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2021.03.16鉄道絶景鉄道! 鉄道写真家・村上悠太が写す、待望の春を感じる「花」のある風景

春風と列車が運ぶ、新しい季節

長く寒かった冬がゆっくりと終わり、まもなく次の季節がやってきます。日に日に気温も上がり、今年は各地の桜の満開も例年より早そうです。今回は全国各路線の花風景をお届けしたいと思います。暖かな季節の中に咲く、花々と列車の共演です。

北限の路線に咲くエゾヤマザクラ


北の峠にも到達した桜前線 あたりにはお花見する人の姿も多かった

宗谷本線の一大サミットである、塩狩峠。三浦綾子の小説のタイトルにもなっていることから、その名前をご存知の方も多いのではないでしょうか。この塩狩峠にある塩狩駅の周囲は例年5月中旬~下旬になると、エゾヤマザクラが辺り一面に咲き、白一色の厳しい冬の峠とはまるで異なる、色鮮やかな風景に変わります。ソメイヨシノに比べて、やや落ち着いた見た目の印象があるエゾヤマザクラですが、花や枝ぶりが繊細で可憐な桜です。2021年3月のダイヤ改正で宗谷本線の旭川~名寄間を走る普通列車は、写真のキハ40系から最新鋭のH100形に置き換わりましたが、その風景の魅力は変わりません。この光景は「塩狩峠一目千本桜」と呼ばれ、最北の鉄路の春風景となっています。また、足元に目を向けると紫色をしたかわいらしいカタクリも。ピンクと紫、青空に緑と春の彩りに心が躍ります。

本州では遅くともゴールデンウィークぐらいには見ごろを終えてしまう桜と鉄道の風景も、北の大地を走る宗谷本線では、ゴールデンウィークを過ぎてようやく楽しめます。同じ桜の風景も場所が違えば、ここまで見ごろのピークが変わります。5月のある日、桜の季節がとうに過ぎ新緑のまぶしい東京を出発した僕は、数時間後にこの桜ほころぶ景色の中にいました。こうした四季のリズムの違いにも、僕は旅情やロマンを感じます。

塩狩駅は特急列車は止まりませんので、アクセスは普通列車となります。列車の本数はやや少なめですが、列車でのアクセスも十分に可能です。駅周囲にコンビニ等はありませんので、旭川駅で駅弁やおやつを購入しておいて、ピクニック気分でお花見、なんていうのもおすすめの楽しみ方です。


撮影地:宗谷本線 和寒~塩狩

【村上悠太のワンポイント】
2021年3月のダイヤ改正で普通列車が最新鋭の電気式ディーゼル車のH100形になり、快適な車内空間で旅をすることができるようになりました。

桜に包まれた新幹線の春風景


アップ気味でも広角でもあらゆる撮影が楽しめる 「つばさ」は本数が多いのもうれしい

山形新幹線は福島~新庄間で在来線区間を走行することもあり、JR東日本の新幹線路線の中でも特に桜との共演が美しい路線です。その中でも山形~北山形間で見られる山形城跡「霞城公園」の桜と並び、おすすめなのが南陽市赤湯にある「烏帽子山公園」の桜です。置賜盆地を一望できるこの公園は例年4月中旬になると、園内の至る所に樹齢約120年のソメイヨシノが咲き乱れ、1年で最も美しい季節を迎えます。ソメイヨシノのほか、25種類合計約1000本の桜が楽しめ、園内がピンク色に染まるその光景は、やや離れたところを走る山形新幹線からも一目でわかるほど。烏帽子山公園を新幹線から眺める場合はA席を指定しましょう。

この烏帽子山公園へは、赤湯駅からも徒歩25分程度と春の散歩にはちょうどよい距離。赤湯駅には山形新幹線「つばさ」も多くの列車が停車するので、関東から乗り換えなしで行ける点もうれしいポイントです。「つばさ」と桜を一緒に撮影する場合は、この写真のように桜の木々の間に作った「窓」に列車を配置するようにフレーミングすると、「桜に囲まれている」というニュアンスが強くなります。「つばさ」で運用されているE3系2000番代はとても目立つカラーリングなので、若干構図の中で車両が小さくなっても存在感はなくなりません。

赤湯はその地名の通り、温泉の街。宿泊してもよいですし、さっと外湯につかるのもよいでしょう。もう一つ、赤湯で忘れてはいけないのはラーメン!味噌ベースのスープに辛みそが乗った「赤湯ラーメン」はこの土地ならではの味わいです。赤湯を訪れた際にはぜひ温泉と共に試してみてくださいね。


撮影地:山形新幹線 赤湯~中川

【村上悠太のワンポイント】
赤湯駅の東京方面のお隣「高畠駅」は、駅舎に温泉のあるめずらしい駅です。赤湯駅同様に停車する「つばさ」も多いので、はしご湯もおすすめ!

