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2022.06.23鉄道821系(JR九州) 地域輸送をレベルアップする最新型車両! そのデザインや内装をくわしく解説

ユニークな見た目で実はやさしい、JR九州の最新型車両

鉄道ファンといえば新幹線、観光列車に特急列車が好き……。

それはもちろんその通り。 しかし日々の通勤や通学を支える普通・快速列車にも、たまらない魅力が隠されています。さながら実家のような安心感と最先端の技術を兼ね備える不思議な存在、それが普通・快速列車なのです。

今回は、ユニークな外観が目を引くJR九州の最新型電車「821系」を紹介します。

最新の技術とサービスを九州の人々に

車両の最前部に、まるで繁華街のネオンサインのように並ぶLEDライト。これまでの電車にはなかった、ユニークな表情をした電車がJR九州の821系近郊型交流電車です。

2018年に試作車が登場し、2019年3月のダイヤ改正でデビューした、JR九州で最も新しい電車です。現在までに3両編成10本、30両が製造されて、鹿児島本線で運用されています。

国鉄車両に代わる二つの電車

JR九州は約1500両の車両を保有していますが、発足から30年が経過した2017年の時点でも、国鉄から引き継いだ旧型車両が300両以上残っていました。

レイルファンにとっては魅力的に映る国鉄型車両ですが、日常的に利用する乗客にとっては、古くてうるさい時代遅れの車両です。鉄道が、人々から選ばれる交通機関でありつづけるには、こうした老朽化した車両の置き換えが必要でした。

そうした状況を背景に開発された車両が、821系電車と、その兄弟にあたるYC1系気動車です。


821系とYC1系 821系(左)とYC1系(右)

コンセプトは、「やさしくて力持ちの鉄道車両」。バリアフリー設備をはじめ、人や環境に「やさしい」機能と、高性能で信頼性の高い「力持ち」の走行機能を備え、九州の通勤・通学輸送を支えています。


YC1系についてはこちら

117個ものLEDライトを光らせて走った


821系の特徴は、なんといってもその奇抜な前面デザインです。

アルミニウム合金製で無塗装のシルバーボディに対し、前面部は普通鋼を使った全面ブラックフェイス。

そして前面部の外周を縁取りするように、69個ものLED装飾灯が配置されています。これらは、窓下左右に配置された前照灯(LEDライト24個×2)と連動し、最前部では白、最後部では赤に点灯。

全体で117個ものLEDライトが点灯するため、夜間でも強力に前方を照らしていました。

その奇抜なデザインと夜間の明るさから、一部のレイルファンからは「イカ釣り漁船」にも例えられています。

この派手なライトには、装飾としての意味のほか、遠くからでも列車の接近を知らせ、列車までの距離や列車の大きさを認識しやすくするという機能もありました。


ところが、2021年秋から外周部の装飾灯は消灯して運行されています。経費節減のためとも言われますが、「明るすぎた」という理由もあるのかもしれません。

直進性の強いLEDライトは正面から見たときにまぶしく、あまり明るいと、対向列車との間にある障害物が見えなくなる「蒸発現象」が発生する恐れがあります。2年余りの運用を通じて、車体周囲のLEDは消灯しても明るさは十分で、むしろ安全と判断されたのではないでしょうか。

821系最大の特徴だっただけに、少し寂しい気もしますね。

人にやさしく、トラブルに強く、他形式との併結も自在

人にやさしい車内デザイン

ユニークなデザインの821系ですが、開発コンセプトの通り、車両には「やさしい」機能が多数搭載されています。

車体は客室を広く取れる、全幅2950㎜の拡幅車体を採用しています。

車両のデザインは、JR九州の車両ではすっかりお馴染みとなった工業デザイナー、水戸岡鋭治さんのドーンデザイン研究所が担当。


821系 車いすやベビーカーのための広いスペース

821系 ボタンで開閉ができる「スマートドア」

車いすやベビーカーのスペースは3両編成中に2カ所設けられ、乗降扉はボタン操作によって開閉し車内温度を乱さない半自動ドアの「スマートドア」。また、乗降扉外側の左右には3個ずつLEDライトが配置され、乗降時に足もとを照らして乗り降りしやすくなっています。

車内の案内表示器は、外国人利用者にも優しい4カ国語(日・英・中・韓)対応。

座席はすべてロングシートですが、1人当たりの座面幅は従来の440mmから460mmに拡大し、開いた扉が収まる戸袋部の座席は背もたれにヘッドレストがつくなど、座り心地が向上しています。

床面の段差や勾配をできる限りなくし、トイレも扉の幅を1000mmとするなど、バリアフリーも進化しています。


環境にもやさしく、トラブルに強い。その秘密は?

「やさしい」のは、乗客に対してだけではありません。

車体は、2枚のアルミ板を三角状のトラス材で貼り合わせたオールアルミダブルスキン構体を採用し、軽くて保温性と遮音性に優れ、かつリサイクル性にも優れた構造です。

列車は原則として3両編成。主電動機(モーター)を搭載した電動車1両と、主電動機を搭載しない付随車2両という1M2Tの構成で、既存の811系・813系・817系と併結することもできます。

架線から取り込んだ電気を、モーターに適した三相交流に変換する主変換装置には、省エネルギー性能に優れ、小型軽量・大容量でメンテナンス性も高いフルSiC素子という半導体を使用し、消費電力は国鉄時代の主力電車だった415系の3分の1にまで削減されています。


省エネルギー性能に優れた主変換装置

電動車には小型軽量でパワフルな1時間定格出力150KWのモーターが4台搭載され、2つの制御装置がそれぞれモーターを2台ずつコントロールしています。

制御装置がひとつ故障しても、もう一つの装置で4台のモーターを制御することも可能で、万一の故障時にも運行を続けられる、トラブルに強い設計です。

路線を広げ、九州の生活をこれからも支える

利用者にやさしく、メンテナンス性に優れ、パワーもあってトラブルにも強い。

最新技術が多数採用された821系は、2019年3月から鹿児島本線小倉〜荒尾間で運行を開始し、今では門司港〜八代間にまで活躍の場を広げています。

現在は10編成30両と、254両が製造された813系などに比べると少数ですが、同一コンセプトのバッテリー搭載気動車YC1系とともに、九州の人々の生活を支える最新型電車として親しまれています。


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。

小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。

東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「東北新幹線沿線の不思議と謎」(実業之日本社)、「東海道新幹線の車窓は、こんなに面白い!」(東洋経済新報社)ほか。

  • トレたび編集室/編
  • 写真/交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2022年6月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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