トレたび JRグループ協力

2023.03.24鉄道205系(JR東日本・JR西日本)省エネルギーを実現し、首都圏の顔としても活躍した通勤型電車

国鉄時代からJR世代への橋渡しを果たした通勤型車両

鉄道ファンといえば新幹線、観光列車に特急列車が好き……。

それはもちろんその通り。
しかし日々の通勤や通学を支える普通・快速列車にも、たまらない魅力が隠されています。
さながら実家のような安心感と最先端の技術を兼ね備える不思議な存在、それが普通・快速列車なのです。

今回は、国鉄末期に登場し、省エネルギー機能をリーズナブルに実現したハイテク電車、205系直流型電車を紹介します。

リーズナブルで省エネな「界磁添加励磁制御」を採用


山手線といえば、この205系の姿を思い浮かべる人も多いはず(2002年7月撮影)

昭和50年代、国鉄は財政的に極めて厳しい状況にありましたが、昭和30年代に導入された101系をはじめとする通勤型・近郊型電車の老朽化が進み、本格的な取り替えの時期が近づいていました。

1979(昭和54)年、中央快速線に201系電車が登場します。
この電車は、「電機子チョッパ制御」という新機能を備えていました。
従来の電車は、電気を熱に変える抵抗器を使って出力を制御していましたが、電気を捨ててしまううえにメンテナンスが大変な古い仕組みでした。
電機子チョッパ制御は、直流電圧を高速でオン・オフして電車の出力を制御する方式で、電気を無駄なく使えるうえに、ブレーキ時に発生した電気を架線に戻して再利用できる回生ブレーキを実装できるなど、従来の「抵抗制御」に比べて省エネルギー性能とメンテナンス性に優れた仕組みでした。
しかし、電機子チョッパ制御には、導入コストが高いという欠点がありました。
すでに国鉄は民営化がささやかれていた時期。新型電車のコストは少しでも節約しなくてはなりません。

そこで注目されたのが、「界磁添加励磁制御(かいじてんかれいじせいぎょ)」という方式です。
これは、101系・103系などと同じ抵抗制御を基本とし、主回路とは逆向きの電流を加えることで出力を調整する仕組みで、従来の電車と基本構造は同じながら回生ブレーキを実装することができました。


埼京線 「緑15号」と呼ばれるグリーンのラインをまとい走る埼京線(2008年6月撮影)

リーズナブルに導入できて、かつ省エネルギーなシステムだったのです。
この方式は、東海道本線や東北本線向けの211系近郊型電車の技術として開発が進められましたが、山手線に導入される新型車両にも応用されることが決まります。
こうして、1985(昭和60)年3月、界磁添加励磁制御による通勤電車、205系が誕生しました。


205系 ずらっと並ぶ205系。左端の武蔵野線向け車両のデザインは「メルヘン顔」と呼ばれた(2019年9月撮影)

205系電車は、このほかにも国鉄通勤電車として数々の新機軸を採用しています。
車体は、軽量で腐食に強いステンレス構体。
台車には、マクラ梁(ボルスタ)を省略して車体と台車を2つの空気ばねで直接接続する軽量ボルスタレス台車を採用し、ブレーキには応答性に優れた電気指令式空気ブレーキを搭載しました。
デザインも、201系で好評だった運転席周りを黒く塗装するブラックフェイスを踏襲し、前照灯は運転台下の左右に配置するなど当時のトレンドを積極的に取り入れています。
205系電車は、国鉄を取り巻く環境が厳しさを増すなか、できる限りの最新技術と省エネルギー性能、デザイントレンドを盛り込んだ、ハイテク通勤電車だったのです。

JR発足後も製造が続けられた標準形通勤電車


横浜線、武蔵野線(上段)、京葉線、埼京線(下段)。多くの路線に205系は投入されていった

1985(昭和60)年3月25日から山手線に投入された205系0番代は、1987(昭和62)年4月1日にJRグループが発足してからも増備が続けられます。
1988(昭和63)年9月には、横浜線で運用を開始。その後、南武線、埼京線、京浜東北線、京葉線、武蔵野線、中央・総武緩行線、関西地区の東海道・山陽本線(現在のJR京都線・神戸線)など幅広い通勤路線に投入されました。


阪和線 阪和線を走った205系1000番代。関西地区でも量産され、活躍している(2008年7月撮影)

1988(昭和63)年3月には、JR西日本阪和線に、前面窓の形状や搭載機器を変更した1000番代が登場。
1991(平成3)年には、JR東日本相模線の電化に際して、デザインを大きく変更した500番代がデビューしています。
また、1990(平成2)年には混雑対策として6扉車のサハ204形も登場するなど、1994(平成6)年までに全1461両が製造されました。

