その生い立ちも似ていて、いろいろな“接点”がある
競馬と鉄道。一見、まったく接点がないようですが、じつはとっても深いつながりがあります。
そもそも、近代におけるその歴史がとても似ており、明治時代に入って西洋から導入されたという生い立ちや、その後、日本の近代化を支えてきたという役割まで、そっくり。
今回は、そんな競馬と鉄道のつながりをひもとく交通新聞社新書『競馬と鉄道』から、ちょっぴりご紹介します。
- ※トップの写真は、ラチ(手前の白い柵)沿いを走る競走馬
競馬と鉄道で使われる同じ言葉
競馬界と鉄道界では、それぞれに特有の言葉がありますが、両方で使われている同じ言葉があることは、あまり知られていません。
たとえば「ラチ」という言葉。競馬では、馬の走行コースの左右両側を囲っている柵を「ラチ」といいますが、鉄道では改札口のことを「ラチ」と呼びます。
共通するのは「柵」や「仕切り」というイメージでしょうか。まったく同じ言葉がこれほど違う意味で使われる、でもイメージは一緒というところに、競馬×鉄道の面白さがあります。
もうひとつは「号」という言葉。
鉄道では「のぞみ1号」のように、列車の称号に使いますが、競馬では「トウカイテイオー号」のように馬名の尊称として使います。
これはともに走るそのものを指しますから、お互いに納得ですね。
「コダマ号」も「こだま号」も速かった!
栄光のダービー馬と同名の特急こだま
ところで、昭和35年の日本ダービーで勝った馬の名前は「コダマ」。
つまり、「こだま号」なんです。まさに東海道本線に特急こだまが主役を飾っていた時代ですが、この馬主さんが、じつは鉄道ファンだったという逸話が残されています。
「一国の宰相よりダービー馬のオーナーになるほうが難しい」と言ったのは、元英国の首相、ウイストン・チャーチル。そのダービー馬に鉄道の影が見て取れるのは、鉄道ファンならうれしいのでは?
ちなみに、視点を外国語に広げても似た例はあり、蒸気機関車を指す英語の別称に「Iron horse(鉄の馬)」という言葉があります。これは、イギリスで鉄道が誕生した頃に生まれたそうで、移動手段が馬車から鉄道に変わった頃の様子が思い浮かびます。「こだま」同様、鉄道ファンと競馬ファンを結ぶ懸け橋のような言葉でもありますね。
“土休日だけの鉄道の姿”は一見の価値あり
さて、こうした蜜月な競馬と鉄道の関係。本書に詳述されているように、競馬場の最寄り駅でもある“競馬場駅”や、その往復で運転される臨時列車などに象徴されています。
とくにファンが多い中央競馬の最寄り駅やその沿線では、平日と休日でその表情が大きく変わります。競馬が開催される土休日、競馬観戦客は、専用の改札口や通路、ホームなどを使用しますが、平日は全く使われません。同じ駅なのに、利用者によってあたかも別の施設のように運用されています。
ここに鉄道側の工夫ぶりが表れていて、鉄道ファンにとっては、こうした“土休日だけの鉄道の姿”は一見の価値あり、と注目を集めるのです。
競馬場に行けるけど、町には出られない。船橋法典駅の競馬場専用口
本書では、臨時列車、専用ホーム、専用改札口、専用通路などの具体例がたくさん紹介されています。
なかでも、その典型は武蔵野線船橋法典駅の競馬専用改札口です。改札を出たら、そのまま中山競馬場法典門だけと直結。つまり、町には出られないという稀有な改札口なのです。
競馬ファンにとっては日常、鉄道ファンにとっては非日常というわけで、競馬×鉄道が放つ妙といったところでしょうか。
競馬場への行き帰りなんて、レースのことで頭がいっぱいという人も多いでしょう。でも、勝負を決する場所への道のりには、鉄道の奮闘ぶりやアイデア、工夫などが随所にあります。競馬新聞とともに当書を読む、そんなちょっとした気持ちの余裕なんぞ、いかがでしょうか。