トレたび JRグループ協力

2025.10.24鉄道外房線(JR東日本)千葉県の太平洋側を走る南国ムード満点の観光路線

首都圏各地から手軽に旅情を味わえる外房線(JR東日本)

日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は千葉県の太平洋側を走り、通勤列車・ローカル列車どちらの顔も持つ外房線をご紹介します。

外房線の歴史

内房線と双子のような存在の路線

東京駅から1時間台とは思えない、南国ムードあふれる観光路線。千葉県の千葉駅と安房鴨川駅を結ぶ外房線は、首都圏各地から手軽に旅情を味わえる、とっておきの路線です。
房総半島の太平洋側を走り、沿線には九十九里浜、御宿、勝浦、安房小湊といった観光地が多数待っています。


大網~永田間を走る急行〔そと房〕(1972年7月撮影)

外房線の歴史は、私鉄の房総鉄道が1896(明治29)年1月に蘇我〜大網間を開業したことに始まります。1カ月後には千葉駅で総武鉄道(現・総武本線)と接続し、1899(明治32)年に大原駅まで延伸。日露戦争後の1907(明治40)年に国有化されて「房総線」となりました。1913(大正2)年に勝浦駅まで開業してからはしばらく延伸が滞りましたが、1929(昭和4)年4月15日に安房鴨川駅まで全通、一足早く1925(大正14)年に安房鴨川駅まで延伸していた北条線(現・内房線)と接続して、千葉〜勝浦〜安房鴨川〜木更津〜蘇我間の全体が「房総線」となりました。そして1933(昭和8)年、安房鴨川駅を境に千葉〜勝浦〜安房鴨川間は「房総東線」、蘇我〜木更津〜安房鴨川間は「房総西線」に分離されて、現在の外房線と内房線の原型が完成します。

戦後、昭和30年代に入ると、房総半島にも優等列車が登場します。1958(昭和33)年11月、総武本線の両国駅〜銚子駅間で運行されていた準急〔犬吠〕に、房総東線安房鴨川駅行きと房総西線館山行きが併結されて、準急〔房総〕と改められました。この列車は千葉駅で分割・併合を行いましたが、乗り間違いを防ぐため、列車名の後ろに「(犬吠)」「(外房)」「(内房)」と併記されていました。これが「外房」の名称の始まりです。


安房小湊駅に停車する特急〔わかしお〕(1973年2月撮影)

ところで、この頃の房総東線(外房線)は複雑な線形が悩みの種でした。両国・新宿方面から来た準急〔房総〕は、千葉駅と大網駅で二度、進行方向を変えなくてはならなかったのです。この問題は、1963(昭和38)年に千葉駅が、1972(昭和47)年に大網駅が移転することで解消。1972(昭和47)年7月15日には蘇我〜安房鴨川間が電化され、東京駅に直通する特急〔わかしお〕の運転が始まりました。そしてこの時、房総東線は外房線に改められ、現在の姿となったのです。

外房線の車両

観光から通勤までマルチに活躍する〔わかしお〕

外房線の看板列車は、東京駅〜上総一ノ宮・勝浦・安房鴨川駅間で運行されている特急〔わかしお〕です。外房線の特急列車には観光・通勤とも根強いニーズがあり、平日は10.5往復が運行。行楽客が増える土曜・休日には新宿駅から直通する〔新宿わかしお〕も運行されます。車両は、房総特急専用のE257系500番代。東海道本線の〔踊り子〕〔湘南〕、高崎線の〔あかぎ〕〔草津・四万〕などでも使用されているE257系のバリエーションです。全列車5両編成・全車両普通車指定席で、行楽利用のほか朝晩には通勤ライナー特急としての役割も果たしています。なお、2025年10月現在、東京駅19時発の〔わかしお15号〕は、勝浦〜安房鴨川間が全車自由席の普通列車扱いとなり、乗車券だけで乗車できます。


特急〔わかしお〕(2025年栗原景撮影)

JR東日本の通勤電車の礎となった209系が現役

普通列車の車両は形式・両数ともバリエーション豊かです。横須賀線・総武快速線から上総一ノ宮駅まで直通する列車は、E235系1000番代。11両または15両編成で、普通車は全車ロングシートですが、2階建てグリーン車を2両連結しています。

