トレたび JRグループ協力

2022.12.22鉄道 キハ40形(JR北海道)北海道を長年支えた国鉄車両

半世紀近く北海道の生活輸送を支えた名車

鉄道ファンといえば新幹線、観光列車に特急列車が好き……。

それはもちろんその通り。
しかし日々の通勤や通学を支える普通・快速列車にも、たまらない魅力が隠されています。
さながら実家のような安心感と最先端の技術を兼ね備える不思議な存在、それが普通・快速列車なのです。

今回は、国鉄時代から45年以上にわたって走り続ける非電化ローカル線の雄、キハ40形気動車のうち、JR北海道が所有する車両について紹介します。

国鉄最後の全国向け気動車


キハ40 旭川機関区に配置されたキハ40形(1977年3月撮影)

キハ40形は、老朽化が進んだキハ10系を置き換えるため、 1977(昭和52)年から1982(昭和57)年にかけて、当時の国鉄が製造した普通列車用気動車です。

車両の両側に運転席があり1両で運行できる車両で、客室は4人掛けボックスシートを基本に車端部(または乗降扉周辺)にロングシートを配置したセミクロスシート。
5年間で392両が製造されました。


石勝線を走行するキハ40形(2007年10月撮影)

姉妹形式として、車両の片側に運転席があり客室部に両開きの扉を備えたキハ47形、片運転台で車端部に片開きの扉があるキハ48形もあり、この3形式を総称して「キハ40系」とも呼ばれます。
北海道のほか東北・関東・東海・中国・四国・九州など全国に配置されました。

1980年代に入ると国鉄の財政危機が深刻化したこともあり、キハ47形・キハ48形を含めたキハ40系は国鉄が全国向けに設計した最後の気動車となりました。


1985年に廃止となった万字線で活躍したキハ40形100番代(1984年9月撮影)

キハ40形のうち、北海道向けの100番代は最初に登場したグループです。

厳しい北海道の冬に対応した酷寒地仕様の車両で、冷たい外気が客室に入らないよう乗降扉は車端部のデッキに設けられ、窓は本州の車両よりも小さい二重窓が装備されていました。
1982(昭和57)年までに150両が製造されて北海道の各地で活躍し、全車がJR北海道に引き継がれました。

賛否両論ながらも高い信頼性と耐久性を発揮


「タラコ」と呼ばれた首都圏色(1989年3月江差線にて撮影)

今では貴重な国鉄形気動車として人気を集めるキハ40形ですが、登場当時の評判は賛否両論でした。
客室の床は、木材の板張りから断熱材+リノリウム張りに変更されて現代的な設備となり、車体は塗装工程を簡略化するため、朱色1色に塗装された通称「首都圏色」が採用されました。
乗降扉は自動扉となり、客室の保温性も高まるなど利用者からは歓迎されましたが、ファンからは「味気ない」と言われ、幅を拡大した拡幅車体と合わせて「タラコ」などと呼ばれたものでした。


室蘭本線の有珠-洞爺駅間を走るキハ40形。現在、この区間ではH100形が使用されている(1994年9月撮影)

性能面でも、キハ40形は弱点を抱えていました。
それは、エンジンが非力で燃費が悪いということです。
新製時に搭載したエンジンは、定格出力220 PS / 1600 rpmのDMF15HSA形ディーゼルエンジン。
このエンジンは、車体が信頼性や耐久性を考慮して大型で重くなったにもかかわらず、従来のエンジンからそれほど進化しておらず、勾配区間や発車時などに非力さが目立ちました。
エンジンを「ブルルン!」とフルパワーで回転しても、なかなか加速することができず、燃費もかさんだのです。


根室本線_1700番代 エンジンの改造などが施された1700番代(2016年5月根室本線にて撮影)

そこで、JR化後は各社がエンジン換装などの改善に取り組むことになります。
JR北海道は、ワンマン運転への対応に続いて2003(平成15)年から定格出力330 PS / 2000 rpmの N-DMF13HZI へのエンジン換装と変速機の変更、車内扇風機のラインフローファンへの取替といった延命工事を実施。
2012(平成24)年度までに85両が改造されて、1700・1800番代となりました。


「ながまれ海峡号」をはじめとする9両は、道南いさりび鉄道で活躍している(2016年3月撮影)

