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2021.09.24鉄道YC1系(JR九州)―さながら走るイルミネーション、だけど派手なだけじゃない! その特徴や車内の様子を写真付きで徹底解説

長崎を走るハイブリッド車両! 九州の未来を明るく照らす

鉄道ファンといえば新幹線、観光列車に特急列車が好き……。それはもちろんその通り。
しかし日々の通勤や通学を支える普通・快速列車にも、たまらない魅力が隠されています。さながら実家のような安心感と最先端の技術を兼ね備える不思議な存在、それが普通・快速列車なのです。

今回は、JR九州初の蓄電池搭載型ディーゼルエレクトリック車両(ハイブリッド車両)である「YC1系」を紹介します。
JR九州らしい斬新なデザインに目が行ってしまいがちですが、その乗客サービス、環境への配慮や画期的な動力システムは知れば知るほど興味深いポイントです。
その知られざるヒミツを覗いてみましょう。

LEDがピカピカ光る、その車両の正体は……


JR九州 YC1系

駅のホームに列車が到着したと思って目をやると、車体前面の「顔」がピカピカと光っていて驚いた――。
そんな体験をしたことがあるのなら、きっとあなたは九州の人。入線してきたのはYC1系(か、兄弟車両の821系)に違いありません。車体前面を縁取るLED装飾灯が眩しい、2020年に導入されたばかりの新型車両です。
斬新なエクステリアに目を引かれるYC1系、いったいどんな特徴を持つ車両なのでしょうか?

電車? 気動車? 答えは「ハイブリッド車両」


JR九州 821系、YC1系 821系(左)とYC1系(右)

YC1系は2020年3月のダイヤ改正で、福岡・北九州地区を運転する821系とともに、長崎地区の佐世保線(早岐駅~佐世保駅)・大村線(早岐駅~諫早駅)・長崎本線(諫早駅~長崎駅)を運転する車両としてデビューしました。

どちらもJR九州ではおなじみ、水戸岡鋭冶氏の手によって生み出された豪華絢爛なデザインが特徴です。
ステンレス地色の銀を基調とし、前面は黒に、扉はメタリックオレンジに塗装された洒脱な外観もさることながら、何より目を引くのが車体前面を縁取るLED式装飾灯。
先頭車両は白色に、後尾車は赤色に点灯します。日が暮れてから運転する姿は、まるで走るイルミネーションのよう。


ブレーキの際に生まれるエネルギーをためておく蓄電池

よく似たデザインの821系とYC1系ですが、中身は大きく違います。821系は電化区間を運転する、いわゆる電車。YC1系は非電化区間を運転する、ハイブリッド車両(蓄電池搭載型ディーゼルエレクトリック車両)。その複雑な車両分類のとおり、YC1系はこれまで非電化区間を走っていた従来型の気動車とはまるで別ものです。ディーゼルエンジンで発電した電力と、ブレーキ時に発生するエネルギーによって充電される蓄電池の電力を組み合わせて走行します。いわば「非電化区間を走る電車」のような画期的なシステム。
そのメリットは数多く挙げられますが、おおよそ2つのキーワードで説明することができます。

その名称「YC」の由来は、「やさしくて」「ちからもち」


JR九州 YC1系 "YASASHIKUTE CHIKARAMOCHI"と印字された車体

その系統名「YC1系」の由来は意外にも日本語。821系と共同の開発コンセプトである、「やさしくて(Y)力持ち(C)」のローマ字綴りから頭文字を取って名付けられました。
それでは、いったいどんなところが「やさしくて」、どんな風に「力持ち」なのか、それぞれ具体的に見ていきましょう。

キーワード①「やさしい」…乗客サービスの向上、環境負荷の低減


木材が多用されたインテリア。外観同様、水戸岡鋭冶氏のデザイン

YC1系ではまず、乗客に対する「やさしさ」が一貫されています。
まず注目したいのは出入り口。車体前面と同様の装飾灯が足元を照らしていたり、車両とホームの段差が低減されたりといった配慮によって、さまざまなタイプの乗客が安全に乗降できるような設計になっています。また、案内表示器は4つの言語に対応。日本語を読むのが難しい旅行客などにもありがたいサービスです。
ダウンライトタイプのLED照明で照らされた車内には、ロングシートを中心にボックス席も設置。床面や荷棚、座席のテーブルといたるところに木材が使われた内装は、どこか温かみのある印象を与えます。おしゃれな柄で彩られた座席も、普通列車とは思えないやわらかな空間を演出。
ちなみに、従来車両に比べて一人あたりの腰掛座面幅が拡大されているのもポイントです。

そして従来型の気動車から動力システムを一新したことによる、環境への「やさしさ」もこの車両の大きな特徴です。
動力をディーゼルエンジンによる発電式モーターに置き換えたこと、ブレーキ時のエネルギーを蓄電する仕組みを導入することにより、約20%もの燃料消費量を削減し、CO2の排出量や騒音を抑制することに成功しました。

キーワード②「力持ち」…安全・安定輸送の追及


「力持ち」とはすなわち、その動力の効率的な運用やリスクヘッジによって安全・安定輸送を追及すること。先に見た蓄電池のアシストによる走行性能の効率化もその一つです。
そのほか、台車ごとにブレーキ制御を備えて冗長化を実現したり、電車のシステムに近づけることで気動車特有の故障要因を排除したり、車両・地上設備の状態を把握する状態監視を実施したりと、一見してわかりづらいところにも安定的に乗客を運ぶための工夫が。

乗客や環境への配慮を欠かさず、鉄道車両として確実に仕事を遂行するその姿は、まさに「やさしくて力持ち」という言葉がぴったりです。

そのLEDは、九州の未来を照らす


JR九州 YC1系

前面をLEDで輝かせているYC1系ですが、派手なだけではありません。これからの標準型として、JR九州の定期列車を担っていく重要な車両です。
地元の公共交通となっている列車も、いつのまにか大きく様変わりしています。未来の常識となるだろう走行は、一見(一乗?)の価値あり。あなたの「いつか乗りたい列車リスト」に加えてみてはいかがでしょうか。

  • トレたび編集室/編
  • 写真/交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2021年9月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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