蘇我駅〜上総一ノ宮駅間には京葉線から直通する列車もあり、京葉線向けのE233系5000番代と209系500番代の10両編成が使用されています。E233系は中央線快速電車や京浜東北線など首都圏の通勤電車で幅広く活躍している車両です。209系500番代は、E233系などJR東日本の通勤電車の礎を築いた形式で引退が進んでおり、2025年10月現在外房線に乗り入れるのは1編成だけ。もし乗れたらラッキーです。


大網駅付近を走行するE235系1000番代(2025年栗原景撮影)

茂原駅付近を走行するE233系5000番代(2025年栗原景撮影)

さて、外房線普通列車の主力が、209系2000・2100番代です。こちらは、JR東日本が1993年(試作車は1992年)から京浜東北線で運用した209系を転用した形式で、京浜東北線時代の10両オールロングシートから、4・6両編成の一部車両セミクロスシート・トイレ付きに改造されました。現在は6両または8両編成で、千葉駅〜安房鴨川駅間(日中は千葉駅~上総一ノ宮駅間)で運行されています。
2021年に導入された最新の車両が、上総一ノ宮駅〜安房鴨川駅間で使用されるE131系です。JR東日本が郊外・地方路線向けの標準車両として導入している形式で、房総地区で使用される0番代は2両編成のトイレ付き。座席はロングシートが中心ですが、1両に2組だけ4人掛けボックスシートも用意されています。4両編成として運転できるよう先頭部には貫通扉があり、窓が大きいので背の低いお子さんでも前面展望を楽しめるのも魅力です。なお、上総一ノ宮駅~安房鴨川駅間の列車は、日中は内房線木更津駅まで直通しています。


茂原駅に停車する209系(2025年栗原景撮影)

御宿駅に到着するE131系(2025年栗原景撮影)

もうひとつ、外房線の旅をするならチェックしたいのが、観光列車の「B.B.BASE」(209系2200番台)です。こちらはクロスバイクやロードレーサーなどの自転車を解体せず専用のラックに固定できる列車。サイクリストに大人気の列車ですが、実は自転車がなくても乗車できるのがポイント。乗車券に加えて840円の座席指定券を購入すれば乗車でき、全席クロスシートでコンセントも備えています。途中駅での乗降はほとんどないので、外房線の旅をゆったりと楽しめるのも嬉しいポイントです。「B.B.BASE」は春と秋の週末を中心に、房総各路線で運行されていますので、ウェブサイトで外房線コースの運行日を確認してください。

房総旅の強い味方!「サンキュー♥ちばフリー乗車券」

房総エリアには、期間限定ながらおトクなきっぷもあります。それが、「サンキュー♥ちばフリー乗車券」です。JR東日本の東京都区内の駅の指定席券売機で販売されるきっぷで、東京都区内の駅からの往復乗車券と、千葉県内のほぼすべてのJR・私鉄・第三セクター鉄道、さらに金谷港〜久里浜港間の東京湾フェリーまで2日間乗り放題になるきっぷで、ねだんは4790円(子ども2390円)。東京〜安房鴨川駅間の運賃は2310円ですから、往復してどこかで途中下車するだけでおトクになります。房総半島は全区間東京近郊区間に指定され、Suicaなどの交通系ICカード乗車券が使用できる反面、通常のきっぷでは途中下車ができないので、「サンキュー♥ちばフリー乗車券」は旅好きの強い味方です。もちろん、特急券を購入すれば特急にも乗車できます。現在は2025年10月30日でいったん販売が終了しますが(利用は10月31日まで)、2026年1月4日〜2月27日(利用は2月28日まで)にも販売されるので、冬の旅にもおすすめです。千葉県内発着の「サンキュー♥ちばフリーパス」(大人3970円、子ども1980円)もあります。



外房線の見どころ

七夕のイラストが描かれた茂原のガスタンク

それでは外房線の旅に出発しましょう。座席は、安房鴨川駅に向かって左側が海も見えて良いでしょう。千葉駅からしばらくは市街地を走り、右手から京葉線の高架線が合流してくるとジャンクションの蘇我駅。終着の安房鴨川駅で再会する内房線としばしの別れとなり、左にカーブした外房線はまもなく丘陵地帯に入ってのぼり勾配となります。20‰(平地を1000m進むごとに20mの高低差)という、鉄道としてはかなり急な勾配で、外房線は房総半島の背骨の横断に挑むのです。沿線には千葉市郊外の住宅地が続きますが、鎌取駅、誉田駅と駅を過ぎるごとに緑が増えていきます。