有名なのは桜だけじゃない!? 6月も旬な「あの名所」


撮影スポットは桜のポイントと全く一緒 時期が違うとこんな風景に

関東近郊の鉄道×桜スポットとして人気が高い御殿場線の山北駅付近。実はここは桜だけの名所ではないのをご存知でしたか?桜が散り、葉の緑が青々とする6月。ちょうど桜のトンネルの区間に今度はたくさんの紫陽花が見ごろを迎えます。御殿場線は普通列車が主体ですが、小田急電鉄の青いロマンスカーMSEが「特急ふじさん」として乗り入れ運転しています。桜の時期は大勢の人がこの場所を訪れますが、紫陽花の時期は静かに散策を楽しめます。山北の駅前にはD52 70号機蒸気機関車が保存されており、特定日には圧縮空気を動力として実際に動く姿が見られます。

さて、花の写真撮影というと、晴天下で撮影することが多いのですが、紫陽花だけはできれば曇天~雨の日に撮影したい花です。やはり雨の時期の花ということもあり、陰影が強くない光の条件で撮影したほうがその雰囲気に似合うかなと感じています。また、紫陽花は桜のように引いた構図で撮影するとその存在感があまり引き立ちません。そこで、花を傷つけないように細心の注意を払いながら、紫陽花に寄って撮影するのがポイントです。曇天・雨天時は暗くなるため、シャッタースピードが遅くなりがちです。鉄道写真の場合、あまりシャッタースピードを下げてしまうと列車ブレてしまう「動体ブレ」を起こすため、目安として今回のような構図であれば、1/1000秒以上は維持しておきたいところです。そのため、暗くても高速シャッターを使うことができる、高感度設定を積極的に使ってみましょう。


撮影地:御殿場線 山北~谷峨

【村上悠太のワンポイント】
御殿場線は元々東海道本線として建設された路線です。晴天時には富士山が美しいので、紫陽花撮影とは別に、快晴の日に再訪してみてくださいね。

河川敷に咲くソメイヨシノとノスタルジックなディーゼルカー


風雪吹きすさぶ冬が終わり風も緩やかに あたたかな山陰の春

日本海がすぐそこまで迫る、JR山陰本線香住駅の少し西を流れる矢田川沿いには桜並木があり、この桜と山陰本線を撮影することができます。この区間を走行する普通列車はキハ40系が運行され、どこかノスタルジーを感じるカラーリングで走行しています。この区間には特急「はまかぜ」も運行されているのですが、香住発着となる「はまかぜ3・6号」は、矢田川を渡らないので撮影時には注意が必要です。この写真は浜坂方から撮影していますが、対岸の香住方からでも撮影でき、上下列車ともにさまざまな構図を作ることができるので、自分だけの1枚を探すのも楽しい撮影スポットです。

桜と鉄道を撮影する場合、まず撮影地の候補になるのは「桜の名所」です。JR西日本のエリアだと関西本線笠置駅周辺、阪和線の山中渓駅周辺などが有名なスポットでしょうか。そのほか撮影地を探す際には、駅、河川敷、公園周辺を重点的にロケハンします。この3つの場所には鉄道との撮影に適しているかは別として、桜が植えられていることが多く、撮影地の開拓にもつながるのでぜひ参考にしてみてください。

矢田川からさらに西に向かえば、山陰本線で最も有名な余部橋梁があります。現在では道の駅が整備され、観光スポットとしても注目を集めています。現在、列車が走行するのは新しく架け替えられたコンクリート製の橋ですが、昔の鉄橋の一部は現在も保存され、かつて列車が走っていた鉄橋の上を遊歩道として歩くこともできます。


