トレたび JRグループ協力

2023.04.20鉄道東海道新幹線・首都圏在来線のダイヤ作成現場を探訪。鉄道ダイヤの奥深き世界に迫る!

列車・路線が違えば、ダイヤの作り方も違う

ふだん、当たり前のように利用している鉄道には、運行時刻を定めたダイヤがあります。今回、JR東海の新幹線鉄道事業本部に「東海道新幹線」、JR東日本の八王子支社に「首都圏在来線」のダイヤ作成について、それぞれお話をうかがいました。

『JR時刻表』×トレたび 連動企画です。

運行本数は1日に約300〜450本! 東海道新幹線のダイヤ作成の極意

東京駅の東海道新幹線ホームでは、毎日ひっきりなしに列車が到着し、短時間で清掃整備を終えて、再び発車していきます。決められた時刻に沿ってスムーズに運行されている様は、見事としか言いようがありません。

いったいどのようにしてダイヤが作成されているのでしょうか。

東海道新幹線は「パターンダイヤ」を軸に作成

JR東海の新幹線鉄道事業本部、運輸営業部 輸送課の森本翔太さんによると、
「東海道新幹線は現在、1時間あたり片道〔のぞみ〕12本、〔ひかり〕2本、〔こだま〕3本をダイヤの基本パターンとしています。基本的にはこのように、1時間単位のダイヤをパターン化して毎時繰り返す『パターンダイヤ』という手法で、東海道新幹線のダイヤを作っています」

各駅では乗降人数、前後列車との間隔、折り返しに必要な時間、清掃時間など考慮すべき条件を勘案して、15秒単位でダイヤを調整しているとのこと。


東海道新幹線 JR東海 東京駅から約3分おきに列車が発車する東海道新幹線(写真=JR東海提供)

とはいえ、パターン化されたダイヤが全てではありません。

「たとえば、早朝・夜間には、より早く目的地に到着できるように所要時間がより短い〔のぞみ〕や、通勤・通学に便利な東京~三島間の〔こだま〕など、さまざまな使命をもった列車を、基本パターンとは異なる体系で組み合わせています」


専用の端末にダイヤを入力していく。ソフトでチェックできるが、構想・調整・判断には複数の人間の力が欠かせない

また、年末年始やゴールデンウイークなど、移動が多くなるシーズンには定期列車のほかに臨時列車を細かく設定。
「東海道新幹線は、季節や曜日、時間帯によって、お客さまの需要が大きく変わるのが特徴です。365日違うダイヤで運転しているといっても過言ではありません」と、森本さんは話します。

森本さんは、現在の部署に配属されて2年。以前は、東海道新幹線の運転士だったことがあり、その経験がダイヤ作成に生かされているといいます。


東海道新幹線のダイヤについて、にこやかに語ってくれた森本さん

「実際に運転していた経験から、ダイヤをみてイメージしやすいということはあります。また、運転しやすい区間や、難しい区間、各駅の構内などがわかっているので、現場を想像しながら時刻を設定していくことができますね」

東海道新幹線は、1日に約300〜450本の列車が走っています。ダイヤはいわば、これらの列車を運行するための緻密な設計図のようなもの。次のダイヤ改正に向けて、1年以上前から4人のチームで意見を出しあってダイヤを考えるのだとか。


関係各所との調整を踏まえ、担当者間で打ち合わせる

「さまざまな側面からの検討や、JR西日本、在来線含め関係各所との調整を繰り返し、そのたびにミスがないように何重にもチェックを行います。今後もお客さまのニーズに応えていけるよう、さらにダイヤを磨き上げていきたいです」

過密ダイヤ、長距離列車、各路線との接続など、複雑な要素を持つ八王子支社のダイヤ作成

首都圏在来線のなかで、JR東日本の八王子支社で作成しているのは、中央線(快速)(東京~高尾間)、中央本線(高尾~小淵沢間)、青梅線、五日市線、八高線(八王子~高麗川間)。今回、鉄道事業部 モビリティ・サービスユニット(輸送戦略)の、相馬和英さん、山田 拡さん、露久保 円さんに、首都圏在来線ダイヤ作成についてのお話をうかがいました。

ダイヤ作成の要は、さまざまな意見に耳を傾けること

まず相馬さんが、ダイヤ作成の流れについてこう話します。
「ダイヤ改正に向けての作業は、およそ1年前から始まります。現状のダイヤをベースに、お客さまから寄せられるご意見、駅で利用状況を見ている社員などからの改善要望、社会情勢などの情報を集約し、まずダイヤ案を作成。その後は、接続をスムーズにするなど、利便性を高めていけるように支社内で会議を重ねていきます。ダイヤ作成は、お客さまはもちろん、さまざまな部署からの声に耳を傾け、形にしていく作業だと思っています」


