2022.09.20鉄道ここが鉄道史の“始発駅” 新橋駅長×桜木町駅長 特別対談
2022年10月14日で「鉄道開業150年」! 鉄道史の原点ともいえる旧新橋停車場で駅長が語る鉄道への思いとは…?
1872(明治5)年10月14日、新橋~横浜(現 桜木町)間から鉄道の歴史が走り出しました。その“始発駅”で駅長を務める2人の特別対談を旧新橋停車場で実施。鉄道への思いや駅長という仕事について話を伺いました。
『JR時刻表』×トレたび 連動企画です。
「鉄道開業150年」の節目に、両駅長が思う鉄道の過去・現在・未来
駅長としての役割、そして駅長が薦める“始発駅”の見どころ
長井善幸 桜木町駅長(長井) まさかこんなかたちで対談するとは夢にも思いませんでしたね。
深谷康人 新橋駅長(深谷) 鉄道開業150年のおかげですね。4~5年前は私がJR東日本東京支社営業部の業務課長、長井駅長は横浜支社の業務課長で、駅輸送、営業制度、券売機や自動改札機の管理など駅業務に関わる仕事をしていましたね。
長井 東京支社と横浜支社は隣り合う支社だから、打ち合わせなどいろいろと連携しましたね。
――そんなお二人がこれまでの経歴で印象に残っていることは何ですか?
深谷 川越駅と南浦和駅の駅長時代が思い出深いです。川越は埼玉県の観光地で、他の鉄道会社と一緒に地域振興に取り組みます。祭りやイベント、観光協会などの委員も務めるので、駅長は街の盛り上げ役でもあることを実感しました。祭りに合わせて特別に臨時列車も走らせるので、地域に貢献できることも誇らしかったです。一方、南浦和駅はどちらかというと通勤・通学を支える駅という印象でした。さいたま車両センターが近くにあり、朝の通勤時間帯に本線へ電車を出す(出区[しゅっく])管理もしました。タイプの違う2つの駅を通じて駅長職にやりがいを見いだせました。
長井 私も初めて駅長を務めた時ですね。担当した横浜線の菊名駅は当時、バリアフリー化されていない旧駅舎でしたし、周辺の大型施設のイベントがあるたびに大忙しでした。しかも、連絡する東急線とは改札口が分離していなかったので苦労しましたね。ただ、この経験が今の桜木町駅では生かせていると思います。
深谷 桜木町駅長に就任が決まった時は、今までとは違う気持ちでしたか?
長井 やっぱり鉄道発祥の駅という存在は大きいですね。そこで働く者として、先人たちに敬意を払いながらプライドと誇りを持って行動することを常に意識しています。また、社員にもそのことを伝えています。
深谷 私は今年7月に就任したばかりで、以前は新橋駅を管轄する東京地区指導センターにいました。当時から新橋駅の開業150年の施策について聞いていたので、新橋駅は大変だけど頑張ってほしいなあ、って思っていたんです(笑)。
長井 そうだったのですね。
深谷 それがまさか自分が駅長になるなんて。重圧は確かにありました。就任初日は出勤前にここ(旧新橋停車場)に寄って、まじまじと眺めて一回りしましたよ。これから頑張ろうと決意して。改めて開業150年の歴史は偉大だと思いますし、よくぞここまで作ってくれたと思わずにはいられません。鉄道開業から続々と鉄路が全国に広がり、日本列島を活性化しました。今があるのも、熱意を持ってさまざまな困難に立ち向かった先人達のおかげです。
――新橋駅、桜木町駅のおすすめスポットを教えてください。
深谷 新橋駅なら旧新橋停車場はもちろん、明治時代にできた煉瓦(れんが)アーチ、約50年前にできた地下連絡階段のステンドグラス(くじゃく窓)など、歴史を感じる場所がいくつもあります。
長井 桜木町駅では駅直結の「旧横ギャラリー(旧横濱鉄道歴史展示)」はぜひ見てほしいです。開業当時に走っていた110形蒸気機関車をはじめ、原寸大レプリカの中等客車やパネル・ジオラマなども展示しています。
深谷 博物館のコーナーみたいで立派ですよね。新橋駅のSL広場にある機関車は塗りなおしていただいたのでピカピカです。汽笛も12時、15時、18時に鳴りますよ。
――駅長の仕事について教えてください。現場に立つこともあるのですか?
