トレたび JRグループ協力

2023.01.25鉄道湘南色やスカ色、復活した国鉄特急色まで…… 国鉄色の“いろいろ”なお話

伯備線では特急〔やくも〕国鉄色リバイバル車両が運転中!

鉄道ファンの間で根強い人気を誇る、「国鉄色」の車両たち。
いまやその姿は希少となりましたが、一部の車両は今も国鉄色のまま活躍しており、また近年は国鉄色に塗り戻された車両が人気を集めています。
国鉄色にまつわるエピソードや、“リバイバル塗装”のウラ側を見てみましょう。

『JR時刻表』×トレたび 連動企画です。

とっても奥深い!「国鉄色」とは?

そもそも、「国鉄色」とはどんな色なのでしょうか。
実は、国鉄色というものに明確な“定義”はなく、「国鉄が全国的に採用していた塗色」のうち、黒色や濃い茶色といった私鉄でも採用された色を除いたものが、国鉄色と呼ばれています。

そのはしりであり、代表例といえるのが、80系で初めて採用された「湘南色」です。
1950(昭和25)年に登場した80系は、国鉄で初めてとなる本格的な長距離列車用の電車で、当時の国鉄としては画期的な考え方や技術が採り入れられていました。
そこで国鉄はPRを兼ねて、茶色1色が当たり前だった電車の塗色を変更することにしたのです。

80系に採用された新たな塗色は、オレンジ色(黄かん色)と緑色(緑2号)で塗り分けるというもの。
アメリカのグレート・ノーザン鉄道で採用されていた塗り分けを参考にしたといわれています。
東京から小田原・熱海方面に向かう、通称「湘南列車」に80系が充当されたことから、80系には「湘南電車」、そしてこのカラーリングには「湘南色」の愛称が付けられました。
ちなみに、「湘南色」が沿線や目的地の特産物である「ミカンの実と葉」あるいは「ミカンとお茶」にちなんだ色だといわれることもありますが、これはどうやら偶然のようです。


「湘南色」が初めて採用された80系。初期はオレンジ色が今より濃かったそうです(撮影=伊原 薫 撮影協力=京都鉄道博物館)

「湘南色」は、色の調整や塗り分けパターンの変更が行われながら、153系や111系などにも採用。
やがて各地の直流電化区間で見られるようになりました。

また、「湘南色」以外にも、横須賀線を皮切りに房総地域や中央本線で見られたクリーム色(クリーム2号→後にクリーム1号)と青色(青2号→後に青15号)の「横須賀色(スカ色)」、20系ブルートレインで採用された青色(青15号)にクリーム色(クリーム1号)帯の「ブルートレイン色(ブルトレ色)」などが登場しています。
これらはいずれも2色が使われていますが、通勤型電車の101系や103系は路線ごとに単色塗装を採用しました。
山手線などの通称ウグイス色は「黄緑6号」、中央線(快速)や大阪環状線などのオレンジ色は「朱色1号」、京浜東北線や京阪神地区の東海道本線・山陽本線などのスカイブルーは「青22号」と呼ばれ、これらも国鉄色のひとつです。
ちなみに、色名の後ろに書いた「○色●号」というのは、国鉄が定めた色の名称。
ひとくちに青色といってもさまざまな色があるため、独自の名称を付けることで区別していました。


「朱色1号」と名付けられたオレンジ色。中央線(快速)や大阪環状線などの車両で用いられました(写真=鉄道博物館提供)

国鉄色にまつわるエピソードをもうひとつ。
日本初の新幹線車両である0系は、国鉄だけでなく日本の未来を背負う存在であり、その色についてもさまざまな議論が交わされました。
そんな中、とある参加者が会議机に置いていたたばこのパッケージが、あのアイボリーと青のカラーリングの参考になったといわれています。
もしその人が違う銘柄のたばこを吸っていたら、0系は全く違う色になっていたかもしれませんね。

あの「国鉄特急色」が特急〔やくも〕で復活!

