トレたび JRグループ協力

2021.06.01鉄道幸せになれる!? ドクターイエローに潜入! その車内の秘密に新聞記者が迫る

憧れのドクターイエロー 基地感たっぷりで大人もわくわく、その役割とは?

その珍しさから「見ることで幸せが訪れる」との都市伝説もある「ドクターイエロー」。

正式名称を「新幹線電気軌道総合試験車」といい、その名の通り「新幹線のお医者さん」として、東海道・山陽新幹線の安全、安定輸送を支えています。JR東海とJR西日本では、10日に1回程度東京―博多間でドクターイエローを走行させ、地上設備の健全性を的確に把握しています。

走行中の車内ではどのようなことが行われているのでしょうか。東海道新幹線区間(東京駅~新大阪駅間)でドクターイエローに乗車し、その様子を取材しました。

  • 上の写真:浜名湖付近を走行するドクターイエロー。東京駅~博多駅間を10日1回程度走行し、各種項目を検測しています(JR東海提供)

そもそも「ドクターイエロー」とは?


ドクターイエロー T4編成 ドクターイエロー(T4編成)

JR東海所有のドクターイエロー(T4編成)は、0系をベースにした先代に代わる車両として2001年にデビューしました。700系仕様の7両編成で、電気関係の検測を行う試験車6両(1~3号車、5~7号車)、レールなど軌道関係の検測を行う試験車1両(4号車)からなります。JR西日本も同じタイプのT5編成を所有しています。

営業列車に支障しないよう、最高時速270キロで走行しながら10日に1回程度、架線をはじめとした電車線、変電、信号、通信、軌道と新幹線の運行に欠かせない設備の検測に当たっています。東京―博多間で検測を行う場合は2日間に分けて行われ、年間40運行ある検測業務をT4編成、T5編成で分担します。

検測は、電車線がトロリ線の高さや摩耗、パンタグラフ衝撃など9項目、変電が切換無電圧時間、電車線電圧など4項目、信号が自動列車制御装置(ATC)の電流、小型無電源地上子特性など7項目、通信が信号レベル(山陽区間のみ)、接続動作試験および通話試験など10項目、軌道関係が高低左右、期間、水準、台車振動加速度の上下左右など40項目、計70項目におよびます。


ドクターイエロー 前方監視カメラ 先頭車両(1、7号車)に備わる前方監視カメラ

編成は博多側が1号車となり、同号車には電気検測室、2・6号車には集電用と測定用の各パンタグラフ、パンタグラフを通して電車に電気を供給するトロリ線の摩耗測定装置、3・5号車には架線やパンタグラフを監視する観測ドームや観測台などがあります。軌道試験車の4号車には、測定台車、軌道検測室が備わります。1・7号車の前照灯下部には前方監視カメラが搭載されています。

いよいよ乗車!

早速、ドクターイエローに乗り込むため、ホームに上がります。ドクターイエローのダイヤは公開されていませんが、ホームにはすでに親子連れや鉄道ファンがカメラを構えています。回送列車入線の案内放送が入ると、有楽町方面から黄色に輝く車体がやってきました。私もファンに負けじとシャッターを切りました。この日はJR西日本のT5編成が検測を担います。


ドクターイエロー 東京駅 いつ出会えるかは運次第。停車駅では常に注目の的です(東京駅/JR東海提供)

担当者の案内で7号車から乗り込みます。車内にはすでに検測員の姿があり、電気関係を担当するJR東海の社員4人、軌道関係を担当する日本機械保線の社員3人が乗車して各種項目の測定に当たります。

7号車:懐かしの700系の座席が並ぶ添乗員室


ドクターイエロー 車内 7号車 700系の座席が並ぶ7号車。モニターには前方監視カメラの映像が映しだされています

7号車の車内に入ると、700系の座席が並んでいます。
東海道新幹線からはすでに700系が引退しているため、どこか懐かしさを感じます。ここは、添乗員室と呼ばれる場所で、50人分の座席が配置されているほか、大型モニターも設置されています。このモニターには、先頭車両の前照灯下に設けられた前方監視用カメラからの映像が映し出されます。

座席に腰を下ろして出発を待っているとこんな放送が聞こえてきました。「これからパンタ切り替えを行います」。普段乗る営業列車ではまず聞かない放送です。2・6号車には架線から電気を取る集電用、測定用の各パンタグラフがあり、これらを切り替えるための作業で、下りの場合、測定用に2号車、集電用に6号車のパンタグラフを使用します。

新横浜を過ぎたあたりで検測の様子を見学させてもらいます。まずは電気関係のデータが集まる1号車へ。

1号車:信号通信測定台・電力測定台に電気関係のデータが集積


ドクターイエロー 1号車 信号通信測定台 1号車 信号通信測定台


ドクターイエロー 1号車 電力測定台 1号車 電力測定台

同号車の博多寄りに信号通信測定台、東京寄りに電力測定台が設置されています。信号通信の測定台には、ATC信号の状態など、電力の測定台にはパンタグラフの動きやトロリ線のすり減り具合、き電区分所通過時の電気の切り替えに要する時間などがそれぞれモニターに表示されており、各測定台2人ずつ計4人が数値に異常がないか目を光らせています。

