昨秋デビューの最新D&S列車! 曜日によって変わる運行ルート
数々の観光列車が走るJR九州。それら「デザイン&ストーリー列車(D&S列車)」と呼ばれる列車たちは、どの列車も鉄道の旅の新しい世界を私たちに魅せてきてくれました。
そんなD&S列車の中でも昨秋にデビューした最新列車「36ぷらす3」は、他のD&S列車とは一線を画すコンセプトで運行されています。実際に何度も乗ってきた筆者が「36ぷらす3」の魅力を実体験でお伝えします!
787系を大リノベーション 伝説の「ビュッフェ」が復活!
「36ぷらす3」はJR九州の特急型車両である787系という車両を大幅にリノベーションしてデビューしました。デザインを担当したのはこれまでもJR九州の列車や駅舎などを多くデザインしてきた水戸岡鋭治さん。現在でも九州各地で特急列車として活躍している787系ですが、実はJR九州にとっても、水戸岡さんにとっても思い入れの深い車両だったのです。
787系は、鹿児島本線博多駅~西鹿児島駅(現在の鹿児島中央駅)を結んでいた特急「つばめ」の新型車両として1992年にデビューしました。デザインを担当した水戸岡氏は「これまでにはない特急車両を」と既存の鉄道車両にはない設計や空間デザインをふんだんに787系に採用。それと当時にJR九州としても福岡〜鹿児島という九州を代表する都市を結ぶ看板特急として、まさに社運をかけてデビューさせた車両でした。
メタリックグレーの外装に、個室やコンパートメント、飛行機のようなハッチバックタイプの荷物棚など、斬新なデザインの787系はデビュー時から大きな話題になりました。現在では九州新幹線が開通していますが、この時はまだ在来線特急ですので、新幹線よりも大幅に所要時間がかかります。「長時間の鉄道の旅での醍醐味は車内での飲食サービス」と考えていた水戸岡氏は、JR九州サイドに787系でなんらかの供食設備を設置することを打診します。
「本当は食堂車がよかったのですが、アフターケアなどの面からJR側から実現は難しいとの回答があったものの、軽食を出すビュッフェならできそうだということで設計しました」と水戸岡氏が当時を振り返ります。
そんなやりとりの末、水戸岡氏こだわりのビュッフェが787系に誕生しました。この車両は食堂車ではないものの、形式名には食堂車を表す「シ」が採用され、サハシ787形となりました。2004年3月に九州新幹線新八代駅~鹿児島中央駅間が開業すると特急「つばめ」は特急「リレーつばめ」として運転区間が短縮され、それに先立ち2003年2月にはビュッフェの営業を終了していました。
そのビュッフェが「36ぷらす3」で奇跡の復活!ビュッフェがあった車両はほかの号車とは異なり、ドーム状の天井になっています。これは「ビュッフェを訪れた旅人たちの会話が程よく反響するように」という水戸岡氏の狙いなのですが、このデザインももちろんそのまま「36ぷらす3」に引き継がれています。
また一部のライト類なども787系のオリジナル時代からのものを採用。僕自身、特急「つばめ」のビュッフェは憧れのまま終わってしまったので、今回の復活に大興奮でした。
5日間かけて九州を一周 日替わりで楽しめる様々な旅情
この「36ぷらす3」は曜日ごとに列車の運転区間が変わるという、これまでにないスタイルでぐるりと九州を一周するように走っています。予約は5日間で1コースではなく、各曜日・コースごとに発売されるスタイルです。
曜日ごとにその旅のテーマとなる「色」が設定されており、木曜日は博多から熊本を経由し、鹿児島中央を目指す「赤の路」。金曜日は鹿児島中央から宮崎を目指す「黒の路」、続いて土曜日は宮崎空港・宮崎から大分・別府を目指す「緑の路」。日曜日が大分・別府から小倉・博多を目指す「青の路」、そして月曜日が「金の路」で日中は博多から長崎行き、夜は長崎から博多行きとして運行されています。それぞれの色にまつわるストーリーは公式サイト(https://www.jrkyushu-36plus3.jp)をチェックしてみてくださいね。
全コースどれも内容が盛り沢山ですが、そんな中でも僕がおすすめしたいのはやっぱり木曜日の「赤の路」。全コースのうちで最も走行距離・乗車時間が長いだけでなく、かつて787系特急「つばめ」が行き交ったルートを走行するからです。
今では九州新幹線であっという間に移動できる博多駅~鹿児島中央駅間ですが、当時の「つばめ」の旅を想像しながら東シナ海の車窓を眺める旅路は、いち鉄道ファンとしては胸が熱くなります。ちなみに「36ぷらす3」は観光列車なので当時の特急「つばめ」より、ゆっくりと鹿児島中央を目指します。
一部のコースは途中駅での乗降も可能です。詳細な情報は公式サイト(https://www.jrkyushu-36plus3.jp)を確認してください。
