トレたび JRグループ協力

2020.12.15鉄道絶景鉄道! 鉄道写真家・村上悠太が写す、冬ならではのきらめく一瞬

一期一会の出会い! 鉄道が走る冬景色

北国を白く輝かせる冬景色。一年の中でも特に厳しい撮影環境となりますが、それだけに出会えた光景の一つ一つはとても思い出深いものばかりです。また、冬季は降雪具合や気温などの条件が写真の仕上がりを大きく左右するので、いつも以上に天気予報とにらめっこの日々が続きます。そんなシチュエーションで撮影してきた北海道から関東近郊、そして東海道新幹線の雪景色など、さまざまな冬のシーンと鉄道が作り出す風景をご紹介したいと思います。

チャンスは年に1回あるかないか!? 山梨県鳥沢の雪景色


この周辺には撮影スポットがたくさんあるので、テンポよく撮影すればいろいろなバリエーションが撮影できます

特急「あずさ」・「かいじ」の全列車が最新鋭のE353系に統一された中央本線は、山岳路線ということもあり、冬季は雪が深そうに思われますが、実際は、降雪することはあっても積雪までになることはなかなかありません。そんな中、今回ご紹介するのは中央本線でも比較的関東に近い、鳥沢駅~猿橋駅にかかる鉄橋で撮影した一枚です。この撮影地は沿線の中でも特に撮影しやすいスポットとして、多くの撮影者が集まる場所でもあります。ただ、場所柄雪景色になることは珍しく、天気予報を見ながらそのチャンスを待つ必要があります。

この場所が雪景色になる条件で欠かせないのが「南岸低気圧」の接近です。最近では、関東に雪を降らせる低気圧ということでこの名称を耳にする機会も多くなってきました。この南岸低気圧が接近し、かつ、首都圏でも多めの積雪が予想されるくらいになると、この場所で写真のようなシチュエーションになることが期待できます。加えて、降雪が夜のうちに止み、明け方から晴れる予報という点も重要なポイントです。早朝より雪晴れになることによって、木々についた雪たちがキラキラと輝き、より素敵な風景を魅せてくれるのです。ただし、同時に太陽は少し悩ましい存在にもなります。風景にきらめきを与えてくれる太陽ですが、その温もりは木々に着いた美しい雪をどんどん溶かしていってしまいます。たった30分でもあっという間に景色が変わってしまうので、雪晴れの条件下では入念な撮影計画を立て、無駄のない撮影が欠かせません。

このスポットでの雪景色は年に1度あるかないかというレアなシチュエーションですが、ここ数年はシーズンで1度はこのような光景になっているので、今シーズンもぜひチャンスを待ってみてください。


撮影地:中央本線 鳥沢〜猿橋

【村上悠太のワンポイント】
鳥沢駅から猿橋駅方面へ徒歩20分程度で鉄橋に到着できます。この写真はやや北側から撮影していますが、橋の付け根でも車両アップ気味の写真を撮影することができます。

冬の関ケ原 雪と戦う東海道新幹線


夜から降り続いた雪は見慣れた光景も特別なものにしてくれます

「雪と新幹線」というと、どちらかといえば東北新幹線や上越新幹線のイメージが強いですが、東海道新幹線も冬の風物詩として雪景色が広がる区間があります。それがこの岐阜羽島駅〜米原駅の関ケ原付近です。北陸地方の雪雲がちょうどこの関ケ原付近に流れ込むことで一帯に雪を降らせ、東海道新幹線の沿線の中ではほぼ唯一、頻繁に雪景色が見られる区間になっています。

