘電青森駅」で、青森市街で最もにぎわう中心部に入り、地下鉄に乗り換えることができる。 能町さんが制作した「青森地区JR・私鉄路線図」。「弘前電鉄線」は「弘電青森駅」で、青森市街で最もにぎわう中心部に入り、地下鉄に乗り換えることができる。

能町  架空の歴史として、まず「弘前電鉄(弘電)」が「川部駅」から「中央弘前駅」まで奥羽本線の競合路線を敷いて、戦後にここから「弘電浪岡」までつないで、のちに空港ができたのでそこを通って青森市街まで延伸して、青森と弘前がつながる……ということにしました。

今和泉 それを戦後つくるというのは、なかなかのミラクルですね。

能町  架空の青森市に通っている私鉄は2線あって、「津軽鉄道線」が地下鉄に乗り入れています。「津軽五所川原駅」から先、「津軽中里駅」までは実在しますが、ここは現実のようにローカルなイメージです。観光用のストーブ列車とかはこの世界にもあると思うんです。

今和泉 「弘電」は青森~弘前間の都市間輸送で儲けててほしいと思うんですけど、JRと比べて速いのでしょうか。カーブが多いのでスピードを出せるのかな、と。

能町  うーん……速くはなさそうですね。いい勝負だとは思うんですけど。

今和泉 あとは沿線がどれだけ開発されているかが気になります。

能町  山じゃないところは開発されていると思います。あとは、人口規模からすると、青森空港にも大阪便、名古屋便がもっと増え、福岡便や沖縄便なんかもできるかなと思うんですけど。

宅地化が先か、鉄道が先か?

今和泉  東京便の多い新千歳空港と違って、東京〜青森間は新幹線が主になると思うので、関西や九州方面の便が鍵になるでしょうね。「弘電」が空港に合わせて後からできるっていうお話だったんですけど、青森市街地の都市化が早ければ、中心部につながっている「弘電青森駅」あたりは、ここだけもう少し先に開業しててほしいですね。

そうすると、小説に出てくる百貨店の「松木屋」「中三」などがターミナルの駅ビルみたいになるのかなと。西鉄福岡(天神)駅と三越のような。 

能町  そうですね。百貨店の地下が全部つながっているかもしれないですね。この「弘電青森駅」がある中心部の「柳町」界隈について、小説ではこんなふうに書きました。 


 交差点の角に、都内では聞いたこともない巨大百貨店がでんと二つ構えていた。「松木屋」と「中三」というらしい。地下街の入り口の階段を降りていくと、ここから空港まで十五分で行くことを売りにしている「弘前電鉄スカイライナー」の広告が地元タレントを使って派手に展開されていて、そのほかにもこのあたりには市営地下鉄が乗り入れているらしく、どこに行っても人でごった返していた。

(能町みね子「青森トラム」より) 

能町  「弘電」は「弘電青森(柳町)」のあたりでは地下を走っていて、南下してどこかから地上に出てくるイメージでした。ここがもう少し古い段階で開発されていたとしたら、「弘電青森」から地上で通せそうですね。

今和泉 周辺が宅地化していくと、青森市内でもっとも本数が多い鉄道はここになるんじゃないかと。

能町  その場合の歴史は、住宅開発と私鉄は一気に行われるぐらいの感じだったんですかね。

今和泉 そうだとすると、東京で言うところの杉並とか下北沢とか、東京の西側と近い変化が起こるのではないかと。その電鉄沿線のカルチャーができてきたところに、空港ができて延伸する……と。

能町  そうすると、先に街の中心部に部分的に開業する路線は、「弘電」の路線じゃなかったかもしれませんね。

今和泉 そうですね、最初は違う路線として開業したかもしれません。そういう路線はけっこうあるんですよね。今や空港アクセスを担う京成や京急、南海、名鉄もそうですし。もう一つ、阪急や東急のように沿線の住宅地も電鉄会社が開発したという歴史もありえますが、鉄道を敷いた結果自然と宅地化したほうが、能町さんの小説の世界感にはあってるのかなと。

能町  ただ、早い段階でここに鉄道を敷くとすると、初期設定としては、都市開発用の路線だった……という歴史にすることになると思うんですが、その先に何もないところに鉄道を敷くのはやっぱり理由付けが難しくて。

だから、小説の設定では、南から延びてきてもともと発展していたところに通ったということにしたんです。都市化していく段階では交通手段はバスでもいいんですよね。バスでは不便、という住民の声が昭和50年代に上がったりして、鉄道開業を希望する熱が高まって、空港開業のあと一気にここに通ったということもありえるかなと思って、中心部の地下に通す設定にしたんです。イメージしてるのは、比較的最近(1994年)できた、広島市のアストラムラインの本通駅のところです。

今和泉 昭和50年代以降にこの規模の都市でつくるとなると、建設費がめっちゃかかるでしょうね(笑)

能町  ちょっと強引だけど、空港があるならありえるんじゃないか、って思ったんですよね。このあたりの歴史については架空年表のメモをつくりました(笑)。自分用なので見にくいんですけど。


小説には描かれていない部分まで、鉄道敷設の架空の歴史が練られている。 小説には描かれていない部分まで、鉄道敷設の架空の歴史が練られている。

能町  青森に初めての地下鉄ができるのが1972年。札幌が札幌五輪にあわせて地下鉄をつくったのがその年なので、街の規模を考えてそれを参考にしています。

そして1975年に新青森まで新幹線ができるんですが、これは現実では山陽新幹線が博多まで延伸した年ですね。1982年頃に「津軽鉄道線」に駅が増えます。これは、市の西部の山がちな地区を開発したんだと思うんですよね。

