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2024.02.16鉄道身延線(JR東海)富士山と富士川を車窓いっぱいに楽しむゆる旅

富士山と富士川を望み、ともに旅する路線・身延線(JR東海)

日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は、富士川とともに歴史を歩んできた山岳路線・身延線(JR東海)をご紹介します。

身延線の歴史

富士川の舟運から生まれた路線

静岡県の富士駅と山梨県の甲府駅とを結ぶJR東海の身延(みのぶ)線は、富士川の流れとともに歩んできた路線です。
全長88.4km、多くの区間で富士川と並走し、富士山と食のまちである富士宮市や身延山久遠寺への玄関である身延町、武田信玄の隠し湯ともいわれた下部(しもべ)温泉など、沿線には多彩な見どころが揃っています。

身延線の前身は、富士身延鉄道という私鉄です。
明治時代まで、富士川は甲州と東海道とを結ぶ舟運の大動脈で、1日に100隻ほどの船が行き来していました。
しかし、富士川は日本三大急流に数えられるほど流れが急な暴れ川。水運には事故が多く、甲府へ遡上するにも大変な時間と労力を必要としていたため、明治時代から鉄道の敷設を望む声がありました。
政府も、中央本線の次に建設する路線として富士川河口近くの岩淵から甲府までの岩淵線を構想しましたが、日清・日露戦争による財政難や、中央本線開業に伴う富士川舟運の衰退により難航します。


善光寺駅周辺をを走る42系。戦前より横須賀線や東海道・山陽線京阪神地区で活躍していた車両である(1970年9月撮影)

富士川の鉄道構想がようやく動き出すのは、明治末期の1911(明治44)年のこと。
のちに東武鉄道の社長となる根津嘉一郎や小野金六といった甲州出身の実業家によって富士身延鉄道が設立され、既存の馬車鉄道を買収して1913(大正2)年、富士〜大宮町(現・富士宮)駅間が開業しました。
その後、富士川沿いの険しい地形に鉄道を敷く工事は難航を極めましたが、1920(大正9)年に身延に延伸。


身延駅に停車する51系。隣には165系の「急行みのぶ」(1975年5月撮影)

1926(大正15)年からは早くも電化工事が始まり、1928(昭和3)年、富士〜大宮町駅の開業から16年近くかけて、富士〜甲府駅間が全通しました。
当時の地方私鉄としては画期的な全線電化路線で、富士〜甲府駅間の所要時間は2時間43分。現在の普通列車でも最速2時間31分ですから、そのスピードがわかります。その後、富士身延鉄道は1938(昭和13)年に国に借り上げられ、1941(昭和16)年に正式に買収されて国鉄身延線としていまに至ります。

身延線の車両

特急列車が1日7本も走り利用しやすい

現在の身延線には、特急〔ふじかわ〕が1日7往復運行されています。
運行区間はすべて静岡〜富士〜甲府駅間で、静岡〜甲府駅間の所要時間は最速2時間14分。車両は、ワイドな窓と4人用セミコンパート席が人気の373系3両編成で、飯田線の特急〔伊那路〕(いなじ)と共通の運用となっています。


身延山を背に走る特急〔ふじかわ〕。373系の大きな窓で風景を満喫できる(2008年7月撮影)

普通列車は、原則として313系に統一されています。1999年から15年以上にわたり500両以上が製造されたJR東海の主力電車で、身延線に使用されている電車は静岡車両区所属の2両編成及び3両編成。このうち3000番台(V編成/2両)はワンマン運転に対応し、向かい合わせの座席を備えたセミクロスシート車で、2300番台(W編成/2両)と2600番台(N編成/3両)はオールロングシート車です。全線を走り通す列車は多くがセミクロスシートのV編成なので、富士川沿いの車窓風景をたっぷりと楽しめます(一部ロングシート車もあり)。

また、2025年度までに身延線富士~西富士宮駅間で315系の投入を予定しており、全車両に車いすスペース、全編成に車いす対応トイレが設置され、車内防犯カメラ設置でセキュリティーなど、車内環境も向上。静岡地区への新型車両の投入は2006年以来で、新たな車両での身延線の旅が楽しみです。


