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2024.01.17鉄道宗谷本線(JR北海道)広大な絶景を体感しながら日本最北の地へ

絶景を求めて旅がしたくなる路線・宗谷本線(JR北海道)

日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は、最北のまち・稚内までつなぎ、多くの秘境駅を有する宗谷本線(JR北海道)をご紹介します。

宗谷本線の歴史

樺太を目指した最果ての鉄道

最果ての地を目指す鉄道。それが、JR北海道の宗谷本線です。
旭川駅と稚内駅を結ぶ、全長259.4kmの路線で、北海道の雄大な大自然を満喫できる路線として、多くの旅人を魅了してきました。一方で、沿線の大部分が人口の極めて少ない地域であるため、非常に厳しい状況にある路線でもあります。


新幹線車両用の耐寒耐雪テストを行うため、塩狩駅を出発する試験列車。客車は雪害対策試験車として改造されている(1976年1月撮影)

宗谷本線は、道北地方の開拓のために明治時代中頃から建設が進められた鉄道で、その歴史は1898(明治31)年に旭川〜永山間が開業したことに始まります。
日露戦争によって樺太(現在のロシア領サハリン)の南半分が日本の領土になると、南樺太への輸送手段として建設が急がれ、1922(大正11)年に初代稚内駅(現在の南稚内駅)まで開業しました。
ただし、この時開業したのは音威子府(おといねっぷ)駅から浜頓別(はまとんべつ)駅(※1989年5月営業終了)を経由する東まわりのルートで、引き続き天塩川に沿って幌延(ほろのべ)などの開拓地を通る西まわりの「天塩線」が建設されます。
1926(大正15)年、天塩線音威子府〜稚内(初代)間が全通。
1928(昭和3)年には現在の稚内駅である稚内港駅へ線路が延びました。
そして1930(昭和5)年、天塩線が宗谷本線に編入されて、現在の宗谷本線がほぼ完成しました。なお、浜頓別経由の東まわりルートはこの時「北見線」として分離され、その後「天北線」に改称して、1989年まで運行されています。

1923(大正12)年には、稚内と大泊(現在のコルサコフ)との間に稚泊航路が就航。以来1945(昭和20)年8月にソ連が樺太全土を占領するまで、宗谷本線は樺太連絡鉄道としての役割を果たしました。


日本最北端の駅・稚内駅。写真の3代目駅舎は1965年から2011年まで使用された(1981年7月撮影)

宗谷本線からは、天北線のほか羽幌経由で留萌へ向かう羽幌線、美深から北見枝幸を目指した美幸線、札幌と北見・網走を結ぶ最初の鉄道となった名寄本線、道路のない無人地帯を通った深名線など、多数の路線が分岐していましたが、今はすべて廃止され、旭川駅から1本だけ北へひょろりと延びています。
貨物列車が乗り入れる旭川〜北旭川(貨物駅)間だけは複線電化されていますが、大部分の区間は単線の非電化でディーゼルカーによる運行が行われています。

宗谷本線の車両

残り少なくなった国鉄型車両が活躍

宗谷本線では、現在3往復の特急列車が運行されています。
特急〔宗谷〕は札幌〜稚内間を5時間12分で結ぶ列車で、2往復設定されている特急〔サロベツ〕は旭川〜稚内間を最速3時間43分で結んでいます。いずれも、車両は4両編成のキハ261系。1990年代末に実施された旭川〜名寄間の高速化に合わせて登場した車両で、空気バネを使った車体傾斜装置でカーブを高速で通過することができました。当初の最高速度は130km/hで、札幌〜稚内間を最速4時間56分で結んでいましたが、さまざまな事情から2014年に車体傾斜装置の使用を中止。最高速度も120km/hに抑えられ、今は5時間台の運転となっています。
それでも、車両ごとに赤・青・緑のイメージにまとめられたカラフルな普通車や、ぜいたくな3列シートのグリーン席は特急らしい快適さで、北の旅路をゆったりと楽しむことができます。


札幌と稚内をつなぐ特急〔宗谷〕。グリーン車の座席は北海道初の革張りシートになっている(2017年6月撮影)

普通列車はH100形、キハ40系、キハ54形の3形式。快速〔なよろ〕をはじめ、通勤通学輸送の需要が高い旭川〜名寄間では、最新の電気式気動車H100形が中心です。
国鉄時代の1970年代に普通列車向けの全国標準車両として投入されたキハ40系は旭川〜音威子府間の列車に、国鉄末期に開発されたキハ54形は旭川〜稚内間で使用されています。国鉄型のキハ40系とキハ54形は、2024年3月のダイヤ改正で石北本線(新旭川〜網走)や釧網本線(網走〜東釧路)からの引退がアナウンスされており、宗谷本線は国鉄型の旅を楽しめる数少ない路線となります。


