あなたにとって思い出深い一品はありますか?
毎月、駅で出逢える全国各地のグルメを紹介する連載「駅グルメ」のVol.01です。
今回のグルメは駅弁「越後長岡喜作辨當(えちごながおかきさくべんとう)」。
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いただく人の喜びを作る、ふるさとの一折
新潟の夏といえば、日本三大花火大会のひとつである「長岡まつり大花火大会」が印象的。夜空に咲く大輪の花の下、地元で頑張る人は特別な夜を心から楽しみ、里帰りした人は旧交を温める。そこに居合わせた旅人は、どこか懐かしい気持ちを抱いて思い出を心に刻む。
そんな花火のモニュメントが出迎える長岡駅で販売されている駅弁が「越後長岡喜作辨當」だ。製造元の「池田屋」が創業120年を記念して、2007年に作られた駅弁は「池田屋」のなかでも一番人気を誇る。喜作の名は創業者・永橋喜作の名前から、「喜んで作る」という意味もあるとか。
明治時代の版画を使った掛け紙を愛でながら蓋を外すと、少量の白飯とおかずが少しずつ入った幕の内が現れる。米は長岡産コシヒカリ、鶏団子には地野菜の神楽南蛮が使われ、ピリ辛の味わいが食欲をそそる。素朴な油揚げとぜんまい煮には、長岡にある老舗豆腐店の油揚げが入り、茄子と生姜の味噌漬は、江戸時代から続く柏崎の味噌蔵で作られる。デザートの笹団子にいたるまで奇をてらったものは何もない。ただひたすらにふるさとを思うおいしいものが、そこにある。
地域に根差した小さなお店が、この地でないと食べられないものばかり入った弁当を作って売る。これでいいのだ。
さあ、この箱をどこで開けようか。
やはり、列車から夏の日本海を見たい。信越本線で長岡駅から青海川駅を目指そう。
本数は少なめだが、落ち着いて駅弁を食べたければ特急〔しらゆき〕。時間帯によっては、直江津行の普通列車でボックスシートに座るのも悪くない。地酒が楽しめる観光列車「越乃Shu*Kura」とも相性は良さそうだ。
やがて、車窓から見える砂浜にチラホラと咲いたパラソルの花が目に入ると、昭和から平成にかけて北関東方面から鯨波駅へ走行していた夏の臨時列車・快速〔くじらなみ〕などの記憶もよみがえってくる。
日本海の夏は短い。ぼんやりしていると、あっという間に秋風が吹き始める。それだけに真っ盛りの夏を味わえた時の満足度は高い。
そんな新潟の夏旅のお供に、“喜作”が欲しい。
特急〔しらゆき〕
観光列車「越乃Shu*Kura」
越後長岡喜作辨當(えちごながおかきさくべんとう)
発売駅:長岡駅 ※販売駅は代表駅のみを記載しています。
ねだん:1,350円(税込)
製造元:(株)池田屋
次号は駅弁「母恋めし」。
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- ※『JR時刻表』2025年7月号掲載時点の内容です。
- ※取材・文・画像=望月崇史
- ※イラスト=佐藤妃七子