富士山と山間の風景を車窓に走る特急列車〔ふじかわ〕

特急「ふじかわ」―おおきな車窓で富士山を見る!車両・座席別に車内を徹底解説(THE列車)

東海道本線・身延線では、静岡駅~富士駅~甲府駅間を結ぶ特急「ふじかわ」に使用され、富士山や富士川を車窓に楽しめる列車として1日7往復が運行されています。

車内など、詳しくはこちら ▶▶

身延線の見どころ

富士駅を発車してすぐ真正面に現れる富士山

身延線の起点は富士駅です。富士駅は1・2番線が身延線のホーム。西に向かって発着する構造で、東側は行き止まりになっています。
このため、静岡駅から発着する特急〔ふじかわ〕は、富士駅で進行方向を変えなくてはなりません。
実は、かつて身延線は今とは反対の東に向かって出発する構造で、静岡方面からそのまま乗り入れることができました。
それを、東京方面からの列車が身延線へ直通できるよう、1969(昭和44)年に富士〜入山瀬駅間のルートが変更されたのです。
出発方向が真逆になるルート変更は大変珍しいケースです。これは、身延線の富士宮駅へ、東京方面から団体臨時列車が多数運行されていたからです。

当時の富士駅は、東京方面から来た列車は身延線に入れず、いったん静岡方向に出発して貨物列車のような入換作業を行わなくてはなりませんでした。
そこで、思いきって東京から直通できるようルートを変更したのです。同時に、富士〜富士宮駅間の複線化工事も進められました。


富士駅の1番線ホームに停車する〔富士ポニー〕。身延線の区間輸送として使用されていた123系である(1987年3月撮影)

さて、そんな富士駅を発車した列車は、東海道本線と別れると右にカーブして高架線に上がります。
ここでは、ぜひ先頭車両の運転席後ろで前面風景を眺めましょう。晴れた日なら、正面に見事な富士山が姿を現し、柚木駅を経て竪堀駅まで絶景を楽しめます。

次の入山瀬駅は、身延線のルーツである富士馬車鉄道時代からある駅です。
富士市は製紙の町として有名ですが、その歴史は1890(明治23)年、この地に富士製紙入山瀬工場が建設されたことに始まります。
紙製品とその材料を輸送するために馬車鉄道が建設され、のちに富士身延鉄道に買収されて、身延線の母体となったのです。


富士山と富士山本宮浅間大社。富士宮駅より10分ほど歩いた先で見える絶景ポイント(提供:静岡県観光協会)

富士山を右に眺めながら北上し、やがて到着する富士宮駅は、富士山や富士山本宮浅間大社の玄関口です。
200m以上ある長いホームと団体専用改札口が、団体列車で賑わった時代を偲ばせます。
今も、観光シーズンには富士山への登山者や観光客、富士宮やきそばなどのB級グルメを求める人々で賑わいます。

約1時間にわたって富士川とともに北上


西富士宮~沼久保駅間は富士山のビューポイント。車窓に広がる富士山は見逃せない(2012年11月撮影)

複線区間はここまでで、多くの列車は次の西富士宮駅で折り返しとなり、身延方面へ進む列車は2時間に1本程度しかありません。
しかし身延線はここからが本番です。
座席は甲府に向かって左側がよいでしょう。特急〔ふじかわ〕なら、原則としてA席がおすすめです。
西富士宮駅を発車すると、すぐに標高321mの羽鮒(はぶな)山がたちはだかり、線路は大きくカーブして山裾を25‰の急勾配で登っていきます。車窓左手には富士宮の市街地が広がり、その向こうには富士山が。

沼久保駅付近で富士山とはお別れし、次の芝川駅の先から、富士川が左手に近づいてきます。
ここから身延を経て波高島駅付近まで、約30kmにわたって富士川とともに北上しますが、身延線が富士川を渡ることはありません。
列車は富士川の左岸、天守山地の斜面を走り、やや高い場所から富士川と流域の田畑、そして身延山地を眺めながら進みます。
狭い谷が続きますが人家や工場が完全に途切れることはほとんどなく、富士川の偉大さを感じます。


