高松駅と徳島駅、2県の県庁所在地を結ぶ路線・高徳線(JR四国)
日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。
日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?
今回は瀬戸内海や大坂峠など四国らしい風景とともに、残り少ない国鉄型車両や、特急〔うずしお〕の2600系と2700系の乗り比べも楽しめる高徳線をご紹介します。
高徳線の歴史
都市間路線とローカル線、2つの顔を持つ
昭和町駅の様子(1996年5月撮影)
都市間鉄道であると同時に、多彩な車窓風景を楽しめるローカル線でもある。そんな二面性をもつ路線が、JR四国の高徳線です。
高松駅と徳島駅という、四国東部に位置する2県の県庁所在地を結び、営業キロは74.5km。非電化ながら130km/h運転に対応し、特急〔うずしお〕がほぼ1時間ごとに運転されています。
それほど長い路線ではありませんが、峠越えや瀬戸内海、あるいは四国を代表する大河である吉野川など、バラエティ豊かな車窓風景を楽しめます。
昭和町駅に停車中のキハ40形気動車(1996年5月撮影)
現在の高徳線のうち、最初に開業したのは、1899(明治32)年2月に開業した佐古〜徳島駅間です。ただしこの区間は、現在の徳島線の前身である徳島鉄道が建設したもので、1987(昭和62)年にJRグループが発足するまでは徳島本線(現・徳島線)との二重戸籍区間でした。
実質的な高徳線の歴史は、1916(大正5)年7月に阿波電気軌道によって古川(現在は廃止)〜吉成〜池谷〜撫養(むや)駅間が開業したことに始まります。阿波電気軌道は、徳島〜鳴門駅間の鉄道建設を目指した鉄道でした。徳島は、古くから淡路島を経由して関西との結びつきが強い地域で、鳴門・撫養はその玄関となる町だったのです。さらに1923(大正12)年2月、池谷から分岐し板野を経て鍛冶屋原(現在は廃止)に至る支線も開業しました。
なお、阿波電気軌道はその名称とは異なり非電化の鉄道会社で、結局電化を果たせず1926(大正15)年に「阿波鉄道」と改称しています。
一方、高松側では1925(大正14)8月1日に高松〜志度駅間が高徳線として開業。こちらは当初から国鉄として建設されました。
1933(昭和8)年7月、阿波鉄道は国有化されて「阿波線」となり、1935(昭和10)年3月20日に残る引田〜板西(現在の板野)駅間と吉野川を渡る吉成〜佐古駅間が開業して全通。高松〜徳島駅間は「高徳本線」と改称されました。JR発足後の1988(昭和63)年6月に「高徳線」と改称され、1998(平成10)年3月に最高速度を130km/hとする高速化工事が完成。現在に至っています。
高徳線の車両
2つの車体傾斜装置を体感できる特急〔うずしお〕
高徳線の大きな使命のひとつが、高速都市間輸送です。高松~徳島駅間には特急〔うずしお〕が1日最大17本(下り)運行され、最速59分で結んでいます。同都市間には高速バスも多数運行されていますが、所要時間では〔うずしお〕の方が20分以上有利で、鉄道の特性を大いに発揮しています。
そんな〔うずしお〕に使用されている車両が、2600系及び2700系です。この2つの車両は、見た目や設備はそっくり。
2600系の車体色が、吉兆の伝統配色である「赤と金」であるのに対し、2700系にはこれに加えて香川のオリーブをイメージしたグリーンのラインを追加しています。
車内の床や座席の布地などのデザインが異なるほかは、ほとんど同じ車両に見えます。
徳島駅の2600系(2022年7月 栗原景撮影)
2600系の車内(2022年7月 栗原景撮影)