ダイヤ案の調整や工事などの変更の際は、紙上でスジ(線)を引いて検討し、最終的にはパソコン上のシステムに入力

色の違いをつけ、仮ダイヤ・決定ダイヤ・変更ダイヤが一目でわかるようにしている

一方で、それぞれの路線ごとに特徴があり、細かな調整も必要になってきます。

相馬さんは、日本屈指の過密ダイヤで知られる中央線(快速)(東京〜高尾間)を担当。朝の通勤時間帯には2分に1本列車が走り、その間に特急が入るという、難しいダイヤを作成しなくてはなりません。


ダイヤ作成のポイントを細かく教えてくれた相馬さん

「特急は運転速度が速く、前を走っている快速に追いついてしまうので、途中駅で快速を待避させたり、できるだけ快速の運転間隔が均等になるように調整したりします。僕の場合は、速い特急のスジをまず引いてみて、快速をどこで待避させるか、というのを地道に一本一本考えていきます」

山田さんの担当は、中央本線(高尾〜小淵沢間)で、普通列車に加えて、〔かいじ〕〔あずさ〕といった特急列車が走ります。


他支社との調整が重要と語る山田さん

「走る距離が長いので、千葉や長野などの他支社との調整が必要になります。また特急列車については、普通列車の待避や折り返しに伴う発車準備などが必要となり、列車本数が多い路線だけに調整は困難を極めました。2023年3月のダイヤ改正では、特急〔かいじ2号〕〔あずさ16号〕が東京駅終着になり、お客さまの声に応えることができました」

青梅線・五日市線・八高線(八王子〜高麗川間)を担当するのは、露久保さんです。中央線(快速)と比べると列車本数は少ないですが、だからこそ、各路線との接続が重要になってきます。


乗り継ぎしやすいダイヤを目指しているという露久保さん

「拝島駅は、青梅線、五日市線、八高線、また西武鉄道拝島線も含めて4線区あります。これらの接続の調整が、いちばん難しいところですが、できるだけ乗り継ぎしやすいダイヤを心がけています」


各線区のダイヤ(紙)がぎっしり!

各駅の線路の配置が、すべて頭の中にある?!

今回、お三方にお話をうかがって驚いたのは、みなさんが各駅の線路の配置を、すべて覚えているということです。


「東京から小淵沢までは八王子支社の管理線区なので、各駅の線路の呼び名や番線名称などは把握しています。そうでないと、どの駅で列車を待避させるかや、どの番線に入線させるかを考えられないので、自然に覚えるんですよ」

と相馬さんが話すと、山田さんも露久保さんも大きくうなずきます。線路の配置を覚えているのは、業務の基本のようです。

それならば、線路の配置の違いによって駅の好みがあるのではないかと思い、好きな駅はどこか、質問してみました。

「立川駅は、使い勝手がいいです。たとえば、青梅線の下りは、中央線(快速)の上りの邪魔をせずに短絡線を通って青梅に向かうことができる。複雑なんですが、回送列車や臨時列車を設定する上では、便利な配置です」(山田さん)

「青梅線担当としては、やはり奥多摩駅が好きです。駅へ向かう車窓もいいですし、駅構内の急カーブも特徴的です。東京アドベンチャーラインの終点駅として、土曜・休日は山登りのお客さまでにぎわっていますが、引き続き盛り上げていきたいと思います」(露久保さん)


露久保さんお気に入りの奥多摩駅。山小屋風デザインの駅舎が印象的(写真=JR東日本提供)

「三鷹駅が好きですね。いちばん基本的な線形をしていると思います。中央線(快速)は2面ホームなので折り返しもできるし、特急通過待ちもできる。仮に中央線(快速)が運転見合わせになっても、中央線・総武線(各駅停車)と東京メトロ東西線直通列車があります。ほんとうに理想的な形をしています」(相馬さん)

線路の配置に注目した駅めぐり。新たな目的の旅が楽しめそうです。


著者紹介

屋敷 直子

1971年生まれ。福井県福井市出身。編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。書店、鉄道関連を中心に取材・執筆を行う。著書に『東京こだわりブックショップ地図』『鉄トレ! 謎解き鉄道ミニトリップ』(ともに交通新聞社)。

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●本記事はJR時刻表2023年5月号との共同企画です。


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  • 取材・文=屋敷直子
  • 撮影=オカダタカオ
  • 掲載されているデータは2023年4月1日現在のものです。
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