トレたび JRグループ協力

2025.12.25鉄道瀬戸大橋線(本四備讃線/JR西日本・JR四国)世界一の橋を通って本州と四国を結ぶ路線

瀬戸内海の絶景を車窓から楽しむ瀬戸大橋線(本四備讃線/JR西日本・JR四国)

日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は眺望抜群の快速〔マリンライナー〕のほか、特急列車やトロッコ列車などさまざまな車両が活躍する、本四連絡の大動脈・瀬戸大橋線(本四備讃線)をご紹介します。

瀬戸大橋線の歴史

ギネス世界記録に認定された瀬戸大橋を渡る

本州と四国を結ぶ、瀬戸大橋は、海上に架かる6つの橋と、陸上部の4つの高架橋から構成される、海峡部約9,369mの橋梁です。道路鉄道併用橋としては世界一の規模を誇り、ギネス世界記録にも認定されています。
瀬戸大橋線は、この瀬戸大橋を含む岡山駅〜高松駅間の鉄道の愛称です。岡山駅〜茶屋町駅間はJR西日本の宇野線、茶屋町駅から瀬戸大橋を経て宇多津駅まではJR西日本とJR四国の本四備讃線、そして宇多津駅〜高松駅間はJR四国の予讃線に属しています。


瀬戸大橋の試運転初列車である測定車(1988年11月撮影)

本州と四国を鉄道で結ぶ構想は明治時代から存在しましたが、実質的な計画は1955(昭和30)年、国鉄が宇高連絡船衝突事故を受けて明石〜淡路島〜鳴門間の調査を行ったことに始まります。その後、道路橋の建設とあわせて検討されることになり、1969(昭和44)年の新全国総合開発計画で「明石〜鳴門」「児島〜坂出」「尾道〜今治」の3ルートが提示されます。1970(昭和45)年、本州四国連絡橋公団が設立されて、3ルートの建設が決定しました。

ところが、着工を目前に控えた1973(昭和48)年10月に第一次オイルショックが発生。3つの橋の建設は延期されてしまいます。さらに環境問題への対応も重なり、児島〜坂出間は1978(昭和53)年10月10日にようやく起工式が行われました。幸い建設は順調に進み、1988(昭和63)年1月8日にレールが締結、本州と四国がレールで結ばれます。3月20日には、瀬戸大橋架橋記念博覧会の開催にあわせて本州側の茶屋町〜児島間が部分開業。そして4月10日、世界最大の道路鉄道併用橋、瀬戸大橋とJR本四備讃線が全面開業を果たしました。


宇多津駅高架ホーム(1996年7月撮影)

宇高連絡船と同時に開業した宇野線

瀬戸大橋の海上部分は、児島側から「下津井瀬戸大橋」「櫃石島橋」「岩黒島橋」「与島橋」「北備讃瀬戸大橋」「南備讃瀬戸大橋」の6つの橋で構成されています。これらの橋は、重さ1000トンの貨物列車が120km/h、新幹線が160km/hで通過することを前提に設計され、自動車や列車の通過によって橋が大きくたわんでも安全性を保てる緩衝桁軌道伸縮装置などの最新技術が投入されました。また、四国側では宇多津駅を移転し、その手前で坂出駅・高松駅方面へ分岐する三角線を建設して、松山・高知方面と高松方面のいずれにも直通できる配線となっています。


宇野駅(1996年7月撮影)

岡山駅〜茶屋町駅〜宇野駅間の宇野線についても、簡単に歴史を紹介しましょう。宇野線は1910(明治43)年6月12日、宇高連絡船の就航と同時に全線が開業しました。宇野駅からは、高松駅までの国鉄宇高連絡船が接続し、1960(昭和35)年には早くも電化されます。以来、東京から特急〔富士〕(ブルートレインとは別)や急行〔瀬戸〕、大阪から特急〔うずしお〕や急行〔鷲羽〕などが発着する本四連絡の大動脈として、重要な役割を果たしてきました。瀬戸大橋線の開業後は、茶屋町〜宇野間は地域輸送中心の路線となり、普通列車が30分〜1時間に1本程度の割合で運行されています。宇野と高松の間には、宇高連絡船の廃止後も民間のフェリーが就航していましたが、2019年12月に廃止。現在宇野駅前からは小豆島など瀬戸内海の離島への航路が発着しています。

瀬戸大橋線の車両

アンパンマン列車も人気の特急&トロッコ列車


8000系(2023年12月撮影)

