トレたび JRグループ協力

2023.02.24鉄道キハ54形(JR四国・JR北海道)JR発足直前に誕生し、2つの地域を支えた国鉄型気動車

JR発足から35年以上、四国と北海道で活躍する国鉄型気動車

鉄道ファンといえば新幹線、観光列車に特急列車が好き……。

それはもちろんその通り。
しかし日々の通勤や通学を支える普通・快速列車にも、たまらない魅力が隠されています。
さながら実家のような安心感と最先端の技術を兼ね備える不思議な存在、それが普通・快速列車なのです。

今回は、国鉄末期に登場し、JR四国とJR北海道の経営基盤強化に役立てられたキハ54形気動車を紹介します。

分割民営化の行く先を見据え国鉄予算で開発された一般型気動車


土讃線(JR四国)の橋の上にある土佐北川駅に停車するキハ54形(1995年6月撮影・交通新聞掲載)

国鉄分割民営化を前に、一足早く誕生した一般型気動車。それが、キハ54形です。

1987年4月1日、日本国有鉄道は38年間の歴史の幕を閉じ、JRグループ7社に分割民営化されることになりました。
しかし、旅客会社6社のうち、JR北海道・JR四国・JR九州の3社(三島会社)は規模が小さいうえに利用者の少ないローカル線が多く、経営基盤の弱さが懸念されていました。
加えて、当時の国鉄には1960年代に設計・製造された車両が多く、そう遠くない将来に、老朽化した車両を大量に取り替えなくてはならないことがわかっていました。

そこで、まだ国鉄であるうちに低コスト・高性能な新型車両を作っておき、三島会社の負担が少しでも軽くなるようにしておこう……。
キハ54形は、そうした経緯から開発・製造されました。

キハ54形には、2つのタイプがあります。
1つはJR四国向けに開発された、暖地仕様の0番代。
もう1つが、JR北海道向け極寒地仕様の500番代です。
どちらも全長21.3mの片側2扉・両運転台仕様で、腐食に強くメンテナンスコストが安いオールステンレス車体を採用しています。エンジンは、特急型気動車のキハ185系と同様、部品点数を減らして省エネ・軽量化を果たした直噴式DMF13HS(250 PS/1900 rpm)を2基搭載。定格出力は500 PSと当時の一般型気動車としては高出力となり、電車にも負けない加減速性能を備えているとされました。
ただし最高速度は、使用路線の線形なども考慮し、従来の車両と同じ95 km/hとなっています。また、エンジンの駆動力を伝達するトルクコンバータや台車などは、国鉄型気動車の中古品を整備・改良のうえ使用するなど、コストダウンが図られました。


暖地仕様の0番代。JR四国向けに急勾配でも耐えうるよう開発された

JR北海道で使用されている極寒地仕様の500番代。よく見ると0番代とは違う部分がある

エンジンを2基搭載したことには、0番代と500番代とでやや異なる理由がありました。
JR四国向けの0番代は、土讃線など勾配の多い山岳路線での使用が予定されていたことから、登り急勾配でも均衡速度(実質的な最高速度)を高めるため。
一方JR北海道向けの500番代は、冬期に雪が降り積もっても1両でしっかり線路を捉えて走行するために、2基搭載とされたのです。

同じ「キハ54形」でも、エンジンや車体の材質などごく基本的な部分を除いては、0番代と500番代とで仕様がかなり異なります。

急行仕様車もあったJR北海道のエース「500番代」


流氷に一番近い駅として有名な釧網本線「北浜駅」。キハ54形500番代は快速〔しれとこ〕としても活躍した(1992年2月撮影)

実は、先に生産されたのはJR北海道向けの500番代で、1986年11月から12月にかけて29両が製造されました。
オールステンレスの車体に赤い帯、外気を遮断するための小型の二重窓が外観上の特徴です。
冬期には氷点下20度くらいまで下がる厳しい極寒地で使用されるため、乗降扉のあるデッキと客室が完全に分離され、乗降扉は片開きの引戸。客室は、乗車定員100名で、車端部がロングシート、中央部が4人掛けクロスシートのセミクロスシート仕様です。首都圏の八高線に投入されていたキハ38形用の座席を改良したものが使用されました。
この座席は、ロングシート、クロスシートとも1人分ずつ区分されたバケットタイプの腰掛で、クロスシートにはヘッドレストも設けられるなど、従来の一般型気動車よりもグレードの高い座り心地を備えていました。1人分ずつ交換できる仕様で、それまでの国鉄のイメージを変えるオレンジとイエローの明るい配色が特徴。
クロスシート主体で車窓風景が見やすく、座り心地も良いとあって、北海道の鉄道旅がより楽しくなったものです。

