ラベンダー畑など風光明媚な自然を満喫できるローカル線・富良野線(JR北海道)
日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。
日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?
今回はラベンダー畑など風光明媚な自然を満喫できるローカル線、富良野線をご紹介します。
富良野線の歴史
札幌と道東を初めて結んだ歴史ある鉄路
上川盆地と富良野盆地を縦断し、ラベンダー畑や十勝岳など北海道らしい車窓風景を楽しめる路線が、JR富良野線です。旭川駅と富良野駅を結ぶ、全長54.8kmの路線で、すべての列車が普通列車で運行されています。1980年代から放送されたテレビドラマの人気もあって、富良野・美瑛周辺は北海道を代表する観光地に成長し、夏休みシーズンにはトロッコ列車も運行されています。
富良野線でも運行されたジョイフルトレイン〔フラノエクスプレス〕(1994年5月撮影)
富良野線の歴史を見てみましょう。富良野線のルーツは、帯広・釧路・網走といった都市と旭川を初めて結んだ官設鉄道十勝線で、北海道東部の開拓に大きな役割を果たしました。1899(明治32)年9月1日に、最初の区間として旭川駅〜美瑛駅間が開業。翌1900(明治33)年8月に下富良野駅(現・富良野駅)まで延伸しました。1907(明治40)年には帯広駅まで延伸、先に開通していた釧路線(現・根室本線)と合わせて、旭川駅〜帯広駅〜釧路駅間が鉄道で結ばれたのです。1912(大正元)年には、池田駅から北見を経て網走駅までの網走本線が全通し、旭川駅〜下富良野駅間は札幌と網走を結ぶルートの一部にもなりました。
1913(大正2)年11月10日に、道央と十勝をショートカットするルートとして釧路本線(現・根室本線)滝川駅〜下富良野駅間が開業すると、旭川駅〜下富良野駅間は富良野線として独立。太平洋戦争中の1942(昭和17)年4月に下富良野駅が富良野駅と改称して、ほぼ現在の姿になりました。戦後の1962(昭和37)年には、旭川駅〜富良野駅〜釧路駅間の急行〔狩勝〕が運行開始。1975(昭和50)年まで運行されました。現在はすべての列車が普通列車で、概ね1時間に1本程度設定されており、朝夕の時間帯には西中・鹿討・学田といった駅を通過する列車もあります。所要時間は1時間〜1時間20分程度で、列車の旅を楽しむのにちょうど良い規模の路線です。
富良野線の車両
夏休みシーズンは観光列車が人気
H100形
富良野線の車両は、2023年から定期列車はすべてH100形のワンマン運転で運行されています。JR東日本のGV-E400系をベースに設計された電気式気動車で、「Diesel Electric Car with MOtors」を略した「DECMO(デクモ)」の愛称で親しまれています。ディーゼルエンジンで発電した電気を使い、電車と同じモーターを回して走行する仕組みで、電車並みの加減速能力と省エネルギー性能を備えています。車内は、4人掛け・2人掛けボックスシートとロングシートを組み合わせたセミクロスシート。一部の窓は上部が内側に開くようになっていて、外の空気を取り込むことができます。
2026年に引退予定の〔富良野・美瑛ノロッコ号〕
毎年6月から9月にかけて、旭川駅・美瑛駅〜富良野駅間で1日3往復運行される観光列車が、〔富良野・美瑛ノロッコ号〕です。1970年代に製造された50系客車をオープンエアのトロッコ車両に改造し、ディーゼル機関車が牽引するトロッコ風列車で、富良野や美瑛の爽やかな風を感じながら車窓風景を楽しむことができます。列車は3両編成で、6月から8月のお盆前までは自由席が2両設定されるので普通乗車券だけで乗車可能。2025年の場合、8月11日までは毎日運転。8月16日からは週末を中心とした運転となり、全席指定となります(指定席料金840円)。
なお、〔富良野・美瑛ノロッコ号〕は、車両の老朽化により2026年度での運行終了が発表されており、「スタートレイン計画」として新たな観光列車が投入される予定です。新しい観光列車は「赤い星」と「青い星」の2本で、このうち「青い星」が富良野線での運行を予定しています。
富良野線で活用できるおトクなきっぷ情報
富良野線が乗り放題になる手軽なフリーきっぷも
富良野線の旅に最適な、お得なきっぷもあります。2025年11月9日までの土休日に利用できるのが、「道北一日散歩きっぷ」。富良野線を含むフリー区間の普通列車(快速等を含む)に一日乗り放題で2730円(子ども半額)。旭川駅〜富良野駅間を往復して、1カ所途中下車すればお得です。富良野線のほか、函館本線美唄駅〜旭川駅間や根室本線滝川駅〜富良野駅間なども利用できます(フリー区間の詳細はウェブサイトを確認してください)。ただし、購入は旭川駅・深川駅・永山駅の3カ所に限られ、特急券を購入しても特急列車には乗車できません。