2600系と2700系の違いは、カーブを高速で通過するための車体傾斜装置にあります。2017年に登場した2600系は、予讃線の特急〔いしづち〕などで使用されている8600系電車と同じ「空気ばね式車体傾斜装置」を採用。これは、車体と台車の間にある空気ばねの空気を出し入れしてカーブで車体を最大2度傾け、遠心力を打ち消して通常車両よりも20〜30km/h速くカーブを走行する機能です。従来の振子式と比べてコストパフォーマンスに優れ、小さな傾きで効果を得られることから採用が増えています。
ところが、土讃線で行われた2600系の試験走行において、土讃線ではカーブが多すぎて車体傾斜装置に使用する空気の供給が追いつかず、十分な性能が得られない可能性があることが判明しました。そこで、2600系は量産先行車の2両編成2本だけで生産を終了、従来の「制御付き自然振子装置」を復活させた2700系が開発されました。こちらは、車体と台車の間にある専用の円すいコロが回転して車体を最大5度傾けるシステム。2600系と同様に通常車両よりも20〜30km/h高速でカーブを走行できます。2編成4両の2600系も、比較的カーブが少ない高徳線で使用されることになり、現在は2つの形式が運用されています。
徳島駅に停車中の2700系(2022年7月 栗原景撮影)
2700系の車内(2022年7月 栗原景撮影)
2600系と2700系を乗り比べると、カーブでの挙動が大きく異なります。2600系は、カーブに差しかかると空気ばねに空気を出し入れする「ジューッ」という音がして車体が傾きますが、2700系は音もせずすぅっと傾くイメージ。運転席の後ろで前を眺めると、傾く角度が異なることも観察できます。2700系の方が動きがスムーズですが、人によっては角度が小さい2600系の方が乗り心地がよいと感じるので、乗り比べてみるのもおすすめです。
なお、最高速度は2700系の130km/hに対し2600系は120km/hとなっており、最速列車は2700系で運転されています。また、2025年1月現在は1往復のみ国鉄時代に開発されたキハ185系が使用されていますが、2025年3月改正で2600系・2700系に統一されることが発表されました。
転換クロスシートの1500形が主力
吉成駅から見える勝瑞駅(2022年7月 栗原景撮影)
普通列車には、1000・1200形と1500形、そして国鉄時代から活躍を続けるキハ40系(キハ40形及びキハ47形)が使用されています。主力の1500形は2006年に登場した車両で、1両で運行できる両運転台方式。客室は転換クロスシートで、車窓風景をたっぷり楽しむことができます。2025年1月現在は34両が活躍していますが、このうち2013年に製造された2両(1566・1567)は、前面窓に斜めのラインが入るなどデザインが大きく変わっています。
一方1000形は、1990年にデビューしたJR四国第一世代の車両で、1200形は1500形との併結を可能にした改造車両。客室は、片側に4人掛けクロスシート、もう片側にロングシートが配置されています。
国鉄型のキハ40系は、主に鳴門線への直通列車に使用されています。1977(昭和52)年に登場したキハ40系は今も各地で活躍を続けていますが、JR四国の車両は国鉄時代のエンジンを今も使用している点が貴重です。
ただし、JR四国は2026年度から新型ハイブリッド車両を導入してキハ40系を置き換えることを発表しており、懐かしい国鉄型車両の鉄道旅を楽しめるのもあとわずかです。
高徳線の見どころ
香川県ならではの地形を楽しむ
高松駅から、高徳線の列車に乗って徳島へ向かいましょう。座席は、徳島に向かって左側がおすすめ。〔うずしお〕ならD席(キハ185系の高松寄りのみA席)がねらい目です。
高松駅出発からしばらくは、予讃線と並走して西に向かいます。予讃線が離れると左へぐるりとカーブして東へ。栗林駅の前後で高架線を走り、地上に下りると左手にテーブル状の小高い山、屋島が見えてきます。その名のとおり江戸時代までは島でしたが、干拓や埋め立てによって現在は地続きとなりました。2004年までは山頂までケーブルカーが運行されており、現在も駅施設や車両が保存されています。続いて左の車窓に現れる山は、五剣山(八栗山)。こちらには、四国唯一の八栗ケーブルカーが健在です。
