日本各地の駅弁150~170種という圧巻の品揃え
早朝から店を開け、閉店間際まで客足の絶えない驚異の駅弁専門店「駅弁屋 祭」が、東京駅の中央通路に店を構えて10年。北は北海道、南は鹿児島まで、日本各地の駅弁が一堂に会するだけでなく、時間帯・季節によっても手に入る駅弁が変わるのだ。
今回は店長の高井伸也さんと、弁当企画・営業グループのシニアマネージャー 津野田隆正さんにお話を伺った。
『JR時刻表』×トレたび 連動企画です。
始まりは、年2回開催の駅弁大会
東京駅の中央通路に構える店。山車・ちょうちんなどで飾られ、祭気分も味わえる
『こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当』は、海鮮系駅弁の横綱的存在だ
東京駅の「駅弁屋 祭」が丸の内中央口と八重洲中央口をつなぐ中央通路の一角に看板を掲げたのは、2012(平成24)年8月9日。
「最初は、年に2回の駅弁大会でした」と誕生のきっかけを教えてくれたのは、弁当企画・営業グループのシニアマネージャー 津野田隆正さんだ。「駅弁屋 祭」の前身は飲食店。そこで4月と10月に駅弁大会を開催し、好評を得ていた。やがて大会は毎月恒例と化し、「せっかくなので毎日駅弁大会を」と、開業に至ったという。それまでも東日本エリアの駅弁だけで100種近くを揃えていたが、日本各地に声をかけて拡充。現在、150〜170種もの駅弁が店頭をにぎわせ、まさに日々“祭”状態となっている。
深夜も稼働⁉ 24時間体制で売り場を支える
「駅弁の炊き込みごはんがマイブームです」と、頬を緩める店長の高井伸也さん
開店は新幹線始発前の朝5時30分。にも関わらず、店頭にはすでに日本各地の駅弁がずらりと並び、驚いた経験はないだろうか。
「夜中に到着する駅弁もあるんです」。
店長の高井伸也さんによると、駅弁の運搬方法は大きく3つに分かれているという。
1. 駅弁製造会社から深夜に運び込まれるもの
2. 空輸を用い、朝一番に羽田空港からトラックで運搬されるもの
3. 新幹線で日中に運び込まれるもの
現在店舗には70名ほどのスタッフがいるが、その中の10名ほどが、早朝の開店に間に合うようにと深夜に到着する駅弁の検品作業に勤しんでいる。
ちなみに、人気の『峠の釜めし』は昼前、郡山駅名物の『海苔のりべん』は昼過ぎの品出しが多いという。
「弁当の売れ行き次第で日ごと並べる場所が変わりますが、時間と陳列場所の見当をつけて、じっと待つお客さまもいらっしゃいます」。
数時間で売り切れ御免の駅弁もあり、朝だけ・昼だけ店頭に並ぶものも少なくない。1日の中でも常に顔ぶれが変わっていくのだ。
駅弁は各地から届き次第、店頭に品出し。陳列場所は日により変わる
東京の声が各地に伝わり、また新たな駅弁が生まれる
東京駅の「駅弁屋 祭」で販売される駅弁は、沖縄・四国・九州の一部を除き、日本各地から届けられる。その食材・内容・味について答える店頭スタッフは、舌を巻くほど博識。特に、開業以来のスタッフ10名は“駅弁学芸員”かと思われるほど知識が深い。
「それでも、知らない弁当について聞かれることは毎日。駅弁の素晴らしさについて熱弁される方も多くて、本当にお客さまの思いの強さには驚きです」。
お客さまからの感想や要望などを、各地の駅弁製造会社に伝えることもスタッフの役割。地方では当たり前の郷土料理も東京では珍しく、その声は駅弁の改良や限定・新作駅弁づくりなどに生かされているのだ。
また、駅弁は地方の特産や文化を知るいいきっかけになる。味だけでなく、掛け紙やパッケージのデザインで歴史や地域性を伝えるものも多い。
「掛け紙だけを集める方もいらっしゃるんです。そういう楽しみ方もあるんですよね」。
地方の文化・歴史を感じる、多彩な掛け紙コレクションにも注目!
