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2021.10.20鉄道〔伊予灘ものがたり〕デザイナーはJR四国社員! その言葉から知る、隠れた物語

愛される観光列車の7年とこれから

JR四国初の本格的な観光列車として運行開始から人気を博し、今年7周年を迎えた〔伊予灘ものがたり〕。
その車両デザインを担当したJR四国の松岡哲也さん、そして〔伊予灘ものがたり〕に乗務するアテンダントへのインタビューを通して、その誕生や歩み、そして来春デビューの新車両に迫ります。

  • トップの写真は、予讃線で運転されている〔伊予灘ものがたり〕(写真提供=JR四国)

「デザインは専門外」から人気列車へ。意外なはじまりの“ものがたり”

沿線の景色はもちろん、車内空間やサービスも人気の〔伊予灘ものがたり〕。
そのデザインを担当したのが松岡哲也さん(JR四国デザインプロジェクト担当室長)です。


JR四国 松岡哲也さん

大学で建築を学び、一級建築士でもある松岡さんは、1991年のJR四国入社以来、建築設計の業務一筋でした。
しかし、瀬戸大橋線の快速〔マリンライナー〕先頭車のカラーリングで列車デザインに関わるように。
そして、2011年にデザインプロジェクト担当部署に異動。
8600系(特急〔いしづち〕)と〔伊予灘ものがたり〕のデザイナーに抜擢されます。


快速〔マリンライナー〕(写真=交通新聞クリエイト)

8600系(写真=交通新聞クリエイト)

「絵を描くのは昔から好きでしたがデザインは専門外。私の落書きみたいな絵を上司が覚えていたのかも」と松岡さんは振り返ります。

「愛ある伊予灘線」にしかない列車なら、沿線の人々にも愛される

当時、JR四国では「列車は目的地に行く手段」という意識が強かったといいます。そんななかで始まった「列車が旅の目的」の観光列車プロジェクト。
選ばれた路線は、予讃線の海回り区間「愛ある伊予灘線」でした。
その選定理由の一つは、観光列車プロジェクトがJR四国初の試みだったからだと松岡さん。
「特急列車の運行路線では、観光列車を選んでもらえないかもしれないと思いました。この路線なら特急が走らないし、景色も申し分ないですから」

運行路線の次に決まったのが列車名でした。
「伊予灘」と運行地域を名称に入れることで、「この路線で必ず成功を」という意志や、「地元にこだわった列車に」という方向性を込めたそうです。
松岡さんは列車名からイメージを広げつつ、オリジナルの観光列車を目指しました。
「ここにしかない列車であれば集客を望めるし、地域の自慢として沿線の人々にも愛されるのではと思いました」


新〔伊予灘ものがたり〕のコンセプトを語る松岡さん

列車デザインで活かされたのが、松岡さんが鉄道車両の既成概念に染まっていなかったこと。
「グリーン車仕様の座席を」や「コンパートメント席(数席ごとに仕切板などで区切った席)が必要では」という声があるなか、松岡さんは「普通の車両みたいにしなければ、オリジナルになる」と判断します。

松岡さんは列車ではなく、レストランやカフェを作るつもりでデザインを起こしました。
目指すはレトロモダン。
沿線にある松山の道後温泉や大洲の町並みなどで出合う〈和と洋の混在〉に触発されたコンセプトです。
襖や障子を開ければ隣の部屋や庭と一体になる和の座敷のような空間を車両で表現したいと松岡さんは案を練り、視界を遮るものが少ないワイドな車内空間を実現しました。

もちろん、松岡さんの力だけでは〔伊予灘ものがたり〕は誕生しません。
「午後6時からのアイデア、というのがありました。考えに行き詰まったら、当時の私の上役(JR四国の現代表取締役会長)も交えて数人で飲み会をしながら、ざっくばらんに話し合いました」

「全くの予想外だった」“お手振り”やおもてなしに毎回感動

自分はアイデアを出すばかりで苦労はなかったけれど、社内の車両課の人たちや〔伊予灘ものがたり〕のアテンダントは大変でしたと松岡さん。
「車両設計と車内サービスの内容決めを並行して進めていたので、例えば食器の収納やアテンダントの動線などに無理が生じることも……」

そして運行開始後は、〔伊予灘ものがたり〕の運転士にも手間をかけているとのこと。
「沿線の見所や“お手振り”があると列車はスピードを落とすのですが、そこは運転士の経験と技が頼りですから」


沿線住人による五郎駅でのお出迎えの様子(写真提供=JR四国)

ところで“お手振り”とは、〔伊予灘ものがたり〕通過時に沿線の人たちが手を振るなどをして歓迎すること。
運行開始以来、これは自然発生的な現象で、松岡さんは「こうなるとは全くの予想外だった」といいます。

“お手振り”以外にも「沿線では、地域の方々の趣向をこらした温かなおもてなしがあります」と、〔伊予灘ものがたり〕のアテンダントの加藤舞さんや西岡未央さんは毎回感動しているそうです。


〔伊予灘ものがたり〕アテンダントの加藤舞さん(写真提供=JR四国)

同じくアテンダントの西岡未央さん(写真提供=JR四国)

沿線の人々とのつながりを大切に…来春からの新たな“ものがたり”

「〔伊予灘ものがたり〕の運行をきっかけに地域の人々が集まるようになった、と感謝されたことも。私たちの業務が、地域活性化や人々のつながりの創出に貢献しているみたいで、とてもやりがいを感じています」と松岡さん。

来春、〔伊予灘ものがたり〕の車両はリニューアルされる予定です。
それに際して大切にしたいのが、この沿線の人々との関係です。
「7年に渡り地域に親しまれた列車なので、そのイメージを保ちつつ、個室車両を連結するなど新たな魅力をご用意しています」

加藤さんや西岡さんなどアテンダントの声も、リニューアルへの期待を高めてくれるものでした。
「これまで、オール愛媛へのこだわりや上質感などを一番に考え、〔伊予灘ものがたり〕らしさを大切にしてきました。リニューアル後は現在よりもワンランク上のサービスをお客さまへ提供できるよう、試行錯誤をしながら取り組んでいきます」

まだ見ぬ風景と人に出会うのが旅。
鉄道関係者だけでなく沿線住民も参加する〔伊予灘ものがたり〕での旅は、来春、新たな章が始まりそうです。


著者紹介

大村嘉正

瀬戸内育ち、四国暮らし。
自然、アウトドアスポーツ、暮らし、伝統文化などをテーマに旅行雑誌や航空機内誌、アウトドア誌などに記事を発表。若いころはヒマラヤ登山や、アラスカの海をカヤックで単独航海するなど冒険の日々を送っていた。

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【JR時刻表とは】
JR線の全線全駅を掲載。主要駅の構内図、私鉄、国内線航空ダイヤも収録。駅の旅行センター・みどりの窓口でも使われている時刻表です。
見やすい2色刷り/JR6社共同編集/JR6社の主要ニュースを掲載

●本記事はJR時刻表2021年11月号との共同企画です。


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  • 写真/大村嘉正
  • 掲載されているデータは2021年10月現在のものです。
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