トレたび JRグループ協力

2024.01.25鉄道山形新幹線 E8系 3月16日デビュー!! その魅力を開発担当者に直撃

随所にこだわりがつまった山形新幹線E8系の新型車両、その魅力に迫る

全国初の在来線に直通する新幹線として開業した山形新幹線に、3月16日、3代目となる新型車両「E8系」が登場! 山形市の山形新幹線車両センターで、開発に携わったJR東日本の担当者の矢嶋直樹さん〈写真右〉、山川 誠さん〈写真中央〉、一法師 賢さん〈写真左〉に、その魅力と見どころを伺いました。

『JR時刻表』×トレたび 連動企画です。

  

スピードと座席数の最適解を求められたE8系

3月16日、山形新幹線に投入される新型車両「E8系」。東北・山形新幹線での試験走行も順調に進み、営業運転開始が目前に迫っています。
E8系は、秋田新幹線〔こまち〕として活躍しているE6系をベースに開発されました。東北新幹線区間での最高速度は、現在使用されているE3系の275km/hから300km/hに向上、東京〜新庄間の所要時間は4分短縮されます。

高速化へのニーズ、課題となったのは?

「今回、新型車両としてE8系を開発した背景には、E3系の老朽取替という理由もありましたが、高速化も大きなテーマでした。高速化へのニーズはやはり高いものがあり、いつまでも従来の275km/hで満足しているわけにはいきません」
そう話すのは、JR東日本 鉄道事業本部 モビリティ・サービス部門 車両技術センターで最初にE8系の設計に関わり、現在は新幹線統括本部 新幹線運輸車両部 車両ユニットに所属する矢嶋直樹さんです。

ベースとなったE6系は、宇都宮〜盛岡間で320km/h運転を行っています。山形新幹線の新型車両も、当然320km/hを実現する……と思いきや、そこには別の問題が。
「それは、座席数です。山形新幹線は帰省シーズンをはじめ大変多くの方にご利用いただいており、スピードアップだけでなく座席数の確保も重要な課題だったのです」


「座席一つなくすだけでも慎重でした」と座席数へのこだわりを語ってくれた、矢嶋さん

速度を向上させると、トンネル突入時などの騒音が大きくなります。騒音を定められた環境基準以下に抑えるためには流線形の先頭部を長くする必要が生じます。しかし先頭部が長くなると、それだけ座席数が減ってしまうのです。

「最高速度を300km/hとすれば、先頭部の長さをE6系の13mから9mに抑えることができます。その分先頭車の座席数を増やすことができ、所要時間短縮と座席数確保を両立することができたのです」
座席数を増やすための努力は、これだけではありません。


E3系1000番代〈写真左〉や2000番代〈写真右〉と比べると車高が低く、よりスマートになったE8系

「洗面所の数や配置を調整したり、中間車の乗務員室を、より最適化された車掌スペースに変更したりすることで、座席数を少しでも確保できるよう設計しました。従来の新幹線車両は連結器のある妻面(つまめん)と客室との間に必ずデッキ部を設けていましたが、E8系は一部の普通車について、客室空間を車端の妻面ギリギリまで広げています」
こうした工夫のおかげで、E8系の編成定員はE6系の324名より28名多い352名となりました。

E8系ならではの技術

E8系は、最高速度が300km/hに抑えられたことで、E6系が搭載している車体傾斜装置を非搭載としています。車体傾斜装置とは、カーブにおいて車体を内側に傾けることで遠心力を打ち消し、乗り心地を保ったまま高速でカーブを走行する装置のこと。
「加速度センサーを搭載したE6系を300km/hで走らせ、車体傾斜装置のあるなしでどれくらい乗り心地が変化するかを検証しました。その結果、装置がなくても300km/hでは乗り心地に大きな影響が出ないことがわかり、車体傾斜装置は非搭載とすることにしました」

一方で、床下に搭載する着雪防止ヒーターは、E6系よりも増設されています。在来線に直通する新幹線の大敵は、在来線区間で床下に付着しやすい雪。そのまま新幹線区間を高速で走行すると、車体についた雪が氷状になり、車体から雪が解け落ちると、その雪がはじき飛ばされて、機器類や車窓のガラスを損傷する恐れがあるのです。
「秋田新幹線では、盛岡駅の手前にある大釜駅に、温水を吹き出す台車融雪装置があります。しかし山形新幹線にはそういった施設がないので、車両側のヒーターを増設して、雪をしっかり落とすようにしています」

このほか、走行装置や運行保安に関する機器類も、山形新幹線の特性や設備に合わせて調整されています。
E6系から引き継ぐところは引き継ぎ、必要なものは独自に搭載する……路線の特性に合わせて、細かい設計が行われているのです。

月山(がっさん)と紅花(べにばな)、最上川をイメージした車内デザイン

E8系の大きな特徴の一つが、山形を感じさせる鮮やかなデザインと充実した設備です。E8系のデザインコンセプトは、「豊かな風土と心を編む列車」。車両外観は現在のE3系のカラーをベースに「おしどりパープル(車体上部)」「蔵王ビアンコ(車体)」「紅花イエロー(帯)」に彩られ、車内も地域色豊かなデザインにまとめられています。

