JR西日本の最新技術とデザインが詰まった車両
鉄道ファンといえば新幹線、観光列車に特急列車が好き……。それはもちろんその通り。
しかし日々の通勤や通学を支える普通・快速列車にも、たまらない魅力が隠されています。さながら実家のような安心感と最先端の技術を兼ね備える不思議な存在、それが普通・快速列車なのです。
今回は、JR西日本が開発した、多くの電車から優れた機能を取り入れた交直両用近郊型電車、521系を紹介します。
最新技術とコストパフォーマンスを両立した交直両用電車
「私鉄王国」とも呼ばれる関西にネットワークをもつJR西日本は、競合他社とスピードとサービスを激しく競ってきた会社です。
近郊型電車の221系をはじめ、大手私鉄に負けないグレードと優れた機能を備えた電車が多数開発されてきました。
こうした厳しい環境で培われた最新の技術で開発された交直両用近郊型電車が521系です。
2006(平成18)年10月に、それまで交流電化されていた北陸本線長浜〜敦賀間と湖西線永原〜近江塩津間が直流化されたのを機に、交流電化区間と直流電化区間にまたがる北陸・湖西線向けの車両として投入されました。
JR西日本としては初の交直両用近郊型電車で、基本コンセプトは「明るく、広く、静か、快適で、コストパフォーマンスに優れた車両」。
このよくばりなコンセプトを実現するために、それまでに多くの車両で培われた技術やデザインが盛り込まれました。
外観デザインと車内設備・運転席・台車などは京阪神地区の新快速や瀬戸大橋線で活躍している223系。
主電動機(モーター)や車両制御装置、ブレーキ装置など走るための機器類は特急「サンダーバード」の683系。
車体構造や空調装置は当時最新の通勤電車として開発された321系。
ワンマン運転用の機器は小浜線などの地方電化路線で活躍する125系……といった具合に、JR西日本を代表する車両たちの「いいとこどり」をした車両なのです。
0番代 1次車・2次車
223系/683系/321系から技術を取り入れる
1次車は、2両編成5本10両が製造されて、北陸本線米原〜福井間と湖西線近江今津〜近江塩津間に投入されました。
521系は、すべて2両編成を基本としています。
主電動機を搭載したクモハ521には直流電車と同等の機器を搭載し、もう一両のクハ520に主変圧器や主整流装置といった、交流電車に特有の機器を搭載するという683系と同じ構成を採用しました。
一方、軽量ステンレス構体の車体は、321系で採用されたレーザー溶接の技術をさらに広い範囲で使用し、滑らかで美しい車体を実現。
車体を正面から見たときの断面形状も321系と同じですが、先頭部をはじめとするデザインは223系5000番代を踏襲し、車体にはJR西日本のコーポレートカラーであるブルーとホワイトのコンビネーションラインが配されています。
客室は、223系と同じ転換クロスシートですが、天井部は新しい火災対策基準に適合させるため、321系を基本としています。
座席も223系2000番代などと同じですが、立ち上がる時の負担を和らげるため、座面の高さは20mm高い450mmとなるなど、きめ細かい改善が施されています。
また、豪雪地帯である北陸地方で使用されるため、パンタグラフは着雪の少ないシングルアームタイプを採用、床下機器には着雪防止のカバーを装着するといった対策が施されています。
2009(平成21)年10月からは、北陸本線に残っていた国鉄型の475系電車を置き換えるために、吊り手の握りごこちなどを改善した2次車が30編成60両製造されました。
2015(平成27)年3月に北陸新幹線が開業した際、16編成があいの風とやま鉄道に、3編成がIRいしかわ鉄道に譲渡されて、現在は11編成22両が敦賀〜金沢間で使用されています。
0番代3次車・1000番代
225系の安全性能を導入したマイナーチェンジ版
老朽化した475系電車を最終的に取り替えるため2013(平成25)年11月から製造されたグループです。
223系の後継車両である225系の技術を取り入れ、安全システムやデザインが大きく変わりました。
具体的には、まず側面衝突やオフセット衝突(車体の一部に障害物が衝突すること)に対応した強度が確保されました。
万一脱線事故や衝突事故が発生した時に、自動的に列車を停止させて周辺に事故を知らせる列車防護を行う機能(車両異常挙動検知システム)や、ホームがない場所で誤ってドアを開いてしまう事故を防ぐ機能(ドア誤扱い防止システム)が新たに搭載。
従来車両と車両の間の隙間に装着されていた転落防止ホロは、先頭部にも常時設置されて、複数の編成を連結して運転する時も転落を防止できるようになりました。
外観デザインも225系に準じたスタイルに変更され、1・2次車とは印象が大きく変わっています。
3次車は2021(令和3)年4月までに23編成46両が製造され、2編成4両がIRいしかわ鉄道に譲渡されたほかは北陸本線敦賀〜金沢間で使用されています。
2018(平成30)年からは、あいの風とやま鉄道向けに0番代3次車をベースに種別・行先表示をフルカラーLEDに変更した1000番代が登場。
2022(令和4)年までに4編成8両が製造されました。
0番代3次車も、2021(令和3)年に新造された編成は同様のフルカラーLEDを搭載し、優先座席にスタンションポールを設置するなど細かく仕様が変わっています。
100番代
七尾線向けの最新車両
七尾線に残っていた国鉄型の413系及び415系800番代を置き換えるため、2020(令和2)年10月から投入されたグループです。
基本的な仕様は0番代3次車と同じですが、客席の窓が従来の5列連続窓から、コストパフォーマンスに優れる1+3+1列に変更されたほか、優先席へのスタンションポール設置、扉に人や物が挟まったことを検知する機能などが搭載されました。
また、ATS(自動列車停止装置)は万一の故障時に備えて二重化され、各扉付近には車載型ICカード改札機も設置。
車体には、七尾線の路線カラーで輪島の漆を連想させる茜色と白のコンビネーションカラーのラインが配されています。
100番代はJR西日本向けとして15編成30両が製造されたほか、IRいしかわ鉄道向けにも3編成6両が導入されました。
JR西日本をはじめ、3社で全160両が活躍する521系は、今や新しい北陸の顔とも言うべき存在です。
このうち、JRに所属している車両は104両ですが、2024年春に予定されている北陸新幹線金沢〜敦賀間が開業すると、IRいしかわ鉄道と福井県の並行在来線を引き継ぐハピラインふくいに、JRからさらに32編成64両程度が譲渡される予定です。
著者紹介
- ※トレたび編集室/編
- ※写真/交通新聞クリエイト
- ※掲載されているデータは2022年11月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。