山と海の景色を交互に楽しめる牟岐線(JR四国)
日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。
日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?
今回は徳島県の太平洋側を走り、「阿波室戸シーサイドライン」の愛称も持つ牟岐線をご紹介します。
牟岐線の歴史
室戸岬一周を夢見た四国の右下を走る路線
緑のトンネルを抜け、太平洋の荒波をちらちらと見ながら、はるかな室戸岬を目指す……。
牟岐線は、JR四国の徳島駅と海陽町の阿波海南駅を結ぶ、全長77.8kmのローカル線です。四国の右下を走り、「阿波室戸シーサイドライン」の愛称があります。
田井ノ浜駅付近を走行する牟岐線(1975年12月撮影)
牟岐線は、室戸岬を回って徳島県と高知県とを結ぶ壮大な鉄道計画によって建設された路線です。最初に建設されたのは1913(大正2)年に開業した徳島〜中田(当時は未開業)で、徳島〜小松島間の鉄道の一部として開業しました。1916(大正5)年、中田駅が開業して阿南鉄道中田〜羽ノ浦〜古庄(廃止)間が開業。阿南鉄道は、徳島県南部の新野を目指して設立されましたが、資金不足から那賀川手前の古庄でストップ。それでも那賀川の水運と連携して賑わいました。
1922(大正11)年、改正鉄道敷設法が公布され、今後建設すべき鉄道路線として「高知県後免ヨリ安芸、徳島県日和佐ヲ経テ古庄附近ニ至ル鉄道」が規定されます。1936(昭和11)年3月、羽ノ浦〜桑野間が国鉄牟岐線として開業し、同年7月には阿南鉄道が国有化されて牟岐線に編入。太平洋戦争中の1942(昭和17)年に牟岐駅まで延伸されました。
戦後になると、牟岐〜室戸〜後免間が「国鉄阿佐線」として1959(昭和34)年から建設が始まります。そして1973(昭和48)年10月1日、牟岐〜海部間が牟岐線として開業しました。
文化の森駅に停車するキハ40形(1992年12月撮影)
ところが、この頃から国鉄の経営が急速に悪化し、残る区間の建設は中断します。
JRグループが発足すると、阿佐線未開業区間の一部が第三セクター鉄道として建設されることになり、1992年3月26日に海部〜甲浦間が阿佐海岸鉄道として開業。また高知県側でも、2002年7月1日に後免〜奈半利間が土佐くろしお鉄道阿佐西線(通称ごめん・なはり線)として開業しました。
そして、2020年11月1日、牟岐線の阿波海南駅〜海部駅間が阿佐海岸鉄道に移管され、現在の姿となりました。
牟岐線の車両
「阿佐線」ルートを体験できるフリーきっぷも
2025年11月現在、牟岐線はすべて普通列車によって運転されています。徳島駅〜阿南駅間は、徳島市及び阿南市を中心とする都市圏で通勤・通学の利用者が多く、ほぼ30分間隔の運転。阿南駅〜阿波海南駅間は2時間に1本程度の列車が設定されています。ユニークなのが、徳島バスとの連携です。運転本数が少ない阿南駅〜阿波海南駅間では、徳島バスが室戸〜阿南〜大阪間で運行している高速バスの一部に、牟岐線の乗車券で乗車できるのです。(空席がある場合に限る)
また、時間に余裕のある方なら、きっぷは「徳島・室戸・高知55フリーきっぷ」がおすすめ。このきっぷは、JR牟岐線のほか阿佐海岸鉄道(DMV室戸便は対象外)、海の駅 東洋町(甲浦)〜室戸岬〜奈半利〜安芸間の高知東部交通バス、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線、そして土讃線後免駅〜高知駅間に3日間乗り放題となるフリーきっぷで、大人5800円(こども半額)。牟岐線が目指した「阿佐線」のルートを体験できます。
国鉄型の気動車やセミクロスシート車が活躍
さて、牟岐線では現在4形式の車両が使用されています。1000形は、1992年にJR四国初の一般形気動車として登場した車両です。座席は片側に4人掛けクロスシート、反対側にロングシートを配置したセミクロスシートを配置した千鳥配置で、400psの大出力エンジンを搭載して110km/hでの運転を実現しました。また1000形の一部は、最新型である1500形と連結できるよう改造されて1200形を名乗っています。
南小松島駅に停車する1200形(2022年栗原景撮影)
現在の主力が、2006年に登場した1500形です。環境負荷の軽減やバリアフリー強化に力を入れた車両で、燃焼効率を高めて排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を大幅に削減。また、JR四国の車両として初めて座席の向きを変えられる転換クロスシートを採用し、車窓風景をたっぷりと楽しめる車両となりました。なお、2013年登場の1500形7次車以降は、片側をロングシートとした千鳥配置となっています。
徳島駅に停車する1500形(2022年栗原景撮影)
そして牟岐線、いやJR四国で最古参の車両として活躍を続けているのがキハ40系(キハ40形・キハ47形)です。1980~1982(昭和55~57)年に製造されて国鉄から承継された、車齢40年を超えるベテランで、現在JR四国では徳島県内でしか見られません。JR西日本をはじめ、今もキハ40系が活躍している路線は各地にありますが、JR四国のキハ40系は、新製当時のエンジンを今も使用している貴重な車両です。キハ47-114・1086の2両は朱色一色の「首都圏色」が再現され、国鉄の文化を今に伝えています。
