2025.07.23ジパング俱楽部アジア最東端を走る花咲線に乗って湿原の絶景と美食を楽しむ|モデルコース
秘境を感じる鉄道路線の旅へ――。この記事では、全国の“秘境路線”を1日でめぐるモデルコースを紹介。現地を訪れたライターが、知られざる魅力をルポします!
根室本線のうち、釧路と根室半島をつなぐ線区は「花咲線」の愛称で親しまれています。海岸線や湿原など道東らしい大自然の景観が広がる車窓を眺め、海の幸やご当地グルメを味わう最東端の旅へ出かけましょう。
- ※モデルコースは2025年7月号『JR時刻表』掲載のダイヤをもとに平日の時刻を掲載。
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目次
花咲線ってどんな路線?
湿原の川や湖沼のすぐそばを走る「キハ54形」
根室海峡の豊かな漁場を舞台に水産業が発展した根室に、鉄路が敷かれたのは大正時代。釧路駅〜根室駅間が1921(大正10)年に全通し、根室本線の一部としてその歴史が始まりました。
約135.4キロの線区はラムサール条約登録湿地の厚岸(あっけし)湖や別寒辺牛(べかんべうし)湿原を通り、海岸線の断崖や日本離れした広大な湿原風景を楽しめます。
2021年には海や霧多布(きりたっぷ)湿原を含めた厚岸霧多布昆布森国定公園も誕生。まるでその景色を眺めるための観光列車のような存在ともいえます。
8:21発 根室本線釧路駅スタート!
北海道の東西とオホーツク海をつなぐ港町の駅
1961(昭和36)年に建てられた大規模な駅舎
釧路の玄関口として1901(明治34)年に開業し、根室方面への延伸にあたって現在の位置に移転。昭和レトロな雰囲気を残す建物の地下にはかつて、「釧路ステーションデパート」と呼ばれる商業施設も営業していました。
札幌駅間を走る特急「おおぞら」、網走駅間を走る釧網本線の発着駅であり、北海道の東西や太平洋とオホーツク海をつなぐ道東の要でもあります。
駅周辺には機能的なビジネスホテルや海産物が並ぶ和商市場があり、根室方面への観光拠点としても便利です。
近海で獲れる季節の魚介類が集まる「和商市場」
自分だけの丼を作るのが楽しい「勝手丼」
1枚100円台〜200円前後が中心の多彩な刺身
釧路港に水揚げされるその時期の魚介類を中心に、青果や精肉、乾物、みやげ物などがずらりと並ぶ市場。1954(昭和29)年に設立され、約50店舗が軒を連ねています。
好みの魚介類の刺身を自分でごはんに乗せて完成させる「勝手丼」が名物。大きさや店舗によって100〜400円の丼ごはんを買い、各店舗で1枚から販売する刺身を好きなように乗せていきます。
道外ではなかなかお目にかかれないニシンやシシャモの刺身、脂がのったサケの若魚「トキシラズ」、道東で「メンメ」と呼ばれる高級魚のキチジなど、水揚げ港ならではの新鮮で珍しい魚介類を味わってみましょう。
和商市場
問い合わせ先 | 0154-22-3226 |
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時間 | 8~17時 |
定休日 | 日曜 |
交通アクセス | 根室本線釧路駅から徒歩約5分 |
URL | https://www.washoichiba.com |
手づくりのやさしい味わい「おにぎり屋 ばんばん」
満足感あるカレーチキンをおにぎりのお供に
構内通路の一角で早朝から営業
釧路駅構内で約15年間愛されたおにぎり店が2023年2月に惜しまれつつ閉店した後、7月に経営者が変わって復活。遠方へ向かう列車に乗る前にお弁当として購入する人だけでなく、地元で働く人などもひっきりなしに訪れます。
旧店舗から看板商品だった「天むす」302円、北海道らしい「山わさび」259円、「すじこ」345円、「紅サケ」302円などが人気。釧路のご当地グルメ「ザンギ(味付きの鶏からあげ)」260円〜のほか、スパイシーな香りがあとを引く「カレーチキン」270円をおにぎりと一緒に購入する人も多いそう。
おにぎり屋 ばんばん
問い合わせ先 | 0154-22-0770 |
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時間 | 7時30分~19時 |
定休日 | なし(年末年始は年によって変動) |
交通アクセス | 根室本線釧路駅構内 |
厚岸駅を過ぎると別寒辺牛湿原が見えてきます
10:53着 根室駅
最東端駅となった根室駅から半島の旅へ出発
最東端を告知する看板は絶好のフォトスポット
2025年3月15日に東根室駅が廃止されました。それに伴い終着駅の根室駅がアジア最東端の駅となり、駅舎の正面には花咲線のポスターなどに使用されている桜のデザインを施した美しい看板が掲げられています。
