スマホで夜鉄! 夜ならではの鉄道の魅力をスマホで気軽に楽しむ方法とは?
夜の鉄道“夜鉄〈やてつ〉”をいつもとは違う視点から楽しんでみたい方必読!
闇歩きガイドの中野 純さんが、身近な鉄道の夜の姿をスマホを使ってディープに楽しむコツを紹介します。
JR時刻表×トレたび 連動企画です!
夜の電車は違う「場所」を走る
私たちはふだん、太陽が沈んでからの時間が夜だと思っています。
でも夜は、時間というより「場所」かもしれません。太陽が沈むのでなく、地球上の私たちが太陽の見えない側に移動しているのですから。
私たちは毎日、地球という星に乗って、地球の自転でぐるりと回って夜という場所へ行きます。いつだって、地球の半分は夜。夜は昼の反対側に常に存在している別の場所なのです。
夜へ行くと暗くなって、風が変わって昼の空気とは違う夜気になります。
夜の電車も昼間とは違うように感じられます。発光しながら闇を走る電車を眺めていると、巨大な生き物のように感じたりします。乗り慣れないローカル線に夜遅く乗ると、『銀河鉄道の夜』のジョバンニや『銀河鉄道999』の鉄郎のような気分になります。
そんな夜の鉄道の幻想性は、意外にもスマホを使うことでますます高まります。
最近のスマホは、かなり暗くてもかんたんにきれいに撮影できます。
スマホを使って夜の鉄道を楽しむコツを、いろいろ紹介しましょう。
よく見えないのがいい 【遠電〈えんでん〉】【水電〈すいでん〉】【背電〈はいでん〉】【眠電〈みんでん〉】
【遠電〈えんでん〉】
まずは【遠電〈えんでん〉】です。
夜の電車を眺めるなら、鉄道からどんどん離れましょう。
夜の電車は動く発光体です。高い所や畑越しなど、遠くから夜の電車を眺めると、まるでスローモーションの流れ星。地上に天文現象を見るような気分になります。
これなら落ち着いて長々と願い事を唱えることができるので、欲張りさんも大助かりです。
【遠電〈えんでん〉】地上の流れ星のような夜の電車を、動画におさめてみましょう。
暗い山際などをカーブしながら走る電車は、光る白竜が巨体をくねらせながら超低空を飛ぶ姿にも見えてきます。
上りと下りの列車が左右からゆっくりやってきて、長い光の列が合体するのも、すごく遠くから見ると不思議な生命現象かなにかのようです。
【水電〈すいでん〉】
お次は【水電〈すいでん〉】。
水月を愛でるように、夜の川面に映った電車を愛でましょう。
大きな川の下流で、川面がなるべく暗くて(つまり周りが暗い)、鉄道橋に近い道路橋から見ると、まるで電車が川をゆらゆらと泳いで渡っているようです。
都会では、ガラス張りのビルに映る「鏡電」も楽しみましょう。
【水電〈すいでん〉】スマホで動画を撮影し、自宅で川面に映った電車を見て楽しむのも一興。
【背電〈はいでん〉】
夜の電車は走る照明装置ともいえます。いろんなものを束の間、強く照らして去っていきます。
草木越しに夜の電車を見ると、流れる光を背に草木の影が浮かび上がり、花や葉が光に透けて、一瞬の幻夢のように美しいです。
これを【背電〈はいでん〉】と呼びましょう。
【背電〈はいでん〉】草木越しはより幻想的な光景が広がります。
【眠電〈みんでん〉】
発光をやめた夜の電車も、味わい深いです。
夜が更けると、意外に身近な留置線でひっそり就寝する【眠電〈みんでん〉】が見られます。
明治のころ、夜に偽汽車と呼ばれる幻の汽車が走ると噂され、狐狸(こり)のしわざと考えられました。
消灯して走る夜の回送電車は、ちょっと偽汽車を連想させてくれます。
【眠電〈みんでん〉】電車だって夜は眠りにつきます。
撮ったあとに夜らしく調整
夜の撮影はふつう、露出時間がかかるので、スマホを三脚に据えるのがベストですが、夜の電車は明るいので、ズームしないかぎり手持ちで大丈夫です。足を開いて立ち、脇を締め息を止めて、スマホがあまり動かないようにして撮ります。
【遠電〈えんでん〉】は、スマホのナイトモード(夜景モード)で露出時間を長くすれば、電車の光がひと連なりに伸びて流星っぽく撮れます。【水電〈すいでん〉】は、光が流れないでひとつひとつの窓がわかるように撮ったほうが幻想的なので、ナイトモードをオフにして短い露出時間で撮影します。
だれでもスマホでかんたんに流星っぽく撮影できます。写真は【遠電〈えんでん〉】
大きな川に架かる橋は結構揺れます。
【水電〈すいでん〉】の撮影では、スマホかスマホカバーにストラップを付けるなどして、川にスマホを落とさないようにしましょう。落としたらまず救い出せません。
と書きつつ、私は買ったばかりのスマホになにも付けずにあちこちの橋で撮影したので、死ぬほど緊張しました。
よい大人は真似しないでください。
ナイトモードなどで撮ると、明るくくっきり鮮やかな写真になり、それはそれでいいのですが、肉眼での実際の見えかたと違いすぎて、夜の雰囲気が損なわれると感じることも多いです。
そんなときは、撮影後に写真アプリの編集機能などを使って、ササッと調整するといいです。
実際の見えかたに近づけるには、「露出」「ハイライト」「彩度」を少し下げます。
スマホの車窓と哀しい恐竜
外から眺めるだけでなく、電車の中でも夜を楽しみましょう。
夜の車内は明るくて外の景色が見づらいですが、スマホを窓にびっちり付けてカメラアプリを立ち上げれば、車内灯の反射がかなり抑えられて、外がよく見えます。
スマホの小さい窓にスクロールしていく夜の景色は、別の世界の不思議な景色のようです。
また、電車に乗っていると、車両が「キューイ、クーイ」と驚くほど大きな音で鳴くときがあります。
とくに夜更けの停車中の車内では、周りが静かなのでそれがますます大きく切なく聞こえます。
これは、乗り心地をよくするために車体と台車の間に組み込まれた空気ばねが、人の乗り降りやカーブの傾きなどで伸縮するときに出る音だそうです。
音が小さいときは犬が甘える声みたいですが、大きいとまるで、仲間はとっくに絶滅したのに一頭だけ生き残ってしまった恐竜の、哀しい呼び声のように思えてきます。
“夜鉄〈やてつ〉”の楽しみかたは、まだまだいろいろあるでしょう。昼とは違う夜の鉄道を愛でましょう。
どこからか「銀河ステーション、銀河ステーション」というアナウンスが聞こえてくるかもしれません。
著者紹介
JR時刻表2022年1月号
- ※文・撮影/中野 純
- ※掲載されているデータは2021年12月現在のものです。
- ※撮影の際には所有地には立ち入らず、また、安全を確保してお楽しみください。