JR四国では、2027年度から新型ハイブリッド式ローカル車両を導入することを発表しており、キハ40系の活躍が見られるのもあとわずかかもしれません。
牟岐線の見どころ
通勤・通学客で賑わう徳島駅〜阿南駅間
牟岐線の始発駅である徳島駅は気動車ファンにはたまらないターミナルです。駅ホームに隣接して車両基地があり、徳島地区で活躍する数多くの気動車が勢揃いしているからです。駅構内にはディーゼルエンジンのにおいが漂い、旅のムードを盛り上げます。
座席は、阿波海南駅に向かって左側が良いでしょう。牟岐線の列車は、原則として跨線橋を渡った3・4番線から発着します。徳島駅からしばらくは市街地を走り、文化の森駅のあたりから徐々に田んぼが増えていきます。
中田駅は、かつて国鉄小松島線が分岐していた駅。1961(昭和36)年までは当駅が牟岐線の始発駅で、徳島駅〜中田駅間は小松島線の一部でした。中田駅〜小松島駅間となった小松島線は営業キロ1.9kmと国鉄で最も短い路線でしたが、国鉄改革によって廃止対象となり、1985(昭和60)年に廃止されました。中田駅からしばらく左に並走する遊歩道が小松島線の跡です。
旧小松島駅後にある小松島ステーションパーク(2022年栗原景撮影)
羽ノ浦駅の先で右に緩やかなカーブを描いて離れていく道は、1961(昭和36)年に廃止された古庄への貨物支線跡。歴史の所で紹介したように、元はあちらが牟岐線のルーツでした。列車は東へ向かい、阿波中島駅の先で大きく右にカーブして那賀川を渡ります。阿南鉄道が渡れなかった那賀川ですが、国の技術を投入し、最も合理的な所で渡ったのでしょう。
まもなく阿南駅に到着します。ここ阿南市は、LED(発光ダイオード)の世界的な生産拠点や製紙工場がある工業都市。牟岐線もここまではいつも多くの乗客で賑わっています。
ウミガメの産卵地・日和佐へ
北河内駅~日和佐駅間、緑のトンネル(2022年栗原景撮影)
阿南駅からは列車本数が減り、ぐっとローカルムードが増します。阿波橘駅からは徐々に山間に入り、両側に木々が迫って夏は緑のトンネルを抜けていきます。
標高70mほどの小さな峠を越えると、由岐駅の先ではじめて海岸沿いに出ます。小さなトンネルを抜け、左に現れる砂浜は田井ノ浜海水浴場。まもなく通過するホームは、毎年海水浴シーズンに約3週間だけ営業する田井ノ浜臨時駅です。しかし、列車はすぐにまた山間へ。この辺りは山がそのまま海に落ちる険しい地形で、海はなかなか見えません。
日和佐駅は、ウミガメの産卵地として知られる町。駅から徒歩20分ほどの大浜海岸では、毎年5月中旬から8月にかけて、アカウミガメが産卵のため上陸します。この時期にはウミガメ保護のため海岸への立ち入りが規制されますが、保護監視員の指示に従って、産卵シーンを見学することもできます。
牟岐線は、再び内陸に入ります。この辺りは戦前に建設された区間で、なるべくトンネルを避けるため、奥潟川、山河内谷川、橘川といった川沿いの谷を走ります。水源に近づき川が尽きると、ようやく短いトンネルで峠を越えるのです。
終着駅から世界初の乗りものが接続
牟岐駅に停車する1500形(2022年栗原景撮影)
再び沿岸部に出るのは牟岐駅から。牟岐駅〜阿波海南駅間は主として昭和40年代に日本鉄道建設公団(現鉄道・運輸機構)が建設した区間で、カーブや勾配が少なくなる代わりにトンネルが増えます。いくつもの屋根をトンネルで抜け、海岸沿いを真っすぐ進むので、海がもっともよく見えるのはこの区間。木が生い茂る夏より、冬場のほうがよく見えるかもしれません。海岸沿いにローカルムード溢れる民宿も点在するので、海の景色を存分に楽しむなら、途中下車して一泊するのもおすすめです。
線路と道路の両方を走る「DMV」(2022年栗原景撮影)
最後の停車駅・浅川駅からもう一度内陸に入ると、左手に町が現れ、終着・阿波海南駅に到着します。
牟岐線は阿波海南駅までですが、ここからは阿佐海岸鉄道が接続します。同路線は、世界初の線路と道路の両方を走る乗りもの、「DMV(Dual Mode Vehicle)」が運行されている路線で、阿波海南駅には鉄道モードとバスモードを切り替えるモードインターチェンジがあります。土休日には室戸岬までの便も運行されており、「国鉄阿佐線」の夢を体感することもできます。ただし「徳島・室戸・高知55フリーきっぷ」では、DMVの室戸便には乗車できません。
牟岐線は、全線がのどかな雰囲気に包まれ、のんびりとした列車の旅を満喫できる路線です。もし時間が許せば、室戸岬や高知方面まで足を伸ばして、南国の旅を楽しんでください。
牟岐線(JR四国)データ
起点 : 徳島駅
終点 : 阿波海南駅
駅数 : 29(田井ノ浜臨時駅を含む)
路線距離 : 約77.8km
開業 : 1913(大正2)年4月20日(徳島〜(中田)〜小松島間)
全通 : 1973(昭和48)年10月1日
使用車両 : 1000形、1200形、1500形、キハ40系
著者紹介
- ※写真/栗原景,交通新聞クリエイト
- ※掲載されているデータは2025年11月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。