1961(昭和36)年に東根室駅が開業するまでは根室駅が最東端だったため、今回は64年ぶりの復活です。駅前には根室名物の花咲ガニを売る店や「根室市観光インフォメーションセンター」があり、納沙布岬(のさっぷみさき)へのバスも発着しています。
北方領土をすぐそこに望む「納沙布岬」
灯台のそばに立つと貝殻島(かいがらじま)の近さが際立ちます
晴れた日は北方領土の島々がくっきりと見える納沙布岬
根室駅を出発したバスは市街地を抜け、草原が広がる半島の突端へと向かいます。小さな漁村をいくつか過ぎ、やがて本土最東端の納沙布岬に到着。真夏でも風が強い日や海霧に覆われた日はひんやりと寒いことがあるので、上着を持参したほうがいいでしょう。
終点の納沙布岬バス停から納沙布岬灯台へは徒歩6分ほど。この灯台は1872(明治5)年に建てられました。現存する灯台としては北海道最古のもので、無人ながら現役で点灯しています。すぐ前には北方領土の貝殻島灯台、その奥に水晶島や国後島(くなしりとう)を見ることができます。岬周辺には領土返還への想いと平和への願いが込められたモニュメント「四島(しま)のかけ橋」もそびえます。
納沙布岬
問い合わせ先 | 0153-24-3104(根室市観光協会) |
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時間 | 見学自由 |
交通アクセス | 根室本線根室駅から納沙布岬行き根室交通バス約45分の終点下車、徒歩約6分(納沙布岬灯台まで) |
「根室市北方領土資料館」で近くて遠い島々の歴史を知る
元島民の思いを感じる「根室市北方領土資料館」
実物は10メートル以上あったといわれる色丹(しこたん)神社の鳥居
終戦直後から始まった北方領土(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)問題の歴史について、実際にそこで暮らしていた人々の記録写真や資料などを見ながら学べる施設。
1階には根室地方周辺の生き物たちの剥製の数々と、これまでの歴史や活動を知ることができる書籍、そして、かつて色丹島に存在したクジラの骨を使った鳥居の模型などを展示。2階では島々での暮らしぶりを身近に感じられる生活道具や写真を展示しています。
郷土の島での出来事を疑似体験できる約24分のアニメーションも上映しています。
根室市北方領土資料館
問い合わせ先 | 0153-28-2445 |
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時間 | 9~17時 |
定休日 | なし(11〜4月は水曜休、12月29日~1月3日休) |
交通アクセス | 根室本線根室駅から納沙布岬行き根室交通バス約45分の終点下車、徒歩約1分 |
値段 | 無料 |
URL | https://www.city.nemuro.hokkaido.jp/lifeinfo/kakuka/hoppouryoudotaisakubu/hoppouryoudotaisakuka/2/8380.html |
カニを使ったメニューが豊富な食事処「東灯(ともしび)」
納沙布岬の入口に立つ食事処
花咲ガニの旨みが詰まった「かにチャーハン」
納沙布岬バス停からほど近い地元の人が通う食事処。
前浜で獲れた昆布をトッピングした「こんぶラーメン」900円、夏が旬の花咲ガニを乗せた「かにラーメン」1200円などラーメンメニューのほか、「いくら丼」2300円、「かにめし」2300円といった根室特産の食材を使った料理を味わえます。
カニの身がたっぷりと入った香ばしい「かにチャーハン」1400円はてっぽう汁付き。店主と常連客との地元の話題が聞こえてくることもある家庭的なお店です。
東灯
問い合わせ先 | 0153-28-2463 |
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時間 | 8時30分頃~16時頃 |
定休日 | 不定休 |
交通アクセス | 根室本線根室駅から納沙布岬行き根室交通バス約45分の終点下車、徒歩約2分 |
13:24着 根室駅
13:51着 昆布盛駅
小さな待合所が線路脇にひっそりと佇(たたず)む
ホームの表示だけが駅名を知る手がかり
美しい弧を描く落石(おちいし)海岸の絶景を車窓から眺め、道道142号と並走する線路の両側が森に囲まれる頃、昆布盛駅に到着します。駅名表示もない簡素な小屋が駅舎代わりの待合所。
片隅には、秘境駅を目指してやってきた旅人たちが思いおもいの言葉を寄せる「昆布盛駅ノート」が置かれています。