弱点もあったキハ40形ですが、信頼性と耐久性、汎用性は抜群で、JR北海道の時代になってからも長年にわたり大切に使用されてきました。
しかし、40年近くが経過して老朽化が進んだため、2016(平成28)年から本格的な廃車が始まりました。

同年には、北海道新幹線の開業によって誕生した道南いさりび鉄道に9両が譲渡され、2022年4月時点ではJR北海道に76両が残っています。
今も営業運転に使用されているのは原則としてエンジン換装・延命工事を受けた1700・1800番代です。
多くの車両は新製時の設備を維持していますが、函館地区と札幌地区には通勤輸送に対応するため3列シートとして通路を拡大した車両もあります。

バラエティ豊かなカラーが揃う


キハ40形を改造した「北海道の恵み」シリーズ第一弾の「道北 流氷の恵み」(2018年3月撮影)

徐々に数を減らしているキハ40形ですが、近年は観光向けの塗装や国鉄リバイバル塗装を施した車両が増えています。
「北海道の恵み」シリーズは、北海道の各エリアの特色をイメージしたデザインで、車内には木目材料が使われています。

「山明」と「紫水」は、「山紫水明シリーズ」として登場した観光列車兼用車両。
それぞれグリーンと紫を基調とし、車内は木の温もりと温かみのあるデザインで脱着式のテーブルを備えていることも特徴です。

「カムイサウルス(むかわ竜)復興トレイン」は主に日高本線で使用されているラッピングトレインで、むかわ町で発見されたむかわ竜をデザインした車両が印象的です。
ほかにも、朱色とクリーム色の「国鉄一般気動車色」、キハ40形登場時のデザインをリバイバルした「国鉄首都圏色」など、懐かしい塗装の車両も運行されています。

車号 愛称名等
1706 「カムイサウルス(むかわ竜)復興トレイン」
1720 「道北 流氷の恵み」
1747 宗谷本線急行色
1749・1758 国鉄首都圏色
1759・1766 国鉄一般気動車色
1779 「道東 森の恵み」
1780 「道央 花の恵み」
1790 「山明」
1791 「紫水」
1809 「道南 海の恵み」

使用路線も減少し完全引退が近づく


JR北海道で走行するキハ40形の数は少なくなってきている(2011年4月函館本線にて撮影)

2022年の時点でキハ40形が比較的多く(または利用しやすい列車で)運行されている区間は以下の通りです。
これ以外の区間にも、ごく一部の列車でキハ40形が使用される例はありますが、キハ40形の活躍の場はどんどん減っている状況です。

路線 区間
函館本線 函館〜長万部/札幌〜旭川
日高本線 苫小牧〜鵡川
根室本線 滝川〜東鹿越(富良野〜東鹿越間は不通)
宗谷本線 旭川〜音威子府
石北本線 上川〜網走
釧網本線 網走〜緑

キハ40形の旅を体験するなら、2022年12月現在のおすすめは函館本線函館〜長万部間です。
函館地区には、H100系やキハ150系といった新型気動車が導入されておらず、新幹線に接続する〔はこだてライナー〕以外は確実にキハ40形が使用されています。


函館本線渡島当別ー釜谷駅間を走るキハ40形。現在、この区間は道南いさりび鉄道になっている(2014年6月撮影)

また、札幌6時発の旭川行き923Dも一度は乗ってみたい列車です。
全線電化されている札幌〜旭川間136.8kmを2時間53分かけて走破する、キハ40形としては貴重な長距離列車です。
こちらは、近い将来新型車両に置き換えられる可能性もあります。
長年、地方路線の生活を支えてきたキハ40形ですが、北海道ではいよいよその役割を終える時が近づいています。


追分駅に停車するキハ40形。この風景が見られるのもあとわずか…(2014年4月撮影)

北海道を訪れたら、時間を作って懐かしい国鉄の旅を体験してみてはいかがでしょうか。
なお、キハ40形はJR北海道以外でもJR西日本・JR四国・JR九州の3社で今も定期運行を行っています。


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「東北新幹線沿線の不思議と謎」(実業之日本社)ほか。

  • トレたび編集室/編
  • 写真/交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2022年12月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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