トレたび JRグループ協力

2023.08.25鉄道NHKアナウンサー・別井敬之が語る、時刻表と鉄道旅の魅力

時刻表速引きを特技とする別井さんの、時刻表を駆使した鉄道の楽しみ方とは……?

『JR時刻表』2023年9月号(8月25日発売)「十人十鉄~だから、鉄道が好き」にて時刻表と鉄道の魅力を語ってくださった、NHKアナウンサーの別井敬之さん。誌面に載せきることができなかったエピソードをフルバージョンとしてお届けします。

『JR時刻表』×トレたび 連動企画です。

ワクワクが止まらない「妄想時刻表旅」

私の通勤カバンには時刻表が常備されています。

毎日時刻表が必要なほど出張が多いわけではありません。ちょっと気分転換したいときに、いつでもすぐに時刻表を開いて「妄想時刻表旅」に出るためです。「いまから駅に行って列車に飛び乗ったら、どこまで行けるのだろうか?」パラパラと時刻表のページを前後しながら進めていきます。
何ページあたりにどの路線が掲載されているかは指が覚えています(笑)。接続パターンや経由を変えながら、いくつかのコースが浮かんでは調べを繰り返すと、これまでの旅で蓄積した「せっかくなら、ここで降りてあのそば屋へ行こう」「ここで温泉に入れたなぁ」などの記憶も呼び起こされ、どんどん楽しい気分になるのです。好きな文庫本をカバンに忍ばせておいて、待ち時間に開くのと同じ感覚です。

時刻表を手に、鉄道旅へ出発

急に予定のない1日ができると、予習は常にできているので、複数ある計画の中から実行に移します。入局以来転勤で全国各地に暮らしましたが、そのおかげでさまざまな路線に乗ることができました。
日帰りまたは1泊しても翌日午前中には戻るようなスケジュールが多いので、まず、最終目的地と自宅の最寄り駅に戻る「一番遅い列車」を決めることからスタート。この列車に間に合うように、乗り継ぎを組みはじめます。最近は少なくなりましたが、学生時代は〔だいせん〕や〔きたぐに〕など寝台連結の急行にはとてもお世話になりましたし、2晩続けて夜行列車の2泊3日なんてスケジュールもありました。
そして「おトクなきっぷ」がないかどうかも時刻表で確認。運賃計算も済ませ出発です。


きたぐに 2012(平成24)年3月に定期運転を終了した急行〔きたぐに〕(写真=交通新聞クリエイト)

旅行リュックには、時刻表と大判のタオルが必需品です。時刻表は乗車している路線のページを常に開けておき、対向列車や、ふと降りたくなったときにその後の行程がつながるのかをすぐに調べられるようにしておきます。

どこかへ行くことよりも、列車やその路線に乗ることが目的だったりするため、車窓に気になった景色があったり、駅の雰囲気が気に入ったりすると、事前に予定していなかった途中下車をすることがよくあります。ただ帰れないのは困るので、「ここで降りても旅はつながるのか」「何分いられるのか」を時刻表で確認することは大事なのです。大判のタオルは1枚持っておくと、寒ければひざ掛けがわりにしたり、丸めて枕がわりにしたり、もちろん温泉に立ち寄った時にはバスタオルとして使えたり、と学生の頃から変わらない鉄道旅に欠かせないおともです。

時刻表好きになったのは幼少期

さて。
私はある程度自由に旅に出られるようになる前から、時刻表を「引く」のが好きでした。
きっかけは小学校低学年の頃。母の郷里へ向かう列車です。いまはもうなくなってしまった、大阪駅発の気動車急行。しかも多層建て(行き先の異なる列車を一部区間併結させ、途中で分割・併合を行うこと)。元々鉄道に興味のあった私ですが、夏休みや冬休みにこの列車に乗って祖父母に会いに行くのがとても楽しみでした。『アルプスの牧場』のオルゴールの後にはじまる車内アナウンスを聞きながら「この列車を終点まで乗り通せば、どうなるんだろう」と思いをはせたものでした。それを知るために手にしたのが時刻表だったのです。

それまで私にとっての時刻表は、駅で配られる発車時刻を一覧にした薄型の「ポケット時刻表」。ところが、より厚い雑誌になった時刻表を開けば、すべての列車の、すべての動きがわかる! これは感動でした。車掌さんの案内の声で聞いていた駅名の数々が、目の前に続いていくわけです(母の郷里に向かう急行は、私が降りた先で分割、再度別の列車と併結するというダイヤで、これまた驚きでした!)。それ以来、季節ごとに時刻表を購入しては、行ったことのあるなしに関わらず各地の状況を見ながら、小さな妄想旅を重ねていました。

仕事も時刻表内の世界に例えられる

ところで。
アナウンサーの仕事は時刻表が示す列車の運行に似ています。
キャスターを担当している『おうみ発630』などのニュースは「各駅停車」。1駅ごとの発車時間が並ぶのと同じように、ニュース1項目ごとに予定時間があり、その通りに刻んでいくことが求められます。一方、スポーツ中継や番組は「長距離急行」のイメージだと感じています。時刻表では通過駅が「レ」で記されますが、その「レ」のところに遊びや裁量の余地がある。そして到着時刻の決まっている停車駅ごとに帳尻を合わせながら終着駅をめざします。


