タンポポみたいに旅にでたくなる路線・五能線
日本全国津々浦々を繋ぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。
日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、様々な歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用する馴染みのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?
今回は、かつて「タンポポみたいに旅にでた」とキャッチコピーが添えられた青春18きっぷポスターでも話題となった、
秋田県と青森県を繋ぐ五能線を紹介します。
- ※写真は初代「リゾートしらかみ」唯一の生き残り、くまげら編成(キハ48形)
五能線の歴史
日本海の絶景を、ひたすら楽しめるローカル線。それが、五能線です。
秋田県の東能代駅と、青森県の川部駅を結ぶ全長147.2 kmの非電化路線。多くの区間が日本海沿いを通っており、波打ち際を長時間走るJR屈指の絶景路線として知られています。
2022年8月には豪雨によって岩館~鰺ケ沢間に約70カ所もの被害を受け、復旧には1年以上かかるのではと危ぶまれましたが、12月23日に全線が復旧。
観光列車〔リゾートしらかみ〕も全線で運行を再開しています。
沿線には、世界自然遺産である白神山地や津軽富士の異名で知られる霊峰・岩木山、海沿いの秘湯などもあり、海と山の魅力をいっぺんに味わえる、充実した旅を楽しめます。
日本海沿いの集落に近代化をもたらしたローカル線
五能線のルーツは、1908(明治41)年に開業した官設鉄道能代線です。
能代は江戸時代に栄えた港町で、海運への影響を心配した人々の反対によって、奥羽本線能代駅は現在の東能代駅の場所に設置されました。
ところが鉄道が開業してみると、産業はどんどんそちらへ流れてしまいます。改めて誘致運動が起こり、奥羽本線の支線として能代(現・東能代)~能代町(現・能代)間が建設されました。
それから10年後の1918(大正7)年、青森県五所川原の有力者たちが中心となって、私鉄の陸奥鉄道五所川原~川部間が開業しました。
陸奥鉄道は五所川原周辺の農作物などの輸送を目的とした鉄道でしたが、鉄道省は鰺ヶ沢や深浦など日本海沿岸の集落を近代化するため能代~五所川原間を鉄道で接続することを決定。
これに伴い、陸奥鉄道も1927(昭和2)年に国有化されました。
そして、能代側・五所川原側の双方から建設が進められ、1936(昭和11)年7月30日、陸奥岩崎~深浦間を最後に全通。五能線と改められました。
五能線の名称は、「五所川原」と「能代」の頭文字を取ったものですが、川部の川を取って「川能線」とならなかったのは、こうした経緯がありました。
全通した五能線は、青森県北西部の農産物輸送などに活用されました。
同時に、戦後の早い段階から観光路線としても注目されます。深浦や岩館は毎年夏になると海水浴でにぎわい、昭和30年代には千畳敷や十二湖といった観光地最寄りの場所に仮停車場(後に駅に昇格)が設けられました。
1990(平成2)年4月には、50系客車を改造した展望室付きのレトロ調観光列車「ノスタルジックビュートレイン」が登場。
1997(平成9)年に運行を開始し今も大人気の〔リゾートしらかみ〕につながります。
五能線には、通常の普通列車(一部快速)と、快速列車の観光列車〔リゾートしらかみ〕が運行されています。
五能線の注目車両
モバイルオーダーでグルメも楽しめる〔リゾートしらかみ〕
注目は、なんといっても〔リゾートしらかみ〕。
「橅」「青池」「くまげら」の3編成があり、「橅」と「青池」はハイブリッド車両HB-E300系、「くまげら」はキハ48系を改造した車両を使用しています。
いずれも4両編成で、特急並みのリクライニング座席を中心に、2号車には4人掛けセミコンパートメントタイプのボックス席を配置。
1・4号車には前方の景色を自由に楽しめる展望室とイベントスペースが用意されています。
「青池」のボックス席すべてと、「橅」の一部のボックス席(1・2・8・9番)は、シートを手前に引き出して、桟敷席のようなフルフラットにして使用することも可能です。
車内では駅弁などの販売はありませんが、地元の人々による特産品の販売「ふれあい販売」が実施されるほか、「橅」と「青池」の2号車には、セルフレジ方式の無人売店があります。Suicaなど交通系電子マネーやクレジットカードを使って、お菓子や飲みもの、鉄道グッズなどを購入できます(現金不可)。
