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2021.03.02鉄道駅はウナギでいっぱい? 梨でいっぱい? あの頃の鉄道風景

鉄道ありきで成り立っていた日本の暮らし

鉄道は言わずもがな、生活を支えるインフラの一つです。
かつて陸上交通の中心が鉄道だった頃は、鉄道なしでは社会生活が回っていかないほどでした(いまでもそうですよね)。
それだけ、ありとあらゆるものを鉄道は運んできたわけです。
そのあらゆるものを紹介したのが『こんなものまで運んだ! 日本の鉄道』(交通新聞社新書)。
運ばれたものに焦点を当てると、鉄道ありきで成り立っていた日本の暮らし、そして鉄道の底力を垣間見ることができます。今回はその内容を少しだけ取り上げます。

  • トップの写真は、大量の荷物であふれかえる年末の汐留駅

駅が伝えてきた風物詩


浜名湖そばの舞阪駅で積み込まれる活きたウナギ 浜名湖そばの舞阪駅で積み込まれる活きたウナギ

日本には地域の気候や風土を活かした特産品が、数多く存在します。
そのため、駅が特産品の輸送一色になる光景が、全国各地で季節ごとに見られました。
たとえばウナギ。土用の丑の日前は、浜松駅などに大量のウナギが連日持ち込まれ、輸送にてんてこ舞いする情景が見られたそうです。
鳥取の特産・21世紀梨も、旬の夏には鳥取駅などから大量に全国発送され、この地域の担当だった米子鉄道管理局の貨物収入3分の1を稼ぐほどだったとか。

特産品が駅頭をかざっていた時代。
四季の移ろいや地域の活気は、今よりも肌で感じとりやすいものだったのではと想像されます。

鉄道による特産品輸送は、いま改めて注目されています。
2020年秋には新幹線の空いた客席を利用した鮮魚輸送がスタートしました。
実は、鮮魚輸送はこれが初めてではありません。

積んだ魚の脂でレールが滑る


鮮魚特急に使われたレサ10000系貨車 鮮魚特急に使われたレサ10000系貨車

1966年に運行を開始した「鮮魚特急」は、鮮度を守るため、そして確実にセリに間に合わせるため、準急列車も追い抜くほどの優等列車として位置づけられていました。
魚の管理は大変で、積んだ魚から落ちた脂でレールが滑り、勾配で上りにくい……なんて苦労もあったようです。
SL時代に衰退してしまった鮮魚輸送ですが、スピードと正確性という鉄道の特性はもともと、新鮮なものを運ぶのに見合っています。
いま、鉄道を利用した特産品輸送が再び始まっているのは自然の流れともいえるでしょうか。

国鉄時代から引き継ぐ「猛獣やへびの類を除く」


家畜車に乗り込む牛 家畜車に乗り込む牛

牛や羊など家畜や、ヒヨコ、ハチに至るまで、国鉄は猛獣やへび以外の動物であればなんでも運びました。
生きものなので同乗して世話したり、積み方に規程があったりするので乗客よりも神経を使います。
競争馬もかつては貨車に積まれて輸送されていました。貨車の入れ替え作業時に相当な衝撃や音があり、繊細なサラブレッドの中には体調を崩してしまい、期待どおりの出走ができない馬もいたそう。

いまも小動物は有料手回り品として持ち込むことができますが、「猛獣やへびの類を除く」との規定があります。
国鉄時代から未だに引き継がれている部分ですね。

まだまだある! 鉄道が運んできた意外なもの

お金、美術品、映画フィルム……鉄道が運んだ意外なものは、まだまだあります。
『こんなものまで運んだ! 日本の鉄道』(交通新聞社新書)ではその数々に焦点を当て、輸送にあたってのさまざまなエピソードも紹介。
かつての日本と鉄道の姿も伝える1冊です。


交通新聞社新書『こんなものまで運んだ! 日本の鉄道』

鉄道が運ぶ対象はヒトだけではありません。明治の開業以来、ありとあらゆるものを運んできました。家畜、自動車、遺体、ラブレター、お金、ガレキ……。本書はそれら「鉄道が運んできたもの」の視点から、鉄道の果たしてきた機能を発掘。これまで社会の要請に可能な限り応えてきた鉄道の、これからの可能性も示唆します。

著者:和田 洋
1950年生まれ。神奈川県藤沢市で東海道本線の優等列車を見ながら育つ。1974年、東京大学文学部卒。子どもの頃から鉄道車両、とくに客車を愛好し鉄道友の会客車気動車研究員会員。著書の『「阿房列車」の時代と鉄道』(交通新聞社・2015年鉄道友の会島秀雄記念優秀著作賞)、『客車の迷宮』(交通新聞社新書)、『JR東日本はこうして車両をつくってきた』(同・共著)などがある。

発売日:2020年12月15日
定価:990円(本体価格900円+税)


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