こうして国鉄の車両は、形式ごと、あるいは路線ごとの国鉄色を身にまとって活躍していましたが、JRが発足してからは地域や列車に応じたさまざまなカラーリングが登場し、国鉄色は次第に姿を消しつつあります。
一方で、近年は引退を控えた国鉄型車両を“リバイバル塗装”として、国鉄色に戻す企画が人気を呼んでいます。


「国鉄特急色」に塗られた381系。一時は国鉄特急用車両の大半がこのカラーリングでした

そして、今もっとも注目を集めているといえるのが、JR西日本が運転している特急〔やくも〕国鉄色リバイバル車両です。
これは、1972(昭和47)年に伯備線で特急〔やくも〕が運行を開始してから2022年で50周年を迎えたのを記念して、381系のうち6両1編成をクリーム4号と赤2号の「国鉄特急色」にするというもの。
「381系の運行開始当時を懐かしみながら旅を楽しんでいただきたい、という思いを込めました」と、JR西日本の企画担当者は話します。

国鉄色〔やくも〕の塗装作業は、鳥取県にある後藤総合車両所で約2カ月かけて行われました。
作業はまず、パテを使って車体外板の傷や凹凸をなくす「パテ付け」「パテすり」を実施。
その後、色ごとの境界を作る「線出し」を行い、先に赤色を、続いて赤色のまま残す部分などをマスキングしてからクリーム色を塗装します。
「手作業の工程が多く、作業員の高い技術力が必要とされます。また、国鉄特急色と現在のカラーリングは、色だけでなく塗り分けのパターンも異なるため、こうした作業によって現在の塗り分けの跡が出ないようにしています」(企画担当者)。
熟練の作業員が、通常より時間をかけて丁寧に仕上げたことで、あの懐かしい「国鉄特急色」がよみがえりました。


塗装前の状態


まず赤色を塗装し、クリーム色を塗る前に赤色で残す部分などをマスキング


クリーム色の塗装後


できあがりました!

塗装作業を終えた車両は、2022年3月から運行を開始。
初便となった〔やくも8号〕の出発時には、出雲市駅と米子駅で記念セレモニーが行われ、出雲市駅では島根県の丸山知事と出雲市の飯塚市長、米子駅では鳥取県の平井知事と米子市の伊木市長、そして米子駅の山口JR初代駅長が出発合図を送り、列車を送り出しました。
「お客さまからは『非常に美しい仕上がりで、昔の記憶がいろいろとよみがえり、大変感動した』『幼い頃に見た〔やくも〕の姿を見て懐かしさを感じた』などの声をいただいています」(企画担当者)とのことで、鉄道ファンのみならず、多くの方から好評を得ているようです。

ところで、「国鉄特急色」となった381系の“リバイバル”は、色だけではありません。
「車内放送では、国鉄特急色で走行していた頃と同様の『鉄道唱歌』チャイムが流れるほか、車内の広告スペースには50年前の時刻表ページを掲出するなど、レトロな雰囲気を演出しています。車外からだけでなく、ぜひご乗車いただいて、当時の旅の雰囲気をお楽しみいただきたいです」(企画担当者)。

「国鉄特急色」の381系による〔やくも〕は、現在1日2往復を岡山~出雲市間で運転(一部運休日あり)。
また、2023年3月16日(木)からは、国鉄時代に表示していたJNRマークが先頭部側面に再現され、より国鉄時代の雰囲気を感じられるようになります。

さらに、国鉄色〔やくも〕の登場後に多くの要望が寄せられたことを受けて、JR西日本は1994(平成6)年から2006(平成18)年まで運転されていた特急〔スーパーやくも〕のカラーリングを復活することを決定。
特急〔やくも〕で使用している381系1編成を“リバイバル塗装”し、2023年2月17日(金)に4両編成で運行を開始します。
この編成は、2月20日(月)からは従来の塗装(通称「ゆったりやくも」色)の中間車両を2両追加した6両編成となり、3月16日以降は〔スーパーやくも〕塗装で統一された6両編成での運転となる予定で、期間限定の“レア”な姿や、国鉄色〔やくも〕と並ぶシーンにも注目です。

国鉄色〔やくも〕以外にも、「湘南色」の115系や「朱色5号」のキハ40系が走っているなど、国鉄色の車両が数多く見られる岡山地区。
みなさんもぜひ、あの頃の雰囲気に浸ってみてください。

国鉄色の車両を楽しめる施設・イベントも!

さて、さまざまな国鉄色の車両が見られる場所といえば、博物館などの鉄道展示施設でしょう。

埼玉県にある鉄道博物館では、「国鉄特急色」の181系・485系や「朱色1号」の101系、「ブルトレ色」の20系客車、クリーム4号+赤13号の「交直両用電車色」の455系など、数多くの車両が国鉄色で展示されています。


鉄道博物館の20系客車。その後に登場した14系などよりも濃い青色とクリーム色でした(写真=鉄道博物館提供)

同館では、お召列車専用機として製造されたEF58形61号電気機関車が2022年10月から常設展示されていますが、その車体色は旧型電気機関車や旧型電車で一般的な国鉄色である茶色の「ぶどう色2号」とは違い、御料車の塗色(暗紅色)に近づけた、いわゆる「溜(ため)色」となっているのが特徴。
館内にある「ぶどう色2号」の車両と、ぜひ見比べてみてください。