他の新幹線に比べて東海道新幹線の大きな特徴の一つに、「街の中を走る傾向が強い」というポイントがあります。東海道という沿線人口が多い地域を走ること、また長大トンネルで山を貫き直線的な線形を持つ他の新幹線路線より、比較的多く地上区間を走ること、さらにその区間の多くが田んぼや山間など人里離れた場所ではないことが、それを表しています。このあたりの線形や設計思想にも、他の新幹線路線と比較して、東海道新幹線が国内初の高速鉄道であるということが改めて感じられます。防音壁のない箇所も多いため、富士山や浜名湖、伊吹山などその土地ならではの情景と東海道新幹線をクリアに撮影できるスポットが多いのも隠れた特徴です。この関ケ原の区間は、家並みの後ろを新幹線が行くという光景が撮影できるので、機能美が光る新幹線でありながら、どこか生活感や人のニュアンスを感じることのできる写真が撮影できます。

関ケ原の降雪は、状況によっては新幹線の運行に影響が出ることもありますが、最新鋭のN700Sでは床下形状と台車に工夫がされ、より雪に強い設計がなされている他、地上面でもスプリンクラーや除雪車などこの地域だけに装備されている施設もあり、より高い安全性と定時運行性の確保を目指した工夫がされています。


撮影地:東海道新幹線 岐阜羽島〜米原

【村上悠太のワンポイント】
手前に写っている川沿いの木は実はソメイヨシノ。春には桜といっしょに撮影することもできます。

思わず眠気も吹き飛んだ 蒼き雪の世界


雪景色を撮るなら始発列車は欠かせません

日本有数の豪雪地帯を走るJR東日本の飯山線。四季折々の風景が美しい路線ですが、やはりその中でもこの路線の性格を色濃く感じられるのが冬の情景です。撮影前日の夜、雪が降る中、車を走らせ、撮影地そばの駐車場で始発列車まで車中泊をしました。飯山線の始発列車はこの区間では6時台と比較的遅く、冬でも少しISO感度を上げれば、十分な明るさで撮影することができます。

翌朝、寒さに堪えながらふとんから飛び出し、すぐに着替えて機材を準備します。車を降りて、目の前に広がった蒼い世界に思わず息を呑みました。この色調はカメラ側の「ホワイトバランス」を調整して青くしていたり、強調しているわけではなく、明け方の色合いそのものでホワイトバランスは「太陽光」のままです。「白熱電球」に設定すると確かにより青くすることができますが、本来赤みを帯びて写るはずのヘッドライトが白く中和して写ったり、なによりも「やりすぎ」を感じる色調になるので、僕はほとんどのシーンで「太陽光」に固定して撮影しています。

雄大な風景が目の前に広がるとどうしてもその光景を多く入れ込み、構図の中で列車が小さくなっていく傾向になります。そうした時にも列車の存在が明確に分かるように、今回はヘッドライトの印象を強く意識してフレーミングしています。また、シャッターを切るタイミングを工夫し、レールがヘッドライトを受けて光る瞬間で撮影しています。この列車は長野方面行きの始発列車ですが、この列車の直前に反対方面に向かう列車が走行しており、夜の降雪で埋もれたレール上の雪を掻いてくれていたため、レールの反射を利用することができました。


撮影地:飯山線 上境〜上桑名川

【村上悠太のワンポイント】
ふるさとの景色が広がる飯山線の沿線には野沢温泉に津南温泉など温泉が点在! ぜひ道中で冷えた体を温めましょう。

紅葉だけじゃない 白銀に染まる鳴子峡


トンネルを抜けて一瞬広がる銀世界。冬季は徐行しないので要注意!

紅葉シーズンになると多くの観光客が訪れる宮城県の鳴子峡。東北を代表する紅葉スポットですが、実はオフシーズンとなる冬季も白い雪と岩肌のコントラストが美しいスポットです。陸羽東線の鳴子温泉駅や中山平温泉駅周辺には冬季でも徒歩で行ける範囲に日帰り入浴できる温泉施設も多いので、湯巡り鉄道旅もおすすめです。この辺り一帯は、近接していても泉質の異なる温泉が多いのも楽しいポイントです。行きは東北新幹線で古川駅から陸羽東線へ入り、帰りは新庄駅から山形新幹線を経由すれば、往復の道中も異なるルートで2倍楽しめます。さらに新庄駅から陸羽西線に乗り継げば日本海側に出られますし、奥羽本線で北上すれば秋田方面に向かうことも可能です。