そして、「弘前電鉄空港線」がやっとできたのが1985年です。土地の買収とかに相当時間がかかったんでしょうね……。 

「青森トラム」の市街地のにぎわいを探る

能町  小説の中の青森市で一番栄えている「柳町通り」は、札幌の大通くらいのイメージです。「新町通り」や「柳町」のあたりはいちばん人がごった返しているイメージで、交差点に百貨店の「松木屋」と「中三」ですね。「松木屋」は別館、アネックスみたいなものもできていてほしい。

今和泉 広島の八丁堀のような状態ですね。

能町  そうです、そうです。まさにあれをイメージしました。

今和泉 「新町通り」は現実のように、アーケードでしょうか。全蓋式アーケードの通りも一本裏とかにありそうですね。

能町  そうですね、今は存在しない商店街がもっとありそうです。あとは、場所は決めてないんですけど、小説内の青森市にはパルコがあるんじゃないかなって思ってます(笑)。

今和泉 ありそうですね。大きな通り沿いではなく、これも広島のパルコみたいに一本裏のアーケードにあったりしそうですね。


「私、架空の路線図を考えすぎて、おぼえちゃったんですよ(笑)」。能町さんが地図に路線図をすらすら描きこんでいく。 「私、架空の路線図を考えすぎて、おぼえちゃったんですよ(笑)」。能町さんが地図に路線図をすらすら描きこんでいく。


街なかをぶらぶら歩いて、このあいだ私がひとりで歩いたばかりの古川へ。私が気づかなかった細い路地にもぎっしり小さな飲み屋が並んでいる。華子さんは迷うことなくそのややこしい道を進んで、立ち並ぶ小さな店の中の一つ、「マキ」と小さく看板の出ているドアを開けた。

(能町みね子「青森トラム」より)

能町  小説に書いたバー「マキ」がある「古川」の飲み屋街は、新宿のゴールデン街みたいに周りはビルに囲まれながらかろうじて残っているエリア……みたいなイメージです。現実の古川には地元の市場があるんですけど、もう少し発展した都市だと、そういう場所の空きテナントには若者がどんどん入っていくと思うので、古川もおそらくそういう感じになるだろうって思ったんですよね。

今和泉 「青森トラム」の古川は能町さんの世界観で、市がさまざまな規制をかけた結果そうなっていますけど、放っておくと、この規模の都市だと高層ビルが林立するビジネス街になりそうですね。新聞社の北日本支社とかがあったり。

能町  そうですね、駅に近すぎますからね。でも、私の妄想世界だと今の配置のまま発展しているイメージだったので、オフィス街は古川からは少し外れたところにあるイメージなんです。

新町通りの北側とか、安方という海側のほうとか、現実でも県庁や裁判所みたいな公的施設がある辺りに集中していくのではないかと。主人公の亜由葉が散歩している港の倉庫街は、公も入って開発されているイメージです。この世界では、港としての機能はおそらく郊外に移転してると思うんですよ。

今和泉 亜由葉の叔母の華子さんが住んでいる「露草」は、この青森だとだとかなり中心部になりますね。

能町  華子さんは最初は「古川」あたりに住んでいたイメージなんですけど、ちょっと狭かったんだと思うんですよね。古くてもいいから広いところ、街に出やすいところに、と。

今和泉 意外と家賃が高かったですよね。このあたりまで住宅価格が高いんだと思うと、やはり郊外が広がっていないと実態に合わないなって思いました。

能町  普通の一人暮らしの物件はもうちょっと安いと思うんですけどね。広い部屋なので。東京で言えば、阿佐ケ谷とか高円寺とかですかね。


能町  「戸山」や「幸畑」には、現実にも団地があるので、バーチャル世界でも需要があるだろうと思って地下鉄を敷きました。小説の中で、バーで亜由葉と喋っていた工藤さんが住んでいる「戸山」というのがここです。地下鉄で団地が都心部とつながっているという。 

今和泉 札幌市の真駒内駅みたいな感じですね。 

能町  そうですね。仙台市の泉区のニュータウンとか、あんな感じで、山の上までちゃんと地下鉄を引っ張ってくれる……みたいな。

今和泉 仙台の泉中央駅って、それより奥に大量の住宅地があるからそこに駅ができるっていう感じがポイントなんですよね。

それを考えると、きっとここに駅があるってことは、この先にも住宅地がもっとあるんだろうって思います。路面電車が走っているっていうことは半径数キロ先まで都市があるという、物語には全く出てこない郊外の人口のほうが、この都市で多数派になっているんだろうなと思いました。 

能町  そうですね。郊外のことは小説には出てきませんけど。それにしても、小説のことを考えていると、現実の青森の街を歩くたびに「あれ、本当はここに人めっちゃ歩いてるはずなのにな」って思っちゃうんですよね……。「いずれはこうなるはずなのに」みたいに思いこんじゃってて。

なので、まずは地図で現実になったらうれしいです! 

今和泉 今回の話をもとに、まずは元となる地図を起こしてみます。 

能町  次回はそれをもとに、地図の空白を埋めていきましょう。楽しみです……!

構成=渡邉 恵(交通新聞社 鉄道文芸プロジェクト事務局)
撮影=中村こより(交通新聞社 鉄道文芸プロジェクト事務局)



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