また、京都府にある京都鉄道博物館にも、「湘南色」の元祖である80系のほか、「国鉄特急色」の489系や、青15号+クリーム1号の「寝台電車色」の583系など、さまざまな国鉄色の車両を見ることができます。

同館では2023年2月12日(日)まで、鉄道開業150年を記念した企画展「鉄道いろいろいろは展~150年の歴史を彩った鉄道のあゆみ~」を開催中。
「国鉄特急色」「湘南色」「スカ色」など車体の色や形をキーワードに、関西の人々の足となってきた鉄道車両の特色を紹介する「関西を走った鉄道車両たち」コーナーのほか、「さまざまなサービスが生まれた」コーナーでは特徴的な座席やサービス、乗る鉄道から楽しむ鉄道へと広がった多種多様な旅行や駅弁などの紹介が見られます。

さらに、2023年1月12日(木)からは新たな展示物として、英国のエリザベス女王が近鉄特急に乗車した際に使用した座席や、阪急電鉄の貴賓車で使われていた椅子などが追加されました。
いずれも普段は見られない、貴重なものです。

今も昔も人気を集める国鉄色。この機会に、鉄道の「色」に注目してみませんか。


京都鉄道博物館で開催中の「鉄道いろいろいろは展」。車体の色などにまつわる展示が行われています(撮影=伊原 薫 撮影協力=京都鉄道博物館)


路線カラーを身にまとった通勤型電車の模型を展示。壁に飾られているのは鉄道車両の取扱説明書の表紙です(撮影=伊原 薫 撮影協力=京都鉄道博物館)

★「鉄道いろいろいろは展~150年の歴史を彩った鉄道のあゆみ~」は2023年2月12日(日)までの開催です。


鉄道博物館

住所:
埼玉県さいたま市大宮区大成町3丁目47番

時間:
10:00~17:00(最終入館16:30)

休館日:
毎週火曜(一部開館日あり)・年末年始

料金:
【前売料金】一般1,230円/小中高生510円/幼児(3歳以上未就学児)210円
【当日料金】一般1,330円/小中高生620円/幼児(3歳以上未就学児)310円
※入館の際は、必ずあらかじめコンビニエンスストアにて販売する時間指定の「入館券」(枚数限定)をご購入ください。

問い合わせ:
048-651-0088(休館日を除く10:00~17:00)

URL:
https://www.railway-museum.jp/


京都鉄道博物館

住所:
京都府京都市下京区観喜寺町

時間:
10:00~17:00(最終入館16:30)

休館日:
毎週水曜・年末年始(12/30〜1/1)ほか
※祝日・春休み・夏休みなどは開館

料金:
一般1,200円/大学生・高校生1,000円/中学生・小学生500円/幼児(3歳以上)200円

問い合わせ:
【ナビダイヤル】0570-080-462(10:00~17:00)

URL:
https://www.kyotorailwaymuseum.jp/


著者紹介

伊原 薫

大阪生まれ・大阪育ちの鉄道ライター。『鉄道ダイヤ情報』をはじめとする鉄道雑誌や旅行雑誌、webメディアなどで執筆するかたわら、テレビ番組やトークショーの出演、公共交通に関するコンサルティングなど幅広く活躍する。生まれた時からの鉄道好きで、乗り鉄・撮り鉄・模型鉄・呑み鉄……と鉄道のさまざまな楽しみ方を知ってもらうべく奮闘中。
2022年に刊行した交通新聞社新書『街まで変える 鉄道のデザイン』でも、国鉄色について紹介している。

『JR時刻表』2023年2月号 巻頭特集もあわせてチェック!


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2月号は3月18日(土)からの新幹線&特急列車等の詳細時刻を掲載!
※JRの在来線ページは3月17日までの内容です。

巻頭カラー特集でも「特急列車」に注目し、JR各社の担当者イチオシの特急列車を、ダイヤ改正等の注目ポイントとともに紹介します。 
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【JR時刻表とは】
JR線の全線全駅を掲載。主要駅の構内図、私鉄、国内線航空ダイヤも収録。駅の旅行センター・みどりの窓口でも使われている時刻表です。
見やすい2色刷り/JR6社共同編集/JR6社の主要ニュースを掲載

●本記事はJR時刻表2023年2月号との共同企画です。


JR時刻表2023年2月号をもっと見る

  • 取材・文=伊原 薫
  • 写真(特急〔やくも〕国鉄色リバイバル車両)=JR西日本提供
  • 掲載されているデータは2023年1月4日現在のものです。
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