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2024.03.15鉄道伯備線(JR西日本)山陽と山陰の絶景を堪能する特急街道

幹線でもあり、ローカル線でもある路線・伯備線(JR西日本)

日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は、東京から出雲市までを結ぶ日本唯一の定期寝台列車〔サンライズ出雲〕や、山陽本線と山陰本線を結ぶ特急〔やくも〕など特急が走り、中国地方を横断する路線・伯備線(JR西日本)をご紹介します。

伯備線の歴史

中国山地のローカル線から大幹線に昇格


新見駅~布原信号所間の西川橋梁を走るD51三重連(1971年3月撮影)

深い峡谷の川沿いを走る風光明媚なローカル線であると同時に、新幹線と連携して大都市を直結する幹線でもある。JR西日本の伯備線は、そんな2つの顔をもつ路線です。
岡山県の倉敷駅から、新見駅を経て鳥取県の伯耆大山(ほうきだいせん)駅までを結ぶ、全長138.4kmの路線。現在は振り子式電車や国内唯一の定期寝台特急が走り、古くは蒸気機関車の三重連が見られた、レイルファンに人気の路線でもあります。

伯備線は、明治時代に米子と岡山を結ぶ鉄道として構想され、大正時代に建設された路線です。
全通は1928(昭和3)年10月25日。ローカル線規格の「丙線」として設計されたため、急勾配や急曲線が多い路線となりましたが、山陽地方と山陰地方を結ぶ陰陽連絡路線として重要な役割を果たします。
1958(昭和33)年10月には、陰陽連絡路線初の急行列車である〔だいせん〕が京都〜岡山〜米子〜大社駅(廃止)間で運行を開始。倉敷〜米子駅間の所要時間は3時間20分でした。


伯備線電化前はキハ181系気動車が〔やくも〕として活躍した(1972年6月布原信号所付近にて撮影)

伯備線の運命が大きく変わるのは、1972(昭和47)年3月15日の山陽新幹線岡山開業です。
新幹線と連携して、首都圏や京阪神と山陰地方を最速で結ぶルートとして注目され、一部複線化・新線切替などの改良が施されて岡山〜出雲市駅・益田駅間に特急〔やくも〕4往復が登場。倉敷〜米子駅間を2時間21分で結び、新幹線と連携して東京〜米子間では最速7時間1分と2時間以上も縮めたのです。

1982(昭和57)年11月には待望の電化が完成。曲線区間を高速で走行可能な振り子式電車の381系が投入されて、倉敷〜米子駅間は最速2時間3分となりました。
1998(平成10)年7月にはJR東海とJR西日本が、寝台特急〔出雲〕の1往復に285系寝台電車が投入されて伯備線経由の〔サンライズ出雲〕となり、今では国内唯一の定期寝台特急として毎日伯備線を走り続けています。

伯備線の車両

新型振り子電車273系をはじめ多彩な車両に乗車できる

現在の伯備線は、中国地方随一の特急街道です。
岡山〜出雲市間で1日15往復運行されている特急〔やくも〕は、2024年4月に42年ぶりの新型車両、273系が投入。
先代の381系が世界で初めて搭載した振り子装置は、車両に搭載されたジャイロセンサーと路線データベースが列車の位置とカーブの状況を正確に把握する「車上型制御付自然振り子方式」に進化しました。
これにより、不自然な傾きから生じる乗りもの酔いを測定値で23%改善しています。明るい客室は、全席に可動式枕やコンセントが設置され、普通車の座席間隔は新幹線並みに拡大されました。
倉敷〜米子駅間の所要時間は最速1時間55分。出雲市駅発は早朝4時台から運行され、新幹線に乗り継ぎ午前中に東京に着くことができます。


左は381系の特急〔やくも〕、右には寝台特急〔サンライズ出雲〕(2022年6月栗原景撮影)

朝夕に1往復運行されているのが、寝台特急〔サンライズ出雲〕。
JR西日本とJR東海が共同開発した285系特急型電車を使用し、「シングルデラックス」や「シングル」など、個室寝台の旅を楽しめます。座席扱いの桟敷席「ノビノビ座席」やシャワールームを備えているのも魅力で、夏季の下り列車は伯備線の車窓風景をたっぷり楽しめます。
このほか、ここ数年は春から夏にかけて、JR西日本の観光列車〔WEST EXPRESS 銀河〕(117系7000番代)も山陰コースとして伯備線を運行しています。


伯備線はほかの路線には少ない夜の鉄道旅を楽しむことができる(2020年3月新見~石蟹駅間撮影)

普通列車は、113系、115系、213系、227系が活躍中。主力は、全区間で使用される国鉄型の115系と、2023年から倉敷〜新見間に投入された227系です。
115系は国鉄が寒冷地や山岳路線向けに投入した電車で、改造と延命工事を繰り返し、多くの車両が転換クロスシートを装備しています。中間車に後から運転台を付けたクモハ113形1000番代やクモハ115形のようなユニークな車両も健在。
2015年に広島地区を皮切りに各地に導入されている227系は、岡山の桃・福山のバラ・尾道の桜など沿線の花をイメージしたピンクのシンボルカラーをまとう500番代で、「Urara(うらら)」の愛称があります。
このほか、一部区間では最古参の113系や、213系といった車両も使われています。


