トレたび JRグループ協力

2023.03.20鉄道瀬戸大橋線開業35周年! 瀬戸大橋線を守り、列車を走らせる

瀬戸大橋線を支えるお仕事と、務めにかける思いとは

1988年4月10日に世界最大の鉄道・道路併用橋として開通した瀬戸大橋。
『JR時刻表』2023年4月号(3月20日発売)巻頭特集にて、開業35周年を迎える瀬戸大橋線に関わる方々への取材を行いました。誌面に載せきることができなかったエピソードをフルバージョンとしてお届けします。

『JR時刻表』×トレたび 連動企画です。

瀬戸大橋線とは

瀬戸大橋は岡山県倉敷市と香川県坂出市を島伝いに結ぶ6つの橋と、島や四国本土の一部にある高架橋を合わせた総称です。
構成する各橋の構造と延長は、岡山側から
▽下津井(しもつい)瀬戸大橋【つり橋、1447m】
▽櫃石島(ひついしじま)橋【斜張橋、792m】
▽岩黒島(いわくろじま)橋【斜張橋、792m】
▽与島(よしま)橋【トラス橋、877m】
▽北備讃(きたびさん)瀬戸大橋【つり橋、1611m】
▽南備讃(みなみびさん)瀬戸大橋【つり橋、1723m】
で、海峡部分の長さは9368m。高架橋や本州側のトンネルを含めた鉄道・道路の併用区間は13.1kmあります。

併用区間は、上部が道路、下部が鉄道の二層構造。
瀬戸大橋で列車は下部のトラス構造(鉄骨で三角形を組み合わせた構造体)の中を走りますが、瀬戸内海の絶景がよく見えます。
また、鉄道は複線の在来線と新幹線の合計4線を敷設できるようになっており、現在は本四備讃線(ほんしびさんせん)が中央寄りに複線で敷設されています。
将来的に新幹線が開業する際には、東側2線を同線、西側2線を新幹線が使用することになっています。


与島付近から四国方面を見た瀬戸大橋内。右側の空間は新幹線用スペース

なお、本四備讃線の営業区間は茶屋町~宇多津間で、茶屋町~児島間は1988年3月20日に暫定開業しました。
この区間はJR西日本、児島~宇多津間はJR四国が管轄しており、本州・四国間の列車は全て児島駅で乗務員が交代します。

また、同線は四国上陸後、宇多津方面と坂出方面に分岐しますが、分岐箇所と坂出方面への短絡線も宇多津駅構内として扱われています。
そのため、岡山~高松間の快速〔マリンライナー〕をはじめ、宇多津駅ホームを経由しない列車も、時刻表の宇多津駅の欄には、他線区経由の「  ||  」ではなく通過を表す「レ」が付いています。
そして、〔マリンライナー〕が走るこの短絡線を含めた岡山~高松間の路線愛称が「瀬戸大橋線」です。

本四備讃線開業前、本州・四国間のメインルートは、本州側の宇野港と四国側の高松港を結ぶ「宇高連絡船」が担っていました。
連絡船は普通便の場合、宇野~高松間だけで1時間かかっていましたが、現在の〔マリンライナー〕は、ほとんどの列車が岡山~高松間を1時間以内で結んでいます。

同線開業と同時に〔マリンライナー〕が多数設定されたほか、従来高松を起点としていた予讃線の特急〔しおかぜ〕、土讃線の特急〔南風〕も岡山発着に。高徳線の特急〔うずしお〕も一部が岡山まで延長されました。
現在、定期列車は上下合わせて1日あたり旅客列車133本、貨物列車6本が走行しています。


香川県宇多津町の青ノ山展望台から望んだ南備讃瀬戸大橋と北備讃瀬戸大橋。写真下の方で宇多津方面(左)と坂出方面(右)に分岐


快速「マリンライナー」についてもっとくわしく

快速「マリンライナー」 -岡山駅と高松駅を結ぶ瀬戸大橋線の快速列車。瀬戸内の海と島の連なる美しい車窓の風景-(THE列車)