身延線に寄り添うような形で流れる富士川。対岸側には集落が広がっている(2009年12月栗原景撮影)

身延駅は、標高1153mの身延山と、日蓮宗の総本山である身延山久遠寺の玄関口。
どちらも駅からバスで富士川を渡り10分あまりのところにあります。身延山ロープウェイもあり、山頂の3つの展望台からは、富士山や富士川、駿河湾や八ヶ岳連峰など四方のパノラマを楽しめます。
波高島駅で、芝川駅から約1時間にわたって並走してきた富士川と分かれ、ここからはその支流である常葉川を遡上します。
次の下部温泉駅は、信玄の隠し湯で有名な温泉地。駅から2kmあまり離れた下部川の峡谷沿いに温泉街が形成されています。


下部温泉の玄関口となる下部温泉駅。木造駅舎で、立派な瓦屋根が特徴的(2009年12月栗原景撮影)

近年はアニメの舞台としても絶大な人気

下部温泉駅からは、身延線では珍しく車窓右手に常葉川を眺める区間が続きます。
次の甲斐常葉駅は、アニメ「ゆるキャン△」で主人公たちが通う高校の最寄りとして描かれた駅で、身延駅などとともに多くのファンが訪れるスポットとなっています。
同作品には、下部温泉〜甲斐常葉駅間を走る313系などもリアルに描かれ、2022年夏には車内を装飾した「ゆるキャン△コラボ列車」が運行されました。


ホテルの後ろ側に下部温泉駅が鎮座する。駅の周辺にはホテルや温泉宿が立ち並び、旅の疲れを癒すことができる(提供:山梨観光協会)

一ノ瀬駅の先で身延線最長となる882mの勝坂トンネルを抜け、鰍沢口駅(かじかざわぐちえき)まで来るとここからは甲府の通勤圏。
それまで間近に迫っていた山地がすっと遠ざかり、甲府盆地に降りていきます。
左から再び富士川が近づき、釜無川と笛吹川が合流し富士川となる辺りを通過しますが、列車から川はほとんど見えません。

甲斐上野〜東花輪駅間の笛吹川橋梁(249m)で笛吹川を渡ると、辺りはすっかり甲府盆地となり、街中に入って駅間距離も1km前後と短くなります。
四方を山に囲まれた盆地に、田んぼと果樹園、そしてたくさんの民家が連なり、甲府盆地の豊かさが感じられます。

善光寺駅で右手から中央本線が近づきますが、次の金手駅(かねんてえき)は身延線だけの駅。
1kmあまりゆっくり走って、左手に甲府城址の石垣が見えてくると、終着・甲府駅に到着です。

全線を乗り通しても2〜3時間と手頃で車窓も多彩、さらに特急を含め列車本数が比較的多い身延線は、プランも立てやすく鉄道旅の初心者にもおすすめの路線です。
身延山や下部温泉、あるいはアニメの舞台訪問など、途中下車を楽しみながら1〜2日かけて乗車すると充実した旅になるでしょう。


車窓に広がる富士山と富士川の風景はまさに絶品。特に青空の日に旅がしたくなるだろう(2009年12月西富士宮~沼久保駅間にて栗原景撮影)


身延線(JR東海) データ

起点   : 富士駅
終点   : 甲府駅
駅数   : 39駅
路線距離 : 43.5km
開業   : 1913(大正2)年7月20日(富士身延鉄道として富士~大宮町駅間が開業)
全通   : 1928(大正17)年 3月30日
使用車両 : 373系、313系、211系


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「国鉄時代の貨物列車を知ろう」(実業之日本社)ほか。

  • 写真/栗原景、交通新聞クリエイト
  • 写真提供/静岡県観光協会、やまなし観光推進機構
  • 掲載されているデータは2024年2月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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