吉川さん流の駅弁の楽しみ方とは?
『JR時刻表』2025年12月号(11月20日発売)巻頭特集にて、駅弁の魅力や楽しみ方について熱く語ってくださった吉川正洋さん。誌面では語りきれなかった、鉄道を好きになったきっかけや駅弁にまつわる思い出など、吉川さんならではのエピソードをフルバージョンでお届けします。
『JR時刻表』×トレたび連動企画です。
「見鉄」に熱中した子ども時代
――物心がつく前から鉄道がお好きだったとか。
吉川さん 2歳のころでした。当時、小田急線の沿線に住んでいたんですが、成城学園前駅と喜多見駅の間に不動橋っていう橋があって。その上から、小田急ロマンスカーの3000形が走っているのが見えたんです。それでビビビッときました。「なんてかっこいいんだ!」と、2歳ながらにものすごいオーラを感じて、動けなくなったんですね。
――まず、「見る」ことから始まったんですね。
吉川さん 子どもだと、車両の大きさや外観のかっこよさ、スピードなんかを見たい。跨線橋とか、線路沿いの公園とか、いろんなところで電車を見まくってました。東急のオールステンレス車両の銀色とか、西武の特急「レッドアロー号」のフォルムも好きで。ジャンルとしては、「見鉄」とでも呼べばいいんでしょうか(笑)。
国鉄時代に撮影された中央線 201系(写真提供=編集部)
――とにかくたくさん列車を見ていたわけですね。
吉川さん 国鉄時代の中央線201系がデビューした時には、むちゃくちゃかっこいいと思いましたね。新幹線は団子鼻の0系から始まって、そのうち先端が尖った100系が出てきたり。私鉄は私鉄で、国鉄に負けないぞ!っていうデザインをしていて。見ているだけでも本当に楽しかったです。
――乗り鉄を楽しむようになったのはいつごろからですか。
吉川さん おこづかいをもらえるようになってから。よく運賃表を眺めて、おこづかいでどこまで行けるかなーって考えてました。小学1年の時には、箱根湯本駅まで急行に乗って一人旅もしたんですよ。前面展望にかぶり付きで、2時間ぐらいずっと運転席や前方の景色を見ていた記憶があります。親は心配だったと思うんですけどね。「正洋、朝に出ていったきり帰ってこないけど、どこ行っちゃったんだ?」って。夜に帰って「箱根まで行ってきたよ」って伝えたら、「え! ウソでしょ!?」って(笑)。
吉川さん流、駅弁の楽しみ方
――子どものころにはどんな鉄道旅を?
吉川さん 一人旅は、おこづかいに限りがあるので、駅弁は買えませんでした。初めて食べた駅弁は、はっきりと覚えています。小学生のころ、東海道新幹線に乗って家族で親戚の家に行ったんです。忘れもしない、その時に東京駅で買ってもらった「チキン弁当」が本当においしくて。岡山行きの列車の車内で食べて、外には富士山も見えました。満喫してましたね。昔ながらの「大船軒サンドウヰッチ」も大好きでした。
――両方とも、現在でも販売されていますね。
吉川さん 今でも食べると記憶がよみがえります。味と思い出がリンクする、それが駅弁の良さですね。ちなみに、今では「チキン弁当」の唐揚げだけのもの(チキン弁当の唐揚げ)も販売されてますので、それを買ってお酒のつまみにすることもあります。僕ももう47歳で、大人なんで、子どものころと食べ方を変えてみたりして。
仙台駅で販売している「仙台名物牛たん弁当」
――吉川さんといえば、「先走り弁」を提唱されていますね。
吉川さん 日本各地の駅弁が一堂に会している、東京駅の「駅弁屋 祭」で目的地の駅弁を買って、行きの車内で食べて体を現地モードに持っていく。これを「先走り弁」と呼んでいます。仙台に行くぞ!っていう時には、前のめりになって「仙台名物牛たん弁当」で仙台モードにしていく。向こうでも牛タン、食べるんですけどね(笑)。
――先走り弁の食べ方におすすめはありますか。
吉川さん こだわりがあるとすれば、「すぐ食べない」ということ。楽しみを後に取っておくんです。例えば目的地が新大阪だとしたら、車内で過ごす時間は2時間半くらい。どのタイミングで駅弁を食べるかで楽しみ方が変わります。東京駅を出るといろんな鉄道が見られますし、僕はまず車窓の景色から鉄道補給をするわけです。東急多摩川線が走ってるかな、相鉄線は見えるかなって。あと、ビルのガラス窓に自分が乗っている列車が映り込むのを見て楽しむ「反射鉄」っていう趣味もありまして、自分の中で押さえておきたいポイントがあります。まるで鉄道のダイヤを組むような感覚で、車内でどう過ごすか計画を立てます。それで駅弁の時間をうまく中盤に持ってこれた日には、よくやったと自分に言いたい!