顔は変わっても車内は国鉄時代のまま

2000年代まで首都圏と関西で活躍を続けてきた205系ですが、2010(平成22)年頃から廃車が本格化し、現在では活躍の場が少なくなっています。


仙石線 現在も主力車両として営業運転を行う205系を見られる仙石線

2023年3月現在、205系電車が現役で活躍しているのは、JR東日本の南武線支線と鶴見線、仙石線、そしてJR西日本奈良線の4路線。

川崎市を走る南武線支線(尻手~浜川崎)には、2023年3月10日現在、2両編成の1000番代(JR西日本の1000番台とは異なる)が3本在籍しています。
これは、山手線にE231系が導入されて余剰となった0番代を、2002(平成14)年から翌年にかけて改造したもの。
前照灯と尾灯は行先表示器などのある運転席上部にまとめられるなど、外観の印象はオリジナルの205系からは大きく異なる雰囲気です。
車内は一般的な片側4扉のロングシートですが、座席のモケットは音符柄となり、吊り手は最近主流の三角型となっています。

浜川崎駅で接続する鶴見線(鶴見~扇町・大川・海芝浦)も、南武線支線と同様、中間車を改造した3両編成の0番代・1100番代が運行されています。
こちらは山手線と埼京線で活躍した車両を種車としており、真ん中の車両は改造をほとんど受けていない、JR東日本に唯一残る0番代。
吊り手も昔ながらの丸型です。


埼京線 丸型のつり革に鉄パイプの荷物棚の特徴を持つ、埼京線向け量産車の車内(2009年12月撮影)

鶴見線の205系は、よく観察すると1両ごとに違いがあります。
例えば、元山手線の車両は荷物棚が網式なのに対し、元埼京線の車両はパイプ式。
乗降扉の窓も、元埼京線の車両はサイズが拡大されています。

数多くの改造によって仙台都市圏の通勤・通学輸送を支える

宮城県のあおば通~石巻間を結ぶ仙石線では、中間車を改造した4両編成の205系3100番代が運行されています。


仙石線 205系 仙石線で活躍した103系の置き換えとして2002年にデビューした205系3100番代

3100番代は、仙石線沿線の環境に合わせてさまざまな改造を受けたグループです。
各編成には車いす対応の洋式トイレが設置され、乗客が自分で開閉する半自動スイッチ、扉の凍結を防ぐレールヒーター、耐雪ブレーキなど厳しい自然環境で運用するためのさまざまな改造が施されています。
中でも、M-8編成とM-2編成は、石巻を第2の故郷とした故・石ノ森章太郎氏を記念した「マンガッタンライナー」。車両の内外に、「サイボーグ009」や「がんばれロボコン」といった石ノ森萬画のキャラクターがラッピングされています。

なお、17本中5本の編成は、石巻方先頭車にロングシートとクロスシートに転換可能な「2WAYシート」を装備しています。ただし、仙台から東北本線を経由して石巻に直行する仙石東北ラインの開業以降は、ロングシート状態に固定されています。


現役で205系が活躍する奈良線。前面の窓を始め、塗装など外見の変更も多く行われた(撮影=栗原景)

京都駅と木津駅及び奈良駅を結ぶJR西日本の奈良線では、4両編成の0番代が4本、1000番代が5本の計9本が健在です。

走行機器を見直して営業最高速度を100km/hから110km/hに引き上げたほか、客室からの列車前方の景色がよく見えるよう、運転席後方の窓と、助士側前面窓を大型化したことが特徴。
子供でも前面展望を楽しめるよう高さも低くなっています。また、乗降扉の高さを2cm拡大したり、ロングシートの1人当たりの幅を広くとったりと、居住性の向上に努めています。
製造時の前面形状を維持しているのは、いまでは奈良線の1000番代だけとなりました。

このほか、山梨県の富士山麓電気鉄道(富士急行)では、京葉線などで活躍した205系が6000系として第2の人生を送っているほか、海を渡りインドネシアに譲渡された車両もあります。


富士急行 富士急行を始め、様々な場所で再び走り出す205系。インドネシアには計812両が譲渡された

完全引退も見えてきた国鉄型通勤電車


205系 尻手駅 より省電力で走るE127系に置き換わる南武線支線(左)。右は2016年に引退した南武線向け1200番代

長年にわたり活躍してきた205系ですが、各地で新型車両の導入が近づいています。
南武線支線では、2023年度中に3編成のうち2編成が新潟から来たE127系に置き換えられることが発表されました。
鶴見線、仙石線にも新型車両の導入が予定されています。

国鉄の底力を見せたハイテク車両として40年近く働き続けてきた205系。
最後の活躍を続ける今のうちに、乗車してみてはいかがですか。


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「東北新幹線沿線の不思議と謎」(実業之日本社)ほか。

  • トレたび編集室/編
  • 写真/交通新聞クリエイト、栗原景
  • 掲載されているデータは2023年3月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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