『おうみ発630』スタジオにて撮影 NHK大津放送局マスコットキャラクターのびわッピーとともに

時刻表で鉄道版「ビワイチ」へ

せっかくの機会ですから、私が勤務する大津放送局のある滋賀県で「時刻表旅」をしてみましょう。いま、自転車で琵琶湖を1周する「ビワイチ」が人気ですが、鉄道版「ビワイチ」を紹介します。

モデルコースをご紹介

では、京都駅10:00として、大津に直通する「琵琶湖線(北陸本線 米原~長浜間と東海道本線 米原~京都間の愛称)」ではなく、まず湖西線に乗ります。
10:11発近江舞子行きで10:47志賀駅にて下車。ホームから琵琶湖の湖岸が一番近いのはここ。輝く湖面と、琵琶湖からの風を感じてください。


志賀駅ホームからの眺め 琵琶湖をバックに列車が進んでいく


マキノ駅の駅名標 駅名に注目するのも鉄道旅では面白い

11:08発の近江舞子行きに終点まで乗ると、2分の接続で新快速の敦賀行きが発車。右側に琵琶湖、左側に山並みが続く、美しい景色を高架線で走り抜けます。
なお近江今津駅で9分停車。これは切り離し作業があるためで、前寄り4両に移ります。マキノ駅では、珍しいカタカナのみの駅名ということで、駅名標と記念写真を。

1時間後の新快速に乗り、近江塩津駅13:01着。ここで時刻表を「上り」に切り替え、北陸本線を南下していきます。近江塩津駅では、接続が取られていて乗り継ぎができますが、ここはあえて時間をかけてでも、駅構内をぜひ観察してみてください。上下線の配置や、まるで探検気分の乗り換え通路など特徴のある駅です。近江塩津駅14:07発新快速で出発。少しずつ勾配を下っていく車窓は、余呉湖の向こうに琵琶湖が広がるこのエリアならではの光景です。
なお、ここからの区間は、もう少し遅い時間もオススメで、運が良ければ車窓に琵琶湖の向こうに夕日が沈む景色を眺めることができます。左側に伊吹山が見えてどんどん近づいてくるとまもなく長浜駅。車窓右側に鉄道資料館の「長浜鉄道スクエア」があり、扉が開かれていれば保存されているD51とED70が見えます。


米原駅で駅弁を頬張る 旅のエネルギーをチャージ!

14:42米原駅着。列車はそのまま京都方面に向かうのですが、ここはあえて降りましょう。米原駅では改札内で駅弁が買えるからです。電車に乗るのが主目的ではありますが、やっぱり駅弁は食べたいですよね。

15:28発の普通列車で旅を再開。次の彦根駅が近づくと、車窓右側に彦根城の天守が見えてきます。15:40着の河瀬駅で下車。ホームのすぐ外側に、1915(大正4)年製の跨線橋(こせんきょう)の柱がモニュメントとして保存されており、この姿をホームから間近に見ることができます。
16:09発の普通列車でさらに西へ。近江八幡駅にかけても、車窓には琵琶湖の水面がときどき顔をのぞかせます。16:48に瀬田駅を出発したら、そのまま右側を見ていてください。石山駅到着を前に瀬田川を渡る、ここが「鉄道でビワイチ」のハイライト! 車窓右側のあたりがまさに琵琶湖と瀬田川の境界。雄大な琵琶湖から続く水面の広がりを感じることができます。


瀬田川を渡る列車 列車内からの景色はぜひ現地で!


大津駅のモニュメント 台座の赤のラインが北緯35度線を示す

このまま乗り続けると大津駅到着。ここで改札を出る前に、ぜひ1・2番線ホームの京都寄りの端まで足を延ばしてみてください。ここに地球をかたどったモニュメントがあります。北緯35度線が通過することを示していて、琵琶湖線の開業100年の記念に設置されたものです。

これだけ楽しめる「ビワイチ」の旅。みなさんのおでかけや時刻表を引く参考になりましたら幸いでございます。


著者紹介

別井敬之(べつい たかゆき)

1975(昭和50)年大阪府生まれ。2000(平成12)年NHK入局。神戸局時代の初めての中継は開業前の駅から行い、静岡局時代にはSL復活を密着取材。鉄道開業150年『NHKラジオ鉄道大博覧会』では11時間にわたり鉄道愛を語り尽くすなど、鉄道番組にも多数出演で自他ともに認める“鉄道アナ”。2023年4月からはスポーツ中継を担当するほか、大津局『おうみ発630』キャスターに。

『JR時刻表』2023年9月号 リレーエッセイ「十人十鉄」もあわせてチェック!


JR時刻表2023年9月号

秋の臨時列車を初掲載!
巻頭特集は「ようこそ車内放送の世界へ」。観光列車での沿線の見どころ紹介・新幹線での行先案内・キャラクターによるあいさつなど、奥が深い車内放送の魅力に迫ります。堺 正幸さんのインタビューも必見!

【JR時刻表とは】
JR線の全線全駅を掲載。主要駅の構内図、私鉄、国内線航空ダイヤも収録。駅の旅行センター・みどりの窓口でも使われている時刻表です。
見やすい2色刷り/JR6社共同編集/JR6社の主要ニュースを掲載

●本記事はJR時刻表2023年9月号との共同企画です。


JR時刻表2023年9月号をもっと見る

  • 文・写真=別井敬之
  • 掲載されているデータは2023年8月1日現在のものです。
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