トレたび JRグループ協力

2009.11.01鉄道鉄道遺産を訪ねて―急行列車(急行「はまなす」、急行「きたぐに」、急行「能登」)

未来に伝えたい鉄道遺産

1872(明治5)年の新橋駅~横浜駅間開業以降、全国にその網を広げ続けてきたに日本の鉄道。厳しい地理的条件を克服するために、さまざまな技術が施された場所も少なくありません。できあがった当時の社会や先人たちの苦労を、無言で語っているかのような鉄道遺産。そんな、未来にも伝えていきたい名建築を訪ねる旅に出てみませんか。

大衆列車のエース「急行列車」


急行列車につけられたサボ(方向幕)。今ではほとんど見られない

快速列車と特急列車の中間に当たる急行列車。かつては国鉄線で優等列車の主役として多くの列車が活躍しました。特急はあくまで「特別急行」であり、戦前は「富士」「桜」「燕」など一部の限られた列車にしか運転されず、上客の乗り物でした。急行は長距離列車の主役であり、都市間を結び、全国を網羅し重要な役割を果たしてきました。

急行は料金も安く大衆的で、停車駅も多く、たくさんの乗客に利用されてきました。編成も、長距離列車では各等級の座席車、自由席車、寝台車、食堂車或いはビュフェ車など、目的に応じた様々な車両が混結された実に庶民的な列車が多く走っていたのです。

ところが、特急列車が増発され、停車駅も増やされるようになると、設備が経年により古くなった急行列車は、設備の整った新しい特急に格上げされ、急行列車は次第に特急列車に統一されるようになります。また、急行料金を廃止して快速になった列車もあります。しかし、急行列車には庶民的で親しみと和みやすさがあり、郷愁が常に漂う雰囲気は独特の世界です。

現在、JR線の定期列車では、急行はわずか3往復しか存在しません。今回はその貴重な急行列車に乗車してみましょう。


最後の寝台専用の急行列車として活躍した「銀河」。写真は20系客車時代のもの

東海道本線に君臨した電車急行の「東海」。「丹後」とともに東西の横綱急行として人気があった

JR昼行急行列車として最後に活躍した「つやま」。半室グリーン車のキロハ28形を連結していた

急行「はまなす」

「カーペットカー」も人気の唯一の客車急行


札幌駅に入線する「はまなす」。編成はブルートレイン並みに威風堂々とし、ヘッドマークが燦然と輝いている

本州の青森と北海道の札幌を結ぶ急行列車です。全国でも客車を使用した急行列車はこの「はまなす」だけで、2両の機関車に付け替えが行なわれて走るとても旅情のある列車です。青森を深夜に出発し、青函トンネルを潜って7時間30分の行程で札幌に朝に到着します(上り列車はその逆)。

かつて、上野から長くみちのく路を走り抜けた昼行列車は、夜遅くに青森に到着し、青函連絡船を深夜便で乗り継いで、函館から北の大地を目指しましたが、急行「はまなす」はこの青函連絡船の深夜便〜接続列車を継承した列車になる伝統の列車といえるでしょう。

懐かしい国鉄色のブルーの編成。しかし、車両はユニークで、B寝台車のほか、グリーン車の座席をリニューアルした指定席のドリームカーがあり、最も人気なのは列車にカーペットを敷き、まるで個室寝台車(或いは往年の青函連絡船の枡席)のように1名ごとに区分された居住空間「カーペットカー」です。備品には毛布、枕、ハンガーがあり個室さながら。車両によっては更衣室もあります。カーペットカーは女性専用席もあり、リーズナブルなことから旅行者に大変好評です。


カーペットカーは上下2段のカーペット敷き車両で、とくに上段はカーテンを閉めると個室と変わらない空間になる

深夜帯、未明になりますが、津軽海峡や内浦湾を旅するには列車が一番です。機関車が引くやさしい走り。窓辺に映るゆったり流れる群青の雄大な風景。夜行列車でしかできない体験であり、ぜひ乗っておきたい貴重な急行列車です。

急行「きたぐに」

バラエティに富んだ車両を連結する急行列車

大阪〜新潟間を米原回りで運転される夜行急行列車です。本来は、その先の羽越本線、奥羽本線を通り、青森を結んでいた客車長距離急行でした。

この列車の特徴は、往年の客車急行列車時代のように、A寝台、B寝台、グリーン車、普通車指定席、普通車自由席といったバラエティに富んだ等級の車両が連結されていることです。また、B寝台は今では唯一となった電車三段式寝台であるなど、かなり特色のある列車です。

A寝台は中央通路の二段式。B寝台車と共にプルマンタイプの構造の寝台車で、乗り心地は最高級です。普通車では、この列車の使用車両である583系電車の座席使用時の設備で、独特の柔らかいソファのようなボックスタイプの座席が体験できます。

圧巻はグリーン車で、天井が寝台車の高さで造られた583系のグリーン車は、座席車ながら高い天井を持っており、落ち着きのある圧迫感のない優雅な空間が得られ、これも「きたぐに」ならではです。

さらに583系は車内放送のチャイム機器に昔ながらの『鉄道唱歌』のオルゴールを使用しており、車掌さんが放送の前後にゼンマイを巻いて鳴らすので、とても情緒があります。

「きたぐに」は早朝の小駅にもこまめに停車し、少数の乗客たちの利用に役立っており、「急行」の面目躍如といった感があります。地方都市間を結ぶ便利な列車として人気が高く、今後もますます活躍して欲しいと願う列車です。

急行「能登」

優美なボンネット車で運転の伝統急行列車


威風堂々と構える土合側の坑門。扁額がないのが特徴。また、土樽側の坑門は装飾が少なくあっさりとしている

上野と金沢を結ぶ伝統の夜行急行です。以前は寝台車などを連結していましたが、現在は全車が座席車で運転されています。この列車が奇跡的なのは、いまだに前後共ボンネット車両、しかも国鉄色の塗り分けの端正な姿で毎日走行していることです。

ボンネット車両は昭和33年デビューの特急「こだま」がルーツ。この秀逸で卓越したデザインはどこから眺めても隙がなく、国鉄が輩出した最高傑作の一両です。一時、地域オリジナルカラーに塗られていた時もありましたが、現在は赤2号、クリーム1号の国鉄正色に復元され、その美しい姿を披露しています。

車内は夜行列車にふさわしいゆったりした造りで、リクライニングシートが並び、夜間は照明も暗くなり、白熱電球の暖かなものに変わります。設備は普通車のほかグリーン車もあり、またラウンジも備えています。

急行「きたぐに」同様、未明の小駅をこまめに停車していきます。下り列車では、直江津4時13分、糸魚川4時42分、泊5時02分、入善5時07分……。1人、2人の乗客が鞄を持って駅舎を目指し列車を下ります。その光景はまさに故郷への帰省などで利用された、往年の急行列車の姿そのものです。

ボンネット車両もロマンたっぷりなのですが、急行「能登」自体も昔と変わらず郷愁ムードを持った貴重な夜行急行列車なのです。


ボンネットスタイルの489系。かつては信越本線用で、碓氷峠でEF63形を連結した車両なので連結器が残る

  • 文:斉木実
  • 写真:マル鉄コレクション館、裏辺研究所(裏辺金好、デューク、daikiti)、佐藤正樹、浅水浩二
  • 掲載されているデータは2009年11月現在の情報です。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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