それぞれの旅のかけらに触れ、秘境駅ならではの静かな旅情にしばし浸りましょう。
秘境駅の味わい深さがある待合所
旅の記念にひと言つづりたくなる駅ノート
15:58着 根室駅
東の果てで終わりを迎える線路
昆布盛駅から一旦、根室駅へと戻り、公園やローカルグルメをめぐりましょう。根室本線の終着駅である根室駅には線路の終わりを見られる場所もあります。
駅を出てターミナルの出口を左に進み、そば店の角を左に曲がるとすぐに「根室本線終点」の看板が見えてきます。ここで確かに終わりを告げていると思うと感慨深さが込み上げます。
駅から歩いて3分ほどの場所なので、記念に訪ねてみてください。
記念碑や彫像が点在する「ときわ台公園」
空に向かってどっしりと立つ「歴史の然(しかり)」
民謡の調べが流れる「根室女工節歌碑」
根室駅から正面の道を真っすぐに進み、国道44号を渡った右側にある公園。根室市制施行20周年を記念し、1977(昭和52)年に造園されました。芝生広場や噴水が整備され、ところどころに彫刻や記念碑が配置されています。
「根室女工節歌碑」にはボタンを押すと根室周辺の缶詰工場で働いていた女工の哀歌「根室女工節」が流れ出す仕掛けが(稼働時間は9〜17時)。日本とロシアの通交・通商交渉の歴史を伝える記念碑「歴史の然」、近代彫刻の巨匠アントワーヌ・ブールデルによる彫像「力の胸像」など、一つひとつ見ごたえがあります。
ときわ台公園
問い合わせ先 | 0153-24-3104(根室市観光協会) |
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時間 | 入園自由 |
交通アクセス | 根室本線根室駅から徒歩約4分 |
「ニューモンブラン」でご当地グルメのエスカロップを味わう
ソファや照明も懐かしい雰囲気の心地よい店
「エスカロップ」1200円と「ミルクセーキ」600円
根室のローカルフード「エスカロップ」は今や道内全域の食事処でも見られる北海道グルメ。発祥の店といわれる洋食店モンブランから独立した初代店主が1960年代にニューモンブランをオープンしました。
照明を落とした昔ながらの喫茶店の雰囲気で、ソファ席に座りゆったりとくつろげます。「エスカロップ」1200円は、バターの風味が香るタケノコ入りのバターライスの上に、豚薄切り肉のカツがのり、さわやかなトマトの酸味でさっぱりと味わえるデミグラスソースをかけた一品。ナポリタンやクリームソーダなどレトロなメニューが揃います。
ニューモンブラン
問い合わせ先 | 0153-24-3301 |
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時間 | 10時〜14時20分・17時〜18時40分 |
定休日 | 不定休 |
交通アクセス | 根室本線根室駅から徒歩約2分 |
霧が煙(けむ)る中、夕日に輝く落石海岸
21:40着 釧路駅ゴール!
翌日に札幌へ
- ※当日中に札幌に到着したい場合は、16:08根室駅発の列車に乗ると釧路駅19:00発の特急「おおぞら」に接続し、22:59に札幌駅に到着可能です。
- 釧路駅発
-
8:21発
釧路駅
- 和商市場、おにぎり屋ばんばん
-
10:53着
根室駅
-
11:05発
根室駅前ターミナル
- 根室交通バス
-
11:49着
納沙布岬バス停
- 納沙布岬、根室市北方領土資料館、東灯
-
12:40発
納沙布岬バス停
- 根室交通バス
-
13:24着
根室駅前ターミナル
-
13:36発
根室駅
-
13:51着
昆布盛駅
-
15:43発
昆布盛駅
-
15:58着
根室駅
- ときわ台公園、ニューモンブラン
-
18:59発
根室駅
-
21:40着
釧路駅
紹介スポット一覧マップ
文・写真/春日明子 写真/レイルマンフォトオフィス(キハ54形)、マシマ・レイルウエイ・ピクチャーズ(夕日に輝く落石海岸)
- ※記事中の情報は2025年7月時点のものです。
- ※列車やバスなどの所要時間は目安となる平均時間を表記しています。バスの運行本数が少ない場合がございますので、事前にご確認ください。
- ※花や紅葉など季節の景観は、その年の天候などにより変動しますので、現地へご確認ください。
- ※店や施設のデータは、原則として一般料金(税込)、定休日、最終受付時間・ラストオーダーを、宿泊施設の料金は平日に2名で宿泊した場合の1名分の料金(1泊2食・税・サービス料込み)を記載しています。
- ※同一商品で軽減税率により料金の変わるものは、軽減税率が適用されない料金を記載。臨時休業などは省略しています。また、振替休日なども祝日として表記しています。