さて、本四連絡の大動脈とあって、瀬戸大橋線には多彩な列車が運行されています。
岡山駅〜松山駅間で1日15往復運行されている特急〔しおかぜ〕は、JR四国の8000系及び8600系電車が使用されています。
8000系は、1992年に予讃線の電化と同時に登場した直流特急形電車です。カーブで車体を最大5度傾け高速で通過する制御付き自然振子装置を搭載していますが、瀬戸大橋線では使用していません。2023年度から順次二度目のリニューアルが進められており、普通車指定席とグリーン車の全席にコンセントを備えトイレも洋式に改良されるなど、最新の設備に生まれ変わっています。また車体にアンパンマンのキャラクターが描かれた「8000系アンパンマン列車」も活躍しており、1号車には16席限定の「アンパンマンシート」があります。
8600系は2014年に登場した直流特急形電車で、蒸気機関車をモチーフにした「レトロフューチャー(前世紀の近未来デザイン)」が特徴です。台車と車体の間にある空気ばねの空気を調整して車体を最大2度傾ける空気ばね式車体傾斜装置を搭載しています。普通車・グリーン車ともに可動式枕とコンセントを備えたリクライニングシートで、3列シートのグリーン車は電動レッグレストも装備しています。


2700系(2019年1月撮影)

岡山駅〜高知駅間で1日14往復運行されている特急〔南風〕には、JR四国の2700系気動車が使用されています。2700系は高徳線の特急〔うずしお〕にも使用されている車両で、四国内で動作する制御付き自然振子装置を搭載しています。日本の伝統意匠を現代風にアレンジした「ネオジャポニズム」をデザインコンセプトとしており、やはり全ての座席にコンセントを装備しています。こちらもアンパンマン列車が運行されており、ニコニコ笑顔いっぱいの「あかいアンパンマン列車」とキラキラ元気いっぱいの「きいろいアンパンマン列車」の2本が運行。1号車には「アンパンマンシート」があります。


サンライズ瀬戸(2010年5月撮影)

そして、見逃せないのが275系寝台電車を使用する寝台特急〔サンライズ瀬戸〕です。東京駅〜岡山駅間で〔サンライズ出雲〕と併結して運転される、国内唯一の定期寝台特急で、個室寝台から瀬戸大橋の眺めを楽しめます。個室は2階室/上段寝台が人気ですが、道路橋の下を通る瀬戸大橋では海を見下ろす形になるので、1階室/下段寝台からでも眺望を楽しめます。
もう一つ、瀬戸大橋線で見逃せないのが〔瀬戸大橋アンパンマントロッコ〕です。毎年3月から11月にかけての土休日と夏休みなどに岡山駅〜琴平駅・高松駅間で運行されているトロッコ列車で、森をイメージしたアンパンマンがいっぱいのトロッコ車両から、瀬戸内海の景色をたっぷり楽しめます。特急用グリーン車を改造した控え車もアンパンマンの仲間たちでいっぱいで、ファミリーで楽しめる手軽な観光列車となっています。

2階建てグリーン車で眺望抜群 快速〔マリンライナー〕


快速〔マリンライナー〕(2022年栗原景撮影)

瀬戸大橋を渡る定期普通列車は全列車が岡山駅〜高松駅間の快速〔マリンライナー〕で、原則としてJR四国の5000系電車とJR西日本の223系5000番代を併結した5両編成で運行されています(一部例外あり)。5000系は高松方先頭車(1号車)が2階建てで、1階は普通車指定席、2階はグリーン車指定席で、どちらも特急列車の普通車に近い4列のリクライニングシートを装備。グリーン車のほうが若干座席間隔が広く、背面テーブルなども用意されていますが、グリーン料金は2階からの眺望料と言ってもよさそうです。また、運転席の後ろは平屋構造ですが、1列4席だけのパノラマシート(グリーン車扱い)で、床が高くなっており側面だけでなく前方の景色も楽しめます。2号車以降は普通車自由席で、背もたれを動かして向きを変えられる転換クロスシートを装備しています。快速〔マリンライナー〕はほぼ30分間隔で運行されており、岡山駅〜高松駅間を1時間弱で結んでいます。
この他、岡山駅〜児島駅間では115系、213系といった国鉄世代の車両も現役で使用されています。

瀬戸大橋線の見どころ

新幹線に対応した独特の車窓風景に

瀬戸大橋線の列車は、岡山駅の5〜8番ホームから発車します。岡山駅は「桃太郎の祭りずし」や「瀬戸内名物あなごめし」といった駅弁もバラエティ豊か。改札口前の「さんすて岡山」でもさまざまなテイクアウトグルメを販売しており、瀬戸内海を眺めながら旅の味覚を楽しめます。座席は、瀬戸内海を眺めるならやはり左側がおすすめ。特急ならC・D席、〔マリンライナー〕はA・B席が四国に向かって左側となります。
岡山駅を発車すると、列車は高架線に上がって山陽新幹線の下をくぐり、岡山市街を南下します。市街地を出るのは、地上に降りて備前西市駅を過ぎ、笹ヶ瀬川を渡った辺りから。岡山平野ののどかな田園風景が続き、再び高架線に上がると茶屋町駅に到着します。
茶屋町駅からは、本四備讃線に入ります。宇野線は大部分の区間が単線で最高速度も100km/hでしたが、ここからは複線で最高速度も130km/hにアップ。〔マリンライナー〕も120km/h前後に加速します。この辺りから丘陵地に入りますが、線路はまっすぐ南へ。蟻峰山トンネル(2,155m)、福南山トンネル(3,652m)、児島トンネル(1,605m)と長いトンネルが連続し、市街地に入って小田川を渡ると児島駅到着です。


