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2022.04.01鉄道日本の鉄道は、ナイス・ガラパゴスだ!

グローバル視点で見た、日本の鉄道の独自進化ぶり

毎日数分ごとに、同じ時間に到着して発車する電車、「お客さまのご理解、ご協力をお願いします」と繰り返し放送される駅や車内……。日本の鉄道シーンとしてはごく日常ですが、実はこれ、世界的にはとても珍しい光景です。外国の鉄道と日本の鉄道の違いを比べると、日本の鉄道の独自進化が見えてきます。鉄道開業150年のメモリアルイヤーを迎え、ぜひ知っておきたい日本の鉄道技術を、『なぜ日本の列車は秒刻みで動くのか』(交通新聞社新書)より一部抜粋して、少しだけご紹介しましょう。

  • トップ写真は、150年前の開業時に走った1号機関車(鉄道博物館蔵)

定時運転とは?~秒単位で運転する日本


両面発着方式。先行列車が完全に駅を出るのを待たないでも後続列車が駅に進入できる

××駅00時00分発~という列車の運転時刻は、必ず分単位で時刻表に表示されています。それだけでも充分細かいですが、運転士などが使用する専門の時刻表はさらに細かく、秒まで記されています。つまり、日本の鉄道は秒単位で運行されているのです。
ところが、外国、とくに鉄道先進国のヨーロッパでは違います。一応、時刻表には日本と同じく分単位で表示されていますが、実際はその通りに運転されないことは日常で、5分遅れ、10分遅れなどは普通のこと。「珍しく定時で列車が到着したと思ったら、24時間遅れだった」という笑い話もあるほどです。
日本では秒単位の安定した運転を実現するために両面着発方式などの技が行われていますし、それらを細かく定めた「ダイヤグラム」の存在も、よく知られるところです。狭い国土の中で効率よく運行するために、列車の運行全体を秒単位で定めるまでに進化しているのです。

安全とは?~馬車文化を持たない日本


ボルティモアの博物館に保存されている開業当時の車両。先頭の機関車を馬に例えると、馬車ソックリ

日本は秒単位で高密度の運転しているわけですから、安全対策が欠かせません。
日本では「ATS(自動列車停止装置)」や「ATC(自動列車制御装置)」と言われる安全装置が確立されています。これは信号設備と連動して自動的に列車を減速させたり停止させたりするシステムです。一方、欧米でも似たような安全装置はあるのですが、国境を越えて運転する国際列車の運行の効率化に主眼を置いています。さらに興味深いのは、行止り式の駅などに、自動的に列車を止める安全装置はなく、運転士の注意力のみで列車を止める仕組みになっているところなどでしょう。

欧米には、昔の馬車文化が根付いています。つまり鉄道も同じと考えられ、運転士=御者、「安全に対する最後の砦は、動力を操る御者の役割」です。欧米の鉄道に乗ったことがある方なら、回送列車のすぐ後ろを機関車が追走したり、私服で運転士が運転していたりと、日本では考えられないシーンを見たことがあるかもしれませんが、これらも馬車の運行方法が原点にあるとすると、納得がいきます。

どちらがいいとか悪いというものではなく、お国柄、安全に対する考え方の違いですが、同じ鉄道でも、その思想が大きく異なる点は、鉄道が持つ奥深さと言えます。

日本の新幹線~世界の鉄道シーンを変えた存在


高速運転に関する技術のひとつ・パンタグラフ。騒音などの環境基準をクリアしながら高速運転を実現

同じ鉄道でも、これほど違う日本と外国の鉄道ですが、日本が世界を変えたものがあります。それが、新幹線です。今や「シンカンセン」という言葉が外国でも通じるほどですが、1964(昭和39)年の東海道新幹線開業時、欧米は車社会となり「鉄道は斜陽産業」と言われていました。ところが、日本の新幹線の成功を機に、各先進国は高速鉄道の開発へと舵を切り替えています。フランスのTGVやドイツのICEほか、現在も見られる各国ご自慢の高速鉄道の誕生は、日本の新幹線がきっかけです。

ところで、なぜ、日本人はそんな新幹線を作ることが出来たのでしょうか? その理由を探ると、ちょうど150年前、明治時代の鉄道開業時にまでさかのぼります。この時、日本は線路の幅(ゲージ)について、狭軌(1067mm)を採用しました。世界的な標準と言われる標準軌(1435mm)より368mmも狭い狭軌は、車両や線路の構造物が小さくなるために建設コストを低く抑えることができる一方、高速化や輸送容量にはおのずと限界があります。狭軌を選んだ理由にはいくつかの説がありますが、のちに鉄道建設の責任者であった大隈重信が「ゲージの意味が分からなかった」と述懐しています。

日本の鉄道は狭軌によって歴史的に運命が決められ、鉄道の速度や輸送力が制限された中で進化してきました。そこで、これを解消するために、まったく新しい日本独自の発想で作った標準軌の鉄道が、新幹線なのです。新幹線の技術の細部を見ると、完璧に近い運行安全装置を初めとする多くの日本ならではの技が生かされています。今日でも、例えばパンタグラフや先頭車両の形状などに、その独自の技術が反映されています。これらは誰でもホームから見ることができますので、新幹線に乗る機会があったら、ぜひ注目してみてください。


交通新聞社新書『なぜ日本の列車は秒刻みで動くのか』

毎日、定時で走る新幹線や通勤電車。そんなごく日常の日本の鉄道シーンは、実は世界的にとても珍しいものだった! ……こうした“ガラパゴス化"ぶりの詳細を、文化と技術の観点から解きほぐし、専門領域の解説と近年の研究成果を交えながら、世界に誇る技とアイデアの数々“ナイス・ガラパゴス"として紹介します。150年にわたる鉄道の進化ぶりから、日本の風土の特徴が見えるとともに、日本人としての誇りもみなぎる一冊です。

発売日:2021年10月15日 
定価:990円(本体900円+税)

著書:荒木文宏
1941(昭和16)年生まれ、大阪工業大学機械工学科卒。鉄道博物館副館長。1966(昭和41)年日本国有鉄道入社。以来、運転局、JR東日本運輸車両部、三鷹電車区長、大船工場長などを歴任。2007(平成19)年より公益財団法人東日本鉄道文化財団に所属し、鉄道技術史研究などに携わる。  


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