あなたにとって思い出深い一品はありますか?
毎月、駅で出逢える全国各地のグルメを紹介する連載「駅グルメ」のVol.02です。
今回のグルメは駅弁「母恋(ぼこい)めし」。
最新のエピソードは、毎月発行の『JR時刻表』で公開中!
母の味が恋しくなる懐かしさを胸に、アートな駅弁!
駅弁の醍醐味のひとつは「懐かしさ」だ。昔、母親に握ってもらったおにぎりの味のように、あの日の優しい思い出がよみがえってくる。
そんな気持ちになれる駅弁のひとつが、北海道の室蘭本線 母恋駅の「母恋めし」だ。元々、地元の郷土料理コンクールで受賞したメニューを2000年に駅弁にアレンジして誕生した。
母恋という地名は、先住民の言葉で「ホッキ貝がたくさんある場所」の意。その名の通り、蓋を開けるとホッキ貝の炊き込みご飯おにぎりが2つ現れた。
最大のこだわりは調理に使う塩。駅弁のために海水を汲みに行き、自ら塩を作っているという。なんと、駅弁のために塩を作るとは!
揺れる列車でも食べやすいよう箸の要らない構成として、付け合わせのたまごとチーズは保存性を考慮し燻製とした。ここに旅人の安全を祈る駅弁屋さんの心がある。
開発した御年86歳のご主人と奥様の本業はなんと工芸家。港近くにある工芸品の販売拠点で始めた喫茶店で出した弁当が好評を博し、街なかの拠点を求めて行きついた先が「母恋駅」だった。
いまも朝5時起きでご夫婦とご子息が心を込めて1日40個の「母恋めし」を作り上げるが、昼前には完売となることが多い。貝殻の工芸品に包まれたホッキ貝のおにぎりは、もはや駅弁を超えたアートである。
ちなみに「母恋めし」には1日1個だけ、「幸せ通行手形」と装飾された貝殻が入るという。手に出来ればまさに幸運だ。
母恋駅
幸せ通行手形の貝殻
この母恋駅があるのは、長万部と岩見沢を結ぶ室蘭本線のなかでも、室蘭~東室蘭間の「支線」である。
元々、道内で産出された石炭を室蘭港から積み出すために敷かれた路線であり、今も残る複線の線路は石炭輸送が華やかだった時代を感じさせる。
母恋駅へは札幌から室蘭へ直通する特急〔すずらん〕(一部列車を除く)が便利で快適だ。途中の室蘭本線 白老~沼ノ端間は日本の鉄道で最も長い直線区間。「母恋めし」の温もりと共に、心が真っ直ぐだった頃が思い出されてきた。
特急〔すずらん〕室蘭本線・虎杖浜~登別間
特急〔すずらん〕函館本線・白石~苗穂間
母恋(ぼこい)めし
発売駅:母恋駅 ※販売駅は代表駅のみを記載しています。
ねだん:1,650円(税込)
製造元:母恋めし本舗
次号は駅弁「えびめし」。
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- ※『JR時刻表』2025年8月号掲載時点の内容です。
- ※取材・文・画像=望月崇史
- ※イラスト=佐藤妃七子