瀬戸大橋の保線を見る

瀬戸大橋の鉄道部分では、土木構造物、線路、電力などの分野ごとに、JR四国の担当部署がメンテナンスを行っています。
このうち線路の保守点検の現場を取材しました。

この日の作業は北備讃瀬戸大橋の北側、与島付近。担当者は高松保線区助役の南 鉄木(みなみ てつき)さんをはじめ、施設技術係の吉原 康博(よしはら やすひろ)さんと太山 敦(たやま あつし)さんの3人。
作業服姿の一行は与島パーキングエリアに車を停めると、装備品や注意事項を確認し、輸送指令に列車の運行状況を問い合わせ、見上げるほど巨大な同橋の土台「アンカレイジ」へ。
外階段を上り、アンカレイジ壁面の扉を入ると、内部は巨大な空間。ここには、本州四国連絡高速道路(JB本四高速)が主催する「瀬戸大橋スカイツアー」(塔頂体験)見学者用の資料や写真パネルが多数展示されています。
その隅の工事用エレベーターで上部に達し、さらに階段を上ると、いよいよ線路のある位置へ。
ここまでも数カ所で鍵付きの柵や扉があり、不審者の侵入を防ぐ厳重な対策が施されていますが、ここで最後の柵の鍵を開け、ようやく軌道敷に到達しました。

橋のトラス構造の間からは瀬戸内海の島々や行き交う船がよく見え、足元は目もくらむような高さ。
頭上からは、自動車が通る振動が地響きのように伝わってきます。


北備讃瀬戸大橋を支える巨大な土台「アンカレイジ」

南さんたちは列車ダイヤを確認し、作業開始。
まず、アンカレイジ内にある上り線の「1500形軌道伸縮装置」の点検に着手しました。
北備讃瀬戸大橋をはじめ、瀬戸大橋のつり橋や斜張橋は荷重に対する強度の関係上、中心付近が盛り上がった構造になっています。
列車が載るとその重量でたわみ、レールが水平方向に10cm程度動きますが、「1500形軌道伸縮装置」はその動きを吸収する重要なもの。
列車に乗っていると、走行音がゴゴゴゴ、と変わることで分かります。

検査は、吉原さんが計測器でレールの間隔をミリ単位で測り、太山さんが数値をタブレット端末に入力。
列車見張り員の南さんはダイヤグラムを手に、列車に常に注意を払います。


「1500形軌道伸縮装置」の点検

列車接近のおよそ5分前、作業者の二人が線路内から待避。
延々と構造物が連なる空間のかなたに前照灯の光が見えたかと思うと、列車がみるみる近付き、轟音とともに通過していきました。

南さんがダイヤグラム上の当該列車を赤線でなぞり、安全を確認して作業を再開するものの、その後も上下列車が通過するたびに中断。
この日の列車の運転状況から中断時間が長くなることもありましたが、作業は地道に根気よく続けられました。


頻繁に列車が行き交う瀬戸大橋線。白い旗は待避完了合図


ダイヤグラムで通過列車を赤線でなぞって確認

通過後、全員で当該列車を確認

その後、四国側の海上部に移動しながら、レールや設備の状態を調査する「材料検査」が行われ、レール締結装置を打音検査し、緩みのあるものは締め直しました。

検査を終え、南さんは「開業から35年、当時を知っている人もほとんどいなくなってしまいましたが、先人たちの技術力に負けないよう、より良くしようと常に思いながら作業に当たっています」と話してくれました。


レール締結装置を打音検査し、緩みのあるものは締め直す

瀬戸大橋に関わるプライド

設備保全、列車運転、利用促進など、瀬戸大橋に関わるJR四国の人たちはどんな思いで仕事に臨んでいるのでしょうか。


瀬戸大橋での仕事について話してくれた【前列左から】メンテナンスに携わる坂本さん、南さん、片山 さん、【後列左から】営業部の千葉さん、運転士の川上さん

瀬戸大橋は長大な海上橋りょうであるため、その設備保全には、一般的な路線とは異なる苦労が伴います。
「ひと作業すると全身が真っ茶色になります」と話すのは、構造物のメンテナンスを担当する土木技術センター助役の坂本 良太(さかもと りょうた)さん。
瀬戸大橋では、橋の構造物の上に「鉄道桁(てつどうけた)」(1基約12m)が約700基(上下線で約1400基)連なり、その上にレールが載っています。
この鉄道桁と、桁を支える支承部(各桁4カ所)の検査は、橋の下部を移動する維持管理用の「桁外面作業車」(独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構 所有)を使用し、狭い空間に体ごと入り込んで行いますが、潮風にさらされた鉄の塊の中での作業なので、全身がさびまみれになるそうです。


桁外面作業車の上で鉄道桁支承部を検査(写真=JR四国提供)

