トレたび JRグループ協力

2023.11.08鉄道長崎本線(JR九州)歴史とともに九州の西を繋ぐ鉄路

今までの歴史とこれからの未来を紡ぐ・長崎本線(JR九州)

日本全国津々浦々を繋ぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、様々な歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用する馴染みのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は、輸送の主役を譲りつつも3県を繋ぐ幹線・長崎本線(JR九州)をご紹介します。

長崎本線の歴史

時代と共にルートと表情を変えてきた大幹線

長崎本線は、明治以来、福岡・佐賀と長崎を結ぶ大動脈として栄えてきた路線です。
佐賀県の鳥栖駅と長崎駅とを結び、全長は125.3km。このほか、喜々津駅から長与駅を経て浦上駅に至る23.5kmの支線(旧線)があり、こちらは「長与支線」「長与まわり」などと呼ばれています。

つい最近まで、特急〔かもめ〕が1日22往復も運行される特急街道でしたが、2022年9月23日、西九州新幹線武雄温泉〜長崎間が開業したことにより、その役割が大きく変わりました。


三角屋根が特徴だった長崎駅の3代目駅舎(1972年4月撮影)

長崎本線の歴史は、少々複雑です。
鳥栖から長崎への鉄道が全通したのは、1898(明治31)年のことでした。
建設をしたのは、鹿児島本線などを建設した九州鉄道です。当初のルートは鳥栖〜早岐〜大村〜諫早〜長崎で、現在の佐世保線と大村線を経由するルートでした。
明治10年代、福岡・熊本・佐賀三県の有志が、軍港・佐世保につながる鉄道として鳥栖〜早岐間の建設を計画したところ、危機感を抱いた長崎県の有志が早岐〜長崎間の鉄道建設を計画。政府は二つの計画を一本化するよう働きかけ、四県合同による九州鉄道が設立されて鳥栖〜早岐〜長崎間が建設されたのです。

しかし、このルートは筑紫山地越えの急勾配区間があるうえ、長崎へは遠回りでした。
そこで、九州鉄道が国有化されると有明海沿いに平坦な短絡線が建設されます。
1934(昭和9)年、肥前山口(現・江北)〜諫早間が全通して長崎本線に編入されました。この時、肥前山口〜早岐間は佐世保線に、早岐〜諫早間は大村線に改称されています。

さらに、戦後の1972(昭和47)年10月には、諫早〜長崎間をショートカットする長崎トンネル経由の新線が喜々津〜浦上間に開業し、ほぼ現在の姿となりました。


長崎本線の短絡ルートとして開業した長崎トンネル近くを走る貨物列車(1974年3月撮影)

時は流れて2022年9月、西九州新幹線が開業します。
整備新幹線建設のルールでは、新幹線に平行する在来線は原則としてJRから経営が分離されます。しかし西九州新幹線は長崎本線とは大きく異なるルートを通るため、長崎本線はJR九州の路線として維持されることになりました。
ただし、利用者の減少が予想される江北〜諫早間は、線路や駅などの施設を一般社団法人 佐賀・長崎鉄道管理センターが保有し、JRは列車の運行だけをおこなう「上下分離方式」を導入。
肥前浜〜長崎間は電化廃止となり、全列車気動車による運行となっています。


武雄温泉~長崎駅間で開業した「西九州新幹線」。将来的には福岡までつながる予定である(2022年9月撮影)

長崎本線の見どころ

広大な田園風景を特急列車が駆け抜ける
鳥栖〜江北〜肥前鹿島

こうして、新幹線開業後も全線JRとして存続した長崎本線。今では全区間を直通する列車はなく、区間ごとに大きく表情が異なります。

鳥栖〜江北間は、西九州新幹線に接続する特急〔リレーかもめ〕や佐世保方面への特急〔みどり〕〔ハウステンボス〕が行き交う、今も変わらぬ特急街道です。佐賀平野を走り、急曲線や勾配がほとんどない線形のよい区間で、特急は最高速度の130km/hに近い速度で疾走します。

吉野ケ里公園駅を過ぎると、右手に吉野ヶ里遺跡が見えます。1980年代に、工業団地の開発(後に中止)に伴う発掘調査によって発見された遺跡で、弥生時代の人々の暮らしや文化の移り変わりを知ることができる極めて貴重な文化財です。
次の神埼駅からは、左右に広大な田園風景が広がり、佐賀駅へ。このあたりはほとんど直線区間で、特急も普通列車も高速走行を楽しめます。

鳥栖〜江北間は、特急列車を中心に多彩な車両が運行されていることも魅力です。
武雄温泉行き〔リレーかもめ〕と肥前鹿島行き〔かささぎ〕は、かつて鹿児島本線の特急〔つばめ〕用として登場した787系が主体。
1992(平成4)年のデビューからすでに30年以上が経過していますが、高級感は今も健在です。また、一部の列車には〔かもめ〕用に開発された振子式車両の885系も使われています。さらに、佐世保行き〔みどり〕と〔ハウステンボス〕は、JR九州が初めて開発した783系を使用。昭和生まれの車両ですが、リニューアルを繰り返し、特急らしいクオリティを維持しています。


〔かもめ〕として走る787系。JR九州で様々な名前を冠して走る大黒柱のような車両(2016年10月撮影)