快速〔マリンライナー〕からの前面展望(2022年栗原景撮影)

児島駅からはJR四国の路線となり、快速〔マリンライナー〕なら乗務員もここで交代します。鷲羽山トンネルの中で上下線が分かれ、トンネルを抜けるといよいよ瀬戸大橋。最初に渡るのは全長1,447mの吊橋、下津井瀬戸大橋です。この橋の中央付近が、岡山県と香川県の県境。列車の左右に瀬戸内海が広がりますが、目の前には点検用の通路や巨大なトラス材があり、窓一杯に海の風景が広がるわけではありません。瀬戸大橋の鉄道部は道路の下にあるうえ、元々在来線と新幹線を併設する設計だったため、現在の線路はかなり内側に敷かれているからです。瀬戸内海の美しさと瀬戸大橋の壮大さを同時に体感できるとも言えます。
下津井瀬戸大橋を渡り終えた所は櫃石島。集落がある有人島で、自動車道からは住民専用のループ橋が通じています。島の上は高架橋で、トラス材がないので瀬戸内海の景色を楽しむチャンス。次の櫃石(ひついし)島橋と岩黒島橋(共に792m)は、塔から斜めに張られたケーブルで橋桁を支える双子の斜張橋で、白鳥が羽を広げたような美しい姿は瀬戸大橋の象徴ともなっています。元々はコストに優れるトラス橋となる予定でしたが、瀬戸内海の景観に配慮して斜張橋に変更されました。

方面別に分岐する宇多津駅デルタ線

無人島の羽佐島と与島を結ぶ与島橋(877m)は、三角形に組んだ棒状の部材を組み合わせて強度を確保するトラス橋。瀬戸中央自動車道の与島パーキングエリアがある与島を過ぎると、北備讃瀬戸大橋(1,611m)と南備讃瀬戸大橋(1,723m)という2つの吊橋を連続して渡ります。瀬戸大橋最長の橋梁である南備讃瀬戸大橋を渡ると、石油コンビナートや化学工場が見えてきて、いよいよ四国本土に上陸。まず瀬戸中央自動車道が左へ分かれ、続いて坂出・高松方面と宇多津・松山・高知方面に分岐するデルタ線に入ります。宇多津駅方面が直進するのに対し、坂出駅方面への連絡線が左へ分岐。瀬戸大橋線ができる前、この辺りには塩田が広がっていましたが、現在では住宅地に生まれ変わりました。


宇多津駅到着直前の特急〔いしづち〕から見た、瀬戸大橋を渡ってきた特急〔しおかぜ〕(2025年栗原景撮影)

正面には青ノ山、讃岐富士の名前でも知られる飯野山といった、香川県特有の「おむすび」のような形をした山々が見え、四国に来たことを実感します。
高松駅行きの快速〔マリンライナー〕は、デルタ線の短絡線を経由して予讃線に入ります。なお、この短絡線は宇多津駅の構内という扱いで、運賃はすべて宇多津駅経由で計算するルールです。坂出駅からは市街地と田園風景が交互に現れる讃岐平野を100〜120km/hで駆け抜け、15分ほどで終着・高松駅に到着します。


〔サンライズ瀬戸〕からの朝日(2025年栗原景撮影)

瀬戸内海の眺めを2階建て車両や個室寝台からたっぷり楽しめる瀬戸大橋線は、四国旅行の、あるいは四国を出て本州を旅する時の大切なアプローチです。特におすすめは、冬の下り〔サンライズ瀬戸〕。瀬戸内海に昇る朝日を眺めて、旅の新しい1日を迎えることができます。四国へは、ぜひ列車で訪れてみてください。


瀬戸大橋線(本四備讃線/JR西日本・JR四国)データ

起点   : 茶屋町駅
終点   : 宇多津駅
駅数   : 6
路線距離 : 約31.0km
開業   : 1988(昭和63)年3月20日(茶屋町〜児島間)
全通   : 1988(昭和63)年4月10日
使用車両 : 8000系、8600系、2700系、275系、5000系、223系5000番代、213系、115系、キクハ32-502・キロ185-26(瀬戸大橋アンパンマントロッコ)


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「国鉄時代の貨物列車を知ろう」(実業之日本社)ほか。

  • 写真/栗原景,交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2025年12月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
トレたび公式SNS
  • X
  • Facebook
  • Instagram