国鉄最後の全国向け気動車・キハ40形

キハ40形(JR北海道)北海道を長年支えた国鉄車両

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車両の歴史から走行路線など、詳しくはこちら ▶▶

宗谷本線の見どころ

列車本数が少ないため、事前準備をして乗車しよう

宗谷本線の魅力は、なんといっても雄大な車窓風景にありますが、問題は列車本数の少なさです。
全区間を走破する普通列車は、旭川駅を朝発車する1本しかありません。特急列車も3本しかなく、このうち〔サロベツ〕の1往復は、閑散期になると火・水・木曜日は全区間運休となってしまうので、注意が必要です。
厳しい自然環境の中を走ることもあって、国鉄型の車両は窓が汚れていることも多く、通常は特急を利用するほうがよいでしょう。車内販売などはないので、乗車前に飲食物を確保しておく必要があります。


駅南側を流れる忠別川をイメージしつくられた旭川駅の駅舎。コンコースには道産のタモ材がふんだんに使われている(2017年6月撮影)

さて、近代的な高架駅である旭川駅から宗谷本線の旅が始まります。座席は、稚内駅に向かって左側、特急ならD席がおすすめです。
新旭川駅の先で石北本線が分岐し、右に車両基地、左に北旭川の貨物駅を見て北上。永山駅を発車して石狩川を渡ると、昔屯田兵が拓いた広大な田園風景が広がります。
蘭留(らんる)駅から山に入り、最大20‰(1000m進むごとに20mの高低差)の急勾配で塩狩峠に向かいます。蘭留山の西麓をぐるりと迂回し、峠の頂上にある標高273mの塩狩駅へ。和寒(わっさむ)から名寄盆地に入り、再び広い田園風景と牧草地をまっすぐ北上します。


田植え時期に走るキハ40形。宗谷本線は新緑の季節の旅も魅力的(2017年6月撮影 )

名寄駅に到着する直前、右手に見える機関車は「SLキマロキ」。かつて豪雪地帯で使用された排雪列車で、前位の「マックレー車」が線路両側の雪の壁を崩し、その雪を後ろの「ロータリー車」が回転翼で吹き飛ばすという仕組みでした。
道北の厳しい寒さと風雪を克服した列車で、1989年に廃止された旧名寄本線の線路跡に保存・展示されています。

名寄市街を出て、天塩川の支流である名寄川を渡ると人家が少なくなり、ローカルムードが高まります。ここからは、東は北見山地と宗谷丘陵、西は天塩山地に挟まれた谷を縫って進みます。日進駅の先で、左に天塩川が近づいてきますが、防風林などに阻まれて川はなかなか見えません。
宗谷本線は、約120km先の幌延駅までひたすら天塩川とともに北上しますが、一度として天塩川を渡ることはありません。智恵文駅付近は、天塩川の旧流路である智恵文沼が近づき、毎年5月頃には所々でミズバショウの群落が目を楽しませてくれます。

地域と有志が一体となって盛り上げる“秘境駅”・糠南駅


何もない場所にぽつんと現れる糠南駅。物置小屋を改装した待合室が使用されている(2008年5月栗原景撮影)

美深駅を過ぎると、天塩川が見える機会が増えてきます。左の天塩山地がぐっと近づいて来ると、天塩川温泉駅。
元は国鉄時代に設置された仮乗降場で、小さな板張りのホームと待合室があるだけの無人駅です。北海道には、こうした「板張り駅」とも呼ばれる無人駅がたくさんありましたが、利用者がほとんどいないためその多くが廃止されてしまいました。
天塩川温泉駅は2024年現在も健在の貴重な「板張り駅」で、徒歩10分ほどのところに日帰り温泉も可能な宿泊施設「天塩川温泉」があります。


国鉄時代の「天塩川温泉」仮乗降場。雪に埋もれているが、少年時代の筆者が立っている場所が板張りになっている(1987年3月撮影)

どんどん狭くなる一方だった谷が少し開けると、久しぶりに町に入って音威子府駅に到着します。かつて天北線が分岐したジャンクションで、駅舎内に当時の備品や鉄道模型を展示する天北線資料室があります。当駅の名物だった、黒い音威子府蕎麦の駅そば店は惜しまれながら閉店しましたが、蕎麦は近年駅前のゲストハウス兼食堂で復活したそうです。

