トレたび JRグループ協力

2021.10.04鉄道アニメと鉄道の初のコラボレーション列車は「上野発アンドロメダ行き」だった?

『鬼滅の刃』に『エヴァンゲリオン』…いまや続々のアニメ×鉄道だが…

2021年現在、日本各地でアニメのラッピングトレインが走り、アニメと鉄道の組み合わせはすっかり日常的な光景になりました。
2019年にスタートした『新幹線変形ロボ シンカリオン』では、実際の車両が変形して地球の平和を守るという激アツな展開。しかもJRが公認としているところに度肝を抜かれた方も多いことでしょう。 
さらに、JR西日本の500系新幹線を使用した、『500TYPE EVA(エヴァ新幹線)』、JR九州の8620形牽引の『SL 鬼滅の刃』も記憶に新しいところ。現実世界に現れた巨大なメカ(鉄道)は圧倒的存在感で大きな話題を呼びました。
そんなアニメと鉄道車両のコラボ、じつは最近に始まったことではありません。時代を42年前に遡った昭和の“ある列車”がそのパイオニア。そんな列車の旅へ、皆さまをお連れしましょう。 

  • トップの写真は、「アンドロメダステーション」で折り返し運転を待つ「銀河鉄道999号」。写真はすべて交通新聞より

席数1664に対し、3万人が4万枚のチケット申し込み

1979年7月1日、国鉄上野・池袋両駅は計3万人もの人出でごった返していました。
お目当ては1979年8月の劇場版『銀河鉄道999』公開に先立って「ミステリーツアー 銀河鉄道999ロマンの旅」として企画された団体旅行の予約・抽選会。
上野駅に集まった多くの人々が、コンコース中央で行われた公開抽選の様子を興奮して見守っていました。
この日の抽選では、国鉄のまとめによると2日分の運転合わせて1664席に対して4万枚のチケット申し込みがあったといいます。
集まった人数と申込枚数が合わないのですが、何度も並びなおして申し込んだ猛者が沢山いたそうです。

行先のアンドロメダ・ステーションってどこ?


松本零士氏自らテープカットなどを行った出発セレモニー

「銀河鉄道999ロマンの旅」には、当時の鉄道・アニメ両ファンをくすぐる仕掛けがありました。
アニメ映画の作品に登場する列車名がそのまま現実の列車に付されたことだけではなく、行先は非公表。つまり、乗客は「特別列車『銀河鉄道999号』に乗って、アンドロメダ・ステーションを目指す」という珠玉の演出です。
まさに映画作品の“未知の宇宙への列車旅”を実現するようなミステリー列車。
実際、「行先はどこか?」ということが一般のメディアでも取り上げられるほどの関心の高さでした。

1979年7月22日当日、朝早くから上野駅の13番ホームには人だかりができていました。
そこにEF65形1007号機を先頭にした特別列車が滑り込んでくると、シャッター音の嵐。
牽引される12系客車の側面は銀色の帯と999のロゴ……。
当時の新聞によると、上野駅の13番ホームには「チビっ子カメラマン二千人」も集まり、乗客の7割は中学・高校生だったそうです。
原作『銀河鉄道999』中に登場する「999(スリーナイン)号」は、C62形をモデルにした蒸気機関車(原作・劇場版は実在する48号機、テレビアニメ版は架空の50号機)を先頭にした編成。
上野駅に現れた「銀河鉄道999号」は電気機関車でしたが、「999」のヘッドマークを付けた列車を目の当たりにしたファンたちにとっては、それすら些細な違いだと思えるくらい、見事なシンクロぶりだったでしょう。

多くのギャラリーに見守られる中、『銀河鉄道999』の作者である松本零士氏 と上野駅(当日は銀河鉄道銀河駅)駅長らによる出発セレモニーの後、7時36分「銀河鉄道999号」はアンドロメダ・ステーションに向けて出発していきました。