29両中3両(527〜529)は、座席に東海道・山陽新幹線の0系電車で使用されていた転換クロスシートが使用された急行仕様車で、下の写真では色が退行していますが、窓の上にも赤のラインが入っていることが特徴。宗谷本線の急行〔礼文〕に充当されました。


宗谷本線の旭川~稚内を走った急行〔礼文〕。1986年にキハ54形が投入され、約14年間運用されていた(1996年9月撮影)

オールロングシートで定員を確保したJR四国車「0番代」

JR四国向け暖地仕様の0番代は、1987年1月に12両が製造されました。
こちらは通勤・通学時間帯に混雑が予想されたことから、オールロングシート仕様で、立ち客も含めた乗車定員は148名です。客室と乗降扉も分離されていません。
座席は、1人分ずつ分かれたバケットタイプで、5人分ごとにひじ掛けが設けられました。
ロングシートでしたが座り心地は抜群で、長時間乗車しても疲れませんでした。


5人分ごとにひじ掛けが設けられたシート。写真は〔しまんトロッコ〕仕様で、カラフルなモケットになっている

乗降扉は、コスト削減のためバス用の部品を流用した折戸タイプを採用。
窓は500番代よりも大型の二段窓が使用されています。また、500番代は地域性を考慮して見送られた冷房装置が0番代には装備されています。
オールステンレスの車体は、前面形状こそ500番代とほぼ同じですが、前面下部の排障器(スカート)がなく、四国らしいデザインとしてオレンジの斜めラインが施されました。
ただし、このデザインで運行されたのはごく短い期間で、JR四国が発足すると、まもなくJR四国のコーポレートカラーである水色を基調としたデザインに変更されました。


JR四国のコーポレートカラーの由来でもある「澄み切った青い空」の下で走るキハ54形0番代

30年以上ほぼ全車が一線で活躍を続ける

JR発足を前に登場したキハ54形は、今もほとんどの車両が現役です。

JR北海道の500番代は、2023年2月現在、廃車となった1両を除く28両が、宗谷本線、石北本線、留萌本線、釧網本線、根室本線(釧路〜根室間)で使用されています。また、旭川〜北見間の特別快速〔きたみ〕にも充当されています。
登場時には国鉄時代の中古品を流用したパーツも2000年代に換装され、台車は軽量で乗り心地のよいボルスタレス台車となりました。
また、全車がクロスシートの座席を交換していることも特徴で、特急型車両で使用されていた座席が、車両の中央で向かい合わせになる形で配置されているほか、かつての急行仕様車は車両の一部にロングシートが導入されています。

主に釧網本線で使用される507・508は車体にクリオネなどが描かれた〔流氷物語号〕ラッピング。根室本線釧路〜根室間で使われる522は、沿線出身の漫画家モンキー・パンチにあやかって「ルパン三世」のラッピングが施されています。


流氷シーズンに走る〔流氷物語号〕。2023年はキハ40形の「北海道の恵み」シリーズの車両が走っている

JR四国の0番代は、12両全車が現役で、予讃線松山〜宇和島間と内子線、予土線で使用されています。こちらは台車などの交換は行われておらず、今も登場時に近い姿で走り続けています。
キハ54-4は、イエローに塗装されて、トラ45000形トロッコ車とともに予土線で〔しまんトロッコ〕として使用されています。


後ろにトロッコ車両を引いて活躍しているキハ54-4。自然あふれる四万十川沿線などを走り、人気を博している


「しまんトロッコ」についてもっとくわしく

しまんトロッコ―もとは国鉄時代の「貨車」。自然あふれる四万十川の流域をガタンゴトン(THE列車)

JR北海道とJR四国の経営基盤を強化するために登場したキハ54形は、当初の目的を十分に果たし、今も軽快に走り続けています。


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「東北新幹線沿線の不思議と謎」(実業之日本社)ほか。

  • トレたび編集室/編
  • 写真/交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2023年2月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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