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2021.03.26旅行【北海道・支笏湖温泉編】旅行作家・野添ちかこが列車で行く!のんびりご褒美温泉旅

列車でのんびり温泉旅はいかがですか?

仕事に家事に人間関係に……現代人はみんなちょっとお疲れ。そんな毎日を送る人に“何もしなくていい”週末に列車で行ける温泉旅を提案します。好きなときにお風呂に入って、待っていればおいしいご飯が出てきて、移動に列車を選べば乗っているだけで目的地まで運んでくれます。たまには日常を忘れてのんびり、自分にご褒美をあげよう。きっと明日からも頑張ろう!と思えるはず。

国立公園に行こう! 支笏湖ブルーに癒やされる温泉

札幌から南へ30キロメートル、アイヌ語で“大きな窪地”を意味する「シ・コッ」が語源といわれる支笏湖(しこつこ)。札幌から車で約60分という場所にありながら、支笏洞爺国立公園の中にあるため、周辺は原生林の森に囲まれた自然豊かな場所です。最大水深360メートル平均水深265メートルという深さがあるため、たとえ外気温が氷点下に冷え込んでも、湖の水温は下がりきらず、厳冬期でも凍ることのない日本最北の不凍湖といわれています。日本では田沢湖(秋田県)に次いで2番目に深い湖です。大都市・札幌から近いとはいえ、冬の北海道を舐めてはいけません。かつて、支笏湖へレンタカーで向かい、雪道で車がくるりと回ってしまった経験をもつ私(対向車がいなかったので事故には至りませんでしたが……)。そんな経験もあるため、雪道に慣れていない人には電車とバスで行くことをおすすめします。


快速エアポート

札幌駅北口~支笏湖温泉を結ぶシャトルバス「名湯ライナー」はコロナウイルス感染拡大防止のため今年度は運休しているので、札幌駅から千歳駅まで列車で移動し、千歳駅から路線バスを利用します。乗り込んだのは札幌駅と新千歳空港駅間を結ぶ快速エアポート。1時間当たり5本も走っていて、使い勝手は抜群です。

湖畔にある神社と近代化産業遺産を散策しよう


支笏湖の湖畔から風不死岳(右)、樽前山を望む 

“支笏湖ブルー”といわれる青色が美しい支笏湖。
冬でも凍ることはなく、美しい青色の水を湛えています。

支笏湖は今から約4万年前の火山活動によって生まれたカルデラ湖で、周囲は40キロメートル、湖の外輪には恵庭岳、風不死岳、樽前山の支笏三山がそびえ、風光明媚な自然景観が魅力です。
支笏湖でとれる魚の中で代表的なものが「チップ」の愛称で知られる「姫鱒(ヒメマス)」。5月から7月頃に支笏湖を訪れると、旅館や食堂で脂ののった天然チップの刺身やルイベを食べることができます。ピンク色のお刺身は、ほっぺたが落ちるほどおいしくて、忘れがたい味わいです。

湖の周辺を歩くと、支笏湖ビジターセンターの近くに支笏湖神社があります。


支笏湖神社の社殿は支笏湖温泉の園地内

こちらの神社は2016年に支笏湖小学校近くから移設されたもので、眺望の開けたところにあります。縁起などを記した看板は見当たりませんでしたが、山を司る神様と海上・航海安全を司る神様が祀られているそうです。

この神社、戦前は別の場所(山線鉄橋南側の崖の中腹)にあったそうですが、何度かの移転を経て、現在の場所に移ってきました。

神社から左手に湖沿いを歩くと、赤い鉄橋が見えてきます。
この橋の名称は「山線鉄橋」。支笏湖から流れ出る千歳川に架かる橋で、支笏湖発展の礎を築きました。


千歳川に架かる山線鉄橋は北海道現役最古の鉄橋

「山線」とは苫小牧に工場を建設予定だった王子製紙(1873〈明治6年〉設立)が1908(明治41)年から走らせた軽便鉄道で、主に建築用の資材などを運んでいました。海側を走っていた鉄道を「海線」、支笏湖方面の山側を走っていた鉄道を「山線」といいます。