デザインやカラーリングに込められた思い

矢嶋さんの後任として、車いすスペースをはじめとする車内設備や機器配置の設計を担当し、現在は新幹線総合車両センター 品質管理科に所属する山川 誠さんは、「E8系の車内設備は、山形を象徴する月山と紅花、そして最上川を主なモチーフにしています」と教えてくれました。


「山形らしさがつまった車両です」と嬉しそうに語る、山川さん

「普通車の座席は紅花をイメージした黄色、グリーン車の座席は月山の針葉樹の緑をイメージしています。どちらの車両も、中央通路は最上川の流れを表現したデザインを採用しています」


普通車の座席。鮮やかなグラデーションが印象的

グリーン車の座席。ひじ掛けにはサクラ材が使用されている

ますます移動が快適に! 充実の車内設備

デザインだけでなく、設備も充実しています。
スマートフォンの充電などに使えるコンセントは、全席に装備。従来の車両では、前の座席や壁面の下部などに設けられていましたが、E8系では普通車はひじ掛けの下に設けられました。これは、中央本線〔あずさ〕などのE353系の一部の座席で採用されたレイアウトで、通路に出入りする際にも邪魔になりにくい位置。大きめの充電器も無理なく使用できます。


ひじ掛け下に設置された座席コンセント(写真は普通席)

「車いすスペースは、より多くの方がご利用できるよう、最新のバリアフリーガイドラインに対応して拡大しました。ストレッチャータイプの大型車いすなどでもご利用いただける広さとしています」


車いすのまま利用可能な車いすスペース(写真は普通席)

さらに、近年の利用状況を反映しているのが、全車両客室内に設けられた大型荷物置場です。

「山形新幹線のお客さまは、帰省などでのご利用が多く、大きな荷物をお持ちの方が大勢いらっしゃいます。また、昨今のインバウンドのお客さまの増加も考慮して、新形式車両としては初めて全車両に大型荷物置場を設けました。E3系では、12・14〜17号車のデッキに設けましたが、やはり防犯上お客さまの目の届きやすい場所にあった方が安心ということで、客室内としています」

実はこの大型荷物置場、E8系の設計を始めた段階では奇数号車にのみ設置される予定だったのを、設計変更により全車両に設置としたそうです。E5系・E6系・E7系といった既存の新幹線車両も、デビュー後に改造されて現在はE2系・E3系を除き全車両に大型荷物置場が設置されています。社会情勢の変化に合わせて、新幹線車両も日々進化しているのです。


客室内に設置された大型荷物置場(写真は普通席)

万一の事態に対応するための設備も

客室のデザインや設備だけでなく、E8系は万一の事態に対する備えも進化しています。
「台車の振動と、その上にある空気ばねの圧力状態を常時モニタリングして、異常が検知されると運転士に通知する台車モニタリング装置を設計時から搭載しています。万一台車に異常が発生しても、早期に検知可能となりました」(矢嶋さん)
「停電時に緊急のバッテリーに切り替えて、一部のお手洗いなどが使えるようになっています」(一法師さん)


停電等でもバッテリーを切り替えることで使用可能なトイレ(写真は多目的トイレ)

冬の厳しい環境で最後の試験走行が続く

充実した設備を備えたE8系は、現在試験走行の最終段階。鉄道事業本部 モビリティ・サービス部門 車両技術センターで山川さんの後任としてこの各種試験を担当したのが、現在は新幹線統括本部 山形新幹線車両センターに所属する一法師(いっぽうし) 賢さんです。

「安全性や騒音、乗り心地などが設計通りとなっているかを確認しています。各機器の動作確認はもちろん、高速走行時に客室におかしな音が聞こえないか、微気圧波と呼ばれるトンネル突入時の騒音が環境基準内に収まっているかなどを一つ一つ確認しています」

念入りな走行試験、想定通りの結果に

E8系独自の機能を確認することも、走行試験の目的の一つ。例えば、E6系よりも増設された床下の着雪防止ヒーターについても念入りに動作確認が進められています。

「山形新幹線沿線の雪は、他の路線、例えば秋田新幹線沿線の雪とは雪質や降り方が異なります。ですから、どういった気象条件でどのように着雪するのかや、ヒーターを使う場合と使わない場合で着雪状況がどう変わるか。あるいは、福島駅での雪落作業の負担をどれだけ軽減できるかといった点も確認を進めています。また、E8系は車体傾斜装置がありませんから、高速走行してもE6系と同等の乗り心地を実現できているかも確認しています。現時点では、想定通りの結果が得られています」


