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2021.12.01鉄道735系(JR北海道)―遭遇頻度はウルトラレア。その開発目的や733系との違いは?

広い北海道にたった6両! 雪国の実験精神あふれる735系とは

鉄道ファンといえば新幹線、観光列車に特急列車が好き……。それはもちろんその通り。
しかし日々の通勤や通学を支える普通・快速列車にも、たまらない魅力が隠されています。さながら実家のような安心感と最先端の技術を兼ね備える不思議な存在、それが普通・快速列車なのです。

今回は、JR北海道の通勤型車両「735系」を紹介します。
側面に帯のない、まっさらなアルミ車体。JR6社の中でも非常に珍しい姿をしているこの735系は、実はJR北海道においてわずか6両しか運用されていません。
どうしてそんなに少ないのか? その答えは、北海道の「寒冷な気候」と「環境負荷軽減への挑戦」にあります。

とってもレアな車両・735系とは?

あれっ、車体に「帯」がない!


JR北海道 735系 1号車735系、2号車731系の編成

北海道で、駅のホームに列車が到着したと思って目をやると、何か違和感を抱いた。なんだろう? 普段と何か違う気がする……。
――そうか、この車両は、側面に「」がない!

と、いう体験をしたことがあるなら、あなたはとてもラッキー。
それはJR北海道にたった6両(2編成)しか存在しない、「735系」に違いありません。JR北海道の通勤型列車では標準的な、側面の萌黄色の帯が存在しない珍しい車両です。上の写真を見てみても、連結している731系と比較すればそのレアな雰囲気は一目瞭然。

しかし、735系の希少性を高めているのはその外観だけではありません。
最大のポイントは、その車体に使われている素材。鋼鉄製やステンレス製ではなく、アルミ合金製(先頭部のみ鋼鉄製)なのです。

それはつまり、どういうことなのでしょう?

アルミ車両と軽量化


JR北海道 735系 735系と735系の編成

戦前、鉄道車両といえばほとんど鋼鉄製でした。今では主流とも言えるステンレス車両が現れるのは1950年代のこと。アルミ車両の登場はさらにその後、1960年代を待たなければなりません。
鋼鉄やステンレスに対して、アルミ車両の最大のメリットはその「軽さ」にあります。たとえば新幹線で比較すると、鋼鉄製の100系が1両あたり54.2トンだったのに対し、アルミ合金製の300系は1両あたり40.5トン。実に25%という大規模な軽量化に成功しています。

鉄道を効率的に運用するために、車両が軽いことは非常に重要です。車体そのものを動かす労力もありますが、何より大きな理由は、出発時や走行時に発生する膨大な抵抗が車体の重量に比例するからです。すなわち、車両のわずかな軽量化が大きな省エネにつながるということ。廃車後のリサイクル性に優れるという特長も相まって、アルミ車両への置き換えは、環境への負荷を軽減しようとするにあたって避けられない挑戦なのです。

しかし、北海道は寒冷地。構体の熱伝導率や熱膨張率の違いによって、冬期間の不具合発生や電蝕の可能性が本州以南とは異なります。
そのような状況下でのアルミ車両の運用は日本国内で例がなく、その大量導入にあたっては検証が必要でした。

そこで2010年、試験的に開発・導入されたのが735系。アルミの身体で雪国を駆ける前代未聞の車両は、北海道における鉄道の省力化という目標のもと、2010年のデビューから順次、函館本線や千歳線といった路線に3両編成×2本の計6両という少ない本数で走り始めました。

ステンレス車両・733系の登場と735系の現在

デビュー2年後、ステンレス製の兄弟ができました


JR北海道 733系 こちらはステンレスでできている733系。萌黄色の帯あり

2010年の735系6両導入から2年が経った2012年、ステンレス製の733系が登場。番号が735系より若いので誤解されがちですが、735系よりも後に登場した車両です。
733系は735系のステンレス製版とも言われる、性能の多くを共有している兄弟車両で、学園都市線の電車化に伴い大量に生産・導入されました(このとき、一部の735系も同時に、学園都市線に導入されています)。

いまのところ札幌近郊の通勤・通学はこの733系が主力を担っており、加えて2014年には指定席車両「uシート」を連結して「エアポート」でも活躍する3000番台が、2016年には「はこだてライナー」用の1000番台がデビューするなど、中・長距離路線にもその役割を拡大しています。
アルミ合金製の735系はいまだ試験導入された6両のみで、そこから増備されたことはありません。これが、735系が非常にレアな理由です。

バリアフリー化をめざした735系・733系


735系・733系では乗降口のステップが廃止(写真は733系)

アルミ車両・ステンレス車両という大きな違いがある735系と733系ですが、設備の面では多くの共通項があります。
それまで札幌地区近郊の運輸を主に担っていた731系と比較して、特に注力されたのがバリアフリー化。様々なタイプの乗客に対し、快適性を担保するねらいが見て取れます。

その実例としてもっともわかりやすいのは、室内底面が低くなり、乗降口のステップが廃止されたことです。これにより車いすの利用者を含む多様な乗客が段差に悩まされることなく乗降することが可能になりました。
同様の目的のために、車いすでも利用しやすい大型のトイレを設置したり、優先席の色をオレンジに統一して明確化したりといった工夫を凝らしています。

また、吊り手や手すりの増備、客室スペースの拡大といった基本的な改善も注目したいところ。この車両の導入によって、札幌近郊の列車のバリアフリー化は一歩前進を遂げたと言うことができるでしょう。

見つけたら、ぜひとも乗ってみたいところ


鉄道車両は、地域や会社の考え方にもよりますが、概して時代とともにより軽くて強靭な素材が求められてきました。
それは鉄道という大量のエネルギーを必要とするインフラを、持続可能な状態で運用していくという目的に即したものだと考えられます。
北国において帯のない車両を見かけたら、それは幸運なこと。もし急いでいないのなら、少し目的地から逸れて乗ってみるのもいいかもしれません。

  • トレたび編集室/編
  • 写真/交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2021年12月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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