旅の時間を、鉄道模型ファンに学ぶ
数ある鉄道趣味の中でも、大きなカテゴリーに分類されるのが鉄道模型です。その歴史は日本の鉄道史よりもはるかに古く、今も多くのファンが楽しんでいます。鉄道模型の楽しみ方はとても多岐にわたり、実際に「鉄道模型のために」旅に出ることもあるそうです。
「乗り鉄」「撮り鉄」をはじめ、様々な鉄道趣味に生きる人々から学ぶ交通新聞社新書159『鉄道趣味人の世界』から、「鉄道模型」に注目。一部を抜粋して紹介しましょう。
- ※トップの写真は、HOとNゲージ。実は長い歴史を持つ鉄道模型。スケール(縮尺)の違いによって印象が変わるのも模型の面白さ。実は、現実の鉄道と同じく“軌間論争”もあって、なにが一番美しく見えるかは、永遠の課題とか
鉄道模型の歩み
鉄道模型は、当然ながら鉄道の存在とともにあります。鉄道の母国、イギリスでは1862年に製品としてあったという説があるそうで、これは世界最初の鉄道であるストックトン&ダーリントン鉄道の開業後のわずか32年後のことです。ちなみに、日本の鉄道趣味の嚆矢(こうし)といわれる「岩崎・渡邊コレクション」も、新橋~横浜間開業の30年後。この約30年間という偶然の一致には興味深いものがあります。
さて、日本では戦前から鑑賞用に作られた鉄道模型があり、雑誌記事などにも紹介されていますが、実はもっと前に存在していました。1855(安政2)年、佐賀藩主・鍋島直正が作らせた蒸気機関車の模型です。新橋~横浜間の鉄道開業前、ペリーやプチャーチンによって蒸気機関車の模型がもたらされており、つまり、日本人が最初に触れた鉄道は、鉄道模型だった、という見方もできるわけです。
今日では、各博物館などでも決まって鉄道模型のジオラマがあり、どこも人気があります。小さな列車が目前を走るというだけはなく、鉄道の一日の様子を客観的に学ぶのに有効なアトラクションでもあります。
鉄道模型の旅へ
鉄道模型は屋内で楽しむ趣味ですから、一見、旅とは結び付きません。しかし、鉄道模型ファンも、旅に出ます。
鉄道模型を「趣味の王様(King of hobby)」と言います。これは、実に多くの楽しみ方があることから呼ばれるものですが、その中のひとつが、実物を観察すること。木々、空、海などの神羅万象は序の口。鉄道そのもの、つまり、駅や鉄橋などの構造物の形はおろか材質や経年劣化具合などまで実際に観察して、模型作りに反映するそうです。そこには必ず地域性による違いが表れており、それらの背景なども現地で知る必要があります。また、鉄道車両自体も、同じ形式であっても走る地域によって細かな違いがありますから、何が違っているのか、をじっくり観察します。ファンの中には、作りたい車両のために、保存されている場所を調べ、許可を取って車両の細部を採寸しに行く人もいるそうです。
こういった“実際感”は、現地に行かないと分からないものばかり。鉄道模型ファンは、旅先での観察力をとても大事にしているのです。
「旅」と「模型作り」の関係性を知り、鉄道模型作りの視点で自分の旅の時間を過ごすと、これまで見えていなかったものが見えてくること、間違いありません。