夏休みシーズンに最適なのが、「ラベンダーフリーパス」。こちらは、旭川駅〜富良野駅〜滝川駅〜深川駅〜旭川駅間の普通列車に一日乗り放題のきっぷで、3050円(子ども半額)と「道北一日散歩きっぷ」よりも少し高いですが、道内の主要駅で購入可能で、2025年10月13日までの毎日利用できるほか、特急券を購入すれば滝川駅〜旭川駅間で特急に乗ることもできます。
富良野線の見どころ
上川盆地の住宅地をまっすぐ南下する前半
富良野線の起点は旭川駅です。線路脇に設置された距離標は富良野駅を起点とし、旭川駅に向けて数字が増えていきますが、国土交通省の鉄道要覧や時刻表などでは旭川駅を起点に富良野方面行きを「下り」としています。旭川駅は2011年に現在の4代目駅舎が完成した高架駅で、7カ所ある乗り場のうち、富良野線は1〜3番線から発車します。改札内に売店はなく、改札外、中央北口付近に駅弁や駅そばの売店があります。また、大型ショッピングモールが隣接しているので、食事や飲みものはこちらで調達するのもおすすめです。〔富良野・美瑛ノロッコ号〕も車内販売などはありませんので、乗車前に用意しておきましょう。
座席は左右どちらも車窓風景を楽しめますが、どちらかと言うと富良野に向かって左側がおすすめです。大雪山や十勝岳といった山々も見えるからです。もっとも、右側でも富良野線らしい景色は楽しめますし、特に〔富良野・美瑛ノロッコ号〕ならどこに座っても存分に楽しめるでしょう。
旭川駅を発車した列車は、すぐに右にカーブして宗谷本線・石北本線と別れ、忠別川を渡って南へ向かいます。しばらくは旭川市郊外の住宅地を東南東へまっすぐ走り、3つめの西御料駅を過ぎると、徐々に田園風景が広がるのどかな景色となります。晴れた日なら、左手に大雪山系が見えます。
旭川空港最寄り駅でもある千代ケ岡駅
千代ケ岡駅は、田畑に囲まれた小さな集落にある無人駅ですが、実は旭川空港のターミナルから4kmほどの位置にある空港最寄り駅。富良野線の車窓風景は千代ケ岡駅からが本番なので、旭川空港からタクシーを利用し、ここから富良野線の旅を始めるのもよいでしょう。
美しい丘陵地が広がる美瑛駅〜美馬牛駅間
千代ケ岡駅を発車すると、広大な上川盆地と別れ、列車は美馬牛に向けて峠をのぼりはじめます。北美瑛駅からは25‰(1000m水平に進むごとに25mの高低差)前後の急勾配が始まり、カーブも増えます。
美瑛駅〜美馬牛駅間は、富良野線のハイライトとも言える区間です。列車は丘陵地帯に入り、防雪林の間を徐々に高度を上げていくと、樹木の間からなだらかな美瑛の丘が姿を現します。〔富良野・美瑛ノロッコ号〕なら、速度を落として風景をたっぷり楽しませてくれる区間です。普通列車なら、運転席後ろからの前面展望もおすすめ。美瑛駅から4kmほどの地点(富良野起点25.7km付近)には、25‰のくだり勾配から25‰ののぼり勾配に変わる地点があり、レイルファンから「富良野線のすり鉢」と呼ばれています。体感するほどのくだり勾配から、一気にのぼり勾配に変わる様子は、富良野線のハイライトのひとつです。
最大28.6‰という急勾配をのぼった頂上が、美馬牛駅。ここからは曲線の多いくだり勾配となり、防雪林と畑を交互に眺めながら富良野盆地に降りていきます。上富良野駅の手前からは富良野駅に向かって左手に十勝岳連峰が現れ、日によっては噴煙を上げている勇壮な姿を見られます。
途中下車してラベンダー畑を見に行くのも楽しい
列車は広々とした富良野盆地を南西に向かいます。ラベンダーで知られるのはこのあたり。西中駅〜中富良野駅間には、〔富良野・美瑛ノロッコ号〕だけが停車する「ラベンダー畑駅(臨)」があります。ただし、ラベンダー畑は線路沿いにはありません。富良野駅に向かって右手、富良野川を隔てた丘陵地に点在します。毎年7月には紫の絨毯のような畑を車窓から楽しむことができます。ラベンダー畑駅(臨)からは、有名な観光農場も徒歩圏内です。
中富良野駅からも、列車は畑の中をまっすぐ南西に進みます。学田駅を発車すると左にカーブし、富良野川を渡って右から根室本線が合流。市街地に入って富良野駅に到着します。
北海道らしいのどかな景色を、ちょうどよい時間で楽しめる富良野線は、北海道の開拓史を語りつぐ歴史的な鉄道路線でもあります。普通列車とトロッコ列車、どちらも楽しめるので、北海道を訪れたらぜひ一度乗ってみてください。
富良野線(JR北海道) データ
起点 : 旭川駅
終点 : 富良野駅
駅数 : 18駅
路線距離 : 54.8km
開業 : 1899(明治32)年9月1日
使用車両 : H100形、DE15形、510形
著者紹介
- ※写真/交通新聞クリエイト、フリー素材ぱくたそ
- ※掲載されているデータは2025年6月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。