トレたび JRグループ協力

2023.06.14鉄道指宿枕崎線(JR九州)JR最南端を走る南国情緒溢れる路線

日本最北端から繋がる約3099.5kmのレールの先・指宿枕崎線

日本全国津々浦々を繋ぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、様々な歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用する馴染みのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は、本土最南端の始発・終着駅「枕崎駅」を有する指宿枕崎線(JR九州)をご紹介します。

指宿枕崎線の歴史

薩摩半島の東側をぐるりとまわるローカル線

薩摩半島の東側を、海岸線に沿って忠実に走るローカル線が、JR九州の指宿枕崎線です。
JRグループとしては日本最南端を走る路線で、途中の西大山駅は、JR最南端の駅。鹿児島中央~枕崎間の87.8kmを、2時間半あまりかけて気動車が結んでおり、鹿児島湾と桜島、石油コンビナートに開聞岳と、多彩な車窓風景を楽しめるローカル線です。


錦江湾が車窓いっぱいに広がる海岸沿いは見逃せない(写真=栗原景)

指宿枕崎線は、意外に新しい路線です。
その歴史は、1930(昭和5)年に西鹿児島(現・鹿児島中央)~五位野間が開業した指宿線に始まりますが、山川駅まで延伸したところで戦争により建設がストップ。
枕崎駅まで全通したのは、戦後18年を経過した1963(昭和38)年のことでした。この時、指宿枕崎線と改称されています。
当時は鹿児島本線伊集院駅と枕崎駅とを結ぶ南薩鉄道(後の鹿児島交通)があり、指宿枕崎線の全通によって薩摩半島を一周する鉄道が完成しました。しかし、モータリゼーションの進展と、1983(昭和58)年の豪雨被害により、鹿児島交通は1984(昭和59)年3月に廃止。内陸を走るバス路線や車・バイクなどの普及もあり、海岸に沿って遠回りをしている鉄道路線は大きく利用者を減らしています。


通勤通学、観光……多くの顔を持つ指宿枕崎線(2013年3月指宿駅にて撮影・写真=栗原景)

現在の指宿枕崎線は、区間によってさまざまな顔をもっています。
鹿児島中央~喜入間は、鹿児島市近郊の通勤路線で、20~30分間隔で運行。
喜入駅から先、指宿を経て山川までは観光路線でもあり、特急〔指宿のたまて箱〕や快速〔なのはな〕が運行されています。
山川~枕崎間は、一転して1日6往復が運行されるだけのローカル線となります。JR最南端の西大山駅があるのもこの区間。国鉄世代の車両が今も使用されており、懐かしい国鉄ローカル線の旅を満喫できます。

指宿枕崎線の見どころ

竜宮伝説をモチーフにした観光特急で錦江湾の景色を楽しむ

鹿児島中央駅から、指宿枕崎線の旅に出ましょう。


豪華なデザインはもちろん、仕掛け満載な〔指宿のたまて箱〕で指宿枕崎線の旅はさらにワクワク!

指宿のたまて箱〕は、1日3往復運行されている全車指定席の観光特急。指宿が伝説発祥の地ともいわれる、浦島太郎の「竜宮伝説」をモチーフとした列車です。
駅で扉が開くと、浦島太郎がたまて箱を開けた時に出てきた白い煙をイメージして、車体からミストが噴射されます。もちろん、これを浴びてもおじいさんおばあさんになってしまうことはありませんのでご心配なく。これから始まる、旅の世界を楽しく演出してくれます。
車両は、水戸岡鋭治さんのドーンデザイン研究所がデザインを担当しており、窓を向いたカウンター座席からは海の景色をたっぷりと楽しめます。


指宿のたまて箱―乗ろうとしたらプシュー!白い煙が…!?内装や車内販売も解説(THE列車)

鹿児島中央駅と指宿温泉の玄関口となる指宿駅を結ぶ、まさに玉手箱のような美しさを備えた特急列車を解説します!  ▶▶

快速〔なのはな〕をはじめ、鹿児島中央~山川間の列車には、1992(平成4)年春から指宿枕崎線に投入されたキハ200形が使用されています。沿線に咲く菜の花をイメージしたイエローの車体が印象的ですが、現在使用中の18両のうち実に14両がオールロングシートなのが惜しいところ。
時間と予算が許せば、〔指宿のたまて箱〕に乗車したいところです。


鹿児島車両センター所属の「キハ200形」の多くがイエローの塗装に。JR九州を走る様々なカラーリングのキハ200系も楽しめます

さて、鹿児島中央駅を発車した列車は、しばらく市街地を進みます。市街地の向こうには、立派な桜島。南鹿児島駅付近からは鹿児島市電の線路が近づき、運が良ければ市電と並走することもあります。


鹿児島湾沿いを走る指宿枕崎線では車窓から桜島を望めます(写真は列車からの風景ではありません)