「検証は続いていますが、マイナス面はありません」と自信を見せる、一法師さん

デビュー日に向け、乗務員訓練も最終段階に

新型車両の導入にあたって、もう一つ大切なのが乗務員の訓練です。安全第一の鉄道は、新型車両だからといって乗務員が不慣れなまま営業運転を行うことは絶対に許されません。デビューまでに、あらゆる訓練を繰り返して、他の車両と同じように運用できるだけの習熟が求められます。

「E8系の運転装置はE6系をベースとしていますが、仕様の違いから若干異なる部分もあります。また、既存の車両と先頭部の長さが違いますから、駅で定められた位置に停車する際の感覚も変わります。そういった要素についてしっかり訓練を重ね、完璧な体制で3月16日のデビュー日を迎えたいと思います」

床から天井まで、山形の魅力がいっぱいにつまった新幹線

最後に、3名にE8系について利用者の方々に注目してほしい点を挙げていただきました。

「これほど“地域密着”に特化した新幹線車両はなかなかありません。東京駅などで、車内に一歩踏み入れた瞬間から山形を感じてほしいですね」(矢嶋さん)

「腰掛けは評判のよいE6系を基本としていますし、E7系と同じ点字付きの取っ手に、E353系で好評だった使いやすいコンセントなど、色々なところでこれまでの車両のいいとこ取りをした車両です。山形の方々はもちろん、ほかの地域の方々が山形を訪れるきっかけになってくれるとうれしいです」(山川さん)

「私たち3人をはじめ、開発担当者たちがバトンをつないで作り上げたデザインを見ていただきたいです。アローラインと呼んでいる先頭形状と、E3系を踏襲しつつも進化したカラーリングの調和も楽しんでください。車内も、床から天井まで山形のコンセプトが詰まった、明るく柔らかな雰囲気の車両に仕上がりました」(一法師さん)

さらなるスピードと山形の魅力を乗せて走り出すE8系。山形の旅が、一層魅力的になる日ももうすぐです。


E8系車両と一緒に取材を受けたのはこの日が初めてだったという3名。最後にE8系とみなさんで記念の1枚

地元・山形のE8系の期待度は?

E8系デビューを控え、準備に励むJR東日本 東北本部 山形統括センターのみなさんに地元・山形の様子をうかがいました。


E8系の登場に先駆け、2023年10月から発車メロディが『花笠音頭』のオーケストラバージョンになった山形駅に勤務する石田祐稀さんは「E8系が山形を走行する姿を想像すると、ワクワクします」とデビューが待ちきれない様子。
「所要時間も短縮され、地域発展の主翼を担う存在になると感じます。E8系をモチーフにした山形エリアのキャラクター『つどりぃ』も登場。見かけたら写真などを撮っていただきたいです」と語りました。


「山形県は温泉が豊富です。高畠駅併設の『高畠町太陽館』がおすすめですよ」(石田さん)


「車窓からは春夏秋冬を感じられる景色が楽しめます。村山~袖崎間の葉山と月山がきれいです」(大場さん〈写真左〉、山田さん)

運転士の大場雄介さんと山田拓也さんはE8系のハンドルや現車訓練などの習熟訓練中。E3系から変更されている箇所の把握や、ダイヤ改正のE8系導入準備なども行っています。
「試運転時に駅や沿線に普段よりも多くの方がいらっしゃるのを見て、地域の方の期待を感じます」と訓練にも熱が入ります。こどもたちからも「早くE8系に乗ってみたい」という声が寄せられているそうです。


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするフォトライター、ジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリーに。東海道新幹線の車窓をはじめ、鉄道に関するさまざまなテーマを取材・執筆している。主な著書に『アニメと鉄道ビジネス』(交通新聞社新書)、『国鉄時代の貨物列車を知ろう』(実業之日本社)ほか。

『JR時刻表』2024年2月号 巻頭特集「いま大注目の最新車両&列車」もあわせてチェック!


JR時刻表2024年2月号

3月16日(土)JRグループダイヤ改正 新幹線&特急列車等の詳細時刻掲載

3月16日(土)JRグループダイヤ改正にあわせ、新幹線・特急列車等の詳細時刻を掲載しているほか、巻頭カラーページでは新幹線等の改正ポイントをまとめた「JRグループダイヤ改正トピックス」をお届けします。
また、特集は「いま大注目の最新車両&列車」。3月16日に運転を開始する山形新幹線 E8系の開発に携わった方々のインタビューや、この春乗りたいJR各社の新型車両&観光列車等も紹介します。
好評連載中のリレーエッセイ「十人十鉄~だから、鉄道が好き」には、タレントの豊岡真澄さんが登場します。

【JR時刻表とは】
JR線の全線全駅を掲載。主要駅の構内図、私鉄、国内線航空ダイヤも収録。駅の旅行センター・みどりの窓口でも使われている時刻表です。
見やすい2色刷り/JR6社共同編集/JR6社の主要ニュースを掲載

●本記事はJR時刻表2024年2月号との共同企画です。


JR時刻表2024年2月号をもっと見る

  • 取材・文・撮影=栗原 景
  • 掲載されているデータは2024年1月1日現在のものです。
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