トレたび JRグループ協力

2010.11.01鉄道国鉄&JR 列車名研究所 第3回「のぞみ」

―ネーミングの妙と歴史、調べます―

人と同じように列車にもそれぞれ名前がある。ネーミングが“キラリ”と光る列車たち。その名前に込められた想いと、その列車の歩んできた道のりを調べてみました。

第1章 「ひかり」を超えた「のぞみ」デビュー

国鉄は末期に100系新幹線に代わる高速運転が可能な「スーパーひかり」を計画していました。この車両は最高運転速度を100系の220km/hから260km/hに引き上げたもので、東海道・山陽新幹線、東北、上越新幹線、さらに北陸新幹線に運転される構想でしたが、計画は中止されてしまいました。

国鉄民営化後、JRでは航空機需要に対抗、とりわけ東京~新大阪間では同区間を2時間台で結ぶ必要があると判断され、運転速度270km/hの新型車両「スーパーひかり」が改めて開発されることになりました。新型車両の300系は、270km/h運転を達成させるため従来にない技術が導入され、車体は鋼製からアルミ合金となり軽量化を図り、制御方式は新幹線で初めてVVVF誘導電動機駆動方式が採用されました。先頭形状は空気抵抗を考慮した流線型のスラントノーズで、重心を下げるため屋根上の機器を床下に配置し、車体高は100系より400mm下がりました。

この300系による「スーパーひかり」は後の計画で、全車座席指定の着席サービス、到着時間短縮により割増しの特急料金を徴収することになり、列車名も「ひかり」とは別の愛称が考えられました。検討の結果、「のぞみ」の愛称となり、1992年3月14日、東京~新大阪間に華々しく2往復が誕生しました。車両は1990年からテスト走行を行なっていた試作車1編成と、量産車3編成の4編成の300系が投入されました。

「のぞみ」は当初、301A(のぞみ1号)303A(同3号)、302A(同2号)304A(同4号)の早朝、深夜のみの運転で、301Aは新たに新横浜に停車し、代わって名古屋、京都を大胆にも通過とし、東京~新大阪間2時間30分を達成させました。表定速度は206.2km/hと高速でしたが、名古屋、京都の昼行列車の通過は長い東海道本線の歴史でも例が無く、大きな話題となりました(1997年11月に中止)。

1993年3月18日改正からは「のぞみ」は東京~博多間に延長され、300系の増備により毎時1本に増発。東京~博多間は5時間4分に短縮され、大いに脚光を浴びました。1996年3月16日改正からは、東海道区間の運転本数が毎時2本に増強。「のぞみ」は新幹線の主役として君臨し大活躍。黄色の種別表示もまぶしく、本格的な「のぞみ」時代が到来します。


300系 「スーパーひかりモデル」 外観 オレンジカード 300系の開発では「スーパーひかりモデル」として、実物大のモックアップも作られた


300系 「のぞみ」 外観 「のぞみ」最初の形式は300系。同列車を象徴するスタイルで、臨時列車でわずかが「のぞみ」として残る

テツペディア・プチ ちょっと気になる鉄道雑学 #3「のぞみ」

新幹線でデビューの際、愛称は従来公募により決定されていましたが、1991年10月に設けられた「列車名選考委員会」により検討され、明るい夢、希望に通じ、東海道新幹線を象徴する列車として将来にわたって大きく飛躍することを期待して「のぞみ」と命名されました。「のぞみ」の愛称は朝鮮総督府鉄道・南満州鉄道の国際急行列車がそのルーツで、同様の姉妹列車に奇しくも「ひかり」があります。


「のぞみ」 種別カラー  「のぞみ」の種別カラーは鮮やかな黄色

第2章 500系登場。本格「のぞみ」時代へ

1997年3月22日改正では、300系に次いで500系車両が山陽区間にデビュー。新大阪~博多間を2時間17分で結びます。500系はJR西日本が試作したWIN350の試験データを基に開発された量産車で、最高運転速度を世界最高(当時)の300km/hとし、戦闘機のような15mのロングノーズを持ち、斬新で新幹線の常識を覆した車両となりました。