好みのスタイルで楽しめる 新しい「観光列車」のスタイル
さて観光列車といえば、気になるのがその車内。「36ぷらす3」では大きく分けて2つの車内があります。1つは個室タイプの車内、もう1つが座席タイプの車内です。個室タイプの車内は1~3号車に連結され、それぞれ1名から最大で6名まで利用できるいろいろな個室タイプが用意されています。個室は車内での食事が含まれている「ランチプラン・ディナープラン」で利用することができます。
個室の中でも特に目を引くのが1号車。その車内はなんと畳敷になっています!こちらは靴を脱いで利用する個室になっており、ほかの個室とは大きく異なった趣が特徴です。
続いて、5~6号車は座席タイプの車内になっています。6号車は1号車同様に畳敷の車内になっているので狙い目ですよ!1号車も6号車も畳敷とはいえ、それに対しての特別な追加料金は必要ないのも見逃せないポイントです。
「36ぷらす3」の一部座席は特急列車のグリーン席と同様の扱いになっているため、空席があれば出発当日でも、出発前までJR九州のみどりの窓口、指定席券売機、インターネット列車予約できっぷを購入することが可能です。ただし、「フルムーン夫婦グリーンパス」は利用できないので注意してください。3号車は「ビュッフェ」、4号車は「マルチカー」でフリースペースとして利用できるほか、車内での体験イベントなどが実施されます。
九州の味を車内で満喫 こだわりの食事
続いて、観光列車で楽しみなのがやっぱり「食事」。「36ぷらす3」では曜日ごとに沿線のレストランや料亭のこだわり抜かれた食事を味わえます。食事は個室利用のほか、座席利用でも「ランチプラン・ディナープラン」が用意されているので、よりリーズナブルに「36ぷらす3」の食事を楽しむこともできます。なお、個室と座席ではメニューが異なるので、これもまた再び「36ぷらす3」に乗る楽しみが増えるきっかけになりますね。
そして、忘れてはいけないのが「ビュッフェ」のメニュー。「ビュッフェ」では沿線ゆかりのソフトドリンクや各種アルコール、お土産品のほか、軽食として車内限定のカレーやうどん、木、月曜日の博多発コース限定でJR九州のグループ会社が育てている「うちのたまご」を使用したオムライスなどがラインナップ!これらは数量限定ですが、事前予約不要で楽しめます。ぜひ787系伝統のビュッフェを満喫してみてください!
地域のおもてなしが激アツ! 地域とつながるJR九州のD&S列車
そしてなによりJR九州のD&S列車といえば、沿線との「つながり」も忘れられません。車内で楽しめる飲食メニューはもちろん、地元の方々がおもてなししてくれる停車駅が各コースで設定され、熱い歓迎を受けられます。その土地ならではの品々が購入できる物販もあり、シーズンによってはその日の朝に収穫された果物なども並びます。
乗るなら今のうち!? 月曜日「金の路」
月曜日に出発する「金の路」は他の路と少し異なり、博多と長崎の間を往復する形で運行され、それぞれ片道ずつコースが設定されています。博多から長崎に向かうルートは日中に、長崎から博多に向かうコースは「36ぷらす3」で唯一の夜間にかかる時間帯にそれぞれ運行されています。
実はこの「金の路」、あと1年ほどでコースが変更になることが予想されています。それは、2022年秋ごろの開業を目指して現在建設が進められている「西九州新幹線」により、現在「36ぷらす3」が経由している長崎本線の一部区間が非電化に変更されるため、「電車」で運行される「36ぷらす3」はそのままでは運行を続けることができないためです。ただ、九州の全県を走るのがこの列車の大切なコンセプトですから、新しい形で佐賀、長崎県を走る、魅力的なルートが誕生することでしょう。
2022年10月、リニューアルした月曜日コースの詳細はこちら!
おわりに
「36ぷらす3」の予約は、「ランチプラン・ディナープラン」は公式サイトでのweb予約であれば乗車日の5日前まで、ツアーデスク(TEL:092-686-3639 営業時間/9:30~16:00水曜日・年末年始休業)の電話受付では10日前まで可能です。5、6号車のグリーン席プラン(食事なし)は列車の出発前までJR九州のみどりの窓口、指定席券売機、インターネット列車予約で購入可能です。各コースの運転日、利用料金は公式サイトをご確認ください。
現在「36ぷらす3」でも最大限の新型コロナウイルス感染防止対策をして、運行が続けられています。おいしく、たのしく、心温まる九州の旅を、ぜひみなさんの好きなコースで、好きなスタイル、タイミングで楽しんでみてください。
- ※各種車内メニュー、設備、おもてなしは取材時点のものです。各内容は変更されることがあります。
「36ぷらす3」についてもっとくわしく
著者紹介
- ※写真/村上悠太