橋は斜材をX形に組んだ英国製ダブルワーレントラス橋。1899(明治32)年に輸入された当時は木製の橋で、最初は空知川に架けられていましたが、1923(大正12)年頃、現在の場所に移設されたといいます。

日本の橋梁史においても重要な資料として評価を受け、経済産業省の「近代化産業遺産」、土木学会が選奨する「土木遺産」に認定されています。

軽便鉄道は1922(大正11)年からはヒメマス釣りや山菜採りを楽しむ行楽客など一般の乗客も乗せて賑わったそうですが、自動車道路の整備が進むとともに1951(昭和26)年に廃止となり、山線鉄橋もその役目を終えます。現在は支笏湖のシンボルとして、観光客で賑わう歩行者専用の橋となっています

支笏湖温泉のおすすめ宿はココ

地球のエネルギーをまるごと浴びる 丸駒温泉

支笏湖の東岸にはゲストハウスや山荘などあわせて宿が8軒あります。
向こう岸の恵庭岳の麓に、一軒だけぽつんとある「丸駒温泉旅館」は4代続く老舗の温泉旅館。支笏湖温泉ではなく「丸駒温泉」を名乗っています。

1960年代半ばまでは温泉街から船でしか渡れない秘湯でした。
いまも電気は自家発電、飲料水は支笏湖から動力ポンプで汲み上げています。

この宿の名物は湖に接する「天然露天風呂」。
浴場と湖は岩場で隔てただけの造りで、温泉が足元から湧出しています。

私が訪れた初夏はぬるめの湯で長湯ができました。ナトリウム・カルシウム−塩化物・硫酸塩泉、無色透明の湯が鏡のように周辺の景色を映し出していました。


「天然露天風呂」。写真は6月の様子

湯船の深さは支笏湖の水位と同じ。雪解けの水が地下に染み込んで上ってくるため、最も水量が多くなるのは。数年前までは水深150〜70センチメートルほどの深湯でした。
ここ数年は雪が少なかったため、「昨年の秋は130センチメートルくらい」(佐々木義朗社長)だったといいます。冬には水量が少なくなり、2021年の冬は40センチメートルほどの深さだとか。

「足元湧出」といいながら、お湯が湧き出すのは足元だけではなく、岩の側面からも染み出しています。従って、湯量が増えれば湯温も比例して高くなるのですが、それでも冬季は外気温が低いため、必然的に湯温は下がります。一方、夏は42℃以上になることもあるそうです。
あるがままの湯で、地球のエネルギーをまるごと浴びる。自然100%の湯船だからこその野趣あふれる湯浴み。なかなかできない贅沢なひとときです。


支笏湖と風不死岳を眺めて入る展望露天風呂

もう一つある大浴場はうぐいす色のにごり湯で、展望露天風呂から雄大な支笏湖を間近に望めます。天気がよい日はご覧の通り、わくわくする気持ちにさせてくれる素晴らしい景色。この風呂に入りに、周辺に泊まっている宿泊客が押し寄せてくるほどの人気の温泉です。

丸駒温泉旅館の春から秋(5〜10月末)のイチオシ体験が、専用クルーザーに乗って湖を一周するレイククルージングです。


丸駒温泉旅館自慢のクルーザー「シェーユングフルン(湖の乙女)」号

湖の上を滑るように進むクルーザーの乗り心地と景色のよさは格別。360度遮るものがない絶景で、車では行くことができない奥支笏湖まで連れていってくれます。

かつてアイヌが熊狩りをする時に、熊を誘導して湖に落として仕留めた「熊落としの岸壁」でスタッフがトランペットを吹いてくれました。遮るもののない湖で音色が響き渡り、岸壁に音が反響して返ってくる木霊が聞こえます。あまりに幻想的な光景で、忘れられない思い出になりました。

