トレたび JRグループ協力

2023.07.12鉄道石北本線(JR北海道)オホーツクへと繋がる秘境路線

各所に鉄道遺産が遺るローカル線・石北本線

日本全国津々浦々を繋ぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、様々な歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用する馴染みのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は、様々な歴史とともに道央と道東を繋ぐ石北本線(JR北海道)をご紹介します。

石北本線の歴史

険しい峠に阻まれ、戦後になって本線に昇格


上川~白滝間の石北峠をキハ40形がゆっくりと越えて行く(写真=栗原景)

JR北海道の石北本線は、新旭川駅から遠軽、北見を経て網走駅に至る、全長234.0kmの路線です。
札幌などの道央と道東を結ぶ基幹路線ですが、人口が非常に少ないエリアを通るうえ高規格道路の整備も進んでいることから、近年では利用者数が落ち込み、存続が危ぶまれています。
もっとも、旅行者にとっては北海道らしい秘境を楽しめるローカル線でもあります。隣の駅まで実に37.3kmという、定期列車が運行されている在来線としては日本一駅間が長い上川~白滝間や、すべての列車が進行方向を変えるスイッチバック構造の遠軽駅、建設時に多くの犠牲者を出した常紋トンネルに、全国的にも珍しい都市トンネルの北見トンネルなど、数多くの見どころが詰まっています。


507mの建設に3年を要した常紋トンネル(写真=栗原景)

石北本線は、現在の姿になるまでに複雑な歴史を歩んできました。最初に開通したのは北見~網走間です。現在の根室本線池田駅から網走に至る「網走本線」の一部として建設され、1912(大正元)年に開通しました。山岳地帯を徹底的に避け、旭川~富良野~池田~野付牛(現在の北見)~網走というルートで、道央と網走が初めて鉄道で結ばれました。
遠軽~北見間は、大正時代に軌間762mmの「湧別軽便線」として建設された区間です。1915(大正4)年に遠軽まで開業すると、翌年には現在の在来線と同じ1067mmに改軌されて湧別線となり、名寄から建設された名寄本線と接続されて、旭川~名寄~中湧別~遠軽~網走というルートが完成しました。

そして1932(昭和7)年、石北トンネルが開通して新旭川~遠軽間が全通。現在の石北本線のルートが完成しました。もっとも、その後も網走本線の名称は残され、新旭川~遠軽~北見~網走間が「石北本線」となったのは、戦後の1961(昭和36)年4月1日のこと。この時、網走本線池田~北見間は池北線となり、第三セクター鉄道の「ちほく高原鉄道ふるさと銀河線」を経て、2006(平成18)年に廃止されています。

石北本線の見どころ

本数は少なくても多彩な車両が使用されている


特急〔大雪〕は2023年にキハ283系へ統一。旭川~網走間を平均4分短縮した(上川駅/写真=栗原景)

石北本線の起点は新旭川駅ですが、列車は宗谷本線に乗り入れて、旭川駅(あるいは札幌駅)から発着します。
石北本線の特急列車は、札幌~網走間の〔オホーツク〕と旭川~網走間の〔大雪〕がそれぞれ2往復設定されています。このうち〔大雪〕は、乗客の少ない時期は運行を休止するので注意が必要です。
車両はどちらも、キハ283系を使用。1995(平成7)年に根室本線の特急〔スーパーおおぞら〕用として登場した気動車で、曲線区間を高速に通過する振子機構を備え、当時は最高速度130km/hを誇りました。2022年3月にいったん定期運用から退いた後、1年後の2023年3月から、引退したキハ183系の後継として〔オホーツク〕〔大雪〕に充当。現在は最高速度を110km/hとし、振子機構も停止した状態で運用されています。


JR北海道唯一の「特別快速」である特快〔きたみ〕(旭川駅/写真=栗原景)

旭川~北見間で1日1往復運行されているのが、乗車券だけで利用できる特快〔きたみ〕です。1990年代に開発されたキハ150形を使用し、特急で約3時間かかる旭川~北見間を3時間20分ほどで結んでいます。
旭川駅から発着する普通列車は、原則としてJR東日本のGV-E400系と共通設計の最新型気動車、H100形が使われています。キハ150形もH100形もクロスシートを備え、車窓風景をたっぷり楽しめます。

さて、旭川駅を発車した列車はしばらく市街地の高架線を走り、新旭川駅から石北本線に入ります。上川駅までは上川盆地の畑の中を淡々と走り、天気がよければ右手や正面に旭岳をはじめとする大雪山系が美しい姿を見せます。

各駅停車は1日1往復! 全国屈指の秘境区間を行く


上川・白滝間はまさに秘境。ゆったりと車窓を楽しみたい(写真=栗原景)

