トレたび JRグループ協力

2022.10.20鉄道GV-E400系(JR東日本) 電車の技術を導入した地方路線の新しい主役

地方の路線に、低コストで高い輸送サービスを提供

鉄道ファンといえば新幹線、観光列車に特急列車が好き……。それはもちろんその通り。

しかし日々の通勤や通学を支える普通・快速列車にも、たまらない魅力が隠されています。さながら実家のような安心感と最先端の技術を兼ね備える不思議な存在、それが普通・快速列車なのです。

今回は、最新技術を取り入れ、低コストで地方路線に安全安定輸送と高いサービスを提供する、GV-E400系を紹介します。

非電化路線で、電車の走行性能をリーズナブルに実現した次世代車両

エンジンで発電しモーターを回す

日本最大級の鉄道会社として、次々と新型車両を開発してきたJR東日本ですが、地方路線には1970年代に製造されたキハ40系気動車が残っていました。

そこで、老朽化したキハ40系車両を置き換える、地方路線向けの標準型気動車として開発された車両が、GV-E400系です。


GV-E400系最大の特徴、それは、ディーゼル機関(エンジン)と発電機による電気で、電車と同じ主電動機(モーター)を動かして走る「電気式気動車」であるということです。これは、通常の電車が架線などから取り入れる電気を、ディーゼル機関と発電機によって自ら作り出すというもの。

これによりJR東日本が数多く保有する最新の電車と同じシステムを使用でき、加減速性能と高速走行性能に優れた車両を、地方の非電化区間でも低コストで導入・メンテナンスできるようになったのです。

電気式気動車の技術自体は国鉄時代からありましたが、技術革新によってディーゼル機関の出力向上や電気機器の小型軽量化が進み、一般的な車両にも組み込めるようになりました。

「GV」の名前の由来は...

GV-E400系の「GV」は、「Generating Vehicle(作り出す乗りもの)」の略で、機関で発電し主電動機を動かすシステムを示しています。

ディーゼル機関は、DMF15HZD-G型と呼ばれる総排気量15.24ℓ直列6気筒のエンジンを搭載し、定格出力はキハ40系(220馬力)の倍以上となる450馬力。これにDM115主発電機が直結されて、必要な電気を発生させます。

ここからは電車と同じシステムで、主変換装置でいったん直流に変換された電気は、VVVFインバータ装置を通じて、1両につき片方の台車に2台搭載されたMT81形主電動機に供給されて、車軸を回転させるのです。


GV-E400系は、車体長19.5m、車体幅2.8m、屋根高3.64mという、JR東日本では標準的なサイズで、車体には軽量ステンレス鋼体を採用しています。

最高速度は100km/h。キハ40系の95km/hからは5km/hの向上に留まりますが、加減速性能が優れているため、導入路線では所要時間の短縮が期待できます。

先頭部は大きなガラス面とブラックフェイス、エッジの立った面構成が特徴で、まるで金属の塊から削り出したような印象のデザインです。長い期間にわたって走り続けても陳腐化しない、シンプルで安定感のあるデザインとして採用されました。


車両は、両運転台のGV-E400形、片運転台でトイレ付きのGV-E401形、片運転台でトイレのないGV-E402形の3タイプ。

片側2扉で、客室の両端にロングシートを、中央に二人掛けと四人掛けのクロスシートを配置したセミクロスシートです。

座席の布地や仕切り板などは、新潟県の鳥であるトキの羽の色をイメージしたトキピンクを基調に、明るい色彩で統一されました。


乗降扉は、乗客がボタン操作で開閉できる半自動機能付きで、扉が閉まった後にいったん力を弱め、万一ドアに人や物が挟まってしまった場合でも安全に抜けられるよう配慮されています。

各車両には車いすスペースが設けられ、その向かいのトイレも車いすに対応したバリアフリー仕様。

非常通報装置も車いすに座ったまま通話可能な位置に設置されるなど、バリアフリー機能の充実が図られています。

新潟地区と秋田地区に留まらず、近い将来には東日本全域へ


2018年1月に量産先行車として各形式1両ずつが製造されたGV-E400系は、まず新潟県の新津(にいつ)運輸区に配置されて同年8月19日から磐越西(ばんえつさい)線などで営業運転を開始しました。

車体側面と前面下部にはトキピンクと黄色のドットパターンが配されています。

JR東日本ではこれを「新潟色である黄色とトキピンク」と説明しており、1960年代に「吹雪の中でも視認しやすい配色」として採用された赤と黄の旧新潟色をオマージュした配色とも言えそうです。

  • 2022年10月17日現在、磐越西線喜多方(きたかた)駅〜山都駅間、米坂(よねさか)線今泉駅〜坂町駅間は水害により運転を見合わせています。

2020年12月からは秋田総合車両センターへの配置も始まり、現在GV-E400形11両、GV-E401形・GV-E402形各6両の合計23両が、五能線津軽線奥羽(おうう)本線秋田駅〜東能代(ひがしのしろ)駅間・弘前駅〜青森駅間で使用されています。

秋田所属の車両は、車体側面に白神山地と日本海、そして青森県の津軽地方を代表するお祭りである立佞武多(たちねぷた)と伝統工芸のこぎん刺しを、ひし形のデザインで表現したロゴマークを付け、車体側面と前面下部には五能線沿線の雄大な日本海と青空をイメージしたグラデーションのラインを配置しています。

  • 2022年10月17日現在、五能線岩館(いわだて)駅〜鰺ケ沢(あじがさわ)駅間、津軽線蟹田駅〜三厩(みんまや)駅間は水害により運転を見合わせています。

GV-E400系と基本設計が同じH100形気動車

なお、秋田所属の車両は、営業運転開始前の2020年9月から翌2021年1月にかけて、八高(はちこう)線でGNSS(全球測位衛星システム)と携帯無線通信網を活用した新しい列車制御システムの走行試験にも使用されました。

また、JR北海道が2020年3月に営業運転を開始したH100形気動車は、GV-E400系と共通の基本設計を備えた車両です。

今後、GV-E400系は、JR東日本の非電化区間向け標準車両として、東日本全域と北海道に活躍の場を広げていくことでしょう。


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。

小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。

東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「東北新幹線沿線の不思議と謎」(実業之日本社)、「東海道新幹線の車窓は、こんなに面白い!」(東洋経済新報社)ほか。

  • トレたび編集室/編
  • 写真/交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2022年10月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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