鳴子峡は紅葉シーズンになると、ちょうど写真の区間で徐行運転のサービスがありますが、冬季は残念ながら通常運行となり、鳴子峡を軽快に駆け抜けていきます。鳴子峡を過ぎると陸羽東線はどんどん山の中を進んでいき、それと同時に雪深くなっていきます。途中の堺田駅は駅名が表す通り、降り注いだ雨水の流れ着く先が日本海と太平洋に分かれる分水嶺の駅。駅前にはまさに分水嶺を表す小さな川とモニュメントが設置されています。この駅を過ぎるとしばし景色が開け、冬季であれば真っ白に雪が積もった田んぼの光景を見ることができます。最上駅を過ぎると今度は小国川とともにしばし走行し、一路新庄駅を目指します。

2020年夏に、同線を走っていた「リゾートみのり」号が引退しましたが、それでも乗っても、撮っても、(温泉に)浸かっても楽しい陸羽東線です。


撮影地:陸羽東線 鳴子温泉〜中山平温泉

【村上悠太のワンポイント】
雲間から太陽が顔を出してくれた瞬間に列車が運良く通過。冬季の撮影は天候が目まぐるしく変わるので露出設定は臨機応変に!

流氷ピークは例年2月! 天候だけでなく風向きもポイント


駅併設の展望台から撮影できる流氷×鉄道風景 手軽さが魅力的

冬のオホーツク海の風物詩「流氷」。遠くロシアからやってくる、ロマンあふれる自然現象です。オホーツク沿岸を走る釧網本線では、この流氷と撮影できるスポットが点在していますが、中でもこの写真を撮影した場所である北浜駅は最も手軽に、それでいて迫力ある流氷風景を撮影することができます。駅のすぐ横に展望台が設置されており、誰でも手軽にこのような写真が撮影可能です。2021年1月30日から2月28日までの毎日、網走駅と知床斜里駅の間を2往復、「流氷物語号」が運転されます。全席自由席なので海側の席を確保するのであれば早めに乗車駅に向かいたいところです。

流氷を撮影する場合は晴天が望ましいですが、それ以上に重要なのが風向きです。流氷の接岸は例年2月上旬ごろがピークなのですが、一見びっちり敷き詰められて動きそうにない流氷も、風向き次第でいとも簡単に沖に流れてしまうのです。釧網本線と流氷を撮影する場合、北風が吹く予報で流氷が沖まで来ていれば、そのまま接岸してくれることが多いのですが、南風が吹く予報の日は要注意です。特に夜間に南風が吹き続けると、前日に接岸していても翌日には流氷ははるか彼方、なんてことも多いので注意しましょう。このように動きやすい流氷ですから、流氷に接近しても間違っても流氷の上に乗ってはいけません。万が一、沖に流されたり、海中に落ちたりしたら大変なので必ず守りましょう。釧網本線の駅には駅舎の中に喫茶店やラーメン屋が入っている駅も多く、ここ北浜駅には「停車場」という喫茶店が入っています。流氷を眺めつつ、温かいコーヒーはいかがですか?


撮影地:釧網本線 北浜駅

【村上悠太のワンポイント】
オホーツク海に最も近い駅として、駅自体も人気の高い北浜駅。待合室中に貼られた名刺も名物です。

氷点下27度の朝。ディーゼル列車から立ち込める白い「もや」


いてつく朝にだけ見られる、その土地の「日常風景」

北見や網走、釧路などの道東の冬は、雪景色に加えて極寒が織りなす様々な現象がとても美しい風景を作り出してくれます。夜中からよく晴れて、「放射冷却」が発生する朝。気温が氷点下20度を下回ると、霧氷などの自然現象のほか、ディーゼル列車にも「ある特有の現象」が発生します。