撮影地:山陰本線 香住~鎧

【村上悠太のワンポイント】
この付近に行ったら合わせて楽しみたいのが海の幸。有名なカニは冬の風物詩ですが、それに限らずその時期旬の海鮮が味わえます。

山あいに咲く阿波の桜並木


この日、僕一人だけが見た美しき鉄道風景

琴平を出た土讃線は、一山を超えてちょうど山間の狭間に位置する阿波池田を目指して山を下ります。その下り道の途中にひっそりと咲いているのがこの桜並木です。ちょうど、箸蔵山ロープウェイの乗り場の下くらいに位置し、土讃線の桜スポットとして満開になるとカメラを構える人の姿をよく見かけます。山間なので、平地に比べて桜のピークが遅いように思われるかもしれませんが、意外とあまり差がなく、例年4月上旬には見ごろを迎えます。土休日を中心に運行される観光列車「四国まんなか千年ものがたり」は、この区間を通過する際には最徐行のサービスが行われ、メロディーホーンを高らかに鳴らしながらゆっくりと走り抜けていきます。また、2021年春の改正でこの区間を走る特急「南風」、「しまんと」がすべて新型の2700系になりました。

この日は日中こそ天気が持ったものの、日が暮れるにつれて徐々に小雨な空模様に。一度このポイントを離れていたのですが、少し心残りを感じ、日暮れ間際に再び戻ってきました。日中は5~6人の撮影者がいたもののこの時間帯には僕一人です。やがて峠を越えてきた普通列車がヘッドライトを輝かせてやってきました。小雨が霧のようになってヘッドライトの光芒(こうぼう)を描き出します。その幻想的な光景にどこか、一日のおわりにとっておきのおみやげをもらった気がしました。このカットを撮影したのは3年前、勤めていた会社を独立したての頃。うまく写真家としてやっていけるか不安で仕方なかった胸中に、そっとやさしい桜風景が心に染みた記憶が色濃く残っています。


撮影地:土讃線 坪尻~箸蔵

【村上悠太のワンポイント】
カーブの先は列車か徒歩でしかたどり着けない秘境駅坪尻駅です。国道から20分ほど降りていくと駅に到達することができます。

5月の九州はレンゲの季節 足元に目をこらしてみて


883系は日豊本線の顔 デビュー以来色あせないそのデザインが魅力的

九州の春は、菜の花、梅、さくらと続き、5月に入ると今度はレンゲがいろいろな場所に咲き始めます。レンゲは菜の花と同様、「毎年ここに咲く!」と決まった場所に咲くタイプの花ではなく、季節ごとに若干場所を変えながら咲くことが多いため、花探しがちょっと大変な花の一つです。

紫色のちいさな花たちがぎゅぎゅっと集まり、鮮やかな自然のカーペットを作り出してくれます。とっても小さな花なので、その花探しはまさにくまなく沿線をロケハンするか、列車に乗って車窓から目を凝らすしかありません。しかも撮影時にはカメラアングルを地面スレスレまで下げてシャッターチャンスを待たなければならないという、なかなか撮影に苦労する花風景です。こうした厳しい姿勢の撮影も、最近では背面液晶モニターを自由な角度に調整できる「バリアングルモニター」を採用する機種が多くなったおかげで格段に楽になりました。完全に地面とフラットな角度から撮影すると、今度はレンゲのディテールが見えなくなってしまうので最適な高さを探す必要もあります。

日豊本線は国内有数の特急街道。博多~大分・佐伯間には883系、885系「ソニック」が早朝から深夜まで高頻度で運転されています。また、「にちりんシーガイヤ」は博多~宮崎空港間を結ぶ、今ではだいぶ珍しくなった長距離特急列車です。大分方面行きの列車は進行方向右手に立ち込める湯けむりを見ながら別府を出発すると、今度は左側に別府湾が広がります。


撮影地:日豊本線 中山香~杵築

【村上悠太のワンポイント】
この区間は上り線と下り線が分かれている区間で、撮影しているのは下り線。列車通過時刻などを確認する場合は気を付けて!

必ず、春は来る

冬が終わり、服装も心も軽やかになる春のひととき。「来年の今頃は」と耐えた昨年でしたが、今年ももう少しマスクとの付き合いが続きそうです。そんな生活空間の中に、ふとした春風が吹く。花のある風景にはそんな力があるような気がします。


著者紹介

村上悠太

1987年鉄道発祥の地新橋生まれ、JRと同い年の鉄道写真家。
交通新聞社刊「鉄道ダイヤ情報」では「ユータアニキ」としてあらゆる現場で鉄道を支える「鉄道HERO」たちの取材を続ける。元々旅好きから写真を始めたので、乗り物に乗って旅をしながら写真を撮るのが大好き。

Twitter:https://twitter.com/yuta_murakami
Instagram:https://www.instagram.com/yuta_murakami/

  • 写真/村上悠太
  • 掲載されているデータは2021年3月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。

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