本に描かれた現場で、文章を読む
現地で該当文章を朗読するという、「旅×読書」の楽しみを映像化。
今回は『競馬と鉄道』です。2018年度JRA賞馬事文化賞を同書で受賞した著者の矢野吉彦さんが自ら、その現場へ、本を携えながら旅をします。矢野さんは競馬レースの実況をされているフリーアナウンサーであるとともに、大の鉄道ファン。さて、どんな旅になるでしょうか。
旅先朗読案内
交通新聞社新書『競馬と鉄道』
第4章 鉄道会社と競馬 P164-165
朗読場所:京王競馬場線府中競馬正門前駅構内、武蔵国府八幡宮参道
動画:旅先で読む交通新聞社新書 競馬と鉄道
動画のココに注目
今回の旅先に選んだのは東京競馬場周辺です。
東京競馬場と言えば日本で一番、大きな競馬場。世界有数のスポーツスタジアムと言われ、1990年、アイネスフウジンが勝った日本ダービー当日は、なんと19万6000人もの観戦客が詰め掛けましたが、この観客輸送に大きく貢献したのが、鉄道です。しかし、約90年にも及ぶ長い歳月の中で、周辺の鉄道路線は、実は大きく変わってきました。それら変遷の足跡も、しっかり残っているそうです。
それらを巡る旅のはじまりは、京王電鉄東府中駅。ここから競馬場線は分岐していますが、そもそも東京競馬場の開場時、競馬場線はもちろん、東府中駅もありませんでした。0.9kmという短い路線の“ある車窓”が、そんな京王の乗客獲得の作戦を物語るそうです。その現場である府中競馬正門前駅の構内で、競馬場線誕生のくだりを、臨場感たっぷりに朗読します。
『じつは、東京競馬場の開場時は、今とは全く違う鉄道路線網でした。南武鉄道、京王電軌、そして西武鉄道です。ここからの変遷ぶりは、各会社の乗客獲得の作戦そのものです』
矢野吉彦
京王競馬場線は、乗客獲得の究極の作戦。なにしろ、競馬場の正門に直結した、いわば競馬場専用線なのですから。しかし、この線を建設するには一筋縄ではいきませんでした。その象徴である神社参道の踏切付近で、矢野さんは感情込めて、朗読します。
『武蔵国八幡宮の境内を横切ってまで建設したのが競馬場線です。京王の究極の作戦でした』
矢野吉彦
京王線が、そんな熱意の「競馬場線」を建設する前は、国鉄の下河原線が圧倒的に優位でした。「東京競馬場前」という、そのものずばりの駅を建設し、競馬場まで徒歩圏内の最寄り駅を持っていたためです。
しかしこの線、そもそもは競馬場のための線ではなく、多摩川の砂利を運ぶ貨物線でした。そこから東京競馬場へ分岐線を作っていたのです。砂利と観客という用途が違う路線が二股になる現場は、今もそのまま残っているそうです。
『多摩川の砂利取り線から線路を分岐させて作ったのが、東京競馬場前駅への線路です。この分岐ぶりに、観客獲得の熱意が伝わってきます』
矢野吉彦
東京競馬場前駅は、平行する武蔵野線が開通するまで、現役でした。この駅は島式ホーム1面とその両側に線路がありましたが、廃線となった現在は、その敷地のまま遊歩道として残っています。
東京競馬場前駅跡で当時を思い、そして昭和の競馬観戦客になったつもりで、矢野さんが駅跡から競馬場へ向けて、歩いていきます。当時のまま残る南武線下のガードや、“おけら街道”を歩き、ついに東京競馬場西門へ。すっかり新しく2階建ての門ですが、その一角に、国鉄時代の面影を見ることができます。
『東京競馬場の西門の前には、旧東京競馬場前駅と同じ時代からある飲食店が並んでいます。競馬と鉄道の関係を物語る風景です』
矢野吉彦
あなたもぜひ、「旅×読書」を
読書はいろいろな知識を授けてくれますが、こうして現地で本を読むと、その土地の状況や空気感などが相まって、活字が一層生き生きとしたものに感じられます。皆さまもお気に入りの本を手に、「旅×読書」を楽しまれてはいかがでしょうか。