高知駅で販売している「カツオたたき弁当」(写真提供=吉川正洋)
――一方で、現地でしか購入できない駅弁もありますよね。
吉川さん 駅の近くに絶景があったら、そこで食べるのがいい。北海道の「母恋めし」なら地球岬とか。もちろん、帰りの車内で食べるのもいいですよね。これは「お別れ弁」と呼んでいます。さよなら〜、です。お別れ弁の時間、つまり帰るころって18時、19時とかなのでけっこう売り切れちゃってるんですけど。でも、たまたままだ売ってたりしたらそれを買って、旅を思い返しながら食べます。そうやって、車窓の景色を見ながらお別れ弁を食べて……まあ遅い時間だと、もう真っ暗で何も見えない時もありますけど。
――いろいろな楽しみ方をされているんですね。
吉川さん 僕は野球も好きで、「横浜DeNAベイスターズ」を応援しているんですが。以前、負けが続いた時に、願掛けとして、いつも筍煮から食べていた「シウマイ弁当」をあんずから食べてみようと思いつきました。あんずは締めにお口直しとして食べる方が多いと思うんですけど、僕は、ベイスターズのためにあえて最初にしてみようと。そしたら、勝ちだしたんですよ! それからというもの「シウマイ弁当」を食べる時には、必ずあんずから食べるようになりました。
果てしなく広がる鉄道趣味
――吉川急行電鉄(吉川さんが考案した架空の鉄道会社)のオリジナル駅弁を作るとしたら、どんなものにしますか。
吉川さん テーマは「鉄分補給弁当」。具材はホウレンソウや赤身の肉など、実際に鉄分豊富な食材を使います。それにプラスして、絶景のポストカードや鉄道知識を得られるクイズ、吉川オリジナルの鉄道なぞなぞを付ける。100問くらい入れたいですね。
――盛りだくさんですね!
吉川さん あとは「詠み鉄弁当」。駅弁の蓋を取ると、ごはんに海苔で駅名が書いてある……とか(笑)? 「詠み鉄」というのは、同じ路線に並んでいる駅名で、五七五になっているところを探して一句詠むというものなんですが。例えば、東京メトロ東西線だと「東陽町、南砂町、西葛西」。JR総武線は「信濃町、四ツ谷、市ケ谷、飯田橋」。JR山手線・京浜東北線は「浜松町、田町、高輪ゲートウェイ」。実はいっぱいあって、今のところ全国で70カ所くらい見つけました。
――そんなに! どうやって探すんですか。
吉川さん 時刻表を使いました。ひらがなで駅名を書いているところがあるんですよ。それを細かく見て、「ここ、五七五になってるじゃん!」って。時間はかかりますけど、これが楽しくて。京急久里浜線の「津久井浜、三浦海岸、三崎口」もお気に入りの句です。
――時刻を調べる以外の用途が、時刻表にあったんですね……。
吉川さん これがあればずっと遊べますから、無人島に何か一つ持っていくとしたら時刻表ですよ。「◯時△分発の✕✕行きの列車に乗って……」とか、頭の中で旅の行程を組めば、妄想旅行もできますし。そのなかで乗りたい列車を探して、実際に乗りに行くこともあります。
――具体的に想像しますか?
吉川さん しますねー。朝の時間帯だと「この列車には、通学の学生さんがたくさん乗ってるんだろうな」って。ただ数字が並んでいるだけかと思いきや、一つひとつにストーリーがありまして。まるで宇宙のように広がっているんです。
1997年まで運行していた特急「あさま」(写真提供=交通新聞クリエイト)
――駅弁も、時刻表も、奥が深いんですね。
吉川さん 駅弁の味と旅の記憶はひもづいていますけれど、これは時刻表も同じですね。時刻ページを見ていると頭の中でタイムスリップできて楽しいです。以前、お正月に家族で軽井沢に行ったんですけど、僕だけ予定があって一人で先に帰ったんです。昔の時刻表にその時乗った特急「あさま」の名前を見つけると、思い出します。乗車前に軽井沢駅で「峠の釜めし」を買いました。あれはおいしかったな〜。
著者紹介
JR時刻表2025年12月号
- ※取材・文=信藤舞子、撮影・写真=交通新聞クリエイト(撮影は木田慎一)
- ※掲載されているデータは2025年11月1日現在のものです。