限定駅弁も登場。年間を通して300種以上が並ぶ
シニアマネージャーの津野田隆正さんは、駅弁の企画・開発も行う
季節限定・記念弁当などが手に入るのも「駅弁屋 祭」の強みだ。
「春の花見弁当に、秋の味覚弁当など、季節限定は少なくないんです。東京駅の人気駅弁『チキン弁当』も季節バージョンがありますよ」と話す津野田さんは、「旬の食材と季節感で、楽しくなるような駅弁を作りたいと思っています」と目を輝かす。
記念弁当は駅・列車・観光名所にちなんだ数量・期間限定であることが多く、鉄道ファン・駅弁ファンにはたまらない品。
「衝撃的でした」と高井さんに言わしめたのが『上越新幹線Max ありがとうオール2階建て弁当』だ。
「行列がどんどん伸びていき、途中で整理券を配布したほどです。手に入らないお客さまもいて、改めてみなさまに愛された車両だったんだな、と感慨深く思いました」。
本格再開が待ち遠しい実演販売
実演販売もこの店ならばこそ。出来たての販売を望む声は多数だ。
実演販売といっても、目の前でごはんやおかずを盛り付けるスタイルだが、それでも「出来たての弁当は格別です」と高井さん。コロナ禍による休止が続くなか、時勢に応じて不定期ながら実演販売を開催している。
「辺りに流れるだしの匂いだけで、もうおなかが鳴ります」と、改めて本格再開への決意を新たにしたと力を込める。
※2022年11月16日(水)より2週間、花善の『鶏めし弁当』を実演販売予定。
大館駅の駅弁・花善の『鶏めし弁当』実演販売では、香りに誘われる人も続出(写真提供=駅弁屋 祭 グランスタ東京店)
いつもの駅弁とは違う、出来たてのふっくらとした食感は、実演販売ならでは (写真提供=駅弁屋 祭 グランスタ東京店)
さらに多彩に進化する駅弁
駅弁は、鉄道に乗ったときの楽しみだけでなく、持ち帰って自宅で味わう人も増えていて、その容器やパッケージはコレクション魂にも火を付ける。
駅弁の企画・開発を担当する津野田さんは、「食材・味わいはもちろん、容器・パッケージに至るまで試行錯誤するため、開発には1年ぐらいかかります」と話す。昔はなかった新幹線形など、新たな材質や形状の容器も登場し、今後ますます多様化が予想される。
また、地元の駅弁製造会社とJR東日本の社員が意見を出し合い、地域の特産や郷土料理を盛り込んだ新作の開発も行われている。そのひとつが山梨の魅力が詰まった『ワインのめし』。
「ワインに合うように作られているので、さあ飲んでくれと言わんばかりの駅弁ですよ」と口元をほころばせる。
そんな津野田さんに、今後開発してみたい駅弁について尋ねると、「昔の駅弁の復刻や名物駅弁を詰め合わせた幕の内弁当など、他にはない駅弁も作ってみたいですね」と意気込む。「駅弁屋 祭」が開発した、オリジナルの駅弁が登場する日も近いかも?
日本各地の駅弁の歴史・味わいに造詣が深い、高井さんと津野田さん
おいしくて、見た目も華やか。加えて、毎日食べても全種を制覇できないほどの品揃え。東京駅の「駅弁屋 祭」に出かければ、日本各地の“味”が手に入る。駅弁を手に、ひとときの妄想旅行へ出かけよう。
駅弁屋 祭 グランスタ東京店
場所:
東京駅構内1F改札内 中央通路エリア
営業時間:
5:30〜22:00(無休)
※営業時間が変更となる場合があります。詳しくはホームページをご確認ください。
問い合わせ:
03-3213-4353
URL:
https://foods.jr-cross.co.jp/matsuri/
https://www.gransta.jp/mall/gransta_tokyo/ekibenyamatsuri/
著者紹介
『JR時刻表』2022年11月号 特集「やっぱり駅弁が好き!」もあわせてチェック!
JR時刻表2022年11月号
- ※取材・文=佐藤さゆり
- ※撮影(特記以外)=交通新聞クリエイト
- ※掲載されているデータは2022年10月1日現在のものです。