トレたび JRグループ協力

2022.12.26鉄道ななつ星 in 九州、第2章。世界に誇る列車の車内には「茶室」や秘密のバーも

新しい魅力と込められた思いを村上悠太がレポート

構想発表から約半年。常に新しい鉄道の旅と、「豊かさ」を探求してきたJR九州が運行するクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」の次章が2022年10月、ついに始まりました。

鉄道写真家・村上悠太がリニューアルのポイントをお伝えします。
この豊かな列車での旅の一端に触れてください。

日本のクルーズトレインのパイオニア「ななつ星 in 九州」。その第2章とは


第2章が始まったJR九州「ななつ星 in 九州」

この列車ならではの「豊かな旅」

JR九州「ななつ星 in 九州」は2013年10月15日に運行を開始した豪華寝台列車で、九州各地を途中下車観光などを含めながら周遊する、「クルーズトレイン」という新しい列車ジャンルを確立したパイオニアでもあります。これまでの寝台列車とは一線を画す豪華な内装やこだわりのラウンジ、ラグジュアリーな客室、そしてクルーをはじめ、沿線地域の温かなおもてなしが大きな話題となり、運行開始から10年目となる現在に至るまで、高い乗車応募率となっています。
列車のテーマは「新たな人生にめぐり逢う、旅」。九州の地だから、そしてこの列車だからこそ実現できる、「豊かな旅」を探求し続けてきました。


「ななつ星 in 九州」は全室スイート。こちらは301号室でバリアフリー対応の部屋で、各部屋にシャワー、トイレも完備する

今回のリニューアルを次の物語の始まり、すなわち「ななつ星 in 九州 第2章」と位置付けたJR九州。ただ、車両のデザインを手がけた水戸岡鋭治氏は今回のリニューアルに際し、「正直まだ車両に手を入れたくなかった」と本音を漏らしていました。

「それくらい、私もJR九州もそして職人たちもこの車両をこだわって作った。しかし、いざこれまで走ってきた車内をじっくりと見てみると経年変化を含めて、最高の状態になっている。そこにさらに新しい魅力を付け加えることができたと思っています。いろいろな出会いがある最高の舞台を用意できました」と話します。


車両公開の記者会見(2022年10月12日)にて。水戸岡鋭治氏(右)とJR九州 松尾 英典クルーズトレイン本部長(左)

「ブルームーン」「サロン」で深い交流を…さらに「茶室」も

それでは、新しい魅力をまとった「ななつ星 in 九州」の車内を少し見てみましょう。

今回のリニューアルで最も大きく変更されたのは定員です。
これまで最大14室30名だった乗車定員を、高い人気を誇るにも関わらず10室20名にあえて減少させました。これもさらなる「豊かさ」を求めた工夫で、この改良により、さらにゆとりある旅が実現できるほか、車内での食事や新たに2号車に誕生した「サロン」に乗客全員が一度に会することが可能になりました。
今までの乗客たちが口にする感想の多くに「ななつ星 in 九州」クルーや、同じコースに参加した乗客同士の交流が楽しかったというものがあるそうですが、今回、実際にサービスを行うクルー側からの意見なども参考に、「一度に乗客みんなで同じ空間で食事をする」意味を検討しました。
「旅を共にするみなさまがいっしょに食事を楽しんでいただき、交流いただける空間が提供できるようになり、これまで以上に乗客同士の交流や絆が深くなる」と水戸岡氏は話します。

1号車は大きなリニューアルはされていませんが、乗車定員が減ったことにより、乗客全員が1号車「ブルームーン」のみで一度に食事を楽しめる空間になりました。この車両が最後部になる区間では大きな窓から流れゆく車窓を眺めることもできます。


「ななつ星 in 九州」の乗客が乗車前などにくつろぐ、博多駅内の専用ラウンジ「金星」


1号車ラウンジカー「ブルームーン」

リニューアルにより「ブルームーン」では乗客全員が共に食事を楽しむことができるように


1号車が最後部になる場合は流れゆく車窓が、最前部になる場合は機関車の勇姿を見ることができる

続いて、これまでダイニングカー「木星」として食事などを楽しむ場所だった2号車は今回のリニューアルで「サロン」として生まれ変わり、車内の一部には一畳半とコンパクトながらも本格的な立礼式の茶室も誕生。
「まさに線路上の茶室という存在で、ここで列車のリズムに身を委ねながらふと目を閉じると、森羅万象、九州の四季、自然などさまざまな感情が去来する」と水戸岡氏も納得の空間に仕上がっているとのこと。「サロン」は乗客同士の語らいの場として利用できるほか、車内アクティビティなども実施されます。