房総半島横断のサミット(頂上)は土気駅です。標高は80mほどですが、次の大網駅まで、4.8kmで70mの高低差を一気に下ります。人家が一気に少なくなり、どんどん高度を下げていくと、森の向こうに市街地が見えてきて大網駅に到着。東金線の分岐駅で、ホームY字型に配置されています。

大網駅の先で地上に降りると、そこは九十九里平野。永田駅からは左右に民家と水田が広がる中を、ほぼ一直線に進みます。


茂原のガスタンク(2025年栗原景撮影)

市街地に入り、高架線に上がって左へ大きくカーブすると茂原駅に到着。九十九里平野の中心都市である茂原市は七夕祭りで有名な町です。ヨウ素などの地下資源を産出する水溶性天然ガス田があり、化学工業都市として発展した町でもあります。駅からは、七夕のイラストが描かれたガスタンクが見え、茂原のシンボルとなっています。茂原駅からは再び九十九里平野をまっすぐ南東へ進み、一宮川を渡ると上総一ノ宮駅です。京葉線や横須賀線からの直通列車はここまで。上総一ノ宮駅からは単線の区間が増え、ローカル線の趣となります。九十九里平野もこのあたりが終端で、列車は次の東浪見駅まで房総丘陵の麓を南下し、小さな峠を越えて大原駅に向かいます。

鵜原理想郷や鯛の浦など観光スポットが目白押し


「月の砂漠記念像」(2025年栗原景撮影)

大原駅は、国鉄木原線から転換されたいすみ鉄道の分岐駅。2024年に発生した事故により2025年現在も全線不通が続いていますが、2027年度の運転再開を目指しています。

この辺りから沿線に平地が少なくなり、両側を低い山に挟まれて進みます。御宿駅は、童謡「月の沙漠」のモチーフとなったと言われる砂浜がある町で、駅から徒歩10分ほどの御宿海岸には、王子と姫がラクダに乗る「月の沙漠記念像」があります。沿線の地形はますます険しくなり、短いトンネルが連続します。房総半島南部は房総丘陵が海岸ギリギリまで張り出した地形となっているのです。


勝浦駅~鵜原駅間から見える太平洋(2025年栗原景撮影)

日本三大朝市に数えられる勝浦朝市(水曜定休)で有名な勝浦駅を過ぎると、いよいよ車窓風景に太平洋が見えてきます。ただし目の前に海岸が広がるのは一瞬で、列車はリアス式海岸の尾根を貫くトンネルが連続する区間に入って鵜原駅へ。駅から徒歩15分ほどの鵜原理想郷は、太平洋の絶景を楽しめる手軽なハイキングコースで、ダイバー気分で海中観察ができるかつうら海中公園海中展望塔も徒歩圏内。途中下車におすすめです。


おせんころがし(2025年栗原景撮影)

鵜原駅からは、海に近づいたかと思うと、房総丘陵の尾根をトンネルで抜ける車窓の繰り返しとなります。上総興津駅を過ぎると再び山間部に入り、次の停車駅は行川アイランド駅。ここはかつてあった同名のテーマパークのアクセス駅として設けられた駅で、閉園から20年以上経過した今も当時の名称のまま存続しています。駅から徒歩5分の場所には、「おせんころがし」と呼ばれる悲しい伝説の伝わる断崖があり、太平洋の荒波を一望できます。
次の安房小湊駅は、特別天然記念物に指定された鯛の生息地・鯛の浦がある内浦湾沿いの駅。安房天津駅を発車すると再び左手に海が近づき、市街地に入って終着・安房鴨川駅に到着です。シャチのパフォーマンスで知られる鴨川シーワールドへは無料のシャトルバスで約10分。太平洋を眺めながらのんびり砂浜を歩ける鴨川潮さい公園は徒歩圏内です。蘇我駅以来の再会となる内房線に入って、館山方面へ向かうのもおすすめです。
手軽に旅情を感じられる列車を楽しめ、沿線にさまざまな観光スポットが待つ外房線は、思い立ったらすぐに乗りに行ける路線です。ちょっと列車の旅をしたくなったら、出かけてみてはいかがですか。


外房線(JR東日本) データ

起点   : 千葉駅
終点   : 安房鴨川駅
駅数   : 27駅
路線距離 : 約93.3km
開業   : 1896(明治29)年1月20日
全通   : 1929(昭和4)年4月15日
使用車両 : E257系500番代、209系500番代・2000番代・2100番代・2200番代、E131系0番代、E233系5000番代、E235系1000番代


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「国鉄時代の貨物列車を知ろう」(実業之日本社)ほか。

  • 写真/栗原景,交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2025年10月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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