五位野駅を過ぎると市街地が終わり、山の斜面が海岸に近づきカーブが増えます。左手に錦江湾が間近に迫るのは、平川駅の先から。線路は海岸から15mほどの高さを通るので、抜群の眺望を楽しめます。空気が澄んだ晴れの日なら、海の向こうに大隅半島も見えるでしょう。


指宿枕崎線が走る薩摩半島から望む海の向こう側には大隈半島が見えることも(写真=栗原景)

中名駅を発車すると左前方に見える巨大なタンク群は、世界最大級の石油備蓄基地、ENEOS喜入基地。735万キロリットルもの貯油能力があり、日本の石油消費量の約2週間分をまかなえるという壮大な備蓄基地です。

喜入駅から先も列車は海岸沿いを走り、宮ケ浜駅付近まで断続的に絶景を楽しめます。宮ケ浜駅を過ぎると市街地に入り、〔指宿のたまて箱〕の終点、指宿駅に到着です。

懐かしい国鉄世代の気動車でJR最南端の西大山駅へ

指宿駅からは、ぐっとローカルムードが高まります。
枕崎駅まで直通する列車は、国鉄世代のキハ40系。国鉄が、全国の非電化区間の通勤・通学輸送を近代化するために投入した標準型、つまり全国共通で投入された車両で、極めて頑丈に作られていたこともあって、エンジンを最新型に換装したりしながら現在も各地で活躍を続けています。
座席は昔懐かしい、4人向かい合わせのボックスシートを基本とするセミクロスシート。洗練されたデザインの〔指宿のたまて箱〕もキハ40系を改造した車両ですが、ノーマルな車両にもまた魅力があります。


寝ている姿に似ている竹山。通称・スヌーピー山とも呼ばれている(写真=栗原景)

さて、列車は指宿市の先端を回り込むように右へカーブ。左に山川港の入江が現れると、山川駅に到着。多くの乗客がここで下車します。
山川駅の先にある全長1060mの山川トンネルは、JR最南端のトンネル。
最近まで「日本の鉄道最南端のトンネル」でしたが、2019年10月に開業した沖縄・ゆいレールの延伸区間にトンネルが設けられたため、日本一の座を譲りました。
トンネルを抜けると、左に見える「まんが日本昔ばなし」にでも出てきそうな形の山は竹山。犬のキャラクターのスヌーピーが寝そべっている姿に似ているとも言われます。そして、左前方に見えてくるのが、薩摩富士こと開聞岳です。


JR最南端に位置する西大山駅。「JR日本最南端の駅到着証明」の発行や幸せを運ぶ黄色のポストなど観光も楽しめます(写真=栗原景)

JR最南端の西大山駅は、山川駅から2つめ。ホームの脇に立つ「JR日本最南端の駅」碑と、畑の向こうにそびえる開聞岳は写真でお馴染みの光景ですが、やはり現地に立つと感動します。
列車本数が少ないため、なかなか下車するのが難しい西大山駅ですが、鹿児島中央駅10時02分発の普通列車に乗れば、西大山駅着11時54分、次の枕崎駅行きが13時47分発なので、滞在時間2時間弱と比較的効率良く下車できます。
また、山川駅で下車してタクシーで西大山駅を訪れ、列車に乗車する方法もあります(2500~3000円程度)。駅前には地元企業の土産物店があり、レンタサイクルで周辺を散策することもできます。

森のトンネルを抜けて終着駅へ


別名薩摩富士と呼ばれる指宿のシンボル・開聞岳。黄色の絨毯のように菜の花畑が広がる

開聞岳の秀麗な山容を見られるのは、開聞駅を経て入野駅まで。春なら、沿線に菜の花が咲き乱れます。
この先は、火山灰などが堆積してできたシラス台地を走る区間。左右に広がる畑は、多くがサツマイモと茶畑です。時折森に入ると、うっそうとした木々が窓を叩くのもこの地域ならでは。
キハ40系はちょっと前面展望を見づらいのですが、前方を眺めると、まるで森のトンネルをくぐるような景色を楽しめます。
時折左手に見える海は東シナ海。錦江湾と違って対岸に島は見えず、外海の広大さが感じられます。


JR最南端の終着駅。駅前の広場にある幸せを呼ぶ「ハートストーン」も隠されている

薩摩板敷駅を発車し、トンネルを抜けると枕崎市街に入って、終着・枕崎駅に到着。
スーパーの駐車場の片隅のようなところに位置していますが、市民の寄付によって建てられた可愛い駅舎が出迎えてくれます。

「南国のローカル線」を存分に味わわせてくれる指宿枕崎線。「砂蒸し風呂」で有名な指宿温泉で一泊すると、一層充実した旅になることでしょう。


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「東北新幹線沿線の不思議と謎」(実業之日本社)ほか。

  • 写真/交通新聞クリエイト、栗原景
  • 写真協力/公益社団法人 鹿児島県観光連盟
  • 掲載されているデータは2023年6月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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