車両間に備えられたギャラリーには、職人が手がけた工芸品が飾られている

憩いのスペースとして生まれ変わったサロンカー「木星」。セルフで楽しめるドリンクなども備える


新設された「茶室」。クルーが点てた茶をいただける

「ギャラリーショップ」「KAZ BAR」は乗客だけのお楽しみ

そして、今回のリニューアルにより3号車には新たな2つの設備が登場しました。

まず1つ目は、「ギャラリーショップ」
ななつ星in九州のオリジナルグッズやビーフシチュー、カレーなどのカジュアルな商品から、アクセサリーなどさまざまな品がラインナップ。店内にも九州各地の工芸品があり、それらを見学しながらショッピングが楽しめます。


3号車に新設されたギャラリーショップ「SHOP nana」

カジュアルなグッズから真珠まで様々な商品を取り揃える

もう一つは「KAZ BAR」という名の、シークレットバーが登場。その全容は「秘密」で、今回の取材でも窓の外から少しだけ見ることしか叶いませんでした。たった4席ながら「世界のどんな一流ホテルのBARにも負けない」とのことで、その空間は乗客の中でもこのバーを利用した人しか知り得ない、ななつ星 in 九州の新しい「とっておき」にもなっているようです。


「ななつ星in九州」の隠れ家的BARとして誕生した「KAZ BAR」

その全容を知り得るのは利用した乗客のみ…


車内の至ることに美しい意匠が散りばめられている

「ななつ星バス」もこだわりのリニューアル

また「ななつ星in九州」に随行して走り、下車観光などに使用されている「ななつ星バス」の新しくリニューアル。
車内のシートには2022年9月23日に開業した西九州新幹線「かもめ」の1号車と同じシートパブリックを使用。これは「同じ年に誕生した2つの車両を関連させたかったから」という水戸岡氏のコンセプトがあります。新しいななつ星バスも車両同様に乗車定員がこれまでの32名から28名に減らし、その分シートピッチが広くとられています。


従来車(左)からバトンを受け継いだ新「ななつ星バス」。ナンバーにもご注目!


さすがななつ星のバス。車内もこだわりのデザイン

車両後方には化粧室もある

世界に通用する魅力を持つ「ななつ星 in 九州」

「ななつ星in九州」第2章のスタートに際し、水戸岡氏はこの列車に対しての思いを話しました。

「今回のリニューアル以外にもよく話すことがあるのですが、『ななつ星in九州』はJR九州の物ではないと度々話すんです。この列車はこれまでご乗車いただいた皆さまからのお預かりしているものなんですよね。ななつ星はいつの間にか九州だけでなく、その魅力は世界まで届くようになりました。当時みんなで必死に作った車両を再び必死にリニューアルし、よりグレードアップして世界に通用する魅力を新たに作り出せたと思っています」


「ななつ星in九州」のクルー。ここにしかない世界に誇る列車旅を演出する

単に贅を尽くした旅ではなく、「豊かさ」とはなにか。そんな自身への探求の旅路でもある、ななつ星in九州でのひととき。
ついに始まった第2章には、どんな物語が待っているのでしょうか。



著者紹介

村上 悠太

1987年鉄道発祥の地新橋生まれ、JRと同い年の鉄道写真家。
「鉄道ダイヤ情報」(交通新聞社発行)では「ユータアニキ」としてあらゆる現場で鉄道を支える「鉄道HERO」たちの取材を続ける。元々旅好きから写真を始めたので、乗り物に乗って旅をしながら写真を撮るのが大好き。

Twitter:https://twitter.com/yuta_murakami
Instagram:https://www.instagram.com/yuta_murakami/

  • 取材・撮影・文=村上悠太
  • 掲載されているデータは取材時(2022年10月)のものです。
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