沿線のストーリーを感じながらゆったり楽しむ観光列車
2024年4月26日にデビューした、JR九州のD&S列車「かんぱち・いちろく」。
この列車が走るゆふ高原線(久大本線)の全通に尽力した麻生観八・衞藤一六両氏の名をかかげながら、由布院を経由して博多と別府を結んでいます。
今回は「かんぱち・いちろく」の魅力を、鉄道写真家・村上悠太が実乗レポートとともにお伝えします!
特急「かんぱち・いちろく」はどこを走る? 乗り方は?
「かんぱち・いちろく」は主にゆふ高原線を経由して、木曜日を除く毎週6日運行が基本。
特徴的なのが、1日ごとに片道ずつ運行されるという点で、月・水・土曜が博多発大分・別府行の特急「かんぱち」号として運行し、火・金・日曜は特急「いちろく」号として、逆ルートの別府・大分発博多行として運行します。
それもそのはず、この列車は博多〜別府間を約5時間かけて、沿線の魅力を五感で感じながら旅をするのが大きな魅力のひとつのため、このようなスタイルがとられています。車内では福岡・大分両県の魅力が詰まったお弁当タイプの食事がいただけます。こちらは曜日ごとにお店も内容もがらりと違うものが提供されています。
「かんぱち」・「いちろく」ともに全席指定で乗車には事前予約が必要。予約は公式Webサイト(https://www.jrkyushu-kanpachiichiroku.jp)で行い、乗車5日前まで可能です。
なお、乗車駅・降車駅は以下のとおりです。
特急「かんぱち」
乗車:博多
降車:由布院・大分・別府から選択
特急「いちろく」
乗車:別府・大分・由布院から選択
降車:久留米・博多から選択
すべてのプランは食事付きで、座席のみの販売はありません。
特急「かんぱち」に実際に乗ってみた!
今回乗車したのは、博多発別府行の特急「かんぱち」号。多くの列車が発着する博多駅の中でも一際目を惹くブラックボディーと、ゆふ高原線の線形と駅名がデザインされたゴールドのラインがアクセントになっています。
1・3号車が客室、2号車は「ラウンジ杉」
3両編成の車内は1・3号車が客室スペースになっており、それぞれ意匠が異なっています。
1号車は大分・別府エリアの風土をモチーフにし、火山や温泉を想起させる赤を基調とした、進行方向を向く大型のソファ席が並びます。
3号車は福岡・久留米エリアの風土をモチーフにした青をベースにした落ち着いたデザイン。こちらは適度なプライベート感を演出してくれる、半個室型のBOX席が並びます。
そして、1・3号車ともに車端部に4名以上6名まで利用可能な畳個室が備わり、靴をぬいでよりゆったりと車内の時間を過ごすことができます。
2号車はこの列車の最大の特徴である、1両全体がフリースペースというラグジュアリーな「ラウンジ杉」。
由布院・日田エリアの風土をモチーフにデザインされ、その名の通り、ラウンジ中央には樹齢約250年の杉の一枚板カウンターを備えています。こちらはビュッフェを兼ねているため、沿線のお土産やドリンク、軽食などを購入することができます。
ここでしか食べられないお弁当!
たくさんの駅員さんからのお見送りを受けて特急「かんぱち」は一路、ゆふ高原線を目指します。
博多駅出発は12時19分とちょうどランチタイム。この日は水曜日だったので福岡の味竹林(あじ たけばやし)の「福岡・大分の春を感じるコース仕立てのお弁当」(和食)が提供されました。特製の2重箱を開けると、彩りも鮮やかな旬の味覚が詰まっています!
お弁当、というと少しフレッシュ感がないようにも感じるかもしれませんが、そんなことはなく、メニューの中には新鮮なお刺身も。温かい汁物をあわせていただけるのも嬉しいポイントです。
ちなみに、「かんぱち・いちろく」では沿線ゆかりのお酒やドリンクなどを多く取り揃えているのですが、購入は2号車「ラウンジ杉」へ行く必要があります。
食事の配膳が始まると車内の移動がしづらいほか、席によっては食事用にテーブルを展開すると通路に出づらくなるので、もし飲み物が必要なら配膳前に「ラウンジ杉」で購入しておくのがおすすめです。
笑顔あふれる、沿線のおもてなし
食事をゆっくり楽しんでいると、列車は久留米からゆふ高原線に入りました。
車窓も一変して、のどかな風景へ。地域に河童伝説が残ることから駅舎自体がカッパの形をしている田主丸駅は、特急「かんぱち」の“おもてなし駅”になっています。
ホームでは地元幼稚園の元気いっぱいの子どもたちによる歓迎や、地域の特産品の販売が行われます。
田主丸駅を後にすると、山間を分け入るように走る区間となり、車窓にも緑がいっぱい!
筑後川、玖珠川沿いを走り、“ゆふ高原線”らしい情景に列車は包まれていきます。この風景を眺めながら車内に佇んでいると、この列車のデザインとストーリー(D&S)を深く感じます。
途中の恵良駅も、田主丸駅同様の“おもてなし駅”。
駅前には列車の由来となった麻生観八氏が再興した酒蔵「八鹿(やつしか)酒造」があり、この日はその酒造の旬のお酒の販売や物産品の販売、獅子舞による歓迎などが実施されました!
日本各地に観光列車が走る今、僕は列車ごとのテーマや個性、そして沿線地域とのつながりを大事にすることがとても重要だと感じているのですが、この「かんぱち・いちろく」をはじめ、「ゆふいんの森」、「或る列車」、そして「ななつ星in九州」と数々の列車が走行してきた伝統を重ねてきたゆふ高原線は、ほかの路線とはちょっとちがう「鉄道と地域の強い絆」を、乗車中至る所で見ることができるような気がしています。
野矢駅を過ぎ水分峠を越えると、列車は由布院に到着。窓の外には由布岳がこの新しいD&S列車を歓迎してくれています。
約5時間の乗車時間も気がつけばもうすぐフィナーレ。「ラウンジ杉」では旅の思い出を共有するイベントも開催されます。
大分を出ると、これまでの山車窓から変わって今度は別府湾の海車窓に。実は山のイメージが強い「かんぱち・いちろく」ですが、海も見られちゃうんです!
デビュー以来、大好評が続く「かんぱち・いちろく」。ゆふ高原線と福岡・大分の魅力に触れることができる、新しい列車旅が始まりました。
著者紹介
- ※取材・撮影・文=村上悠太
- ※掲載されているデータは2024年5月現在のものです。