トレたび JRグループ協力

2024.07.31ジパング俱楽部家の壁に「マルハチ」、玄関脇にはイワシの頭? 離島・答志島でディープな路地裏散歩ツアーへ

独特の風習にレトロな風景も楽しい路地裏散歩

気の向くままに町をぶらぶら散策するのも楽しいですが、地元の人に話を聞けば、その土地の印象はより強いものになるはず。

独特の風習が今なお息づく三重県の答志島(とうしじま)で、ガイドとともに迷路のような路地を散策する「路地裏体験」ツアーに参加してみました。

気軽に参加できる約1時間30分のツアーなので、日帰り旅にもおすすめです。


散策の前に、神社へお参り

集合場所で待ち合わせたのは、ガイドの山下実香さん。
答志島に嫁いできた島外出身者ですが、家は漁業を営んでおり海女漁の経験もあるそう。

「今ではすっかり“島の人”になっちゃいました(笑)」

そんな彼女が最初に案内してくれたのは、答志集落と和具集落の境の小高い場所にある答志島東部地区の氏神、美多羅志(みたらし)神社。
木々に包まれて心地よい空気の漂う境内には、幹が登り龍のようにワイルドにうねる木もそびえており、「龍神さん」と呼ばれてパワースポットになっているとか。


美多羅志神社の参道。左の木が「龍神さん」 美多羅志神社の参道。左の木が「龍神さん」

美多羅志神社の主祭神は、五男三女をもうけたとされる八王子神で、子授けに御利益があり、島の人たちから篤く崇敬されています。
「自分のこどもの百日参りに来て、拝殿の玉石の上に裸足で立たせて、一緒にお参りしたんですよ」と山下さん。それが地元の習わしなのだそう。

神社の隣りには、島らしい寺号の潮音寺(ちょうおんじ)があり、そちらにも手を合わせていきます。


石段を上がると美多羅志神社の拝殿があります 石段を上がると美多羅志神社の拝殿があります

島の人の信仰心について話す山下さん 島の人の信仰心について話す山下さん

まるで迷路!入り組んだ“世古道”の中へ


迷路の奥へ奥へと吸い込まれていく…… 迷路の奥へ奥へと吸い込まれていく……

お参りを済ませたら、いよいよ答志集落の中へ突入です。
漁港の前を通る広い道から分かれる細い路地が何本も、家並みの中に通じています。

その狭さは人ひとりが通れる程度。
向こうから誰か歩いてきたら、どちらかが端に寄って譲らないといけません。
なのでガイドツアーの参加者は、山下さんの後ろを一列になって歩いていきます。
こうした路地のことを、伊勢湾周辺の地域では“世古(セコ)道”と呼んでいます。


世古道の所どころに設置された案内板 世古道の所どころに設置された案内板

それにしても、ここは迷路なのでしょうか?
少し歩くと世古道が分かれ、さらに進むとまた世古道が分かれ……という具合に、世古道が複雑に入り組んでいるのです。
たまらなくおもしろいのですが、そのうち自分がどこを歩いているのか分からなくなり、なかには、どんどん狭くなって最後には行き止まりになってしまう場所もあります。

「島の人は集落のこのような場所を“さんでの底”と呼んでいるんです」と山下さん。「サンデ」は島の言葉でサザエのことで、サザエの殻のようにくるくる回って底で行き止まり、という意味だとか。


かつて使われていた井戸。今は本土から海底送水管で水が運ばれます かつて使われていた井戸。今は本土から海底送水管で水が運ばれます

山下さんに導かれるままに歩いていると、玄関先や四つ角で井戸端会議をしている島のお母さんたちにときどき出会います。

「あ、××さん、こんにちは!」「あれ~、なんやひさしぶりやね。今日はガイド?」
山下さんと顔見知りの何げない会話が、なんだか温かい気分にさせてくれます。

島独特の風習を垣間見る


大きな「マルハチ」がどの家にも 大きな「マルハチ」がどの家にも

集落の中では、家々の壁に「マルハチ」と呼ばれる丸で囲んだ八の字が書かれていることに気がつきます。
それがやたらと多いので、気になって仕方がありません。
「これは、大漁祈願や家内安全を願って書かれた八幡神社の神紋です」と山下さん。

なんでも、毎年2月に行なわれる八幡神社の祭礼のクライマックスで、祭りの男衆が神事に使われる墨を奪い合い、集落じゅうに散らばって目に付く建物に片っ端から「マルハチ」を書いていくのだとか。
その祭礼の写真を、路地の奥にある神事(じんじ)の舞台の前で山下さんが見せてくれました。
元気溢れる若衆が、狭い急坂で気炎を上げるさまは、さすが活気のある漁師町です。


一年中飾られている立派な注連縄 一年中飾られている立派な注連縄

多くの家の玄関には、正月でもないのに注連縄(しめなわ)が飾られ、それに「蘇民将来子孫家門」の札が取り付けられているのも気になります。

これは答志島だけでなく伊勢志摩地方の風習で、疫病除けなのだそう。


節分の時に作る「あらくさ鰯」 節分の時に作る「あらくさ鰯」

また、玄関脇には串刺しのイワシを束にしたものを取り付けている家も。こちらは「あらくさ鰯」と呼ばれる邪気払いのおまじない。こうした珍しい風習についても、山下さんは立ち止まってていねいに解説してくれます。

ついにゴール!迷路を抜けた先には……?


一家に一台、便利な「じんじろ車」 一家に一台、便利な「じんじろ車」

ところで、家の前まで車が入れないこのような集落では、買い物の荷物などをどうやって運んだりするのか、ちょっと気になります。
とくに、世古道の奥のほうに住む高齢の方は大変そう。

「そういう時に便利なのが、この“じんじろ車”なんですよ」と山下さんが指を差したのが、道端に置いてある手押しの台車です。
ユーモラスなその名前は、鍛冶屋の甚治郎さんが作ったことに由来するとか。


「ひろうずミニ」は1個35円 「ひろうずミニ」は1個35円

世古道では、小さな店を何軒か見つけました。
香ばしい匂いに引き寄せられるように歩いていくと、そこにあったのは豆腐店。
今まさに、油あげを揚げている真っ最中でした。できたての「ひろうず」(がんもどき)を売っていたので思わず購入。

また、赤ちょうちんが揺れる昭和レトロな風情の大衆食堂も見つけました。とても惹(ひ)かれますが、このあと「海女小屋」での昼食が待っているので、ここはぐっと我慢です。


レトロな佇(たたず)まいの大衆食堂 レトロな佇(たたず)まいの大衆食堂

漁船がずらりと並ぶ答志漁港 漁船がずらりと並ぶ答志漁港

興味深い話を聞きながら、たっぷり1時間以上かけて世古道をさまよい歩き、ようやく迷路から抜け出して、さわやかな風が吹きぬける港に出てきました。

係留された漁船をよく見ると「マルハチ」の文字。そして、漁港の隅の「海女小屋」に案内されると、小屋の壁にも大きく「マルハチ」が。
その徹底ぶりに思わず笑ってしまうと、山下さんは最後にひとこと。
「では、次は八幡祭りの日にぜひ来てくださいね!」

答志島 「路地裏体験」ツアー

催行人数 4名より催行
値段 1人2000円
集合場所 和具港もしくは答志港に集合
所要時間 約1時間30分
申し込み 「島の旅社」ホームページ(https://www.shima-tabi.net/)のお申込みフォームより
問い合わせ 0599-37-3339(島の旅社)

文・写真/内藤昌康