普通列車も、2001年登場の「ブラックフェイス」817系を中心に、811系や813系、そして朝の鳥栖〜佐賀間のみですが国鉄末期に製造された415系1500番台と、バラエティ豊かな電車を見ることができます。
江北駅で佐世保線が分岐し、長崎本線は南に進路を取ります。江北〜肥前浜間は、かつてのような「特急街道」ではなくなりましたが、佐賀県鹿島市の中心である肥前鹿島駅へ下り1日7本の特急〔かささぎ〕が運行されています。江北までと同様、佐賀平野の広大な田園風景のなかを787系や885系、817系などが走ります。


新鳥栖駅に発着する817系。新鳥栖駅の特徴的な駅舎は鳥の翼をイメージしたデザインになっている(2022年9月栗原景撮影)

有明海に沿って国鉄形気動車がのんびり走る
肥前浜〜諫早

新幹線の開業によって大きく変わったのが、肥前浜〜諫早間です。架線などの電化設備が撤去されて非電化区間となり、気動車による普通列車がトコトコ走るローカル線になりました。
この区間の魅力は、なんといっても車窓に広がる有明海です。線路は入り組んだ海岸線を忠実にたどり、右に左にカーブが連続します。
この辺りは平地がほとんどなく、多良山地からの斜面が海岸まで続く地形。海岸に迫る山の斜面を切り通しや短いトンネルで抜け、その合間に有明海が見えます。多良駅の先には、波瀬ノ浦という入江を築堤と橋梁で渡る区間もあり、先人たちがさまざまな工夫を凝らしてこの地に鉄道を通したことがわかります。

肥前大浦〜小長井間で佐賀・長崎県境を越えます。県境をまたいで利用する乗客は少なく、この区間の列車は1日わずか7〜8本。つい最近まで、30分ごとに特急が通過していたのが信じられないほどです。
そして、この区間のハイライトは小長井駅。有明海に面したホームからは、晴れた日なら海の向こうに雲仙普賢岳を一望できます。


885系も走っていた太良~肥前大浦間は有明海を望む絶景ポイント。現在は非電化区間となり、気動車が長崎本線を繋いでいる(2013年9月撮影)

車両は、国鉄形のキハ47形が中心で、懐かしいローカル線の雰囲気を満喫できるのも当区間の魅力です。
また、小長井駅発着の列車には、LEDライトがずらりと並んだ派手な外観が印象的なYC1系も使用されています。YC1系のほうが窓も車内もきれいですが、車端部以外はロングシートなので注意が必要です。

肥前浜〜諫早間の車窓を楽しむなら、D&S列車の〔ふたつ星4047〕もおすすめです。午前に運行される武雄温泉発の列車は江北駅から長崎本線を経由し、小長井駅では6分停車してホームからの景色を楽しむことができます。


西九州の新しい観光列車「ふたつ星4047」、その魅力を鉄道写真家・村上悠太が乗車レポート!

2022年に誕生した佐賀・長崎エリアのD&S列車〔ふたつ星4047〕。
豪華なラウンジから、車内販売の「長崎スフレ」まで! イベントも盛りだくさんの観光列車を徹底レポートします!

風光明媚なローカル線から通勤路線に一変
諫早〜長崎(本線/長与支線)

諫早〜長崎間は、全列車気動車ながら、長崎県の二大都市を結ぶ通勤路線です。
車両はYC1系が中心で、朝夕のラッシュ時には数分間隔で列車が発着することもあります。
現川〜浦上間にある長崎トンネルは、全長6173mと九州の在来線で最も長いトンネル。単線区間ながら、多くの列車が行き交うため、トンネル内に列車の交換が可能な肥前三川信号場が設けられています。


長崎を走るYC1系。「優しくて(Y)力持ち(C)」から名付けられたハイブリッド車両である(2020年6月長崎駅にて撮影)

遠回りで時間もかかりますが、車窓風景がよいのが、長与経由の旧線です。特に、喜々津から東園を経て大草までは、車窓右手にのどかな大村湾が広がります。
長与駅まで来ると、ローカル線の雰囲気が一変。駅周辺にニュータウンが整備され、ここからは旧線も長崎市の通勤路線となります。
浦上駅の手前で長崎トンネルから出てきた本線と合流すると高架線となり、左から西九州新幹線が近づいて、終着・長崎駅に到着です。


西九州新幹線の開業に合わせ高架化が完了し、4代目と5代目の駅舎が併用されている(2022年9月栗原景撮影)

長崎駅は、西九州新幹線の建設に伴い、長年親しまれた駅の西側に移転しました。新幹線ホームと一体的なデザインとなり、波のようなカーブを描く明るい膜屋根が特徴です。高架ホームからは長崎港もよく見え、長崎の新しいシンボルとなりました。

高速で特急が行き交う区間もあれば、海岸沿いを気動車がトコトコ走る区間や都市型の通勤区間もある現在の長崎本線。以前よりも一層豊かな表情で、旅行者を迎えてくれます。


西の端・長崎駅まで繋ぐ長崎本線。移りゆく時代の中でこれからも人々を乗せて走り続ける(2022年11月栗原景撮影)


長崎本線(JR九州) データ

起点   : 鳥栖駅
終点   : 長崎駅
駅数   : 42駅
路線距離 : 148.8km
開業   : 1891(明治24)年8月20日
全通   : 1898(明治31)年11月27日(大村駅経由)、1934(昭和9)年12月1日(肥前鹿島駅経由)、1972(昭和47)年10月2日(長与駅経由)
使用車両 : 783系、787系、885系、キハ40系、415系、811系、813系、817系、キハ125形、YC1系、DF200形ディーゼル機関車、77形客車


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「国鉄時代の貨物列車を知ろう」(実業之日本社)ほか。

  • 写真/栗原景、交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2023年10月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
トレたび公式SNS
  • X
  • Fasebook