227系(JR西日本) 高い安全性と居住性を備える地方都市圏の新顔

広島・和歌山地区に導入された初めての「最新型」車両
行き届いた高い安全性を備え、長年国鉄型電車が走ってきた地方都市圏に新しい旅客サービスを提供します。

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伯備線の見どころ

井倉峡の絶景を車窓から楽しむ

伯備線の起点は倉敷駅ですが、倉敷駅を通る列車はすべて岡山駅から発着します。
倉敷〜備中高梁(びっちゅうたかはし)駅間は、1973(昭和48)年までに複線化された区間。旧線の隣に線路を追加したというよりは、別ルートでもう1本線路を敷いたところが多く、下りと上りで大きく景色が異なります。新線は主に上りが使用しており、トンネルが多いので、車窓を楽しむなら下り列車がおすすめ。左右どちらの席も楽しめますが、新見駅までは米子駅に向かって左側の方が川を長く眺められます。


未修正 大きな窓が印象的な倉敷駅舎(2016年11月撮影)

清音〜総社駅間は、伯備線には珍しい、平野をまっすぐ走る直線区間で、〔やくも〕は120km/h近い最高速度で走ります。
豪渓駅から高梁川の左岸に出ます。高梁川がぐっと近づいてくるのは、美袋駅を過ぎたあたりから。備中高梁駅からは単線となり、備中松山城の麓を通って木野山駅を過ぎると、いよいよ急カーブが増えてきます。

方谷〜井倉駅間が、伯備線前半のハイライト。沿線にほとんど民家のない、深く狭い峡谷に入ります。列車の交換設備である広石信号場を過ぎると、右手には断崖絶壁。この辺りは石灰石の台地を高梁川が削ったカルスト地形で、井倉峡と呼ばれる景勝地が約8kmにわたって続きます。
井倉〜石蟹駅間は、1982年の電化に際して新線に切り替えられた直線区間。石蟹を過ぎると市街地に入り、右から姫新線が合流して山間のジャンクション・新見駅に到着です。


高梁川に寄り添うように知る伯備線(2022年6月栗原景・備中川面~方谷駅間にて撮影)

伯備線の列車が停まらないユニークな駅・布原

新見からはいっそう険しい山岳区間に入ります。高梁川に代わり、その支流である西川に沿って、25‰(1000m水平に進んで25mの高低差)という急勾配と、R300(曲線半径/単位はm)の急曲線が連続するのです。
次の布原駅は、伯備線の駅であるにもかかわらず、伯備線の列車が1本も停車しない珍しい駅。備後落合駅方面の芸備線の列車だけが停車します。
ここは、かつてはD51形蒸気機関車の三重連が見られたスポットとして多くの撮影者が集まったところでもあります。


山間にある布原駅で降りるには芸備線へ乗り換えを(2012年8月栗原景撮影)

備中神代駅で芸備線と分かれると、列車は岡山・鳥取県境の谷田峠(たんだだわ)へ。右に左に蛇行する線路を、振り子電車の〔やくも〕は80km/h前後のスピードで駆け抜けます。同じ特急でも、振り子を持たない285系〔サンライズ出雲〕は60km/h台。乗り比べると、体感スピードも明らかに違います。

25‰の急勾配をどんどんのぼり、谷がだんだん狭くなってきます。新郷駅を過ぎて、最後は県道と重なるように全長1146mの谷田峠トンネルへ。トンネル内で伯備線の最高地点(標高473.6m)を越えると、鳥取県に入って下り25‰勾配となります。外に出ると、すぐに視界が広がって上石見駅着。鳥取県側は、岡山県側のような狭い峡谷は少なく、山間に田んぼが広がる里山風景の中を走ります。


鳥取県に入った上菅~黒坂駅間はゆるやかな里山風景が広がる(2022年6月栗原景撮影)

生山駅からは勾配も緩くなり、江尾駅を過ぎると急カーブも減って平野が近づいたことを感じます。伯耆溝口駅まで来れば、周囲はすっかり米子平野の田園風景。車窓右手に大山が立派な姿を見せるのもこの辺りから。次第に市街地に入り、工業団地の横を大きく左にカーブすると山陰本線と合流して、終着・伯耆大山駅に到着。列車は、すべて2駅先の米子駅まで直通します。

特急街道でありながら、ローカル線らしい雰囲気も存分に楽しめ、沿線に備中松山城や井倉峡などの見どころも多い魅力たっぷりの伯備線。2024年6月までは、新型の273系と引退する381系双方に乗車することが可能です。この春は、伯備線の旅に出かけてはいかがですか。


未修正 2024年春から新車両の〔やくも〕が走行開始! 新たな伯備線の旅を楽しみたい(2023年10月撮影)


伯備線(JR西日本) データ

起点   : 倉敷駅
終点   : 伯耆大山駅
駅数   : 28駅
路線距離 : 138.4km
開業   : 1919(大正8)年8月10日
全通   : 1928(大正17)年 10月25日
使用車両 : 113系、115系、117系700番代、213系、227系、285系、381系、273系


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「国鉄時代の貨物列車を知ろう」(実業之日本社)ほか。

  • 写真/栗原景、交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2024年3月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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