この写真の白く立ち込めている煙のようなものは、霧ではなく、実はディーゼル列車の排気に含まれる微妙な水分が排気された瞬間に凍りついたもので、極寒時にだけ見られる特殊な現象です。ディーゼルエンジンの排気は自動車と同じく、アイドリング状態の停車中よりも力が必要な、駅を発車する時の方が顕著に出ます。そこでこのように駅で撮影することで、より迫力ある白いもやを写し込めるだけでなく、早朝の赤みを帯びた逆光を生かして撮影することで印象的な写真にすることができました。

ここまで低温になると機材面にもケアが必要です。低温下でよく発生するのがバッテリー関係のトラブルで、バッテリーの消耗が極端に増えるためバッテリー切れを起こしやすくなるほか、撮影中に電源が落ちてしまうこともあるので保温をしながら撮影をしましょう。また、三脚にも注意が必要です。脚に雪が付着しがちな冬期の撮影ですが、その時についた雪はていねいに払ってから収納しましょう。そうしないと室内などで雪が溶け、再び氷点下の外に持ち出した場合に収納した脚が内部で凍結して撮影時に脚が収納状態から出せなかったり、逆に収納できなくなるといったトラブルにつながります。そうした時でもお湯をかけると、その場しのぎにはなりますが後々よりひどくなるので、日なたなどに置いてゆっくりと溶かし、少しづつ動かしてみましょう。


撮影地:石北本線 緋牛内駅

【村上悠太のワンポイント】
冬期の中でも特に冷え込むのは2月上旬〜中旬の晴天日。流氷撮影と組み合わせてみるのもおすすめです。

寒さに堪えるだけの成果あり! ただし万全の準備を

冬期の早朝は特に寒さが厳しく正直起きるのがつらいですが、その分絶景に出会えるチャンスも多くなるので頑張って起きてみましょう!
一方で、冬期の撮影はまず自分の身の安全が最優先。寒さは自分の思った以上に体力を消耗します。天候が悪化したり、寒くて辛いかも・・・と思ったら、躊躇せずに撮影を中断する判断も大切です。万が一に備えて携帯電話の電波の有無などもまめに確認しましょう。


著者紹介

村上悠太

1987年鉄道発祥の地新橋生まれ、JRと同い年の鉄道写真家。
交通新聞社刊「鉄道ダイヤ情報」では「ユータアニキ」としてあらゆる現場で鉄道を支える「鉄道HERO」たちの取材を続ける。元々旅好きから写真を始めたので、乗り物に乗って旅をしながら写真を撮るのが大好き。

Twitter:https://twitter.com/yuta_murakami
Instagram:https://www.instagram.com/yuta_murakami/

  • 写真/村上悠太
  • 掲載されているデータは2020年12月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。

登場路線・列車はこちらもチェック!


東海道新幹線

THE列車 N700A
THE列車 N700S

左の写真はN700S。「S」は「Supreme(最高の)」をあらわしています。モバイル用コンセントを全座席(1323席)に搭載しており、さらに全号車で無料Wi-Fiが使用可能に。


釧網本線

この路線で行こう! 北海道編 釧網本線の旅

オホーツク海に流氷が訪れる冬期には、釧路駅~標茶(しべちゃ)駅間の「SL冬の湿原号」や網走駅~知床斜里(しれとこしゃり)駅間の「流氷物語号」といったファン垂涎の列車が運行され、冬の道東ならではの絶景を満喫できる路線だ。


流氷物語号

THE列車 流氷物語号

真冬のオホーツク海を埋め尽くす流氷を車窓に楽しめるのが、釧網本線の網走駅と知床斜里駅を結ぶ観光列車「流氷物語号」です。列車は専用ラッピングを施したキハ54形気動車の2両編成で、車体の色から「青色車両」「白色車両」とも呼ばれています。

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