同年11月からは東海道区間にもデビュー。速度制限から300km/h運転を行なえるのは山陽区間のみとなりましたが、同区間の車内では「只今時速300キロ、世界最高速度で運転中です…」などと、航空機の機長の案内放送を思わせる、誇りに満ちた乗務員からの放送も行なわれ、「500系のぞみ」として東京~博多間を4時間49分で運転し躍動的でした。

1999年3月13日改正からは、JR東海、西日本が共同開発した700系が登場。700系は試作車300Xと500系の技術を活かした次世代の経済車両で、最高運転速度は285km/h。東京~博多間は最速4時間57分で運転されます。

「のぞみ」の運転本数は増加し、2001年10月1日改正では東海道区間の1時間の最大運転本数が3本に、2003年10月1日改正では品川駅開業にあわせ、それまでの「ひかり」を「のぞみ」に格上げするかたちで本格的に増発が行なわれ、東海道区間の1時間の最大運転本数は7本に。「愛・地球博」開催による万博輸送が行なわれた2005年3月1日改正では8本となり、「のぞみ」はさらに増強されていきます。

2007年7月1日改正では、700系をベースに進化させたN700系がデビュー。N700系は最速、最良を謳うハイテク車両で、最高運転速度は500系と並ぶ300km/h。車体傾斜システムにより曲線通過速度を向上させ、新ATCなどを搭載。到達時間の短縮が図られ、東海道区間で5分のスピードアップが行なわれました。東海道区間の1時間の最大運転本数も9本と増加します。

しかし、一時は世界の頂点に立ち、絶大なる人気を誇っていた500系車両が2010年2月28日に「のぞみ」定期列車から姿を消します。各駅や沿線では多くのファンが引退を惜しみました。

「のぞみ」は2010年には、N700系(日中の大半)、700系、300系(臨時列車のみ)で運転され、N700系使用列車では東京~博多間が最速下り4時間55分、上り4時間51分。東京~新大阪間が2時間25分で、すべての列車が新横浜、品川に停車しており、2時間30分運転の到達目標のため名古屋、京都を通過させ、運転本数も1日にわずか4本だったデビュー当時に比べ、まさに隔世の感があります。「のぞみ」は日本が誇る新幹線の代表列車として今後もさらに成長していくことでしょう。


0系 「こだま」 500系「のぞみ」 外観 0系「こだま」と離合する500系「のぞみ」。独特のスタイリッシュなフォルムが美しく輝く

700系「のぞみ」 外観 700系「のぞみ」が東海道新幹線を輻輳(ふくそう)する。300系を改良し、優秀な性能で大活躍を続けてきた

N700系 外観 700系をさらに改良したN700系。曲線区間の速度向上も図った最新鋭で、現在の主力車両


コラム 助手の自由研究 幻の試作車J1編成

300系は1990年3月に9000番台が付与され、試作車(J0編成→営業時J1編成)が登場。様々なテストが行なわれ、量産車が製造されました。量産車は1992年2月に誕生しましたが、試作車とは異なるいでたちで登場しました。

大きく異なるのはフロントマスクで、前照灯が角張ったいかついものからやさしい形状に、運転席窓ガラスのデザインも大きく変更されています。先頭部のノーズ傾斜角が量産車では5°高くなり、腰部の膨らみが無くなりました。ブルーの塗装も明るく、量産車からは青15号が採用されました。

異色を放っていた元祖300系のJ1編成は試作車の香りを強く漂わせていましたが、若干の量産化改造を受けながらもその独特の風貌を保ち営業列車に活躍。しかし2000年にひっそりと引退しました。記念すべき322形式9001号車(J1編成・16号車)は、2011年3月開館の、JR東海の「リニア・鉄道館~夢と想い出のミュージアム~」で保存展示されています。


試作車J1編成  異色を放った試作車J1編成。前照灯や前面窓など量産車との違いが分かる


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文・写真:斉木実 写真協力:交通新聞サービス
※掲載されているデータは2010年11月現在のものです。

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