上川~白滝間は、一駅で37.3kmもの距離がある石北峠越えの区間。かつては、途中に天幕・中越・上越・奥白滝・上白滝と5つの駅がありましたが、周辺がほぼ無人地帯となったことから、2016(平成28)年までに廃止または信号場に格下げとなりました。
この区間は、特急と快速を除くと普通列車が1日1往復しか運行されていません。ただし、前後の接続はよく、札幌を朝出発すれば乗車できます。車両は、キハ40形1700番代。国鉄時代の昭和50年代に製造された車両で、昔ながらの4人掛けボックスシートで窓を開けることもできます。青春18きっぷのシーズン以外は空いているので、ゆったりとした旅を楽しめるでしょう。


標高634mに位置する上越信号場。1975(昭和50)年に旅客扱いを廃止し、信号場となった(写真=栗原景)

廃止された途中駅のうち、中越・上越・奥白滝の3駅は、列車行き違いのための信号場として残されています。旅客駅時代の駅舎が残され、今も駅の面影を感じられます。
中越信号場を通過すると、25‰(1000m進むごとに25mの高低差)の急勾配が始まり、キハ40形の普通列車は30km/h前後まで速度を落として登っていきます。車窓から見える景色は、道路以外は留辺志部川の源流と原生林ばかり。「石狩北見国境標高六三四米上越駅」の看板を掲げた上越信号場を過ぎると、4329mの石北トンネルに入ります。トンネル内で峠の頂点を越えると、列車はスピードを上げて峠を下っていきます。上川~白滝間の所要時間は51分(下りの場合)。
列車だからこそ手軽に"探検"できる、秘境の旅です。

スイッチバックの遠軽から悲劇の常紋峠越えへ


かつては左奥へ中湧別・紋別方面の名寄本線が伸びていた遠軽駅(写真=栗原景)

新旭川から120.8km、石北本線のほぼ中間地点に位置する遠軽駅は、全国的にも珍しいスイッチバックの駅です。名寄~中湧別~遠軽~北見というルートが先に開業し、あとから旭川からの線路が接続したため、地形の関係上スイッチバックする線形しか選択できなかったのです。


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上川からの普通列車で遠軽駅に到着すると、やはり1日1本だけの旭川行き上り普通列車と交換します。こちらも原則としてキハ40形で、網走発遠軽行き普通列車が、そのまま遠軽発旭川行きとなります。ですから、この上り列車は事実上石北本線全線を走破する唯一の各駅停車なのです。ただし、車両整備の都合上、乗客はいったん荷物を持って待合室で待つきまりです。
遠軽駅を出発すると、生田原駅から再び登り勾配に入り、常紋峠越えに向かいます。細かいカーブを蛇行しながら急勾配を登り、全長507mの常紋トンネルへ。明治末期から大正にかけての建設時には、劣悪な労働環境で多数の犠牲者を出した悲劇のトンネルです。麓の金華信号場(2016年に駅から格下げ)の近くには常紋トンネル工事殉難者追悼碑があります。

北見市街をトンネルで通過し網走へ

石北本線沿線随一の大都市である北見には、珍しい鉄道トンネルがあります。
北見駅の南にある全長2100mの北見トンネルがそれで、鉄道による交通渋滞や地域分断を解消するための連続立体化事業として、1977(昭和52)年に開通しました。地方都市で高架化ではなく地下化が選択されるのは珍しく、両側の出口付近でトンネル躯体が地上に露出しています。地下のトンネルなのに、その上をまたぐ市道が一部陸橋になっているのもユニークです。


真上が公園になっている北見トンネル。後方にトンネルをまたぐ陸橋が見える (写真=栗原景)

北見~網走間は、石北本線で最も早く開業した区間。普通列車は、キハ40形のほかJR北海道発足直前に導入されたキハ54形も使用されています。古い路線は細かいカーブが多く、美幌からは網走川が作った河岸段丘の麓を北上。
女満別駅を過ぎると、左に網走湖を見て網走市内へ入っていきます。終着・網走駅からは、オホーツク海に沿って走る釧網本線に接続します。

20世紀初頭に、先人たちが大きな犠牲を払って建設した石北本線。
現在は自動車に押されて厳しい状況にありますが、列車の接続もよく、手軽に鉄道旅の魅力を満喫できる路線です。


遠軽の瞰望岩(がんぼういわ)からはスイッチバックの様子がよく見える(写真=栗原景)


もっと石北本線を知りたいなら! 鉄道ダイヤ情報 2023年8月号

鉄道ダイヤ情報 2023年8月号の巻頭特集は「行こうよ北海道2023」。
多彩な車両が走る石北本線を深堀して、「北海道の鉄道史」に触れる旅をしませんか?

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著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「東北新幹線沿線の不思議と謎」(実業之日本社)ほか。

  • 写真/栗原景、交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2023年7月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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