レイククルージングは30分程度。一人2500円(税別)で体験できます。


湖上のトランペット! 音色が木霊になって聞こえてきます

ライフジャケット着用で万一のときも安心


丸駒温泉旅館

住所 北海道千歳市支笏湖幌美内7番地
問い合わせ先 0123-25-2341
時間 チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00
定休日 不定休
交通アクセス 支笏湖バス停より送迎バスで約15分
値段 1泊2食1万2250円(税込)〜、日帰り入浴大人1000円(10〜15時)
URL https://www.marukoma.co.jp

「縄文」をテーマにした最高峰のアートホテル

宿泊施設が地域や文化の語り部となる、そんなホテルがあります。
北海道でいくつものラグジュアリーホテルを展開する鶴雅グループの最高峰の宿、「しこつ湖 鶴雅別荘 碧の座」。全室レイクビューのラグジュアリースイートです。


右側が左官職人さんの手による万歴継承壁

館内に入って驚いたのは、エントランス右側に出現する「万歴継承壁」。
縄文文化からアイヌ文化、そして現代へと続く悠久の歴史をイメージした地層の壁で、本物のしじみの貝殻が埋め込まれています。

「LOUNGE青陽」には左官アーティスト・久住章さんの手による縄文土器や土偶をモチーフにした暖炉がそびえ、館内には千歳市にある末広遺跡から実際に出土した本物の深鉢形土器などが飾られています。


暖炉の前で、オヒョウと呼ばれる木の内皮の繊維で織られたアイヌ民族衣装を羽織って記念撮影


博物館さながら、縄文時代の深鉢形土器が展示されています

また「土壁ギャラリー」の作品は春夏秋冬の支笏湖の自然を描いたもので、アートを満喫できます。

客室は100平米以上の広さで、サンルームにはウエルカムフルーツとチョコ、シャンパンが置いてありますし、滞在中のバーや客室でのドリンクはオールインクルーシブ

客室には大きなソファと100インチの大型テレビ、クローゼットには質のいいパジャマ、今治タオル、ダイソンのドライヤー、バスローブなど至れり尽くせりの備品が用意されていて、日本旅館というよりは、ワールドワイドなラグジュアリーホテルといえるでしょう。さらに、温泉を引いた大きな露天風呂とジェットバスの大きさにも驚きました。


大きな露天風呂が自分専用。とろりとした温泉が注がれています

料理はタラバ蟹やエゾバフンウニ、ボタンエビなどオホーツク海で育った魚介をふんだんに使った創作会席。メインの料理や食後の紅茶など選べるものが多くて、楽しい食事です。


「新雪」をイメージした爽やかな皿

飽きさせない工夫が心憎い「アンコウの2種盛り」

この日の料理の中で最も記憶に残った2皿を紹介しましょう。
1品目は淡い新雪をイメージした一皿。穴子寄せと百合根の上に豆乳エスプーマのふわふわの泡がのっています。

2品目はアンコウの2種盛り。
焼いたアンコウと梅煮のアンコウ、2つの味わいの変化を楽しめます。
脂ののったアンコウの上に味噌がのり、グラノーラが斬新な味わいをプラスします。


館内ではさまざまな体験ができます。
絵葉書や折り紙、色鉛筆が置かれたレターギャラリーで大切な人に手紙を出すのもいいでしょう。
「碧」をテーマにした宿なので、日本の伝統的な染めの技法「藍染め」の体験もできます。
まずはハンカチやTシャツなどの白い布に、ビー玉や輪ゴムを使って縛ったり、挟んだり、絞り染めの模様をつけるための下準備をします。