なお、「橅」編成で営業していたORAHOカウンターは2022年12月に営業を終了しましたが、カウンター席はフリースペースとして自由に利用できます。
2023年春にスタートした新サービスが、スマホから地域のグルメやカフェメニューを予約注文するモバイルオーダー「うけとりっぷ」。
乗車日前日の15時までに予約すれば、「前菜6種&秋田錦牛すき焼き丼」(1900円/秋田駅)、「白神Cafe&Gallery コーヒー(ホット)」(350円/能代駅)、「セイリングの海彦山彦弁当」(2000円/深浦駅)といったできたてのメニューを、各駅停車中に受け取れます。
車内のイベントスペースでは、津軽鉄道津軽中里駅を拠点に公演している無形民俗文化財「津軽伝統金多豆蔵人形芝居」や、津軽に伝わる昔話を地元の言葉でやさしく語る「津軽弁『語りべ』実演」、そして津軽三味線の生演奏といったイベントが行われます。
実施日と実施される列車は、〔リゾートしらかみ〕の公式ウェブサイトで確認してください。中でも津軽三味線は、ほぼすべての列車で実施されています(10月以降は未定)。
最新のGV-E400系気動車も運行
五能線の魅力は、〔リゾートしらかみ〕だけではありません。
のんびりと車窓風景を楽しむ普通列車の旅も魅力的です。五能線を全線走破する列車は少なく、リゾートしらかみを除くと下りが各駅停車3本、上りは快速列車が1本だけ(いずれも深浦で列車番号が変わります)。
車両は、最新のGV-E400系気動車が使用されています。
ディーゼルエンジンで発電した電力で主電動機(モーター)を回す電気式気動車で、座席はセミロングシート。ロングシートだけでなく、車窓風景を見やすいクロスシートがちゃんと用意されています。GV-E400系は、こちらの記事もご覧ください。
五能線の見どころ
絶景ポイントでは普通列車でも徐行することも
それでは、東能代駅から五能線の旅に出かけましょう。普通列車もツアー客で混雑することがあるので、できれば平日がおすすめです。
東能代駅を発車した列車は、能代市の中心・能代駅を過ぎると米代川を渡り、しばらく能代平野と丘陵地を進みます。
東八森駅を過ぎた先から海が見え始め、岩館駅を発車すると秋田・青森県境を越え、大きなトンネルを2つ抜けたところが最初のハイライト、大間越ビュースポット。
ここは線路が標高50mほどの高台を通っており、雄大な日本海を高い位置から見晴らせます。
〔リゾートしらかみ〕はここで一旦停車。通常の普通列車も、遅れていなければ徐行してくれることがあります。
列車はまもなく海岸まで降りますが、左手にはずっと日本海がついてきます。十二湖駅は、コバルトブルーに輝く十二湖への玄関口。
普通列車や〔リゾートしらかみ〕に接続してバスが運行されており、〔リゾートしらかみ〕の編成名にもなっている青池も手軽に訪れられます。
また艫作駅は海に張り出した露天風呂が有名な黄金崎不老ふ死温泉の最寄り駅。日帰り入浴も可能です(ウェスパ椿山駅から送迎バスもあり/普通列車は要予約)。
旅のフィナーレは霊峰・岩木山とともに
1000年以上の歴史がある港、深浦駅を発車すると、五能線の定番撮影地として知られる行合崎海岸のビュースポットを通過。
登り勾配の左手にオレンジの奇岩と日本海が迫ります。ここからはひたすら海岸に沿って走り、追良瀬(おいらせ)、驫木(とどろき)、風合瀬(かそせ)と趣ある名前の駅が続きます。
千畳敷は、広大な岩棚が広がる夕陽の名所。〔リゾートしらかみ〕2・3・4・5号は15分停車し、海岸に降りられます。
鰺ケ沢を発車すると、ようやく日本海とお別れです。ここからは津軽平野の旅となり、中田駅からは左右に広大な水田が広がります。
津軽鉄道と分岐する五所川原駅を発車すると、列車は進路を南に向けます。
間もなく右手に見えてくる美しい山は、津軽富士こと岩木山。その山容が列車の真横に来る頃、線路の両側は田園風景からリンゴ農園に変わります。
藤崎駅を発車して左にカーブすると右から奥羽本線が近づき、終着・川部駅に到着。列車は進行方向を変えて、弘前駅まで直通します。
乗っているだけでも、降りても楽しい五能線の旅。4月から5月にかけてがいちばんおすすめの時期です。
著者紹介
- ※トレたび編集室/編
- ※写真/交通新聞クリエイト、栗原景
- ※掲載されているデータは2023年4月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。