宇都宮駅で機関車の付け替え。その時車内では……


車内で検札業務を行う松本零士氏

東北本線を下る「銀河鉄道999号」は、通過する各駅で鈴なりのカメラマンたちの熱視線を受けながら北へ走っていきます。
上空にはテレビ局の中継ヘリコプター飛ぶほどの注目度の高さです。
列車内では松本零士氏が一日専務車掌として検札業務を行うというサービス。さらに星野鉄郎役の野沢雅子さん、メーテル役の池田昌子さんをはじめとする劇場版『銀河鉄道999』の主要キャラクターを演じる声優たちも同乗。
まさに映画作品に身を置くような仕掛けの連続に、乗客は大興奮でした。
出発から1時間半を超えた9時11分、宇都宮駅に到着。18分間の停車時間で、これまで先頭を走っていたEF65形1007号機が離脱し、DE10形100号機に付け替えられます。
ここで鉄道ファンの乗客たちはすぐに気付きました。
「非電化区間に入るらしい。宇都宮周辺の非電化ローカル線は……烏山線だ!」
宇都宮駅を出発した「銀河鉄道999号」は鉄道ファンたちの推理どおり、ふたつ先の宝積寺駅から大きく右手に折れて、烏山線に入っていきました。
この列車の行先を当てるクイズに事前に応募していた参加者は816人。このうち正解者は152人。正解率は18.6%だったということです。

ツアー定員募集時点では999人だったのに、降りてきたのは1200人


アンドロメダ・ステーションとされた当時の烏山駅

烏山駅に到着した「999号」と乗客を待っていたのは、アンドロメダ・ステーションと書かれた特製駅名板。
そして、ここにも「銀河鉄道999号」をカメラに収めようと約2000人のカメラマンたちが待ち受けていました。
改札を出れば、突如花火が打ちあがり、烏山の夏の風物詩「山あげ祭り」の山車も登場するという、町を挙げての大歓迎です。
ここから乗客たちは、公園でこのツアー特製の「宇宙弁当」を食べ、バスに分乗して先行試写会会場へ向かう予定です。
ところが、ツアーの乗客は999人のはずか、列車から降りてきたのはなんと1200人。
どうも上野駅の喧騒にまぎれて相当数の「もぐり」がいたようで、おかげで試写会会場はすし詰めとなり、音声トラブルも併発。
復路の車内では松本零士“車掌”自ら「切符を持参すれば映画館でもう一度見られる」と説明する羽目になってしまいました…。

鉄道とアニメが生む、壮大なパワー

現実の鉄道車両とアニメの初コラボ列車の旅は終始、大騒乱でした。
いまからすると、にわかに信じられないようなエピソードですが、それだけ鉄道とアニメのコラボレーションは当時から注目を集め、鉄道ファン、アニメファンの双方にとって刺激的だったのです。
「鉄道」という生活に密着し大きな質量をもったリアルの象徴と、空想や想像世界で展開する質量をもたない「アニメ」。
一見大きく隔たった特徴をもつ両者がシンクロした時、その時代の特徴を表しつつ、特別なパワーが生まれます。
交通新聞社新書『アニメと鉄道ビジネス』では、この関係の歴史を、アニメ黎明期から『エヴァ新幹線』の登場、『新幹線変形ロボ シンカリオン』放送まで、アニメでの鉄道の扱われ方や町おこしに発展した例など、さまざまな角度から解説。鉄道とアニメの意外な共通点から、ビジネスヒントも。
もちろん鉄道ファン、アニメファンの双方にとっても刺激的な内容です。


交通新聞社新書 『アニメと鉄道ビジネス』

キャラクターが地域と鉄道を進化させる――アニメと鉄道のコラボレーションが盛り上がっている。
アニメクリエイターは、身近なメカである「鉄道」に想像力を刺激されて作品を生み出し、鉄道はフィクションである「アニメ」を現実世界に引き出して多くの人を集める。
空想と現実がリンクして、地域も巻き込んで発展するコラボレーション。
その起源から今日までの道のりを、様々な事例と当事者へのインタビューを交えながらひもといていく。

著者:栗原 景(くりはら かげり)
1971年東京生まれ。小学生のころからひとりで各地の鉄道を乗り歩く。
旅と鉄道、韓国をテーマとするフォトライター、ジャーナリスト。
旅行ガイドブックの編集を経て2001年からフリー。
主な著書に『地図で読み解くJR中央線沿線』(岡田直監修/三才ブックス)、『東海道新幹線沿線の不思議と謎』(実業之日本社)、『東海道新幹線の車窓は、こんなに面白!』(東洋経済新報社)など

発売日:2020年12月15日
定価:990円(本体900円+税)


本書の詳細はこちら

トレたび公式SNS
  • X
  • Fasebook