その布をタデ藍の葉を発酵させた天然染料「スクモ」を撹拌させた藍建液に、1分ほど浸しては引きあげ、数回繰り返せばできあがり。


甕の中の藍建液に布を浸します

藍染め体験できあがりの一例

日本ならではの神秘の碧、「Japan blue」。かつて日本人の生活に深く根ざしていた藍染めに触れ、親しむ貴重な体験。ぜひトライしてみましょう。


しこつ湖 鶴雅別荘 碧の座

住所 北海道千歳市支笏湖温泉
問い合わせ先 0123-25-6006
時間 チェックイン 14:00/チェックアウト11:00
定休日 不定休
交通アクセス JR千歳駅から路線バスで約45分、またはJR千歳駅から無料送迎バスで約1時間15分(南千歳駅、新千歳空港経由)
値段 1泊2食8万8150円(税込)〜
URL https://www.aonoza.com/

バスを待つ間のランチタイムに

丸駒温泉旅館直営店の「memere(メメール)」は支笏湖近くにあるレストラン。
メメールはフランス語で「おばあちゃん」のこと。丸駒温泉旅館の礎を築いた2代目女将の佐々木ヨシヱさんが大切にしていたおもてなしの心を引き継いでいこうと店の名前にしました。


鹿肉を使ったアツアツの噴火ハンバーグ

お店のメニューは北海道産鹿肉を使った噴火ハンバーグや特製スープカレーなどランチにぴったり。アルミホイルに包まれたハンバーグは焼き立てのアツアツ。膨らんだホイルを破くと中からデミグラスソースの上にトロトロチーズをのせたハンバーグが出てきます。鹿肉は低カロリー、低脂肪ながら栄養価の高いヘルシー食材。
1日限定10食です。


レストラン&テイクアウト memere (メメール)

住所 北海道千歳市支笏湖温泉
問い合わせ先 0123-25-2731
時間 月~金11:00〜16:00、土・日曜10:30〜16:30(レストランの営業時間)
定休日 火曜日
交通アクセス 支笏湖バス停より徒歩約1分
URL https://www.marukoma.co.jp/memere/

この旅の行程

(行き)JR快速エアポート132号 札幌駅13:11発→千歳駅13:42着(所要時間:31分)、北海道中央バス 千歳駅前14:43発→支笏湖15:27着(所要時間:44分)

(帰り)北海道中央バス 支笏湖15:45発→千歳駅前16:23着(所要時間:38分)、JR快速エアポート167号 千歳駅16:49発→札幌駅17:21着(所要時間:32分)
 

知っているとちょっと楽しい「鉄道豆マメ知識」【青函トンネル】


青函トンネルを抜ける北海道新幹線(本州側)

北海道と本州を結ぶ青函トンネル。世界で2番目に長い全長53.85キロメートルの海底トンネルです。

北海道と本州を陸続きにするためのトンネルを掘る構想が計画されたのは戦前。その後1964年9月に本工事着工、約24年間の期間をかけて、1987年3月13日に青函トンネルが完成しました。現在のトンネルが通っている部分は、かつて本州と北海道を結んでいた山脈の鞍部にあたり、氷河期にナウマン象が行き来した道といわれています。開業後は、寝台特急「北斗星」「トワイライトエクスプレス」など多くの列車が運行しました。

そしてこの青函トンネルを通り、北海道と本州を結ぶ北海道新幹線は2016年にデビューし、今年5周年を迎えました。それを記念してキャンペーンが開催中です!さらに記念乗車券やお出迎え・お見送りイベントや、各駅でのオリジナルイベントも開催予定。

本州から北海道に行く際は北海道新幹線で、青函トンネルの歴史を感じてみてください。
移動も楽しい時間になりますように。



著者紹介

野添ちかこ

温泉と宿のライター/旅行作家

観光の専門紙記者を経て、2006年フリーに。新聞、雑誌、WEB、テレビ、ラジオなど各種媒体で温泉と宿の情報を紹介。現在、NIKKEIプラス1(日本経済新聞土曜日版)第3週に「湯の心旅」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)。3つ星温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉利用指導者(厚生労働省認定)、国立公園満喫プロジェクト有識者会議委員(環境省)、岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、宿のミカタプロジェクトチーフ・アドバイザー。

  • 写真/野添ちかこ、(車両写真)交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2021年3月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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