2号車:各種パンタグラフが備わるほか、トロリ線の状態も検測

パンタグラフが備わる2号車には、トロリ線摩耗測定装置、レーザードップラー装置も搭載されています。
摩耗測定装置では、トロリ線の摩耗状態と偏位を検測。レーザー光を1秒間に1500回照射することで時速270キロ走行時に50ミリ間隔でのきめ細かなデータ取得が可能となっています。一方のドップラー装置は、レーザー光を移動物体に照射した際のドップラー効果を活用し、レール面に触れることなく試験車の速度、移動距離を測定。車輪の空転、滑走の影響を受けずに高い測定精度が得られています。

3・5号車:観測台・観測ドームで走行中のパンタグラフを観察


ドクターイエロー 3号車 階段 3・5号車に設けられている階段

ドクターイエロー 3号車 観測ドーム 階段を上がると観測ドームからパンタグラフの様子を観察できます

3号車には、通路から一段高い位置に観測台、観測ドームがあり、2号車の測定用のパンタグラフの動きをリアルタイムで見ることができます。
車内から走行中のパンタグラフを観察できるのも検測車ならではです。また、高性能カメラも据えられており、窓越しにライブで撮影・録画しています。このドームは5号車にもあり、下りの場合は6号車の集電用パンタグラフが見学できます。

続いて、4号車に移動します。

4号車:軌道検測室で軌道の状態をチェック


ドクターイエロー 4号車 軌道検測室 軌道関係のデータを収集する軌道検測室

「左でマイナス6・9」。検測員が取得したデータを読み上げています。ここは新幹線が走る軌道関係の情報が集積される軌道検測室。日本機械保線の検測員3人が担当し、入念にチェックしています。


軌道検測に欠かせないレーザー光はこの機械から照射されます


ドクターイエロー 4号車 測定台車 計測は測定台車を用いて行われています(JR東海提供)

軌道測定は、強固な構造の測定枠を有する測定台車(同号車設置)を用いて行われており、結果は瞬時に演算、保存され、検測室のディスプレーに反映されます。ディスプレーにはレールの高さなど軌道の状態が波形となり表れ、リアルタイムに表示されるほか、すでに通過した軌道についてもさかのぼって状況を確認できます。

6号車:ミーティングルームで打合せもすぐに対応


ドクターイエロー ミーティングルーム ミーティングルーム

6号車には、打合せのできるミーティングルームのほか、各種パンタグラフや資材搭載室が備わります。

「何もないのが一番」担当者の思い

検測に携わる新幹線鉄道事業本部電気部電力指令の田中修係長は「常に緊張感を持って検測にあたっています。基準値を超えていなくても気になる箇所があれば連絡を入れるようにしています」、軌道関係の検測結果をオフィスで待つ同本部施設部保線課の榎本祐介主任は「線路の状態に関して大きい値があればすぐに対応できるようにしています」とそれぞれ話してくれました。

電気関係、軌道関係のいずれも異常値があれば東京の指令に自動でデータが送られるほか、検測員が直接指令に電話してその情報を共有。すぐに修理などの手配が行われるといいます。そんな中、「検測して何もないのが一番良い」と田中係長、榎本主任の2人が口をそろえます。

さらに、田中係長は「これまではドクターイエロー1本だったが営業車両による検測データと2つを生かしながら安全、安定輸送に努めていきたい」、榎本主任は「検測データは貴重なものであり、これを有効活用しながら安全はもちろん、乗り心地のさらなる向上に努めたい」とそれぞれ語ってくれました。

2人の意気込みを聞き終えたころ、ドクターイエローは静かに新大阪駅のホームに滑り込みました。新大阪からはJR西日本にバトンタッチし、ドクターイエローの検測はまだまだ続きます。

営業車にも検測装置搭載

日々の安全を守っているのは、ドクターイエローだけではありません。
営業車両のN700系6編成には「軌道状態監視システム」が搭載されています。走行中に車輪の動き(加速度)を計測して、演算によりレール形状の上下方向のずれを算出。データをリアルタイムに中央指令などに伝送しています。

さらに、N700S営業車の一部編成には、トロリ線の摩耗状況を確認する「トロリ線状態監視システム」、走行中にレールに流れるATC信号、電車からレールを伝い変電所に帰る帰線電流を計測する「ATC信号・軌道回路状態監視システム」を搭載。「ドクターイエロー」による計測と併せることで、高頻度に設備の状態を把握し、よりタイムリーに保守作業を行えるようにしているとのこと。

「見ることで幸せが訪れる」と言われるドクターイエロー。営業車両と協力しながらきょうも東海道・山陽新幹線の検測に当たっていることでしょう。たとえその姿が見えなかったとしても、「安全運行」という見えない幸せを常に私たちにもたらしてくれているのです。

  • 2021年5月現在
  • トレたび編集室/編、交通新聞/協力
トレたび公式SNS
  • X
  • Facebook
  • Instagram