深谷 新橋駅は通勤のご利用も多いので、毎朝の巡回でホームには立ちますね。
長井 ええ、桜木町駅でも駅構内の巡回をしています。
深谷 駅長は駅の中で起こるすべてのことを円滑に行えるようにするのが仕事。たとえば、お客さまの導線に支障はないか、改札では精算業務や自動改札機に問題はないか、などをチェックします。毎朝エスカレーターやエレベーターの点検、諸業務を安全に速やかに行うための訓練や勉強会のほか、接遇面や営業知識の向上、急病のお客さまの救護や輸送障害時の対応、清掃会社・構内店舗や地域との連携、そして社員の将来を考え主体的に考えて行動できるような育成も重要ですね。これらが重なり合ってお客さまの日々の安全なご利用につながっていると思っています。
長井 そう、コロナ禍においても駅運営でお客さまへの影響がないよう、社員には自覚を持った行動をしてもらっています。駅の弱点を見つけて改善策を考えることも重要です。要は駅全体のマネジメント。安全、サービス、営業のすべての責任を担っているといったところでしょうか。
深谷 私にとって駅は野球チームみたいなもので、若手からベテランまでさまざまなポジションの人たちを含めて、“チーム新橋”なんです。だから駅長は、1日何万人というお客さまに安全で快適にご利用いただくため、チームを作り上げる監督業のような感覚ですね。
鉄道の強みや個性を再注目する機会に
――日本の鉄道の魅力は何でしょうか?
深谷 全国に鉄道網が発展し、駅はその地域の玄関として賑わいを生みます。車窓も四季折々で楽しめますし、新幹線や観光列車などバラエティも豊富です。
長井 地域の特性を生かしたさまざまな楽しみ方ができる「のってたのしい列車」が充実していますね。
深谷 安全で時間も正確。車内清掃もきちんと行き届いているからきれいなのも魅力。
長井 そう、安全性と正確性は世界に誇れるポイント! 海外の方は驚きますよね。
――そんな日本の鉄道で、今乗りたい列車やおすすめの鉄道旅を教えてください。
深谷 今年は開業150年ですし、新幹線からSLに乗り継ぐ旅がしたいですね。例えば、高崎から〔SLぐんまみなかみ〕や〔SLぐんまよこかわ〕に乗る旅とか。今昔の技術と最先端を乗り比べるなんて面白いかなと。どうでしょう?
長井 私も群馬出身なので、〔SLぐんまみなかみ〕〔SLぐんまよこかわ〕はぜひ乗っていただきたい。あとは、今や貴重な寝台特急の〔サンライズ出雲〕〔サンライズ瀬戸〕に乗ってのんびりと旅したいですね。
深谷 思い入れのある寝台特急はありますか?
長井 小学生の時、九州への家族旅行で〔富士〕に乗りました。初めての寝台特急で嬉しかったですね。
深谷 寝台特急では夜中ずっと起きているんですか?
長井 寝るなんてもったいない! って感じなんですよね(笑)。車窓からの景色は乗った人しか眺めることができませんからね。……あ、景色といえば、長野支社勤務時代に見た、日本三大車窓のひとつ、篠ノ井線の姨捨(おばすて)駅からの景色は圧巻ですよ。善光寺平が一望できるんです。
深谷 いいですね。絶景といわれる景色も、車窓だと体力的にもラクに楽しめますね。
長井 わかります。車窓に加えて車内イベントなどもある「のってたのしい列車」もおすすめしたいですね。
――今後の「思い」を聞かせてください。
深谷 150年を迎えることができたのは、ご利用いただいているお客さまや地域の支えがあったからこそ。鉄道を愛するみなさまのために、鉄道に関わる私たちは安全、そして安定した輸送を心がけてこれからも努力を続けてまいります。
長井 そうですよね、それにはまず「安全」が重要。鉄道会社としてお客さまの心が離れないように安全を第一に今後もしっかり取り組んでいきます、と改めてそう伝えたいですね。
深谷 節目の年を迎えられたことに感謝し、これから先の未来につなげていかないといけませんね。
長井 160年、180年、200年……と鉄道の未来は続いていきますからね。
新橋駅長の深谷さん(左)1989年入社。川越駅長・南浦和駅長を歴任し、2022年より新橋駅長を務める。
桜木町駅長の長井さん(右)1991年入社。菊名駅長を経て、2021年より桜木町駅長を務める。
今回対談した場所「旧新橋停車場」
著者紹介
『JR時刻表』2022年10月号 特集「鉄道はここから始まった」もあわせてチェック!
JR時刻表2022年10月号
- ※取材・構成=下里康子
- ※撮影=交通新聞クリエイト
- ※会場提供=旧新橋停車場
- ※掲載されているデータは2022年9月1日現在のものです。