晴れた日には瀬戸内海がきれいに見える(2022年7月 栗原景撮影)
八栗口駅を過ぎると間もなく、左手から琴電(高松琴平電気鉄道)志度線が近づき、次の讃岐牟礼駅まで国道を挟んで並走します。志度湾をちらりと見て、志度からはのぼり勾配となって丘陵地帯へ。このあたりは香川県の東讃と呼ばれる地域で、讃岐平野の東端に標高300m前後の丘陵地が点在しています。これらの多くは、大昔の火山活動によって溶岩が固まった地形。周囲に広がる平野は、後から河川が運んできた土砂が積もったものです。平たんな田園風景と小高い山が共存する風景は、こうして形成されました。
讃岐津田駅の先で左にちらりと見える松林は「津田の松原」。瀬戸内海に面して広大な松原と砂浜が広がり、白砂青松という言葉にふさわしい景色が広がっています。
三本松駅から讃岐白鳥駅にかけての地域は、香川県東部では数少ない工業地帯だったところ。国内有数の手袋の生産地としても知られています。
特急〔うずしお〕が本領を発揮する大坂峠越え
田園地帯と丘陵地、潮風がただよう海岸近くを交互に走り、讃岐相生駅からは高徳線最大の難所、大坂峠越えにかかります。25‰(1000m水平に進むごとに25mの高低差)の急勾配と、曲線半径250〜400mの急カーブが連続する区間で、のぼり勾配にさしかかると左手に瀬戸内海と松島、通念島などの無人島がよく見えます。
松島と通念島(2022年7月 栗原景撮影)
急カーブが多いこの区間は、〔うずしお〕の車体傾斜装置の働きがよくわかるところでもあります。2600系なら「ジューッ」と音がして姿勢を変える感覚を、2700系ならコロが動いてスーッと傾く感覚を体感してみましょう。
3つめの短い県境トンネルで徳島県に入り、989mともっとも長い大坂山トンネルを抜けると、くだり勾配となって阿波大宮駅。ここから4.8kmで80mも下り、次の板野駅で吉野川沿いの徳島平野に出ます。
旧吉野川に沿って東に進み、池谷駅で鳴門線と合流。線路の合流点に駅があるので、ホームはY字型に配置されており、線路に挟まれた中央に駅舎があるのがユニークです。
池谷〜吉成駅間は、阿波電気軌道が最初に開業させた区間で、駅間距離が1〜2kmと短くなります。田園風景の中を南下し、吉成駅の先で右にカーブして吉野川へ。吉野川に橋りょうを架けられなかった昭和初期までは、まっすぐ南下して吉野川のほとりに終着駅の古川駅がありました。
四国を代表する大河、吉野川にはほとんど河原がなく、全長949mの吉野川橋りょうから眺めるとその水量に圧倒されます。かつて阿波電気軌道が徳島市街への乗り入れを果たせず、国有化されてようやく架橋が実現したのも納得です。
徳島名産のレンコン畑が広がる 池谷〜勝瑞駅間(2022年7月 栗原景撮影)
吉野川に続いて鮎喰川を渡ると高架線に上がり、右から徳島線が合流して佐古駅に到着。周囲にビルが増えて、終着・徳島駅に到着します。ホームのすぐ隣に機関区があり、気動車がずらりと並ぶ様子は徳島駅ならではの風景です。
特急なら1時間あまり、普通列車でも2時間半で乗り通せる高徳線は、四国らしい風景をコンパクトに楽しめる路線です。徳島駅からは、吉野川沿いを走る徳島線、海沿いを南下する牟岐線と、個性豊かな路線が待っています。
高徳線(JR四国) データ
起点 : 高松駅
終点 : 徳島駅
駅数 : 29駅
路線距離 : 74.5km
開業 : 1899(明治32)年2月16日
全通 : 1935(昭和10)年3月20日
使用車両 : キハ40形、キハ47形、1000形、1200形、1500形、2600系、2700系、キハ185系
著者紹介
- ※写真/交通新聞クリエイト、栗原景
- ※掲載されているデータは2025年1月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。