音威子府駅からは、いよいよ谷が深くなり、天塩川が車窓間近に迫ってきます。沿線の民家もぐっと少なくなり、徐々に最果て感が高まってきます。
谷がやや開けて天塩中川駅、問寒別駅と過ぎると、秘境駅として知られる糠南(ぬかなん)駅に到着します。ここは板張りの小さなホームに、物置を改造した待合室がぽつんと置かれただけの無人駅。周囲は畑と牧草地が広がるばかりで、民家もありません。
JR北海道は一度2017年春のダイヤ改正で当駅と下沼駅の廃止を地元幌延町に打診しましたが、現在は駅の維持管理費を町が負担する形で存続しています。
幌延町は、当駅のほか下沼駅・南幌延駅・雄信内駅・問寒別駅について、ふるさと納税などを原資に駅の維持管理を行っています。中でも糠南駅は象徴ともいえる存在で、毎年12月の日曜日には極寒の当駅で有志による「クリスマスパーティー in 糠南」が開催されています。


「クリスマスパーティー in 糠南 2023」の様子。SNSを中心に毎年話題になっている(幌延まちおこし隊提供)

幌延駅で、名寄からずっとともに旅をしてきた天塩川ともお別れ。宗谷本線は宗谷丘陵の裾野をさらに北上します。
豊富駅は「日本最北の温泉郷」といわれる豊富温泉の玄関口。駅からバスで10分ほどのところにあり、世界的にも珍しい油を含む泉質で知られています。

人工建造物がほとんど見えない抜海〜南稚内間


日本最北の木造駅舎でもある抜海駅。2024年6月には100周年を迎える(2008年5月栗原景撮影)

なだらかな丘陵地帯を地形に沿って走り、勇知駅を過ぎて標高40mほどの小さな峠を越えると、抜海駅。この抜海駅は、「最北の無人駅」です。
糠南駅などと同様、JR北海道が自治体に廃止を打診しましたが、現在は有志によるクラウドファンティングでの駅の維持を模索しています。

さて、この抜海駅から次の南稚内駅までが、宗谷本線のハイライトです。
列車は稚内西海岸を見下ろす丘陵に出て、果てしない原野と日本海、そしてその向こうに浮かぶ利尻島の利尻富士(利尻山)を見ながら走ります。しばらくは人工建造物が全く見えません。


抜海~南稚内間は、北海道ならではの雄大な車窓風景は見逃せない絶景ポイント(2008年5月栗原景撮影)

少し内陸に入って、ぽつんぽつんと人家が見えてくると南稚内駅に到着。街中をゆっくり走って、終着・稚内駅に到着します。

日本最北端の駅・稚内駅は、2012年に複合施設「キタカラ」を併設した新駅舎が開業し、現在はそれほど「最果て感」は感じないかもしれません。時間が許せば、駅から北へ400mほど歩いて、稚内港北防波堤ドームを訪れてみましょう。このドームは1936(昭和11)年に完成したもので、当時は線路がここまで延びて稚内桟橋駅と称していました。太平洋戦争の終戦までは、ここから樺太の大泊への連絡船が就航していたのです。宗谷本線は、ここを目指して建設された路線でした。


2001年には「北海道遺産」のひとつに、また「平成15年度選奨土木遺産」にも選ばれており、稚内港のシンボル的存在である(公益社団法人北海道観光振興機構提供)

最果ての旅情があふれる宗谷本線ですが、極めて人口の少ない地域を通るため、現在はその将来を危ぶむ声があります。JR北海道では、宗谷本線を「自社単独で維持することが困難な路線」のひとつに挙げ、鉄道を維持していくためにどうするべきか検討を進めていくとしています。集落が消滅する駅も増え、2001年から2022年にかけて実に17もの駅が廃止されました。2024年3月のダイヤ改正で初野駅の廃止が発表されています。

極めて厳しい状況にある宗谷本線ですが、旅人にとってはこれほど魅力的な路線はなかなかありません。できれば普通乗車券を利用して全区間を乗り通し、その雄大な車窓風景を楽しんでみてください。


2021年に廃止された北星駅。少しずつ駅は減っているが、沿線住民や旅人たちとともに日本最北の地を走り続けていく(2008年5月栗原景撮影)


宗谷本線(JR北海道) データ

起点   : 旭川駅
終点   : 稚内駅
駅数   : 40駅
路線距離 : 259.4km
開業   : 1898(明治31)年8月12日(旭川〜永山間)
全通   : 1926(大正15)年 9月25日(現在のルートが全通)
使用車両 : キハ261系、キハ40系、キハ54形、H100形


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「国鉄時代の貨物列車を知ろう」(実業之日本社)ほか。

写真は1987年3月29日に天塩川温泉仮乗降場にて。国鉄時代で、中学卒業直後の記念写真でした。

  • 写真/栗原景、交通新聞クリエイト
  • 写真提供/公益社団法人北海道観光振興機構、幌延まちおこし隊
  • 掲載されているデータは2024年1月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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