メンテナンスの全てに影響を与えるのが強風。
列車が数分遅れただけでも現場の工程に影響が生じるほか、作業中止の場合はスケジュールの変更・調整に頭を悩ませます。

さえぎるもののない橋の上では、風の音で1m離れた人との会話もままならないこともあり、冬場は強烈な寒さも襲います。
電力設備を担当する高松電気区多度津駐在の片山 彌生斗(かたやま みうと)さんは「重ね着をしていても体感的にはマイナス5度ぐらいまで下がります。手がかじかんで作業もしづらくなります」と話します。

保線関係では、ひと月に1回、瀬戸大橋とその前後を含めた児島~宇多津間で実施している徒歩巡回が特徴的。
与島を起点に児島側と宇多津側へ、上下線ごとに各2チーム、合計4チームで1日かけて行いますが、この間、外に出ることはできません。
途中に小さな休憩室があり、お弁当を食べることはできますが、そこにトイレはないので、作業前から体調と食事の管理に十分な配慮が必要となります。これはメンテナンスの全分野に共通です。

夜間作業をすることが多い電力分野では、下り線では5時間程度のまとまった時間が確保できるのに対し、上り線は深夜帯に走行する貨物列車の関係で、作業を中断する必要があります。
作業用車両を出入り口のある与島まで戻していったん線路から降ろし、貨物列車通過後に再び載線して現場に向かいます。

これらの苦労の一方、瀬戸大橋での仕事には大きなやりがいがあります。
「このような長大な鉄道・道路併用橋は日本でここにしかありません。瀬戸大橋に関われているのは技術者としてのプライドであり、大きなモチベーションになっています」と坂本さん。
南さんは長期にわたる大規模な設備更新が始まったことから、「誰もやったことのない工事で特殊な設備も多く、気合を入れて取り組んでいます」、片山さんは「技術継承しながら、無事故で作業に取り組み、お客さまに快適に乗っていただけるようにしたいです」と話してくれました。

瀬戸大橋線を楽しんでもらうために

瀬戸大橋線を走る列車を運転したり、指導したりする立場ではどうでしょうか。
後輩への添乗指導の際、「お客さまに安心してご利用いただくために、基本動作と運転操作を意識的に行うよう伝えています」と話す高松運転所運転士(指導)の川上 雅之(かわかみ まさゆき)さんは、一見同じような橋の中の前面展望を熟知し、柱に振られた番号も活用して、定時運転やスムーズな加減速のポイントを伝授。
また、「天気が悪くても、お客さまに瀬戸大橋線からの景色を楽しんでもらいたい」との思いから、雨の日は助士席側のワイパーを動かすようアドバイスもしています。


運転士の業務の様子(写真=JR四国提供)

こうして、さまざまな部署の人たちの仕事で瀬戸大橋線の鉄路が維持され、日々列車が走っています。
それを活用し誘客につなげる営業部販売促進課の千葉 一孝(ちば かずたか)さんは、2023年12月まで展開中の「瀬戸大橋線開業35周年記念キャンペーン」に向けて準備を進めてきました。
「これまでのご利用に感謝の気持ちをお伝えするとともに、改めてこのエリアに注目していただき、今後も末永くご利用いただけるよう、情報発信していきます」と意気込んでいます。

35周年を契機に、安全・快適な輸送を支え、活性化に情熱を注ぐ人たちに思いをはせながら、列車で瀬戸大橋を渡ってみてはいかがでしょうか。


「瀬戸大橋線開業35周年記念キャンペーン」サイトはこちら

『JR時刻表』2023年4月号 巻頭特集もあわせてチェック!


JR時刻表2023年4月号

春の臨時列車掲載! 巻頭特集では「鉄道橋」をテーマに日々のメンテナンス等のお仕事や日本各地の名鉄道橋についてご紹介!
好評連載中のリレーエッセイ「十人十鉄」では、大相撲 幕内格行司の木村 銀治郎さんが時刻表の魅力を語ります。

【JR時刻表とは】
JR線の全線全駅を掲載。主要駅の構内図、私鉄、国内線航空ダイヤも収録。駅の旅行センター・みどりの窓口でも使われている時刻表です。
見やすい2色刷り/JR6社共同編集/JR6社の主要ニュースを掲載

●本記事はJR時刻表2023年4月号との共同企画です。


JR時刻表2023年4月号をもっと見る

  • 取材・文・撮影=編集部
  • 掲載されているデータは2023年3月1日現在のものです。
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